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第4話 非日常が日常の世界

 …改めて異世界に転生した事実を認識させられる出来事だった。


 城の屋上から飛び出しゴブリン達を魔法で撃退する…。


 そんな非日常な出来事が目の前で起こった…。


 まだ信じられない感じだが、そういう事が珍しくは無い世界に今、俺は生きているって事を改めて思い知らされた。


 おそらくゴブリンはザコキャラなんだろうけど目の前にあんなバケモノが現れたら俺は闘えるのだろうか?

 いや多分ビビって腰を抜かすだろう…。


 あの杖を持った女の子は俺より少しお姉ちゃんだろうか?

 それでも勇敢にゴブリン3匹相手に闘っていたな。


 今まで城というある意味安全を確保された状況で育ち、本で得た知識はあってもそれは前世でマンガやラノベ、ゲームで知る知識と変わらなかった。


 さっきまでだって田舎の風景と夫婦めおと漫才みたいなホンワカしたムードに、それが当たり前の日常に感じていた。

 そう、ホンワカした毎日だけの世界がファンタジーであり、当たり前だと思っていた。



 ーーー



 しばらくするとルーファスが何事も無かった様に平然というか、むしろ颯爽と戻ってきた。


「お待たせ!あ〜ハラ減ったぁ」


「お疲れ様〜、さ、ランチにしましょ。ジェイクも早く座って」


「…………」



「…どうした?、ジェイク?」


 呼ばれても聞かれても反応出来ない。


 ゴブリンが殺されるの見てショックなのか?

 夢の国の様に思っていたファンタジーの世界に魔物や闘いがあったのがショックなのか?

 親が生き物を平然と殺したのがショックなのか?

 殺戮した後何事も無かった様に昼飯を食べられる家族にショックを受けたのか?

 自分の目の前にゴブリンが現れてもビビると思う自分の弱さに落胆したのか?




 自分でも分からない感情が渦巻く…。





「ジェイクは魔物を見るのも、お父さんが闘うのも、魔法を見るのもそして魔物とは言え生き物が死んじゃうところ見るのも何もかも初めての体験だったものね。初めて外の世界を見ていきなりショックを受ける事だらけだったわね…」


「そうだな…。俺ももう少しジェイクの事を考えて闘えば良かったな…」



 いや、そうじゃない。


 俺が異世界に転生して勝手に争いも悪者も、ましてや殺し合いだのの世界とは無縁の夢の様なファンタジー世界だと思いこんでいただけだ。


 いや、そんな事すら考えもしなかった。


 ただ城の中の小さな世界の小さな平和しか見てなかっただけだ。


 何の為に赤ん坊の時から本をたくさん読んでいた?

 言葉を覚える為?

 もちろんそうだ。


 だがたくさん読んだ本に魔物の事も魔法の事も、更には真実はともかく、この世界の事も読んだはずだ。


 何でそれをこの世界に生きる自分事として照らし合わなかった?


 …都合の良い事しか見なかった、いや、逆だ。

 都合の悪い事、好きじゃない事、あって欲しくないは作り話の様に何か別の世界の事にしか、意識してか無意識の内にかは別にして考えない様にしていただけだ。


 そういう自分の生き方を散々後悔したんじゃなかったか?


