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第44話 ご対面

 山道に入った、つまりデガリット山脈に足を踏み入れたって訳だ。


 魔物が闊歩する山だけにそりゃ10mも進めば危険度Aクラスの魔物と次々に相対するんじゃないかと構えていたが今現在まだ魔物と遭遇していない。


 既に入山して10分はバイクで走っているが魔物は現れない、逆にこれだけ会わないともう引き返せない所まで誘い込んで一気に取り囲まれるんじゃないかと怖くもなる。


 まだ傾斜もさほどキツく無くバイクで進めるから楽だが魔力感知眼も無くバイクも無しでどんな魔物がいるか分からない中、山道を徒歩で登っていたら心身共に疲れるだろう。

 そんな事を考えながらバイクを走らせているとヒル姐の魔力感知眼に何かが引っかかったみたいだ。


「もう少し登ると魔物が1匹いるぞ」

「やっと現れた?もしかして魔物なんかいないんじゃないかと思い始めていたわ」

「ヒル姐、魔物の魔力は強力ですか?」

「ああ、1匹だが魔力は相当なモンだぞ、気を抜くなよ」

「「イエッサー!」」


 俺はバイクの風魔術を強め2人の前に出る。


 事前に決めていたフォーメーションはこうだ。

 まず俺が前衛で空間魔術で先制攻撃を仕掛ける。

 続いて中衛にアンバーを持ってきて俺が仕留めきれなかった場合、魔術で支援あわよくばトドメを刺す。

 後衛にヒル姐を置き後方と周りに警戒網を張り巡らしフォローすると言ったフォーメーションを基本フォーメーションAとして、相手が3匹以上の場合のフォーメーションB、闘いが長引く時のフォーメーションC等いくつかの陣形バリエーションを考えてある。


 山道特有のヘアピンカーブを曲がると50m程先に人型の岩の魔物がいた!


「ゴーレム系だな!基本的には力任せだが動きは見かけによらず早いから気をつけろ!」

「イエッサー!アンバー、射程距離に入ったら奴に火魔術を!!」

「もうとっくに射程距離よ!」

 アンバーがそう言った次の瞬間ゴーレムが火に包まれる。


 一瞬ゴーレムがひるむも大したダメージじゃない。

 だが一瞬ひるませれば十分だ。

 ひるんだ瞬間ゴーレムの頭上から大量の水が落ちる!


 狙いは火じゃなく水だ。

 前にダンジョンの地底湖の水を俺の空間魔術で収容した事があったがそれはダンジョンを出る時に戻していたので、とりあえず海を船で渡った時に同量位の海水を収容しておいたのが奏功した。


 いくらゴーレムとは言え、地底湖一個分程の水を落とされればひとたまりも無い。

 バラバラになり大部分が海水によって溶けた。

 ゴーレム一体にちょっとやり過ぎたかなと思いつつ海水をまた空間魔術で収容しておいた。


「ゴーレムが一瞬とは、やるなジェイク!」

「アンバーの火魔術があったからこそのコンビネーションですよ」

「分かってるわね、ジェイク!」


 ゴーレムが溶けて水浸しの道をバイクで通過し更に山を登る。


 しばらく走ると今度は蜘蛛の狩人が現れたがこれも海水落としからの攻撃、海水で飲み込み倒してびしょ濡れのところへ雷魔術のコンビネーション攻撃であっさり撃破。


 冒険者のゾンビには海水落としからの土魔術での串刺しで動きを封じ火魔術での火葬。


 予想以上の楽勝にペースは上がり1日目は予定より進んで山を1つ越え2つ目の山の頂上付近まで進んだ。

 2つ目の山の頂上付近の拓けた場所にテントを張り1日目は終わった。

 寝る前に念の為、皆ダンジョンでゲットした魔石を握り魔力を全快しておいたが特に襲撃も無くしっかり休めた。


 魔物、しかもゴーレムやドラゴンが闊歩するだけあって山道は意外と固められバイクが通るに困る事は無かった。


 魔物への対処も山道も万全でなかなかの楽勝ムードに気が緩み始めていたところにヤツが現れた。


「1時の方角から巨大な魔力を持つ者が飛んでくるぞ!!」

「飛んで来るって空を飛んでるの!?」

「ああ、そうだ」

「この山脈で空を飛ぶって事はドラゴンですか!?」

「ああ、そうだろう!!」


 俺達はバイクで走りながら右前方の山を見ていたらそれは山陰から飛び出してきた!!


「あれがデガリットドラゴン…?」

 それは赤い鱗に身を包み両翼を羽ばたかせ長い尾をなびかせ現れた。

 赤い鱗に青い瞳、鋭い嘴からは鱗以上に赤い舌が覗き翼の角と尾に生えたツノはそれだけで充分過ぎる殺傷力があるのが分かる。

 体長15m位だろうか、両翼を伸ばせば幅30mはある。

 その存在感はこの山脈の主である事を示している。


 そのデガリットドラゴンの青い瞳が俺達を捉えた!!


「来るぞ!!」

 ヒル姐が叫ぶ!!


 デガリットドラゴンは一瞬宙で止まり勢いを溜め一気に俺達に向け急降下する!!

 威嚇の意味を持つのであろう耳をつんざく鳴き声と共に羽を縮め空気抵抗を減らしまるで巨大な弾丸の様に物凄い勢いで急降下してくる!!


 と、その瞬間!!!


