第49話 ケースバイ不死魔王
ヒル姐の父にして不死魔族の長ビルヘルムはうろつく者と接触していた!?
「え?ちょ、ぇえ〜〜??」
「父上はうろつく者と闘ってこうなったと言うのか?」
「うん、今そう言ったと思うけど?」
「それっていつ頃の話?」
「だから今話した話だよ」
「や、ゴメン、僕達の聞き方が悪かった、ヒル姐の父、つまりビルヘルム王はいつ頃うろつく者と闘ったのですか?」
「今から3年と29日前だよ」
俺達は顔を見合わせる。
「今から3年前って言うとちょうどヒル姐と私達が出会った頃じゃない?」
「そうだな」
「すみませんが、今度はビルヘルム王がうろつく者と闘う事になったいきさつを教えてもらえますか?」
「いいよ、もともとそのつもりだったし、大体にしてそのつもりでジェイク兄ちゃんにお茶とテーブルセットを出してもらったんじゃないか」
「あ、ああ、そうですね」
「繰り返しになるけれどあれは3年と29日前だった。ビルヘルムの王様は事務仕事に追われて朝から山の様な書類の確認と署名をしていたんだ。そして昼前に何処から侵入したのか1人の青年がビルヘルムの王様の前にいつの間にか、そうまさにいつの間にか立っていたんだ」
「その青年がうろつく者?」
「そう、その青年がうろつく者だよ。隻腕の青年うろつく者」
「え?隻腕って…片腕が無いって事?」
「そう言う意味だよ、アンバー姉ちゃん」
「私達が会ったうろつく者は隻腕では無かったな」
「ええ、ルーファスと闘った時も隻腕と言ってませんでしたし、考えられるのはルーファスに斬り落とされた手首が完治しないままビルヘルム王の前に現れたと言う事でしょうか?」
「隻腕の青年うろつく者は話好きみたいだったよ、聞いてもいないのに自ら隻腕になった経緯を話したけど、これはビルヘルムの王様が闘って今に至るのと関係無いから割愛するかい?」
「いえ、その経緯を含め全て教えて下さい」
「分かった、じゃあ説明しよう。うろつく者はこう言ってたよ『この腕はね、元魔王ルーファスさんにやられたのです、まあ斬られたのは手首から先だけだったのですけど回復途中でこうして出張する為には魔力が必要不可欠でしてねぇ、仕方ないから右腕一本分の魔力を使って一時的に復活しまして、まあビルヘルム位なら片手で十分ですからね』って言ってたよ」
少女はうろつく者が話したであろう台詞の箇所はまさにうろつく者の声と喋り方で教えてくれた。
まさか…この少女…??
「話が一向に進まなくて恐縮だけれどもジェイク兄ちゃん、僕はうろつく者じゃ無いから安心していいよ、って言うかあんなのと一緒にされるのは御免だね」
「っ!?あ、いや、すいません…」
何で俺が少女をうろつく者かも知れないと考えたのが分かったんだ?いや、正確にはまさか…この少女…?と思っただけだが??
「ふふ、ジェイク兄ちゃんは相変わらずだね、ジェイク兄ちゃんは昔からみんなが読心スキルあるんじゃ無いかと疑心暗鬼になってるみたいだし、この際いい機会だから教えてあげるよ。それはね魔術が使える者ならある程度なら相手の心と言うか心理は相手の魔力を介して分かるんだよ、もちろんはっきりした言葉で分かる訳でも無いし何となくそんな気がするってレベルだけど大体は当たっているんだ、ヒルディ姐さんはもとよりアンバー姉ちゃんだって幼い頃から自然と出来てるよ」
「え?出来てるって言うか、そう言うものかと思ってたわ」
「何だ、ジェイクは出来なかったのか?あの闘い方だからむしろ我々より感度が高いのかと思っていたのだか…」
「いえ…!全然感じた事ありません、っていうか相手の心が分かったら、その、色々と気まずく無いッスか…!?」
「まあ、そうだけど…だから相手に読まれない様、魔力を抑制したり解放したりして誤魔化すんだけど、ジェイクは何も感じてなかったの?」
「は、はぁ…まぁ…」
「それでよくあんな相手の裏を書く様な闘い方が出来るな」
「な、何でですかね…?でも相手の心が分かるなら闘いにおいてはどうするんですか?」
