第47話 違和感
残酷な表現があります。
苦手な方はスルーして下さい。
アンバーに怪しまれながらも2人の尻を賞翫しながら不死魔族領の荒野をバイクでひた走っている。
途中、獣系アンデッドに何匹か遭遇し退治したが通常の魔物とは違い食用にはならないのでいちいち焼き払って灰にしなければならないので手間がかかって仕方ない。
そんなこんなで森を出て2日程バイクを走らせた頃、ようやく荒れた大地と岩以外の景色が見えてきた。
と言っても緑が覆い茂る森林や増してやエメラルドグリーンに輝く大海原と言ったマイナスイオン的な景色では無い。
紫と紺の原色に滲む川と言うか大地を横切る様に佇む沼だ。
その沼の先は又、山脈がそびえており山の背が3㎞程続きその先に城らしき建造物が見える。
「ヒル姐、あの山の背に建つ城がヒル姐の実家ですか?」
「ああ、懐かしき我が家だ」
「やっとここまで来たって感じね」
俺達は原色の沼の前にバイクを停め山々を眺めながら話している。
「この沼は見ての通り毒沼だ、まあ私達不死魔族なら死にはしないが落ちて気持ちいいものでは無いな」
「僕達がこの沼に入ったら?」
「毒によって麻痺し体が言う事をきかなくなり溺死するか溶かされるかして死ぬだろうな」
「中級治癒魔術で毒の無効化すれば大丈夫じゃない?」
「ああ、確かにアンバーの治癒魔術なら毒の無効化も可能だろうが、この気持ち悪い沼に入るのは嫌だろう」
「確かに嫌ね…」
「じゃあどうやって渡ります?」
「うむ、あちらに唯一橋が架かっているからそこまで行って渡ろう」
「それがいいわね」
3人はバイクを沼から見て左に舵を取り沼沿いに走る。
「っ!?」
遠くに橋らしき物が見えてきたが何やらおかしい。
「ヒル姐、あれが言ってた唯一の橋ですか?」
「あ、ああ、そうなんだが…」
「ちょっとぉ、橋の中央が欠けて無くなってない?」
アンバーが言う通り長さ200mはあろう沼を跨ぐ橋の中央部分が10m程欠損して陸から陸を繋ぐと言う橋本来の機能を失っている。
「取り敢えず橋まで行ってみましょう」
バイクに魔力を流し加速させ橋まで行く。
石造りのその橋は幅10m程あり橋の両脇には立派な悪魔?前世で言うガーゴイルの様な彫像が乗った石柱が対で立ち、石柱から伸びる様にまた凝った彫刻が施された欄干が印象的な橋だ。
「ジェイク、橋の真ん中にいる奴らは見えるか?」
「はい、人型のアンデッドが5匹程いますね」
橋の真ん中、つまり橋が欠損している手前にアンデッドが5匹いる。
「行ってみましょうよ」
アンバーがバイクで橋を渡り始める。
続いて俺、ヒル姐とバイクで追う。
アンデッド5匹は当然俺達に気づいている訳で武器を片手に待ち構えている。
アンデッド5匹の手前でバイクを止める。
「いらっしゃい、不死魔族天国のプラハスへようこそ、ぐっへっへっへ」
青白い顔したデブゾンビが卑下したニヤけ面で言ってくる。
どうやらプラハス公式観光大使では無さそうだ。
「何なの?あんたら?いいからそこ通しなさいよ」
バイクに跨ったまま腕を組みアンバーが言う。
「通せも何もどうやって渡る気だ?げっへっへっへ」
青白い顔した隻眼ゾンビが舌を出して笑う。
「この橋を壊したのはお前らか?」
オッドアイの目で見下す様に見ながらヒル姐が聞く。
「だったらどうした?ごっほっほっほ」
青白い顔に口髭と顎髭をたくわえたゾンビが壊したがなにか?みたいに言ってくる。
「つーかあんたらこの人が誰か分かってないの?」
アンバーが呆れた風に聞く。
「あぁ?ああ、よく見ればこれはこれはヒルディ王女じゃないか、がーはっはっはぁ!」
