第38話 謝罪と褒美とサムイ空気
ウェルアス王からお礼とお詫びの謝辞があり、褒美を与えてくれる事になった。
ある意味計算通りに事が運んだ。
こういうのを打算的と言うのだろうか。
「それではウェルアス王、私達【紅炎の焔】から褒美を要求させて頂きます」
「うむ、何なりと言ってくれ」
何なりと、か…金か?女か?地位か?名誉?んなモンはいらん。
あ、そうだ!褒美の要求を無限にして貰うって言うのもアリか?
「っ!?」
アンバーとヒル姐の視線がイタイ。
読心スキルか!?
「ジェイクあんた…邪な考えしてんじゃない?」
「私の魔力感知眼も若干の魔量増幅を確認してるぞ?」
「私の嗅覚も邪な匂いを感じてますっ!」
「ふむ、ワシも」
「はい、私も感じます」
「わたくしも…」
「私も…」
「あわわわわわわ………え、えっ…と、すいません…」
「やっぱりね、ジェイクあんた真面目にやる気あんの?」
「あります、あります!!ちょっと頭の中で冗談を思いついただけで…」
「だったらさっさと言え、一国の種族を代表する王を待たせるものじゃないぞジェイク」
「はいぃ!すいません!そ、それではウェルアス王…」
俺は改めて片膝をつき反対の手の拳を床につき頭を下げ姿勢を正す。
「改めましてウェルアス王、恐れながら我等【紅炎の焔】の要求を申し上げます」
「うむ、【紅炎の焔】よ」
「我等の要求は我等の言葉を信用して頂きたいと言う事です」
「【紅炎の焔】の事を、と言う事かな?もしジュリアの件なら先程より謝辞を申したが、それとは違うのか?」
「はい、ウェルアス王。今から【紅炎の焔】を代表し私が話す事は証拠もありませんし、にわかには信じ難い話かと思うかも知れませんが真実です、どうか魔族の子供の戯言と思わず信用して頂きたくお願い申し上げます」
「分かった、そなた達の話を真実として聞こう、がしかし、褒美は何でも取らすと言うのにそなた達の話を信じると言う事だけで良いのか?」
「はい、褒美はそれ以外望みません。但し種を代表する王として今からどんな話を聞こうとも真実だと信じると約束頂きたいのです」
「そこまでの事なら今からそなたが話す言葉は全て真実だと信じて伺うと獣人族王ウェルアス、ここに誓う」
「ありがとうございます、それでは…」
ー
俺は魔王であった我が父ルーファスがある日うろつく者に襲撃された事、うろつく者が魔宝原石を狙っている事、そしてうろつく者が魔力独占しこの世界を我が物にしようと謀計している事を話した。
ウェルアス王は黙って目を瞑り俺の話を聞いた。
「まさかうろつく者の話が出てくるとはな、話には聞いた事はあったが何処か言い伝えの様なお伽話の様に思っていたからな、確かにジェイクの執拗なまでの前振りが無かったら信じなかったかも知れないな」
「しかしウェルアス王、目撃者は無く我が父ルーファスの話だけですが真実なのです」
「分かっている、このウェルアスそなたの言葉を信じている。してそなたの望みはこれだけか?」
「はい、これだけです」
「ふ〜む、例えばうろつく者が魔宝原石を狙っているからワシ等獣人族の持つ魔宝原石をそなた等に預けろとか言う話では無いのか?」
「そう言う事は申し上げません、そうして各種族が持つ魔宝原石を集めたら我等の行いはうろつく者と同じになります、ですからウェルアス王、ウェルアス王自身がウェルアス王にしか分からない場所取り出せない場所に魔宝原石を管理頂き警備を今まで以上に厳戒にお願いしたいのです」
「分かった、このウェルアス、種を代表して【紅炎の焔】に魔宝原石を守護すると誓おう」
「ありがとうございます」