 急降下中のデガリットドラゴンの頭に何かが目にも留まらぬ速さで落ちてきてデガリットドラゴンを地面に強制落下させた!


 デガリットドラゴンの落下で凄まじい音と土煙りが辺りを包み込む。


「な、何!?何が起きたの!?」

 アンバーが事態を飲み込めずに叫ぶ。


「デガリットドラゴンが落下した!?」

 ヒル姐も訳が分からないと言った感じだ。


「上です!!」

 俺はデガリットドラゴンが飛んでいた空を指差す!

 さっきのスピードは俺の能力強化(レインフォースド)された動体視力でも何かが降ってきた様にしか見えなかったのだからアンバーやヒル姐には何も見えなかっただろう。


「っ!?」

 アンバーとヒル姐はまだ事態が飲み込めていない。


「ふふふ…」


「だ、誰!?」

 アンバーが聞く。


「僕の事を聞くよりドラゴンから助けてあげたのですから先ずはお礼が先じゃないですか?フツー」


 そこには腕組みしながら宙に浮く少年がいた。


「あ、ありがとう…」

 訳が分からないが確かにその通りだと思ったのかアンバーが礼を言う。


「あ、お礼が先じゃないですか?と言いましたがいいんです、礼には及びません」

 少年は爽やかな笑顔で手を振りながら言う。


「ジェイク、アンバー、気を抜くなよ、奴の魔力はハンパじゃないぞ…」

 ヒル姐の頬を冷や汗が伝う。


「あ、あのぉ、あなたは一体…」

 俺は聞きたくない答えの問いかけをする。


「僕ですか?僕はこの辺をと言うか、この世界をうろうろしている者ですよ」

 少年は爽やか笑顔のまま右人差し指を立て答える。


「っ!?」

 その答えに俺は、いや3人とも息を飲む。


 ヤツだ…!!


 うろつく者(プラウラー)


「おや?皆さん顔色が変わりましたね?」


「…………………」

 俺達はその名前を口に出来ない。

 口にした途端まずい状況になるのが分かっているからだ。


「まだ僕の事分かりませんか?」


「いや…誰かは分からないが助かった…改めて礼を言う」

 ヒル姐が冷や汗をかきながらうつむき加減で横分けに分かれた前髪越しにうろつく者(プラウラー)を見ながら言う。


 そうだ、まだヤツと闘う段階にない。

 ここは知らん振りして過ごすより無い。


「いやだなぁ、だからお礼はいいですって。

 何故か?

 それは僕があなた方を殺るからです…」

「かっ…!」

「ジェイク!!」

「え?ちょ…」


「が…」

 いつの間にかヤツに喉元を掴まれ持ち上げられていた。

 いつの間に!?

 俺は必死で締め付けられるヤツの手首を掴み離そうとするがピクリともしない。


「ふふふ」

 ヤツは爽やかにそして涼やかな目で微笑みながらその手に力を強める。


「ぐ……」

 俺は必死で意識を失わない様に堪えアンバーとヒル姐に其々の武器を空間から出す。


 武器を手に取り我に返るアンバーとヒル姐!


「ちょ、ジェイクから手を離せ!!」

 王笏の先の魔石を真っ赤に熱しアンバーがうろつく者(プラウラー)に殴りかかる!


「ぐっ…きゃあ!!」

 風魔術か何かでアンバーが弾き飛ばされる!!


「アンバー!!ちっ!ナメてくれるなよ」

 ヒル姐が無数の雷弾(スパークボール)を出す。


「ジェイク!!少しダメージを受けるかもしれんが許せ!!」

 無数の雷弾(スパークボール)が俺とうろつく者(プラウラー)に迫る。


「ふふふ」

 うろつく者(プラウラー)は慌てる事無く笑みすら浮かべチラリと雷弾(スパークボール)を見るだけだ。


 雷弾(スパークボール)は乱気流にでも巻き込まれたかの如く空へと舞い上がる。


 うろつく者(プラウラー)は右手で俺の首を掴んだまま左手をヒル姐へ向ける。


「ぐあっ…!!」


 ヒル姐は一瞬で弾き飛ばされ山肌へ叩きつけられる!!


 アンバーとヒル姐共にヤツの風魔術か何かで弾き飛ばされ倒れこんでいる。


 いよいよ俺の意識も危うい…。


 俺は意識を刈り取られる前にヤツの頭上に無数の剣、いやありったけの武器と水、更にはアンバーから貰った魔術を空間から出す。


「ふふふ、皆さん無駄ですよ。あなた方の魔術を総動員しても僕にはかすり傷1つつけられません、ほら!」


 ヤツは頭上にあった剣や魔術、水、全てを爆発させた様に弾き飛ばしてみせた。


 く……もう……意識が………


 …………く、くそ…………


 …………………




 っ!?


 俺は地面に落ちた!?


「…っが、はっ……はぁ…っは……はぁ…はぁ…はぁ…!」


 何だ!?


 何が起きた??


 何でヤツは俺を離した??


 俺はひざまずき喉を抑え呼吸を整えながら視線を上げる。


 俺の前には男が背を向け立っている。


 誰だ??


 助けてくれたのか??


 どうやって??


 俺は薄れていた意識と事態の展開についていけず混乱していた。


「教授!!!」

 アンバーの声で気づいた。


「危なかったな、アンバー、ヒルディ、それからジェイク」


「っ!?と、父様…!?」


 その男は俺の父親にして元魔王、ルーファスだった。

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