死体のくせしてマッチョなゾンビが豪快というより威嚇する様に笑い飛ばす。
「分かったならさっさと私達をあっちへ渡しなさいよ」
明らかにイライラしているアンバーが言う。
「ああいいともぜ、王女とその一行様だから特別料金で1人100金貨だ、ぎゃーはっはっはっは!!」
何がそんなに可笑しいのか聞きたくなる位腹を抱えて笑っているのはリーダーらしき青白い顔したロン毛なゾンビだ。
「払えねーってんなら男は切り刻んでこの沼にドボン!女は奴隷市場に売り払って金になってもらうぜ、がーはっはっはぁ!!」
ゲスキャラあるあるを絵に描いたなセリフだな。
「まあ、大体のやつが大人しく金払おうとするが俺らとしてはストレス発散に野郎は殺して、女はたっぷり味見した後、奴隷市場に売り払うのが巻き上げるより金にもなって気分も晴れて最高だから結局は殺すか売るかなんだけどな、ぎゃーはっはっは!!」
「ぐっへっへっへ、ぐーへっへっへ!!」
「げーへへへ、げーへっへっへっへ!!」
「ごほほほ、ごほほほ、ごーほほほほ!!」
「はぁ…もういいわ。ジェイク、王笏出して」
溜息交じりにアンバーが右手を差し出したので俺は空間からアンバーの王笏を出した。
「いきなり武器が空中から出たぜ?げーへへへ」
「どうなってやがる、一体?ごふふふ」
「大人しく私達をあっちへ渡らせるか、痛い目にあってから私達をあっちへ渡らせるか選ばせてあげようかと思ったけど止めね、大人しく殺されるか痛い目にあって殺されるか選びなさい」
王笏の先をアンデッド達に向けアンバーが威嚇する、いや、宣言と言うべきだな。
「待てアンバー、こいつらに聞きたいことがある」
ヒル姐がアンバーとアンデッドの間に割って入る。
「ヒル姐?」
「おい貴様ら、貴様らが我が城の前でこんな事をして国王のビルヘルムは何も言ってこないのか?」
確かに。
まともな国だったら自分の城と敷地にかかる橋を破壊されただけでも衛兵なりがすっ飛んで来て対処するだろう。
まして自分の目の前でチンピラアンデッドが山賊まがいの事してるとなれば尚更だ。
「ぎゃーはははぁ。お前の親父ならここ何年も城から出て来たのを見た事ねーぜ」
「おかげで冥王サーベラス全盛期みてーにやりたい放題よ、がははははは!」
「そうか…分かった。ジェイクすまないが急いで城へ向かいたいので私のハルバートを出してくれ」
「あ、はい」
ヒル姐が、らしくも無くいきなり武器を、しかも使い慣れたフランベルジュでは無く久方ぶりのハルバートを出してくれと言う言葉に少しだけ驚いたが俺はヒル姐の望み通りハルバートを空間から出した。
「おぉう!今度はハルバートがいきなり出…!!?」
マッチョゾンビが冷やかす様に喋り出した瞬間、その顔、いや頭は自慢であろうマッチョボディから切り離され毒沼に落ちた。
流石というかゾンビなだけあって頭だけになっても毒沼にゆっくりと沈みながらも憎まれ口を叩いていたがやがてその頭部は毒沼に飲み込まれる様に沈んだ。
流石にいくら不死魔族と言えど頭だけで毒沼に落ちれば助からないだろう。
「な!?テ、テメー…!!?」
続いて髭を蓄えたゾンビの頭が毒沼に、返す刀でデブゾンビの頭が毒沼に落ちた。
「っ!?」
次々とアンデッドの頭が斬り落とされる中、リーダーらしきロン毛ゾンビが剣を振り上げヒル姐の背後、つまり死角から飛びかかる!
俺とアンバーはヒル姐の奇襲攻撃と言う事もあったがアンデッドを含めその場にいた者、全員が呆気にとられている中、リーダーらしきロン毛ゾンビは敵ながら天晴れと言う訳でもないが流石と言うか唯一状況を冷静に判断していた。
「ヒル姐、後ろ!!」
俺は慌てて叫ぶ!
