第42話 再出発
旅立ちの日の朝、俺達は出発の準備を終え城門にいる。
ウェルアス王をはじめ見送りには昨夜の宴に参加してくれた獣人族のほとんどが来てくれた。
が、肝心のジュリアさんが見当たらない。
「ったく、ジュリアったら何してんのかしら?」
「まさか、今朝になってやっぱり寂しくて見送りに来れなくなったとか?」
そんな会話をしているとジュリアさんが城から駆けて来た。
「皆さ〜んっ!!」
「ったくジュリア!遅いわよ!」
「はぁ…はぁ…すいませんっ!これを作ってたのでっ」
ジュリアさんが差し出した手には何やら握られている。
「何それ?」
「ミスティルドシルで作った指輪ですっ」
ジュリアさんの掌には4つの木で出来た指輪があった。
その指輪は十字の飾りが付いていて4つ共お揃いだ。
「それってもしかして餞別か何か?」
「はいっ!昨夜私の事を【紅炎の焔】の一員だと言って下さいましたよねっ!だから離れていても心は一緒だと思える品が欲しくて皆さんと離れる前にどうしても渡したくて作りましたっ!受け取ってくれますか?」
「ああ、もちろん」
「はい!喜んで!」
「流石ジュリアね、なかなか気の利いた餞別じゃない」
「ありがとうございますっ!」
俺達はそれぞれ指輪を受け取り右薬指にはめた。
「その指輪、魔術がかけてあって皆さんの指にぴったり合う様に出来てるんですっ!だから皆さんが成長されてもぴったりのままですよっ!」
「へぇ〜ジュリアにそんな魔術が使えたなんて意外ね」
「や、あの、その…その魔術はお城の魔術士の人に教えてもらった詠唱を丸読みしただけなのですが…」
「それでも有り難いです。ちなみにこのクロスしている紋章はどう言う意味なんです?」
「あ、それは縦が皆さんで横が私達獣人族のつもりなんですっ!例え離れていても皆さんと私達の心は重なっているって事を紋章にしたらそうなりましたっ」
「なるほど、素晴らしい紋章です」
「それじゃあ今から私達【紅炎の焔】の紋章はこのクロス印ね!旅した先々でこの紋章を刻むからジュリアもこの紋章を書いた旗を立ててバイクでパトロールしなさい」
「やめなさい」
「な、何でよ、ジェイク!?」
「えっと、それは他所の土地に僕達の紋章を刻み込んだら余計なトラブルになるからですよ、アンバーだって僕達が生まれ育ったルーベリル村に他所から来た旅人が俺達の紋章だ!って言って紋章を彫られたらヤでしょう?」
「…確かにそんな事されたらキレるわね」
「だから、いらぬ争いを起こさない方がいいと言う事ですよ」
「分かったわ、だけど自分達の土地を守る為のパトロールならこの紋章の旗をひるがえしながら走る分には何の問題も無いわね」
「はいっ!問題ありませんっ!」
「ちょ、ジュリアさん…」
「だが、ジュリア1人で旗を持ちながらバイクは運転出来ないぞ?」
「その事なら問題ない」
ウェルアス王?
「どう言う事です?」
「ジュリアをリーダーに街の警備団を作るにあたり、ジュリアを守る部隊も作る事にしたからな」
「えっと…それって…?」
「親衛隊を作る事にしたのだ、親衛隊隊長はシルヴァ、お前に努めてもらいたい」
「はっ!」
え?ちょ、えぇ?親衛隊??
「それから攻撃部隊としての遊撃隊は隊長にアルドルフ、お前に任せたい」
「はっ!」
はっ!って皆さん…いいの?
「素晴らしいわ!!ジュリアを先頭に親衛隊、遊撃隊を引き連れパトロールするなんて想像しただけでワクワクするわね!!」
「はいっ!姉様っ!お父様ありがとうございますっ!」
「はっはっは、なぁに、街の治安維持を考えれば当たり前の事だ、流石アンバーと言ったところだな」
え?流石アンバー??
「はいっ!お父様っ!姉様の進言があったからこその名案ですっ!」
姉様の進言があったからこその名案??
