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第41話 兄弟仁義

 バイクが出来たので早速、城の庭で試運転してみる。


「それじゃあ動かしてみます」

 そう言うと俺は手と足に魔力を集中した。


「お…!」

 当たり前っちゃあ当たり前だが浮いた。

 更に前方に進む為、後輪にあたる板に魔量を多めに流すとバイクは少し前かがみになったかと思った次の瞬間、爆発的な加速で発進した!


「ぐ、お…」

 俺は振り落とされない様にハンドルに捕まる。

 そして後輪にかかっている魔量を減らし前輪と後輪の魔量バランスを取る様にしてみると車体は安定した。

 車体が安定した所で体を右に傾けてみる。


 すると弧を描く様にバイクは曲がりプロジェクトメンバーが歓声を上げる中へと戻っていく。

 俺は魔力を切りブレーキ代わりに着地をした、すると!

 勢いを急に失ったバイクは前のめりにツンのめって俺はバイクもろとも派手にクラッシュした!!


「ぐぅ………」


「大丈夫か!?」

「バイクは!?」

「大丈夫そうだ!」

「流石ミスティルドシル製だな!」


 俺は………?


「大丈夫か?ジェイク?」

「バカねぇ…急に止まったらそりゃそうなるの分かんないの?」

「ジェイクさんっ!今治癒魔術をっ!」


「あ、ありがとうジュリアさん…」

 ジュリアさんが治癒魔術をかけてくれ傷は治った。


「ま、まあ、とりあえず成功ですね」

「ああ、これで旅の移動も楽になるな」

「私も乗ってみよ!」


 その後、アンバー、ヒル姐とバイクの試運転兼練習をしたが2人とも難なく乗りこなしていた。


 ー


 それから1週間程、獣人族の街ナランティアで過ごした。

 すっかりナランティアに長居をしてしまい名残惜しくはあるが、そろそろヒル姐の故郷である不死魔族の城へ向け出発しなければならない。


 出発の旨をウェルアス王はじめアウラ王妃、シルヴァさん、アルドルフさん、そしてジュリアさんに伝える。


「そうか、出発するか」

「はい、うろつく者(プラウラー)の件もなるべく早く各種族に伝えたいですし、何よりヒル姐の父上であるビルヘルム王へヒル姐の無事を知らせたいですから」

「寂しくなるけど致し方ありませんわね…」

「ここナランティアの街へのルートは教えて頂いたからまた遊びに来ます、頂いたミスティルドシルで作ったバイクで」


「それでいつ出発するのだ?」

「はい、もう一晩お世話になり明日にでも出発しようかと」

「それが良い、今夜は送別の宴をしようじゃないか」

「は!ありがとうございます」


「それでは6時から開宴という事で良いかな?」

「はい、結構でございます」


 ー


 それから俺たちは部屋に戻り旅支度をした。

 と言っても基本的には俺の空間魔術で空間に収容するだけだから特に何かした訳ではない。


 ー


 予定通り6時に会場へ行くと歓迎の宴の時同様に市民参加型の宴が準備されていて俺達は王族と並んで上座に用意された席に着いた。


「それではこれより【紅炎の焔】一行の送別の宴を開催する!」

 アルドルフさんが声高々に開宴の知らせをし宴は始まった。


 ちなみにナランティアには猿酒の様な酒が主流で皆、楽しく酔ったり歌ったりしながら宴を楽しんでいる。

 もっとも俺やアンバーは子供だからジュースの様な果汁の飲み物だが。


 それにしても誰も口にしないがジュリアさんはどうするのだろう。

 いや、どうするもこうするも無い。

 ジュリアさんは【紅炎の焔】の一員では無いし、ましてや冒険者でも無い。

 と言うか王女だ。

 王女だからここに残るしそもそも俺達はナランティアで待つ獣人族の王でありジュリアさんの父上であるウェルアス王の元へジュリアさんを送り届けるのが目的だった。

 そして目的は無事達成した。

 達成したが長居したせいでちょっとだけ皆センチメンタルになっていて口にしないだけだろう。

 待てよ?ルーファス達がそうだった様に意外とこの世界は名残惜しさとか未練とかの感情は俺が思っているより無いのかも知れない。

 たまたまジュリアさんの今後が話題にならないだけかも。


 そんな事を考えているとジュリアさんの方から俺達の方へ来た。


「皆さん、楽しまれていますか?」

「あ、はい!こんな素敵な宴を開いて頂いて感謝しています」

「いいえ、皆さんの人柄が獣人族を集め楽しませているのだと思います」

「そんな事は無いですよ、ね、アンバー?」

 さりげなくアンバーにパスしてみる。


「え?あ、ああ、そ、そうね」

「ん?どうした?アンバー、何やら上の空の様だが?」

「そ、そんな事無いわ、ヒル姐」


「ヒルディ師匠、ジェイクさん、そしてアンバー姉様、【紅炎の焔】の皆さんと過ごしたこの数日間は私の人生で最も輝いていた数日でしたっ!改めてお礼を言わせて下さいっ!ありがとうございましたっ!」