「っ!?」
驚愕したのはアンデッドの方だった。
ヒル姐はノールックで背後から飛びかかったアンデッドに対しハルバートの柄側、と言っても柄の先端も鋭く尖っている槍だが、その槍で串刺しにしたのだった。
「ぎ……テ、テメー…」
ロン毛ゾンビのリーダーアンデッドは自分の腹を突き破ったヒル姐のハルバートの柄を握りながら悔しそうにヒル姐を睨みつけながら青い血が滴る口で言う。
「げげげ!!じょ、冗談じゃねー!?俺は逃げるぜ!!」
隻眼ゾンビは逃げようと走り出す。
「逃がすか!」
俺は能力強化で隻眼ゾンビの前に回り込み立ち塞ぐ。
「げ!?」
隻眼ゾンビはいきなり俺が立ち塞がった事に一瞬ひるんだが直ぐに持っていた剣で切り掛かってきた!
俺としてはこんな雑魚キャラの一振りなんかは能力強化を使うまでも無くウェービングで避けれる。
「げげ!?」
いや、そんなに驚かなくていいだろう。
「さよなら」
俺は渾身の一振りを空振りして前かがみになって体勢を崩している隻眼ゾンビに別れ告げブレードソードを振りかざす。
「げげげげげげげげげげげげげげげげげげ」
俺は縦横斜めと幾重にも剣を振り回し隻眼ゾンビを細切れにする。
「アンバー!火魔術を!!」
「了解!」
細切れになった隻眼ゾンビをアンバーの火魔術で跡形も無く消し去る。
相手が不死魔族だからただ斬るだけじゃ復活するだろうから跡形も無く消した。
名付けて『フ○ーザがメカフ○ーザになって地球に来た時、いきなり現れたト○ンクスがやった技斬り』ってトコだ。
「っ!?な、なな何なんだテ、テメーら!?」
ヒル姐にハルバートで串刺しにされ身動きが取れないまま宙に浮かされたロン毛ゾンビが怒りとも焦りとも取れる表情で言ってくる。
「何だ君はってか?あぁ?」
「何?ジェイク?その変な聞き方?」
アンバーが怪訝そうな顔で俺に聞く。
だがアンバーよ、惜しかったな、そこは変な聞き方じゃなくて変なおじさんってツッコんで欲しかった。
いや、それは無理か。
「ごほん!!失礼、何だテメーらって貴方がさっき自分で言ってた王女様とその一行ですよ」
「そ、そんな事は分かってんだよ!俺が言ってん……っぎゃ!?」
ヒル姐がハルバートを地面にドンと一突きし宙に浮くように串刺しになっていたロン毛ゾンビを反動でヒル姐の顔の位置ずり下ろす。
「で?向う側に渡るにはどうするんだ?」
まさにフェイスtoフェイスといった至近距離でヒル姐が問い詰めると
「っ!?」
「ぎひひひひひひひ」
あろう事かロン毛ゾンビはヒル姐のクールフェイスに唾を顔射しやがった。
ヒル姐は激昂するでも無くオッドアイのクールな眼でドヤってるロン毛ゾンビを見る。
「ぎゃあぁぁあああぁぁあ!!!」
ヒル姐が更にハルバートを地面に一突きした事によりロン毛ゾンビがハルバートの刃の部分まで落ち刃が半分ロン毛ゾンビの体にめり込んでいる。
通常の肉体なら完全に死んでるな…
「うるさい。さっさと質問に答えろ、さもなくばもう一突きいって体を真っ二つに裂くぞ」
「ぎぎぎぎぎ…くっそが…知るか、テメーで考えろ」
「分かった、なら貴様は用無しの殺人鬼だ」
「ぎゃっ……!!」
短い断結魔をあげロン毛ゾンビは上半身を二つに裂かれた格好で地面に伏している。
その後アンバーの火魔術でロン毛ゾンビを焼き払った。
「でもヒル姐、どうやって向う側まで渡るの?」
「うむ、奴等は結局渡る術は無くただここで今みたいに強盗殺人やら人攫いしていただけみたいだったしな」
「この荒野じゃ橋にする木材も無いしね…」
「バイクで渡ればいいんじゃないですか?」
「え?どう言う事?ジェイク」
「多分なんですけど、僕達のバイクは風魔術でバイクを浮かせて進む訳ですから少し出力を上げれば下が液体でも浮くと思います。しかも下は水みたいなサラサラした感じじゃ無くドロドロした沼ですから尚更イケると思います」
