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第46話 学習能力

 不死魔族領のプラハスに入った。


 不死魔族領に入ったと言うと入国したみたいな言い方だが特に入国審査がある訳でも税関チェックがある訳でも無くただ山から下山しただけだが。

 まあ、並の冒険者レベルでは越える事は不可能に近いデガリット山脈を超えてきたのだからデガリット山脈がある意味入国審査みたいな物かも知れない。


 デガリット山脈を下山し不死魔族領の森に入ったのは朝だが、その森は爽やかな木漏れ日溢れるマイナスイオンで満ち溢れた緑豊かな森林と言う雰囲気では無く、朝なのに薄暗くジメジメした感じがマイナスイオンっちゃあマイナスイオンだがどちらかと言うとカビ臭く辛気くさい雰囲気の森だ。


「ヒル姐…プラハスの森って…こんな感じなんですか?」


「まあ、ここは大分森の深層部だからあまり立ち入る事の無い場所だから特にかも知れないが、まあこんな感じと思ってくれていいだろう」


「は、はは、そ、そうなんですね…?」


「ふふふ、ジェイク、あんた怖いんでしょ?」


「は、はぁあ??ア、アンバーってば、ななな何言っちゃってんの?」


「きひひひひ、図星ね」

「そうなのか?ジェイク?」


「ま、ま、まさかぁ、ヒル姐まで何言っちゃってんのですかか?」


「うむ、どうやらアンバーの言う通りみたいだな」


「はあ??全然怖くなんかねーし!!」


「きひひひ、はいはいジェイクちゃん、怖くなんか無いでちゅね〜」


「だがジェイクは何が怖いのだ?」


「だだだだから、何も怖いもんなんかねーつーのっ!」


「ヒル姐、ジェイクちゃんはオバケちゃんが怖いですぅ」


「オバオバオバオバケなんか全然怖くねーし!!」


「何でジェイクはオバケが怖いんだ?大体にしてオバケってアンデッド系の魔物の事だろう?そんなの散々倒してきたでは無いか」


「ジェイクちゃんは見えない不安が怖いんでちゅよね〜?」


 ぐ、確かにその通りなんだ…目の前に魔物として現れれば、それは怒りにも似た感情で撃破するんだが、どこか物陰や草陰から見られているんじゃ無いかと言う不安感や何とも言えない薄気味悪さが苦手なのだ。


「言ってみれば私も不死魔族だから幽霊みたいなもんだぞ?」

「や、ヒル姐は実体がここにあるから大丈夫なんです、俺が怖いのは目に見えない者です」

「今、自分で怖いと認めたな」

「は!!しまった!」

「きひひひひひひ」

 くそ!アンバーめ、満足気に笑いやがって!


