第43話 無知な山賊
獣人族領ナランティアの入口の街バリアントで2日間ゆっくりした俺達は今度こそヒル姐の故郷へ向かう為、バイクで北上している。
バリアントの街を出て1時間程走っただろうか?
街からは遠くに見えていた山々が近くになり、その存在感を見せつける程に高くそびえ立つ。
「前方に魔物が2匹いるぞ」
「はい、見えました」
ヒル姐の魔力感知眼と俺の能力強化した視力で大抵の魔物は事前に察知できる。
相手が素早い魔物だったら遠巻きに迂回する形でスルーし、動きの鈍い魔物ならそのまま避けてスルーする。
街の近くなら街の安全確保の意味でも魔物を退治するが、これだけ人里離れた場所なら魔力節約と時間短縮の為にもわざわざリスク犯してまで魔物とやり合う必要は無い。
魔物との距離が300m程に近づいた頃、ようやく魔物は俺達に気づく。
「幻影野狸だな」
「あ、慌てて怪我した人族に化けましたね」
「こっちはとっくに気付いてんのにバカな狸ね」
俺達はバイクの速度を下げる事無く進む。
「あ、あのぉ…」
幻影野狸が助けを求める演技をしながら話し掛けるがシカトで通過する。
幻影野狸は相手を化かし襲ってくる低級な魔物だ。
振り返れば俺達がスルーした事に怒っているのか、騙せなかった事に怒っているのか分からないが変身を解いて怒っている狸が小さくなっていく。
しばらく走ると山の麓に着き山道へと続く道があった。
ヒル姐が左手を上げゆっくり着地し止まったので俺とアンバーも続いて止まる。
止まった道端には、と言うか道には人族らしき骸骨やら魔物の骨やらがこれ以上先には行くなと警告しているが如く転がっている。
「それじゃあこのまま山へ入るぞ」
「はい」
「ええ、さっさと行きましょ」
「私もこの山脈を越えた事は無いが、前にも言った通り基本一本道だ、何も無いという事は無いが、何も無いとしても歩いて山を越えるとしたら1カ月程の距離らしい」
「じゃあ私達なら途中までバイクで行けたとして10日もあれば超えられるんじゃない?」
「だとしても10回は夜を越さなきゃならないですから油断出来ないですよ」
「何?ジェイク、ビビってるの?」
アンバーが悪戯な目線で八重歯を見せ冷やかす。
「ビビってはいないですけど僕達が寝てる間、ヒル姐1人で見張りさせちゃう訳ですから」
「私ならそもそも不眠で大丈夫だし、魔力感知眼もあるから何かあればお前達を起こすから寝ずの番でも大丈夫だぞ」
「ええ、ヒル姐、何かあれば遠慮なくジェイクを叩き起こして」
「え?アンバーは?」
「私!?私は切り札だからいざと言う時だけ起こして」
「何言ってんスか、アンバー」
「大丈夫だジェイク、今ので先にアンバーから起こす事に決めた」
「ちょ、ヒル姐!待ってよ、ジョークよジョーク!」
「ジョークなら尚更起こして大丈夫だな」
「え、っとそれは…」
「くっくっく…」
「何笑ってんのよジェイク」
「え?いや…」
「ん?早速お出迎えが来たみたいだぞ」
俺とアンバーの夫婦漫才が始まる事を遮るように魔物が近づいてきたみたいだ。
すると山道からでは無く道の両側の森からそいつ等は出てきた。
「ん?久々の獲物は魔族のガキどもか」
「おう、ガキの肉は久しぶりだな」
「ガキの肉は柔らけーからたまんねーよな」
「ここんトコ獣人族ばっか食ってたかんなぁ」
「ああ、獣人族は筋っぽくてまじぃよなぁ」
「さぁてどうやって怯えさせて殺すかな」
「ぶっふっふ、今日は俺が殺る番だかんなぁ」
そいつ等はオークだ。
獣の毛皮で出来たベストを着て槍やら斧やらを持って山だけにまさにThe山賊、と言った出で立ちのオークが6匹出てきた。
「ようし、お前等、金目の物置いてけ、とは言わねぇ、どうせ殺すから殺した後ゆっくり頂くからよ、そうだな、あえて言うならお前等逃げんなよ、ってトコだな」
リーダーらしき隻眼のオークが右手に持った斧の峰側を左手の平でトントンと叩きながら獰猛な笑みを浮かべながら言う。
それと同時に残り5匹のオークが俺達を囲む。
「何だ?この木で出来た乗り物みたいのばがぁあ!!」
「がぁあ!!」
「ぐがぁ!!」
「ぶぶぅ!!」
「ぶじゅ!!」
「な…!?」
隻眼のオークが慄く。
仲間が部下か知らないが自分以外のオーク5匹が一瞬で頭を剣で串刺しにされ絶命したのだからそりゃ慄くわな。
「な、な、な、何しやがった!?」