「さっきも言った様に何となく相手の心が分かる気がするってレベルでしか無いんだよジェイク兄ちゃん。だから普段の生活ならまだしも、闘いの最中、それが命懸けの闘いなら尚更、刹那的な判断で闘うし、そんな中で何となくそんな気がするで動けないよ、だから闘いにおいては皆、同じなんだよジェイク兄ちゃん」
「ふ、ふーん…そうなんですか…?」
「とりあえずだろうけどジェイク兄ちゃんもスッキリしたところで話を戻そうか」
「ああ、続きを聞かせてくれ」
「ビルヘルムの王様は聞いたよ『儂如きなら片手で十分とはどう言う意味だ?』ってね、するとうろつく者はこう答えたよ『ビルヘルムを殺すには片手で十分と言う事に決まってるじゃないですか』ってね、そして続けざまにこうも言ったよ『死にたくなければ魔宝原石を僕に下さい、そうすればゾンビ軍団のあなた達不死魔族の事は放っておいてあげてもいいですよ、いやこれは親切で言ってるんです、決して殺してしまった後に探すのが面倒だからって訳じゃ無いですよ、はははははは』って」
少女は器用と言うかビルヘルム王とうろつく者の声と喋り方を本人さながらに真似て再現してくれる、まあ尤もビルヘルム王の声はまだ聞いた事ないが…。
「で、闘いの火蓋が切って落とされた、と…」
「そうだよ、ヒルディ姐さん。そして悲しいけどビルヘルムの王様とうろつく者とじゃあ、力の差は歴然だったよ」
「隻腕とは言えヤツの方が上だった…」
「それは火を見るよりも明らかだったね」
「それで?ビルヘルム王はどうしたの?」
「食べたよ」
「た、食べたって…?何を…?」
「決まっているじゃないか、ジェイク兄ちゃん」
「まさか…?」
「そのまさかだよ」
「…うろつく者?」
「なっ…!?」
「うそ…!?」
ヒル姐が目を見開きアンバーは口に手を当て驚く。
「バカ?ジェイク兄ちゃんはバカなの?いくらなんでもビルヘルムの王様はうろつく者を食べないよ」
「え!?じゃあ一体何を食べたって言うんです?」
「決まってるじゃないか、魔宝原石だよ」
っ!?
「魔宝原石を食べた?」
「そう、ビルヘルムの王様はうろつく者に敵わないと理解すると同時に魔宝原石のトコに行き魔宝原石を一飲みにして体の中に取り込んだよ」
「一飲みにって…」
「それは僕も驚いたけど流石にうろつく者も驚いていたね、まあヤツにとっても想定外の行動だったんだろうね、何せ魔宝原石を食べるなんて聞いた事無いからね」
ルーファスといいビルヘルム王といい、この世界の奴らはだいぶ無茶するな。
「それで父は昏睡状態にあるのか?」
「いいや、ヒルディ姐さん。話はまだ続きがあるんだ、氷の魔宝原石を飲み込んだビルヘルムの王様はみるみる凍っていったよ」
「それで?うろつく者は?ビルヘルム王は?」
「うろつく者は驚愕していたよ、いや、驚きを通り越して逆上していたのかも知れないね今思えば」
感情をあまり出さないうろつく者が逆上した?
「ああ、そうだよジェイク兄ちゃん、うろつく者は何か叫び声を上げたり増してや奇声を上げる事も無かったけど隻腕のその手を振り上げ、手全体に強力な風を纏わり付かせていたから後先考えていなかっただろうね」
「…どう言う事?」
「凍った父を粉砕しようとした?」
「流石ヒルディ姐さんだね、ご名答。うろつく者は手を剣代わりにして凍ったビルヘルムの王様を粉々にしようとしたんだ」
「でもそんな事したら凍ったビルヘルム王ともども魔宝原石も粉々になる可能性もあるんじゃ…?」
「またまたご名答。ジェイク兄ちゃんですらその可能性がある事に気付いたのにうろつく者は焦ったのか怒ったのか分からないが、そこまで考えない位に目先の感情に流されたんだろうね」
俺ですらと言う言い方に引っかかるが…まあ、いい。
「そこでついに、と言うか、満を持して、と言うか僕が登場するんだ、みんなもいい加減僕の事も知りたくなったんじゃ無いかい?」
確かに、さっきから少女はまるで事の顛末を間近で見ていた様な、少なくとも現場にいた様な話し方だった。
一体この少女は何者なのか?敵なのか味方なのか?
そして何故現場にいたのか?
「いいよ、それじゃあ次回は僕について話そう」
少女は足を肩幅に開き腰に手を当てそう言った。