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第39話 ミスティルドシル

歓迎の宴が大盛況に終わった翌る日、俺達はジュリアに獣人族の街を案内してもらった。


 周りを広大な森に囲まれたナランティアだけあって木工品をはじめ木で出来た品物が多い。

 そんな木に慣れ親しみ日常生活にも浸透している中、例のミスティルドシルで出来た品物は見られなかった。

 やはり噂に聞いた通り貴重な木なのだという事を改めて知る。


 まあ、ミスティルドシルに関しては貰えなくてもともとなので余り期待しないで待つ位がちょうどいいのだろう。


 ミスティルドシルの事は今ヤキモキしても仕方ないので今出来る事をしようと思う。


 今出来る事、そうそれは獣人族とのコミュニケーション強化だ。

 なかなか来られないであろう獣人族の都、ナランティアに滞在しているのだから城でニートしてるのは勿体無い。


 とは言え、特別俺達が張り切らなくてもジュリアと一緒にいるだけであちこちから声がかかる。

 それに加え昨夜の歓迎の宴は市民参加型パーティーだったから大抵の獣人族は俺達の名前と顔を知っていたし獣人族市民のアイドル、ジュリアの命の恩人って言うのもあり自然と皆んなが話しかけてくれる。


 警戒心の強い獣人族だが一度心を開くとかなり人懐っこくなる傾向にある種族の様だ。


 獣人族の守護する魔宝原石ミスティックジェムストーンは光白瑪瑙ホーリーアゲート、光魔術つまり癒しや治癒を得意とする魔術属性と言う事もあってか獣人族は皆、生き生きとしている。


 獣人族とコミュニケーションをとりながら街を歩いていると獣人族の若者グループがいた。


 彼等は木で出来た板に乗り半円状のステージみたいな所で上がったり下がったり時には板を足で回転させたりアクロバティックな技も混ぜては盛り上がっている。

 まさにこれは前世で言うスケボーだ。

 スケボーと違う所はウィールと呼ばれるタイヤが無く板が地面から10cm位の高さで浮いているところが最大の違いになる。


「ジュリアさん、あれは?」

「え?ああフロートボードですね、みんなフロボーって呼びますけどっ!」

「どうやって浮いているのです?」

「木の板に弱い風魔術の魔法陣を書いて魔術で浮かしているのですっ」

「へぇ〜」

「弱い魔法陣ですから魔力もそれほど使わないですし魔力さえ流せれば魔術が上手くない人でも簡単に楽しめるから若者に大人気なんですよっ」

「なるほど、面白そうですね」

「やらしてもらったらどうですっ?」

「そうですね、せっかくだからお願いしてみます」


 俺は若い獣人族のグループに声をかけフロボーをやってみたい事を告げると快く貸してくれた。


「ジェイクさん、頑張ってっ!」

「ジェイク、恥かくなよ」

「ジェイク、私は色んな意味で期待してるわよ」

 応援と忠告と冷やかしの声の中、恐る恐るフロボーに足を乗せてみる。


「板に乗ったら足の裏に魔力意識するんだよ」


「よーし…」

 若い獣人族が教えてくれ俺は足の裏に魔力を意識する。


 すると板が浮いた。

 が、次の瞬間!


 効果音をつけるなら間違い無く

 スッテーーーン!!

 と言う感じで絵に描いたように尻餅をついた…。


「あーははは!!流石ジェイク!!」

 くっ…!アンバーめ…腹かかえ指さしながら思いっきり笑いやがって…。


「ったく…」

 ヒル姐は頭かかえている。


「だ、大丈夫ですかっ?ジェイクさんっ!」

 心配してくれているのはジュリアさんだけだ。


「おいおい大丈夫か?まだ小さいんから無理か」

 若い獣人族も心配してくれている。

 そうか、若い獣人族だから子供に見えていたが見た目なら俺の方が子供だよな。


「いえ、大丈夫です。もう一回いいですか?」

「え、あ、ああ、俺らは構わないが怪我すんなよ?」

「はい、ありがとうございます」


「あはは、ひーひひ…ジェ、ジェイク…また頼むわよ」

 くそぅ…アンバーめ…


 俺は足に魔力を再び意識して今度は魔力の意識と併せ体のバランスも意識する。

 すると今度は板が浮いても倒れなかった。

「お、いいぞ!次は進みたい方向見てそっちに体重移動しながら足の裏の魔力を調整するんだ!」


「ちっ…」

 誰だ?今、舌打ちした奴!