「や、そんな改まってお礼なんかよして下さいよ…僕達だって忘れられない数日だったし、お礼ならむしろ僕達の方が言わなきゃならないですよ、ねぇアンバー?」

「…………………」


「どうした?アンバー?」

「アンバー姉様?」


「…………………」

 アンバーはうつむき顔を伏せている。


「アンバー…」

 優しくアンバーの名前を呟くとヒル姐は自分の胸へアンバーを抱き寄せた。

 すると堪えていたのであろう涙が堰を切ったように溢れたのか、小さなすすり声も束の間、大号泣でアンバーは泣き始めた。

 これにはウェルアス王やアウラ王妃、シルヴァさんやアルドルフさん達をはじめ会場にいた全員がアンバーの方へ注目する。

 俺もアンバーとは幼馴染だが、ここまで泣くアンバーは初めて見た。

 シルヴァさんを許した時に続きアンバーが泣くところは2回目だが基本的には強がって人前で涙は見せないアンバーが人目を憚らず号泣している。

 シルヴァさんの時みたいに涙が流れ落ちると言うよりわんわんと赤子の様に泣いている。


「アンバー姉様……」

 ジュリアさんも堪らず泣き出す。

 こちらも初めはポロポロといった感じだが一旦涙を流したら止まらなくなったと言う感じでわんわんと泣き出しヒル姐の胸へ飛び込みヒル姐にアンバーと一緒に抱かれ2人してわんわんと泣いている。


 その光景を笑う者はおらず、いや中には貰い泣きしている獣人族も少なくない。


 ウェルアス王は目を潤ませながらも優しく温かい眼差しで2人を見つめアウラ王妃は涙を流しているが、こちらもその目は慈愛に満ち溢れている。


 シルヴァさんとアルドルフさんも涙がこぼれない様必死に我慢している。


 やっぱりこの世界でも親しき友との別れは寂しいんだな。


「ヒルディ王女にジェイク、そしてアンバーよ、ジュリアは本当にそなた等を慕っているのだ」

「分かっております、ウェルアス王」

「ジュリアはようやく出来た1人娘でな、ついつい過保護にしてしまい文字通り箱入りで育ててしまった事もありジュリア自身が本当に心開ける友達が今までいなかった、いや、わし等がその様な機会を与えなかったのやも知れない」

「………………」


「そこで今更ながらジュリアに外の世界を知ってもらいたく思いアクリア大陸への旅に同行させたのだが結果はそなた等がよく知っておろう」

竜人族(ドラゴニュート)の襲撃ですね」


「そうだ、私達はやっぱり旅なんかに行かせなければ良かったと後悔した、いくらそなた等に助けて貰ったとは言えショッキングな事件に遭遇した事がトラウマになり内向的になるのでは無いかと心配した」

「………………」


「だがジュリアは違った、確かに仲間を殺されショックだったのは違い無いし忘れる事は出来ないが、そなた等と旅を同行させてもらう中で魔術や剣術以外にも大切な事を学んだと、そしてその事がジュリアを育て強くしたとジュリア自身が私達に教えてくれたのだ」

「僕達との旅で…?」


「ああ、そなた等の強さに憧れ学んでいく事で自分に自信が持てる様になり、自分の事は自分で守る強さ、強さを身に付ける事で学べる優しさ、優しさから来る周りへの気配り、気配り出来る事から見えてくる世界、今まで生きてきた世界が変わった訳じゃなく自分が変わっただけで何もかもが輝いて見えてくる素晴らしさをそなた等から学んだと、特にアンバーの事を本当の姉の様に話すジュリアは私達が箱の中で大事に育てたジュリアでは決して見れなかった輝いた笑顔だった」

