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第40話 バイクプロジェクト

 ミスティルドシルの木が1株貰える事になり嬉しさのあまりアンバーが気絶し正気を取り戻したのは5分後だった。


「いや〜まさか、ミスティルドシルの木まるまる貰えるとはおもいませんでしたね」

「ちょっとジェイク、ミスティルドシルの木まるまるとか言わないで、私まだ信じられないんだから」

「しかしジュリア、貴重なミスティルドシルの木をいくら王女と国の為とは言え、冒険者風情にあげていいものなのか?」

「はいっ!はじめはお父様からミスティルドシルの枝を皆さんに差し上げたいと切り出したのですが、誰という訳でもなくいつの間にかミスティルドシルの株を1つ皆さんに差し上げようと満場一致で決まりましたから大丈夫ですっ!」


「今更やっぱりやめたって言われたら今度こそアンバーがショック死しそうですけど、ミスティルドシルの株を貰っちゃって獣人族の方々の分は大丈夫なのですか?」

「はいっ!私達獣人族にとってミスティルドシルの木は貴重で神聖だからあまり使わないと言うだけでこの世に一本しか無いという訳ではありませんので皆さんに1株差し上げても大丈夫ですっ!でも他種族の方に1株あげると言うのは初だそうですっ!」


「そうでしょうね、800年生きているヒル姐ですら見た事無い位ですから獣人族以外に持つのは初めてかも知れませんよね」

「はいっ!私達獣人族が貧乏性なのかも知れませんが木工品としてもほとんど使った事無いので市場に流通は余りしていませんしっ!」


「まさに今回は特例中の特例でしょうし、今後ミスティルドシルを手に入れられる機会はそうそう無いでしょうから今回はありがたく頂戴する事にします」

「はいっ!是非そうして下さいっ!今、城の衛兵の方達がミスティルドシルの木を取りに行っていますので明日、もしかしたら明後日になっちゃうかも知れませんが今しばらくお待ち下さいっ!」


「自分達の物だから自分達で取りに行っても良かったが、そこは流石に秘密だろうからな」

「すいませんっ!やはりミスティルドシルの群生地には連れて行けないと言うか、や、決して皆さんを信用してないとかでは無くっ…」

「いや、ジュリア。そう言うつもりで言った訳では無いんだ、ただ単に運搬の手間をかけて申し訳ないと言いたかっただけなんだ」


「え?ああ、そう言う事でしたかっ?それならご心配無くっ!ミスティルドシルの木は成長して高さ30m位なのですが、それでも単純計算で30kgですから大人2人で楽に運べますっ!」

「そうか、なら良いのだが」


「それで皆さんはミスティルドシルの木をどの様に使う予定なのですか?」

「えっと私は先ず杖スタッフに使いたいわ」

「私は特に考えていなかったが、恐らく武器の柄に使うだろうな」


「ジェイクさんは?」

「僕はちょっと考えがありまして…」

「考えって?」

「まあ、アンバー、楽しみにしてて下さい」

「何よ、気になるじゃない、今言いなさいよ」

「ふふふ、来て出来たらのお楽しみって事で」

「だから、そう言うのが気持ち悪いって言ってんのよ、なんなら言いたくしてあげようか?」

 そう言うアンバーの指と指との間はチリチリと音を立て放電している。


「っ!?そ、そ、そうやって暴力で自分の思い通りにするのはどうかな!?」

「別に暴力で自分の思い通りにしてないわよ、単純に部屋が乾燥してるから静電気が起きやすいだけじゃない?」


 完全に脅しだろ。


「わ、分かりました…!実は僕は移動用のバイクを作ろうかと思ってます」

「バ、バイク…?何それ?」

「あ、えっと、簡単に言うと馬みたいな乗り物です」

「なるほど、木馬を作ると言う事か?」

「い、いえヒル姐、木馬とは少し違います」

「なら、何よ、分かりやすく言いなさいよ」


「え〜とですね、言葉では説明しにくいので絵を描きます」

 俺は紙に前後のタイヤを板に替えたバイクの絵を描いた。


「何これ…?」

「はい、この前後の板は推進力を強化したフロートボードです。後ろのフロートボードは骨組みに繋がっている棒に固定していますが、前のフロートボードは骨組みに固定はしますが、このハンドルと呼ぶ棒で左右に向きが変えられる様にします」


「………………」

 皆、俺が描いたバイクの絵を不思議な顔して見ている。


「で、この骨組みを跨いで座り、両手でハンドルを握り足はこのステップに置きます。後は前のフロートボードにはハンドルを通じ魔力を、後ろのフロートボードにはステップに置いた足から魔力を流しバイクを浮かせ走らせます」


「つまり、2枚のフロートボードを手と足でコントロールして座りながら移動する乗り物と言う事か?」

「流石、ヒル姐!そう言う事です」


「止まる時は…?」

「止まる時は魔力を切ってバイクを着地させれば良いかと…何しろミスティルドシルは丈夫だって話でしたし」


「確かにミスティルドシルは丈夫だから走っている速度で着地しても折れたりはしないと思いますっ!だけど板に書いた魔法陣が消えてしまいますっ!」

「そっかぁ…なら、フロートボードに書いた魔法陣を更にミスティルドシルの板で挾んじゃえば、どう?」

「それなら消えませんっ!」


「魔法陣が露出していなくても効果は変わらないの?」

「それなら大丈夫だと思うぞアンバー、魔道具の中には魔法陣が中に書かれているものの珍しくないが、ちゃんと中に魔法陣が書かれていれば作動するからな」


「じゃあそれでいきましょう!って言うか、どうです?バイク案は?」


「いいんじゃないか?これからまだまだ大陸間を移動しなければならないし、うろつく者プラウラー復活まで時間がどれだけあるか明確には分からない以上急ぐに越した事無いしな」