「だがジェイク、この世に見えない霊と言うかアンデッド系なぞいないぞ?それはお前だって度重なる魔物との闘いから知っているだろう?」

「や、まあ、それはそうなんですけど…」

「だったら怖くないだろう?死角から見られているとすればアンデッド系に限らず人族だって魔族だって同じだろう」

「そ、そうですね」

「よし、それじゃあ行くか」

「は、はい」


「とは言ったもののこの森じゃあバイクで移動は難しいな」


 プラハスの森は鬱蒼と木が立ち並ぶだけじゃ無く、倒木も多く当然道も無い為、徒歩での移動を余儀無くされる。


 ヒル姐が先頭に立って歩を進める。


 俺はさりげなく、そうあくまでさりげなく、自然な流れを装い真ん中をキープする。


「ぅわ!!!」


 俺は反射的に伏せる。

 心臓が破裂するんじゃ無いかと言う勢いで高鳴っている。

 今の心臓の音を擬音化するなら、ドッキーーーン!!!!!!ドキドキドキドキだ。


「あはははは、あーはっはっはっはぁ、ひぃひぃ、あーははははははは!!」


 その笑い声の主は言わずもがなアンバーだ。


「ちょ、アンバー!!ふざけないで下さい!!」


「あはははは、だぁって、あんたがビビってレディの私を差し置いてさりげな〜くちゃっかり真ん中ポジションをキープするからでしょ」


「べべべべ別に意識して真ん中になった訳じゃあ…」

「だったらあんたケツ持ちしなさいよ、イヤなら抜き打ちで今みたいに驚かすわよ」

「そんな事言って、実はアンバーも幽霊が怖いんじゃ無いの?」

「はあ?何バカな事言ってんのよ、敵の背後からの襲撃に備えて男のあんたがケツ持てって言ってんのよ」

「確かにアンバーの言う事に一理あるな」

「ちょ、待って!ヒル姐まで!」

「はい、決まり〜、ジェイク下がって」

「そそそそんなぁ…」

「大丈夫だジェイク、私の魔力感知眼である程度、何かが近づいたら分かるから教える」

「そう言う事だから、いい?ジェイク、出発するわよ」

「く…!」


 仕方無しに俺が殿になる形で出発した。

 常に後ろに神経研ぎ澄ましてだ。


 はじめはヒル姐やアンバー、いや、自分の足で踏み折る枝の音にさえここだけの話、ビビっていたが不思議と慣れてくるもんだったがヒル姐が魔力感知眼で潜伏する魔物を発見するや否や俺は真っ先に飛び出し魔物を引きづり出し叩きのめしてやった、魔物と言う名の俺にとっての不安要素を。


 そんなこんなで1日目は過ぎ夜を迎え野営する事になったがテントは先のうろつく者(プラウラー)戦で斬り裂いてしまったので3人で火を囲み見張りのヒル姐の脇で寝た。

 いや、寝れた。

 もしテント健在で1人ずつ寝るとなったら不安で寝れなかっただろうし、アンバーに一緒に寝ようと言ってもバカにされ却下されただろうから結果的にテント斬り裂いて正解だったな。

 怪我の功名ってヤツだが結果ラッキーだ。


 調子に乗った俺は枕が無いと寝れないからと言い、ヒル姐の膝枕を要望したがそれはちょっと…とヒル姐に引かれたがまあいい。


 夜の不安要素を解消出来た事で翌日からはテンション取り戻し順調に進めた。


 それから3回夜を過ごした翌日、ようやく森から脱出出来たのだった。


「ようやく山やら森やらから抜け出せましたね」

「でもこれって…獣人族領のナランティアとは随分と違う景色ね」


 アンバーの言う通りナランティアは草原と言うか芝生みたいな草が生えていて木々も所々にありなんとなく緑色っぽい風景だったがここ不死魔族領のプラハスは荒野と言うか地面は土で周りに木々は少なくかわりに岩が多くなんとなく茶色っぽい風景で言ってみれば真逆の雰囲気と言える。


「同じプラハス大陸でもデガリット山脈を挟んだ南側と北側では大分その装いは違うのだ」

「ふ〜ん、そう言うものなのね」


 とその時、頭上からパラパラと砂が落ちてきたので顔を上げると岩の上に狼みたいな獣のゾンビが数匹いた。


「あー、スティルウルフだ。奴らの弱点は火だ、すまないがアンバー、焼き払ってくれるか」

「イエッサー!ヒル姐」

 そう言うとアンバーは中級火魔術で魔物の群れを焼き払った。


「基本的にゾンビ系の魔物は動きが鈍い、そして火属性に弱いのが特徴だ」


「はい!ヒル姐」

「ん?何だジェイク?」


「一応聞いておきたいのですがヒル姐は不死魔族の王女ですよね?それなのに仲間と言うのか、同じ不死族系が殺られても大丈夫なのですか?」


「仲間と言うのとはちょっと違うな、確かに不死魔族で仲の良い者もいるが同じ不死族系とは言えばそうだが大半は理性の無い魔物だ。だから普通のと言うか他の魔物を狩るのと何ら意識的には変わり無い」