「ジュリア……」

 アンバーは涙でぐしゃぐしゃの顔を上げジュリアを見る。


「そこで私達は親バカと知りながらもジュリアにそなた等さえ良ければ一緒に連れて行ってもらったらどうだと勧めたのだ」

「それじゃあジュリアさんは…」


「いや、ジュリアの答えはNOだったよ」

「何でです?そんなに僕達を慕ってくれるなら別に僕達は…」


「ああ、私達も何で?とジュリアに聞いたよ。するとジュリアの考えはこうだ、そなた等について行きたい気持ちはもちろん強い、だがここで友達気分でそなた等について行く事は失礼だと、そなた等は世界を守る為に旅を続けるのに自分個人の感傷を優先するのは間違っていると、そなた等と対等の友になるには先ず獣人族を守れる強さを身につけうろつく者(プラウラー)みたいな魔の手から仲間を守る事だと、その為にはそなた等から教えて貰った闘い方をブラッシュアップさせ、闘いにおいても獣人族の先頭に立てるリーダーになる事だと、少なくともアンバーならそうするはずだと言ったよ」


「私達もまさかジュリアからそんなリーダーシップを持つ言葉が出るとは半年前までは考えた事も無かったから驚きの反面、嬉しくも頼もしくも感じましたわ」


「そんな事をジュリアさんが…」


「ふ、ふん!よ、ようやくこのアンバー様的思考が少しは分かってきたみたいね」

 涙で目を真っ赤にして瞼を腫らしたアンバーが腕を組み、顎を上げジュリアさんを見る。


「は、はいっ!アンバー姉様っ!」


「私達がいなくなったからって鍛錬サボったら【紅炎の焔】破門よ!」

「え?私、冒険者カード持ってないから皆さんのパーティーには入れませんけど…」

「私に憧れてんならそんな小っちゃいルールなんか気にしない!」


 ルール破るのを憧れている訳じゃ無いと思うが、ここはアンバーの言う通りだ。


「そうだぞ、ジュリア、冒険者カードなんか些細な事だ」

「ですね、【紅炎の焔】のリーダーがそう言うんだからジュリアさんも僕ら【紅炎の焔】の一員です」

「ヒルディ師匠、ジェイクさん…」


「先ずは私達が使ったミスティルドシルの木でバイクを作ってナランティアの周りをバイクでパトロールするのを日課にして鍛えなさい、あ、バイクには【紅炎の焔】の旗を立てるの忘れないでね」

「はいっ!!」

 はいっ!じゃないでしょジュリアさん、ってツッコミかけたが、まあいっか。


「シルヴァ!!」

「ん?何だ?アンバー」

「コップ一杯、お酒持ってきて」


 まさかアンバー!?


 シルヴァさんも訳がわからないまま取り敢えず一杯の酒を持ってくる。

「ジェイク!1番いいナイフ出して!!」

「え?ナ、ナイフ??」

「いいから、さっさと出しなさい!!」

 イヤな予感がする…


 酒とナイフを受け取ったアンバーは酒をジュリアに持たせ、その酒の上で自分の右親指をナイフで切り血を垂らす。

「次はジュリアよ」

 そう言うと酒とナイフを入れ替える。

「はいっ!姉様っ!」

 同じ様にジュリアも右親指をナイフで切り血を垂らす。


 お互いの血が入った酒をジュリアが先に飲み干す。

 同じコップにまた酒をつぎ血を垂らし今度はジュリアさんが飲み干す。


「これで私とジュリアは本当の兄弟よ」

「はいっ!姉様っ!」


 思ってた通りだ。

 ったく、やれやれだぜ。


「ウェルアス王!私とジュリアは兄弟の契りを交わしました!ウェルアス王には立会人としてこのコップとナイフを預かって頂きたく!」


 一国の王が、んなモン預かるかっ!?

 つーか、下手すりゃ打ち首じゃね??


「うむ!!確かに見届けた!!このウェルアス命に代えてでもそのコップとナイフ大事に預かると誓おう!!」


 んなっ!?

 ウ、ウェルアス王…??

 正気かっ!?

 つーか涙を流し感動してる!?

 さっきは涙堪えていたのにっ!?

 アウラ王妃にシルヴァさん、アルドルフさん皆涙流している!!


 っ!?

 会場全体が揺れる様な拍手の波が押し寄せる!!

 その場にいる獣人族全員が涙を流し感動しながら拍手しているのだ!!


 マ、マジか…??

 俺が真っ先に出た言葉はこれしか無い。


「ようし!皆の者!!今日はジュリアに姉が出来ためでたき日だ!!無礼講で好きなだけ飲んで食べて騒いでくれ!!」

 テンションの上がったウェルアス王の声にまた会場全体が盛り上がる!!


 そして終わりなき宴が開催されたのだった。

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