 まあ、アンバーしかいないが…。

 アンバーめ、思いっきり俺がこけるの期待してやがったな。


 コツさえつかめば確かに魔力も大して使わないし簡単だ。

 まあ前世のスケボーと一緒でトリックをするのは難しくて魔力以外に才能と練習が必要だが。

 ただ単純に行ったり来たりするだけなら前世のスケボーより簡単だ。


 しばらくフロボーで遊ばしてもらった後、獣人族の若者達にお礼を言い別れた。


「いや〜面白かったです」

「ったく、何時までやってんの?」

「もしかしてジェイクはフロボーの才能があるのかも知れないな」

「ホントですっ!初めてフロボーやったとは思えない位上手だったですっ!」

「そ、そう?」

「ちょ、ヒル姐!ジュリア!あんまりジェイクをおだてないで、調子に乗るから!」


「ん?アンバー、もしかして俺が天才的才能があったの妬んでる?」

「はあぁ?何言ってんの?ただ木の板に立って行ったり来たりしてただけで何が天才よ、バッカじゃない?」

「む!じゃあアンバーやってみろよ!」

「私はあんな木の板に乗ったりしてハシャぐ程ガキじゃないのよ」

「え〜?そんな事言ってホントはビビってんじゃないの?」

「何で私が板っきれに立つだけでビビんなきゃなんないのよ!あんま調子に乗んなよジェイク」

「な、アンバー…」


 っ!?


 言いかけた瞬間、目から星が出た!

 今度の効果音は

 ゴッチーーーン!!

 だ。


 星が出た目でアンバーを見れば俺と同じ様に頭を両手で押さえしゃがんでいる。


「いい加減にしろ」

 見上げればヒル姐が拳を握りしめ立っている。

 そうか、ヒル姐が俺とアンバーにゲンコツくれた訳か。


「くっ…ヒル姐…」

「ジェイク…あんたのせいで私まで…」

「な、元はと言えばアンバーが…」


「もう1発ずつ行くか?」


「「いえ、結構です…」」


 そんな感じ?で獣人族の街で過ごしていたらあっと言う間に3日が過ぎ族議当日になった。


 ー


 俺達は城で充てがわれた部屋で吉報、否、結果を待っている。


「ミスティルドシルの枝、貰えるかしら…?」

「まあ、貰えないと考えていた方が賢明だろうな」

「そうよねぇ…」

「とは言え、ウェルアス王、アウラ王妃、シルヴァさん、アルドルフさんの口添えがあると思うと期待しちゃいますよね」

「そうなのよ!貰えない可能性の方が高いだろうし貰えなかった時のショックを最小限にしたいから貰えない物だって自分に言い聞かせるんだけど、どうしても期待しちゃうの!」


「アンバー、落ち着け。そうやって部屋の中をグルグルグルグル歩き回ったからと言って貰える物じゃないぞ」

「分かってる、分かってるけどジッとしていられないの」


 とその時、ノックも無しに部屋の扉が開けられた!


 俺達は一斉に扉の方を見る。


「ジュリア!」

「はあ…はあ…はあ…」

「ジュリア!どどどどうだったの!?」

 アンバーは胸の前で両手を強く握りしめ目を見開き質問する。

 思わず俺もヒル姐も両手を握りしめる。


 ゴクリ

 そんな固唾を呑む音が聞こえてきそうな緊張感に包まれジュリアに視線が集まる。


「…した」

「え…?」

 ジュリアも息を切らせている為、聞き取りづらい。


「貰えましたっ!」

 俺達は目を合わせる。


「やったー!!」

「良かったですね、アンバー!!」

「首を長くして待った甲斐があったな、アンバー!!」

「いや〜ダメモトダメモトって言い聞かせてたけどやっぱり貰えなかったら私ショックで死んでたかも知れなかったわ」

「ちょっと待って、ハッキリ聞いてないですから改めて聞きましょう、ジュリアさん、ミスティルドシルの枝はホントに貰えるのですか!?」

「ちょっとジェイク!そんな聞き方怖いじゃない!」

 とは言いながらアンバーは満遍の笑みだ。


「それなんですけど、ミスティルドシルの枝は貰えませんっ」


「…………………………………」


「え?」


 目が点とはまさにこの事だ。

 ショック、と言うより現実を飲み込めない。


「え…っと…ジュリアさん…?今何と…?」

「ですからミスティルドシルの枝なんかはあげられませんっ!」


 アンバーが白目を向いている。


「あ〜そのぉ…先程…貰えたと聞こえた気がしたのですが…?」

「はいっ!貰えるには貰えたのですがミスティルドシルの枝じゃなくミスティルドシルの株が貰えますっ!!」


 え?今何かサラリと凄い事言った?


「……えっと、それはつまり…?」

「枝なんて小さいのじゃなく、1株まるまる貰える事で満場一致でしたっ!!」







 事態を飲み込むのに何秒だろう?

 分からないがようやく意味を理解した。


「「えーーーーー!!??」」

 俺とヒル姐は驚きの余り、城の天井を突き抜ける様な悲鳴にも似た歓喜の声を上げた!!

 アンバーはと言うと…


「ア、アンバー!?」


 アンバーは白目を向いたまま真っ白になり直立のままぶっ倒れている!!


「アンバー!!」

「アンバー!」

「アンバー姉様っ!!」

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