「そうよね、アンデッド系って意味無く彷徨ってる感じだし」


「アンデッドや不死魔族はその名の通り死なない、もしくは死ねない者達だが、逆に生み出す事も出来ない。つまり奴らは赤の他人同士で家族と言うモノは持たないと言う事だ」

「と言う事は仲間意識は無く同族はただ襲わないだけと言う事ですか?」


「まあ、厳密に言うと少し違うが大まかな理解としてはそう思ってくれて構わない」


「だけどヒル姐みたいにお父様がいたり家族がいるアンデッドもいるって事もあるのよね?」

「ああ、理性があるアンデッドは私みたいに不死魔族と呼ばれるのだが不死魔族の中には私みたいに家族ごと不死魔族になってしまったりするケースでは家族のいる不死魔族もいるな。ただ生まれついての不死魔族も非常にレアだが稀に存在し、その者達は繁殖、出産が出来たりするな」


「今の話を要約すると、理性が無いアンデッドは魔物、理性があって死なないもしくは死ねない者を不死魔族と呼ぶ。また不死魔族を含むアンデッドは子孫を残せないが稀に子孫を残せる種もいる、と言う事ですね」

「ああ、そう言う事だ」


「つまり行く手を塞ぐ魔物は今まで通り倒して進めばいいって事ね」


「分かりました、じゃあ早いとこヒル姐の実家を目指しましょう」



 それから俺達は空間からバイクを出し再びバイク旅を始めたのだった。

 森での隊列を継続してヒル姐、アンバー、俺の順番だ。

 セパハンで前のめりポジションの2人の尻を眺めながらツーリングしたいからでは無い。

 あくまで森での隊列を継続しただけだ。

 もう少しシート幅を広げた方が眺めがいいかな?とか考えた事も無い。

 あくまで森での隊列を継続しただけだ。

 バックステップをやめてステップを前に出したらもう少しお尻突き出す感じになるかな?とか考えた事も無い。

 あくまで森での隊列を継続しただけだ。

 いや、継続しただけだと言ったらしただけだ!!


 そんな事考えながらバイクを走らせていたらアンバーが振り向いて俺を見ていた!

「ア、アンバー、ちゃちゃんと前見て運転しないと!!」


「………………」

 アンバーは返事もせず目を細め俺を見ている。


「ア、アンバー、前…!!」

 俺は動揺を隠し安全運転をする様、啓蒙する。


「ジェイクゥ…あんた、私達のお尻、舐める様に見てたでしょ?」

 アンバーさん!図星っス!

 とは言えないのであくまで冷静答える。


「何言ってんですかアンバー。僕が見ていたのはアンバーとヒル姐のバイクのリアボードですよ」

 やれやれと言った感じを醸し出しながら俺は言う。


「嘘ね、お尻に突き刺さる様な視線を感じて振り向いたらあんたが鼻の下伸ばして私達のお尻見ていたのを見たんだから間違いないわ」

 相変わらず鋭いなアンバー。

 だがその鋭い洞察力で伊達に突っ込まれ続けていた訳じゃないぜ?


「確かに2人のお尻を見たかも知れません」

「ふん、やっぱり」

 こう言う場面で今までの俺だったらあたふたと慌てて全否定していただろうが突っ込まれ続けたおかげで学習したぜ?


「お尻を見ていたのは事実ですが、先程も言った様にあくまでバイクを見ていたのです」

「ごちゃごちゃ言ってないで男らしく認めなさいよ」

「僕は先程から久しぶりにバイクに乗って違和感を感じてたのですが2人とも何も感じませんでしたか?」

「別に何も違和感なんか感じないけど?」

「そうですか、僕は何となく出力が悪いと言うか何か効率が悪い様な気がしたのです。だからリアボードの取り付け位置や2人のライディングポジションなんかを参考に考えていたものですから、それでお尻と言うかライディングポジションなんですけど、それをチェックしていた時お尻を見ていたかも知れないと言う事です」


「…………………」


 ふふふ、どうだ?完璧な対応(うそ)だろ。アンバーも流石に信じるしかないだろう。


「考え事をしていただけですが不快感を感じさせたなら謝ります、すいません」


「…まあ、今回はいいわ」


 よっし!ヤッター!

 凌いだぞ!

 とは言え2回目はキツイから違う言い訳を考えておかなければ。



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