「なるほどな、では不死魔族である私が行ってみよう、万が一落ちてもダメージ受けずに済むからな」
「まあ最悪、僕の空間魔術で毒沼収容してもいいのですが…」
「いや、ジェイクの空間魔術の容量がどれだけあるか分からないし、ここは先ずバイクでフロートしてイケるか試してみよう」
「では、万が一ヒル姐が沼に落ちた時はヒル姐の周りの毒水とバイクは収容するので先行をお願いしても?」
「ああ、父上の事も気になるし早いとこ城へ行きたいからな、早速行ってみるとしよう」
そう言うとヒル姐はバイクに魔力を流し始める。
いつもより多い魔力を流している証に風魔術の魔法陣がいつもより輝きを増している。
「それじゃあ行くぞ!」
「気をつけて」
「ああ」
橋からバイクで沼地に飛び降りる様にバイクを発車させた。
「おお!!やった!!」
「スゴい!ヒル姐!」
原色の毒水の波紋を広げながらヒル姐のバイクは水面を滑空していく。
「でもジェイク、どうやって橋に上がるの?」
「いや、魔力が切れない限り沼地を滑空して向こう岸に着けばいいでしょう」
「あ、そっか」
「ほら、ヒル姐も分かっていますよ」
ヒル姐は右に舵を切り橋の脇を滑空して対岸を目指している。
「それじゃあ私達も行くわよ」
「ええ」
俺とアンバーもヒル姐に続いてバイクで毒沼を渡った。
ー
「上手くいったな」
「ええ、想像通り上手くいけて良かったです」
「一応、魔力回復しておきましょ」
アンバーが魔力回復の魔石を出し皆で魔力を回復しておく。
「だけどヒル姐のお父様どうしたのかしら?」
「うむ、私が昔いた時よりアンデッドや魔物が増えている時点で違和感を感じていたが…」
「とりあえず急いでヒル姐の家へ行きましょう」
「そうね」
「それじゃあ2人とも私について来てくれ」
「「イエッサー!」」
橋が壊されていたせいか毒沼を渡ってからはアンデッドや魔物に会う事は無く順調に山を駆け上がりヒル姐の実家である城を目指し山の背を走っている。
「っ!?ヒル姐、城門の前に誰かいます!!」
「私の魔力感知眼にはまだ反応無いな!」
「私もまだ見えな〜い」
能力強化の視力でかなり遠くでも障害物が無ければ俺には見える。
「大柄な男みたいです」
「城の門番か?そんなの前はいなかったが…」
そのままバイクを走らせ城に近づくと向こうも俺たちに気づいた。
緑色の巨体で体中傷だらけのその男は恰幅の良い体型で手には大型の斧と丸い盾を持っている。
「あの男、相当な魔力の持ち主だぞ」
「た、確かに貫禄あるって言えばあ、あるわ…ね」
男とは10m程、距離を取ってバイクを止める。
「カエレ、ココニハナニモナイ」
男が先に口を開いた。
「私はヒルディ・ファビウス!当主ビルヘルムは我が父にある!そこを通してもらおう!」
「………………」
男はガラス玉みたいな緑色で透明な目を瞬きもせず無言で俺達、いやヒル姐を見つめている。
「ちょっと!不死魔王の一人娘が800年振りに帰ってきたのよ!さっさと中に繋ぐなり何なりしなさいよ!」
「………………」
男は一切瞬きもしない。はたして生きているのか?いや、ここは不死魔族領だから死んでいるか。
それにしても何と言うか、覇気と言うか、生気と言うのもおかしいが其れ等が感じられない。
何かロボットの様に感情を感じないと言うか。
「ちょっと!聞いてんの!?」
「………………」
「く、もう!!いいわ、こんなの相手にしないで行きましょ!!」
「イイダロウ、キョカガデタ、ツイテコイ」
そう言うと男は俺達に背を向け城へと歩き出し幅10m、高さ30mはある重厚な木の門を両手で押し何年も開けていない事を思わせる鈍い音とは別に軽々と開けた。
「ハヤクシロ」
俺達3人は顔を見合わせ位を決する様に男の後に続いた。