「いいえ、私は助言したに過ぎません。親衛隊と遊撃隊の提案を理解され即実行されるウェルアス王の決断には頭が下がります」
「はっはっは、何似合わない事を言っているアンバーよ」
そうか、昨夜の契りを交わした後、何やらアンバーとジュリアで話が盛りがっていたと思ったが只のガールズトークじゃなくこう言う事だったのか。
「しかし、流石にジュリア以外の者にもミスティルドシル製バイクは与えられないから通常の木製品になるが、そこは我慢してくれ」
「はっ!ウェルアス王、このシルヴァはじめ親衛隊、バイクを調達して頂けるだけでも有り難き幸せ」
「遊撃隊も同じにございます」
「まあ、木ならいくらでもあるし木の加工は我々獣人族の得意とするところ、木製バイクが壊れたならまた作れば良い」
う〜ん、獣人族の人達は純粋なのか新しい物好きなのか、いずれにしてもアンバーに通ずる所があるみたいだな…
「それじゃあぼちぼち行くか」
「はい」
「姉様、ヒルディ師匠、ジェイクさん、皆さんお気をつけてっ」
「ジュリアも体術に剣術、魔術、それにバイクの腕もあげておきなさいよ」
「はいっ!姉様っ」
「またいつでも遊びに来ると良い」
「ありがとうございます、ウェルアス王」
「あなた達は私達獣人族の家族なのですから遠慮なくいつでも来て下さいね」
「アウラ王妃、ありがとうございます」
「ジュリア王女の事をはじめ色々と世話になったな【紅炎の焔】よ」
「少し肩の力を抜きなさいよ、シルヴァ」
「そうだな、アンバー」
「またな、【紅炎の焔】よ」
「アルドルフさんもお元気で」
「それじゃあ出発だ」
「「イエッサー!!」」
俺達は獣人族の人達の温かい見送りの中、次の目的地であるヒル姐の実家へ向かう為、バイクを森へと走らせる。
ー
「いやぁ、獣人族の人達は温かったですね」
「はじめはどうなる事かと思ったがな」
「最後はみんな私に憧れてたわね」
「確かに、獣人族の人達はアンバーと通ずる所があったみたいですね」
「ええ、私も獣人族が好きよ」
「私もだ」
「僕もです」
そんな会話をしながらヒル姐を先頭に森をバイクで疾走する。
風魔術で浮かせて走っているから地面の凹凸に衝撃を受ける事も無いし、目の前には美女2人の魅力的なバックアングルを眺められるしで快適旅行だな。
バイク様々だ。
「ところでヒル姐、バリアントまでは獣人族の人達に教えて貰ったからいいとして、その後の道は分かっているのですよね?」
「ああ、その事なのだがバリアントに着いたら相談したいのだが」
「相談って?」
「いや、2ルートあってな、どっちから行くか決めたくて…な」
「そうですか、分かりました」
その後、ヒル姐の魔力感知眼で魔物を避けつつ森を疾走しお昼頃にはナランティア領の森の入口、バリアントに着いたが見た事も無い乗り物で乗りつけて騒ぎになる事を避けるべく、バイクはバリアントに着く手前で降り、俺の空間にバイクを収容して徒歩でバリアントには入った。
バリアントでも俺達の事は有名になっていて検問もすんなり入れ街の人々も歓迎してくれた、前回の晒し者になりながら街に入った時とはえらい差だ。
そんな歓迎ムードの中、俺達は宿を取り部屋でゆっくりしながら今後のルートについて話し合う事にした。
「それでヒル姐、ヒル姐の実家に行くにはルートが2つあるって?」
「ああ、アクリア大陸からプラハス大陸に上陸してそのまま私ん家に行くならそのまま北西に進めば良かったのだが、ここまで来たらバリアントから北上した方が距離は短いのだが、どうしたものかと」
「バリアントから北上した方が近いならそうしましょうよ」
「いや、アンバー、距離は短いのにヒル姐が相談したいって事は何かあるんじゃないですか?」
「そうなの?ヒル姐」
「ああ、ジェイクの言う通り、ここから北上するには訳ありだ」
「それはどんな訳ありなんです?」
「うむ、この街からも港町からの道中も見えていた様にこの土地の北側には長い山脈がこのプラハス大陸を横切り私の故郷であるプラハスと今いる獣人族中心地方のナランティアとを分け隔てている」
「確かに山がずっと見えてたわね」
「その山と言うか山脈を超えるのが至難でな、高い標高に危険度A以上の魔物達、そんな環境にあるから当然途中に街がある訳もないから食材を含めた十分な準備と装備を持っていかなければならない」
「ん〜まあでも食材やら装備はジェイクの空間魔術で問題無いし、危険度A以上の魔物ったって今まで何度も闘ってるから大丈夫じゃない?ね、ジェイク?」
「はい、僕も大丈夫だと思います。見た所雪も積もってないから寒さも問題無さそうですし」
「ふ、どうやら愚問だったみたいだな、ただし道は一本道だから私の魔力感知眼で魔物を避けてと言うのは出来ないぞ?」
「ふふん、望むところよ、何だったら魔物一掃してルーベリル村からガラディンまでのアンバー街道みたいに安全な登山道作ってあげようかしら」
「それもいいですね」
「あら、珍しく反対しないのねジェイク」
「ええ、ルーベリル村とガラディンみたいに安全に街と街を行き来出来れば街が発展しますし、旅での怪我や命の危険も下がりますからね」
「よし、それじゃあバリアントで食料をたくさん買い込んで山脈ルートから行くとしよう、ある程度まではバイクで行けると思うが途中からは歩きになる事は覚悟しておけ」
「私は余裕よ」
「僕だってちょうどいいトレーニングですね」
「ふふん、言う様になったわねジェイク」
ん〜獣人族だけじゃなく俺もアンバーの影響受けてるかな?
「それじゃあ今日はバリアントでゆっくりして、明日買い込み明後日出発でいいな」
「「イエッサー!」」
それから2日間、バリアントで買い物したり食事したりしてゆっくり過ごした後、山超えルートで今度こそヒル姐の故郷に出発するのだった。