「い、いいと思うわ、って言うより私のバイク案と丸かぶりだわ!またしてもジェイクに先越されたけど!」


「ジュリアさん、獣人族の方々はミスティルドシルをこういう風に使って異議は無いでしょうか?」

「え!?何で異議があるの?ヒルディ師匠が言う様に早く各種族にうろつく者プラウラーの事伝えた方が良いに決まってるから賛成こそすれ反対はしないと思いますよっ!」


「いや、何か貴重で神聖な木を跨いで乗り回すのって何かバチあたり的かな〜?って思って…」

「貴重で神聖な木を跨いで乗り回す事の何処がバチあたりなのか分からないですけど、貴重な材料で出来た珍しい乗り物が盗まれないかの方が心配ですっ!」


 そうか、今世には神聖な物を跨ぐとか乗る事に罪悪感は無いのか、そう言うのって前世基準だとバチあたりだけど今世は違うと言う事か。


「な、ならいいんです!あ、盗難に関しては知っての通り僕の空間魔術で空間に収容しますから大丈夫です」


「それじゃあ衛兵達が帰ったらお城の木工師にバイクなる物を、魔術士に風魔術の最高魔法陣を書いてもらいますっ!設計図代わりにこの絵は頂いても?」

「え、あ、どうぞ、って言うかもうすこし丁寧に描きなおしましょうか?」

「いえ、これで充分ですっ!早速工房に行き打合せますかっ?」

「そうですね、では連れて行って下さい。アンバーとヒル姐はどうします?」


「私達はゆっくりさせてもらうわ」

「そうだな、私達が言っても出来る事無いしな」

「分かりました、それじゃあジュリアさん行きましょうか」

「はいっ!」

「ジェイク、しっかり打合せして来なさいよ」

「分かってますアンバー」


 その後、俺とジュリアは木工師と魔術士と念密に打合せをしミスティルドシルの到着を待った。



 ー


 2日後の昼前に城の衛兵達がミスティルドシルの木担ぎ帰城した。


 早速持ち帰られたミスティルドシルの木は加工室に持ち込まれ事前にバイクの打合せをしたお城お抱えの選りすぐりの木工師チームがバイクプロジェクトの作業に入る。


 何でもミスティルドシルの木を加工するのは非常に大変らしい。

 そりゃそうか、硬く丈夫な木だし失敗したから次の木と言う訳にもいかないだろうから気も使うだろう。

 それを3台も作るのだからいくら木工品とは言え1ヶ月はかかるとの事だ。


 同時にお抱え魔術師もアンバーの王笏を預かり魔道具に長けた木工師とミスティルドシルの王笏づくりを並行して進める。


「それでは皆さん!宜しくお願いします!!」

「おう!!!」


 俺はと言うとバイクプロジェクト発起人としてプロジェクトリーダーに任命され一緒にバイクづくりに参画している。


 ちなみにウェルアス王をはじめ獣人族の方達もミスティルドシルの木の使い方に異議は無くむしろ世界安定の為には早く移動出来るバイクは素晴らしいと絶賛だった。


 ー


 それから1週間。

 アンバーの王笏が出来た。

 その感想はスゴイの一言だった。


 何がスゴイって元々無詠唱で魔術発動出来たアンバーだが、ミスティルドシルで出来た王笏は頭で使いたい魔術をイメージするだけで強弱から命中率まで思いのままらしい。


 更に特筆すべきは一度見た魔術ならイメージさえ出来ればオートマチックに発動できるところだ。

 つまり神級だろうと王級だろうと一度でも見れば発動出来ると言う事だ。

 しかも使用魔量は通常の50分の1で、だ。


 そりゃあ貴重で出回らない材料な訳だとある意味恐ろしくもなる。




 ーー



 バイクプロジェクト開始してから1ヶ月後。


 ついに3台のバイクが完成した。


 大きさはこれから俺とアンバーは成長する事を鑑みてほぼ3台とも同じにした。

 3台とも前かがみのハンドルポジションでいわゆるセパハンってヤツだ。


 何故セパハンかって?


 そりゃカッコイイからに決まっている。

 そ、それから、空力とか…

 け、決して前かがみにしたらパンツが見れるとか振り向いて前から見たら胸元が見えるとかは考えた事もない!!


 色も塗った。

 事前にヒヤリングしてあった色でヒル姐は紺色に金のピンライン、

 アンバーはやはりと言うか何と言うかキャンディーピンク、

 俺?俺はライムグリーンだ。

 やはり男カ○サキをイメージしたカラーリングだろう。


 アンバーはバイクを当然初めて目にしたはずだがスゴイテンションで気に入っていた。

 俺のバイクに【紅炎の焔】の旗を作り立てようとか言っていたが、アンバーのやつ前世ヤンキーの転生者じゃないよな…


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