「…ェイク」


「ジェイク」


「ジェイク」


「っ!? あ、はい」


「大丈夫か?」


「大丈夫です。ただちょっと色んな事にビックリしちゃて…」


「ランチっていう気分じゃないかしら?もうちょっと落ち着いてからにする?」


「…はい。ちょっと自分の部屋に行って落ち着いてからにします」


「そうか、一緒に行こうか?」


「いえ、大丈夫です。調べたい事もありますし。1人で大丈夫です」


「…分かった。じゃあお父さん達は大広間にいるから何かあったら来なさい」


「分かりました。ありがとうございます」


 そう言い俺は踵を返した。


 さっき浮かれながら飛び出た古い木製のドアの脇には目を閉じ頭を少し下げている執事のランスがいる。


 その横を何だか気まずい気持ちになりながら俺は通り過ぎ階段を降りていった。



 ーーー



 俺は自分の部屋には戻らず書庫に向かった。


 そして『魔物大全集』と書かれた本を手に取った。


 探す頁はもちろんゴブリンだ。


【ゴブリン】

  ・魔族ノーム目ドワーフ科ゴブリン属

  ・ゴブリンとは鉱山をはじめ地中に巣を作り非常に繁殖力の高い魔族である。

  ・雑食。

  ・体の作りは人族、魔族に似ているが知能は低く本能のまま動く。

  ・自分達への害有無に関わらず目前の物を襲い食べようとする。

  ・知能の低さから慈悲や協力と言った感情は持っておらず相手を問わず襲う事しかしない。

  ・知能が低さから相手が自分より強い弱いは問わず襲い、毒の有無も問わない為自滅するケースも多々見られる。

  ・繁殖期には種族問わず雌の生殖器があれば襲い繁殖しようとする。




 ……………。




 コンコン


「っ!?」


 扉をノックする音で俺は振り返ると、そこには開けっ放しの扉をノックし優しい目で見つめるミランダがいた。


「母様…」


「やっぱりここだと思ったわ。入ってもいい?」


「どうぞ」


 そういうとミランダはテーブルを挟み俺の前の席に座り、俺が見ていたゴブリンの頁へと視線を落とした。


「ゴブリンについて調べてたのね」


「はい…」


「それで何か分かった?」


「ゴブリンは退治されるべき害獣だという事が分かりました」


「分かったけど納得はいかない様子ね」


「はい…」

 その通りだ。頭では理解出来たが納得はいっていない。


「何が納得いかないの?」


「ゴブリンは目の前の生き物を襲い、または女性であれば拐われるかも知れない害こそあれ益はない魔物っていうの分かるのですが、問答無用に殺すのはどうかと思います」


「そうね。確かに力に任せて物事を解決するのは良くないわね」


「それにゴブリンにも家族がいたりすると思うと出掛けた家族が帰ってこないっていうのを自分に置き換えると悲しい気持ちになります」


「その通りね、私もルーファスやジェイクが出掛たまま二度と帰って来なかったら、それはそれは悲しいわ」


「………」


「でもねジェイク。相手はそこまで相手の事を考えていなかったら?相手が言葉を理解せず話し合いにもならず牙を剥いてきたらどうする?」


「…そういう場合は闘うか…逃げるか…」


「そうね、逃げるっていうのも勿論ありね。無茶して闘って死んだら元も子もないからね。

 でも逃げても逃げきれなかったら?

 闘えるのに相手が可哀想という事で闘わずに害獣を放置したその先に起こる悲劇は関係ないって言えるのかしら?」


「………」


「さっきのゴブリンを見て見ない振りしてたら、あの女の子はどうなってたかしら?」


「ゴブリンに襲われてケガしたか拐われたか…」


「そうね、ケガならまだ良いけど3匹のゴブリンに襲われたら最悪、死もあったでしょうね」


「仮にお父さんがゴブリンと女の子な間に入ってゴブリンに襲わないで下さいって丸腰で話しかけたら良かった?」


「それは……」


「いくらお父さんでも3匹のゴブリンに無抵抗でいたらケガはもちろん、死ぬ事もあるでしょうね。仮に途中で逃げたら矛先はあの女の子に変わって悲劇は免れない。女の子が逃げたとしても次は村の誰かが襲われる事になる」


 返す言葉が無い……。

 そうだ、そういう世界なんだ。

 人と自然が完全に分離して人間だけが発達した治安国家に守られた前世とは違うんだ。


「ジェイクの優しさはジェイクの良いとこでありお母さんの誇りだわ。

 でもジェイクには強さの上に優しさを兼ね備えた魔族になって欲しいと思ってるの。それは同時に覚悟を決める事でもあり簡単な事ではないけど、行く行くはそうなってほしいわ。そう、お父さんみたいにね」


「父様みたいに…」

 確かにふざけた感じの魔族だと思ってたけど、さっきの闘い方はカッコ良かった。


「お父さん普段は頼りなさ気だけど、ああ見えて魔族の中でも魔力高いしエリートだったのよ。それに元とは言え王族だったっいうのもあって誇り高き魔族なのよ」


 え!?


 それって、プリンス転生説復活??


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