隻眼のオークは慌てながらそして怯えながら斧を両手で構える。
「何って見ての通りお仲間を殺ったんですよ」
「そ、そ、そんなのは見りゃ分かんだよ!お、お、俺が言ってんのはどうやって殺りやがったって聞いてんだよ!!」
「あんたバカ?今あんたがその殺し方聞いてどうすんの?あんたが言うべき台詞は助けて下さいでしょ」
「な、な、な、何だと?こ、このガキゃあ、ぐっ…!」
オークは身動き出来ずに固まる。
「こうやってですよ」
俺は隻眼のオークの首筋に何本もの剣を空間から出し突き立てる。
「な、な、な、何だコリャあ…ど、どこからこんな剣を…」
「何だお前は相手の強さも分からなければ空間魔術も知らないのか?」
オークの無知さにヒル姐が呆れた様に言う。
「く、く、空間魔術だ…?」
「さっきから質問ばっかりしてますが質問するのはこっちです」
「な、な、何を偉そうにしてやがんだこのクソガキが!ってぇ!」
オークの首筋に突き立てた剣のうち一本を軽く首に刺す。
「それじゃあ質問します、あなた方はここで何人位襲ったのですか?」
「へっ!知るかバァカ!ぐあ!!」
もう一度首筋に剣先を刺す。
「ホントこいつバカね」
「もう一度聞きます、何人位襲ったのですか?」
「し、しし知らねーつってんだろ!数えてねぇよ!」
「それは数え切れない程襲ったと言う意味ですか?」
「ぐっふっふ、その通りよ、お前等も殺してやるからな」
「あ〜そーゆーのいいから、で?金品強奪するだけじゃ無く殺した相手を食べてたの?」
アンバーが呆れた様に言いながらも殺意が漲っている。
「殺して放ったらかしてたらゾンビになるだろうが、だから俺様達が後片付けとして食ってやってんじゃねーかバァカ」
「こ、こいつ…!!」
アンバーが殺気を解放し殺そうとした所をヒル姐が抑える。
「それで?お前等の仲間はまだいるのか?」
ヒル姐がそのオッドアイで冷ややかに見つめ聞く。
「ぐっふっふ、当たり前だバァカ、お前等報復が怖いなら今すぐ俺を離しやがれ」
「そうだな、離してやってもいいがもう1つ質問に答えろ」
「何だって言うんだ?ああん?ネエちゃんよ」
「この山にはどんな魔物が棲息してる?まさかお前等みたいなオークだけじゃないだろう?この質問に正直に答えたら逃がしてやってもいいぞ、どうだ?簡単だろう?」
「ぐっふっふ、まさかお前等このデガリット山脈を越えるつもりか?ぐっふっふ、いいだろう教えてやんぜ、このデガリット山脈で1番強えのはデガリットドラゴン、それに岩の巨人や蜘蛛の狩人、その他にもお前等みてーに山に入って死んだゾンビやら何やらそりゃあ強え連中が待ち構えてんぜ?何しろそんな魔物がウヨめく山で生き残ってる魔物だかんな、そりゃあハンパじゃねーぞ?ぐっふっふ」
「ふん、全部纏めてこのアンバー様が退治してやるわよ」
「おうおう、なるべく早めに死んでくれよ、そしたら俺が食ってやるからな、ぐっふっふっふっふっふ」
「何ですって…!」
「止めとけアンバー、こんな奴に魔術使っても魔力の無駄遣いになるだけだ、ジェイク、剣をしまい離してやれ」
俺は剣を全て空間に収容する。
「行くぞ、アンバー、ジェイク」
「ふん、命拾いしたわね」
「けっ!」
オークは唾を吐き捨てる。
俺達はバイクにまたがり魔力を流しバイクを浮かせる。
「おい!何で俺がお前等にこの山の事教えたと思う?ああん?」
「そりゃあんたが助かりたい一心でペラペラ喋ったんでしょ」
「不思議な魔術使うガキさえ始末すりゃ勝てるからだよ!!」
オークはその大きな斧を俺に目掛け投げつけてきた!
が、
次の瞬間その斧はオークの頭に突き刺さっていた。
俺が空間魔術で斧を収容してそのスピードのままオークに送り返したからだ。
「結局、こいつは空間魔術を最後まで理解しなかったな」
「ったく余計な魔力使わせるわね」
そう言うとアンバーはオークの死体を火魔術で焼き払った。
「まあ、でもおかげでこの山脈の名前と棲息してる魔物が分かったのは収穫ですよ」
「ああ、何がいるか分からないより分かっていた方がいいからな」
「そうね、こいつ等が空間魔術知らなかったみたいに物を知らないのは冒険していく上で致命傷にもなりかねないしね」
「それじゃあ日が高い内に行けるトコまで行くぞ、野営する場所も見つけなきゃならないしな」
「「イエッサー!」」
俺達はバイクに魔力を流し発進し山道を登る。
さて、何が出るやら。