「いや、礼には及ばん。それにこれは世界の安静に関わる事態だからな、それを事前に知らせてくれこちらこそ礼を言わねばならん、礼を言わせてくれ【紅炎の焔】よ」
「信じていただけ何よりです」
「しかしヒルディ王女、アンバー、ジェイクよ、先程の話は獣人族の王として確かに聞いたが、ジュリアの親としての礼はまださせて貰っていないぞ、なあアウラよ」
「ええ、そうですわアナタ。私もジュリアの親として是非お礼をさせて頂きたいですわ」
「私からもお願いしますっ!」
「それは……」
「いや、ジェイクよ。それもこれも無い、親として子供を助けてもらい礼をするのは至極当たり前の事、断る理由は無いぞ」
「とは言え…」
「先程からジュリアもお願いしてる事ですし、私達の立てると思いお礼を受けて下さい」
「そう言われちゃうと…」
「ここは素直に礼を受け取らせて頂くのが流儀かも知れないぞ、ジェイク」
「ヒル姐がそう言うなら…」
「うむ、ジェイクよ、それにヒルディ王女、アンバー、遠慮なく礼に欲しい物を言ってくれ」
「それでは……」
「どうする…?」
「私、貰えるなら欲しい物があるんだけど…」
「何だね?アンバーよ」
ウェルアス王が興味津々に聞いてくる。
「ヒル姐、ジェイク、私の希望だけどウェルアス王に言ってもいい?」
「もちろん、ねえヒル姐」
「ああ、聞いてもらえアンバー」
「それじゃあ…ウェルアス王、改めて私達からお願いしたい物を言います」
「何なりとどうぞ、アンバーさん」
アウラ王妃、いやジュリアのお母さんが優しく言ってくれる。
「私が希望するのはミスティルドシルの枝です」
『ヒル姐、ミスティルドシルの枝って何?』
『ミスティルドシルとは獣人族の森にしか生息しない木で非常に密度の高い木故に折れにくく、それでいて軽い、噂によると1mで1gとも言うな、そしてその木の性質と密度からか魔材料として武器や魔道具に使うと魔術使用時に使う魔量が通常の材料に比べ50分の1で済むとも言われている』
『へぇ〜不思議な木ですね、だけど噂によるとって言う事はヒル姐でも実際見た事は無いのですか?』
『ああ、幻の木とされまず市場に流通する事は無い』
『ヒル姐が見た事無いって、ホントに幻じゃないですか』
『ああ、800年生きてきて一度も見た事無いな』
『大体にしてそんな木、実在するんですか?』
「ジェイクよ、ミスティルドシルの木は実在するぞ」
あら、小声で話してたのに聞こえてた?
「そ、そうなんですか?!ウェルアス王?」
「うむ、獣人族の選ばれし者しか持った事の無い我等にとっても非常に貴重で神聖な木だ」
「やっぱりそれは無理な注文ですよね…」
がっかりと言うよりやっぱりと言った表情のアンバー。
「うむ、こればっかりはジュリアの親としての礼でおいそれとやる訳にはいかない代物だな」
「…はい、ダメモトで言ってみただけです」
苦笑しながら言うアンバー。
「アンバーよ、がっかりするのはまだ早いぞ。ジュリアの親としての独断でミスティルドシルの枝をやる訳にはいかないと言っただけで獣人族としてまでやる訳にはいかないとは言っていない」
「と言うと…?」
「獣人族の王女をそなた達が救出してくれた事、その恩人への非礼、また職務を忠実に実行してくれたシルヴァへの寛容、そして獣人族の滅亡にも繋がりかねない情報をそなた達から聞いた経緯、それらの数々の恩赦を獣人族としてただ話を真剣に聞くだけで果たして良いのか?またジュリアの親としての礼を重ねてするにあたって私等家族はそなた達にミスティルドシルの枝を献上したい事、この事を議題に獣人族議を開く事にする」
「ありがとうございます」
「いや、まだミスティルドシルの枝をそなた達にやれると決まった訳では無いからな」
「分かっています」
「なるべく善処できるよう働きかけよう、よいなシルヴァ、アルドルフ」
「「はっ!」」
「それでは次の満月の日、つまり4日後に族議を開くと関係各位に伝えよ」
「はっ!それでは早速」
そう言うとアルドルフさんは部屋を後にした。
「それではシルヴァよ、【紅炎の焔】の者達を手厚く歓迎する為の宴の準備をさせよ」
「や、歓迎の宴なんて……」
「いいえ、是非宴を開かせて下さい。ねぇジュリア?」
「はいっ!皆さん是非っ!」
「そ、そう?ならお言葉に甘えて…」
「うむ、是非ともそうさせてくれ、少なくとも族議が開かれる日まではやる事も無いだろうし、ゆっくりしていってくれ」
「はっ!ありがたき幸せ」
ヒル姐が頭を下げる。
慌てて俺とアンバーも礼を言い頭を下げる。
「はっはっは、だからそんなに畏るな、そんなに畏まっていたらゆっくりどころか疲れるだろう。シルヴァよ、【紅炎の焔】の者達を一番眺めの良い客室へ案内してくれ」
「はっ!ウェルアス王、それでは【紅炎の焔】の方々こちらへ」
「ありがとうございます」
「それでは【紅炎の焔】よ、また後程な、客室にはコンシェルジェとしてジュリアを遣わそう、良いなジュリア」
「は、はいっ!お父様っ!!」
「うむ、それでは宴まで【紅炎の焔】の方々とご一緒させて頂きなさい、よいかな?【紅炎の焔】よ」
「もちろんです!!」
嬉しそうなアンバーが返事する。
「部屋では飲み物も食べ物も好きにしてくれて構わないが、宴があるからあまり食べ過ぎない様にな」
「はっ!ありがとうございます」
「それではご案内致します」
シルヴァさんが先導し謁見の間を後にする。
謁見の間を出て豪華な扉が閉まるとシルヴァさんは立ち止まり改めて俺達に頭を下げお詫びと感謝の言葉を口にしたがその件はもう済んだ事なのでごちゃごちゃ言わずに謝辞を受け取り終わりにした。
その後、謁見の間がある階から1つ降りまた長い廊下を歩くと突き当たりの部屋へと案内された。
その部屋はウェルアス王が指示した通りの眺めが素晴らしい部屋で部屋の中で更に3室に分かれている、言って見れば高級ホテルのスイートルームの様だ。
「あ〜やっとゆっくり出来そうね」
「お疲れ様でしたっ!皆さんっ!」
「皆様、何か召し上がりますか?」
「あ、シルヴァ!それは私の役目よっ!」
「いえ、とんでもございません。まさか王女にお茶を淹れさせる訳にはいきません、ここはわたくしが」
「いいから、私がアンバー姉様達の身の回りの世話をしろとは父の命令よっ!シルヴァは王の命令に逆らうのっ?」
「や、しかし…」
「しかしも何も、ホントにいいんだってっ!」
「わ、分かりました。それではわたくしは席を外しますので皆様ごゆっくり」
「あ、シルヴァさん!」
「何か?」
「僕達の疑惑はどうやって無実だと分かったのですか?」
「そうですね、それを説明しなければいけませんね」
「時間があればジュリアがお茶を淹れてくれている間にでも説明頂けますか?」
「分かりました」
「って言うかさ、シルヴァその喋り方何て言うか、くすぐったいから初めて会った時みたいな喋り方に戻してよ」
「あ、それに関しては僕も同意します。でもアンバーも目上の人を呼び捨てにするのはどうかと思うよ」
「何よジェイク、呼び捨てにすんのはどうかとかって随分と上からね」
「私も目上の者を呼び捨てにするのはどうかと思うがアンバーの意見には同意する」
「そうか、ならば普通に話させて貰おうか。だが私の事はシルヴァと呼んでくれ、私もお前達にシルヴァさんとか言われるのはくすぐったい」
「分かったわシルヴァ」
「分かったも何もアンバーは初めからシルヴァって呼んでたじゃん」
「何?何か言った?ジェイク」
「い、いえ、何も」
「ところでシルヴァ、先程のジェイクの質問だが」
「あ、ああ、そうだった。お前達の疑惑はジュリア王女の証言と現場検分によって冤罪だったと判明したのだ」
「ジュリアの証言はともかく現場検分ってそんな短期間に出来るのですか?あの港町からナランティアの森まで3カ月かかりましたよ?自分達で言うのも何ですが僕達は歩くの結構早い方だと思いますが…」
「歩いて港町まで行けば4カ月はかかるだろう、3カ月と言うのは確かに早いが空を飛べればもっと早い」
「え!?空飛べるんですか!?」
「私は飛べないが鳥の獣人族、いわゆる鳥人族なら空を飛べる」
「鳥人族…」
「ああ、彼等の本来の任務は偵察だが非常事態には目的地まで飛んでもらう事もある、今回のケースも冤罪なら一刻も早く恩人を牢屋から出さなければならない非常事態だったから鳥人族に一肌脱いでもらった」
「鳥人族だと何日くらいで港町まで行けるんですか?」
「まあ、天候にもよるが今回のケースだと行きで5日、帰りで7日だったな」
「僕達が3カ月もかかったのに?」
「風さえつかめばスピードは乗るからな、だが鳥人族は昼間しか飛べない事に加え今回は検分役の私を連れてだったから時間はかかった方だと思うがな」
「それで?現場検分でジュリアが言ってた通りだったと」
「ああ、話に聞いたアジトらしき建物、闘った痕が残る部屋、竜人族の血の匂い、そしてジュリア王女が囚われ寝かされていた部屋とジュリア王女の匂い、死体はなかったがジュリア王女から郊外の森で焼き払ったと聞いていたので森の探索、そして見つけた竜人族の焼き払われた痕跡と匂い」
「ジュリアの証言とそれだけ状況証拠が揃えばジュリアの言っている事は洗脳や催眠じゃなく事実だと?」
「いや、決め手は空間魔術をはじめとする誠実さとお前達の魔力の匂いが無実を裏付ける後押しをしたのさ」
「あ、そう言えばジュリアが犬の獣人族は魔力の匂いで善悪が分かるって言ってた!」
「ジェイクさんからはエッチな匂いもしますけどっ」
「なっ…!ジュ、ジュリアァ…」
「ふふふ、はい、皆さんお茶が入りましたよ」
「これは済まないな」
「ありがとう!ジュリア!」
「な、わたくしにまで!?」
「ええ、もちろんっ!どうぞっ!」
「あ、ありがたき幸せ…」
「ちょっと、シルヴァったら大袈裟じゃない?」
「何を言うかアンバー、一国の王女が家臣にお茶を淹れてくださる事なぞそうそうあるものでは無いぞ」
「それにしたって」
「お茶位だったらいつでも淹れてあげるわよっ」
「ほら、ジュリアだってそう言ってるじゃない」
「いえいえいえ、恐れ多くてとてもとても」
「ま、まあ、いずれにしても疑いがハッキリと解けたなら良かったです」
「わたくしからもミスティルドシルの木を譲って貰える様、族議では進言してみます」
「よろしく頼む、シルヴァ、アンバーが随分と楽しみにしているみたいだからな」
「ああ、任せておけ」
「あ、シルヴァ今、任せておけって言った?」
「む?アンバー、言ったがそれがどうした?」
「あんた、任せろって言ったんだからダメだったらどう責任とるつもり?」
「私の命で、だ……何て言うかっ!!」
……………………
どうする…?
この空気…
シルヴァがまさかノリツッコミするとは…
「え、あ、っと、その、何だ…う、うた、宴は何時からかな?」
ヒル姐が動揺してる??
あの800年生きて大抵の経験を積んだ彷徨える王女の名を持つ不死魔族の王女ヒルディが!?
「え、えーと…シ、シルヴァ!お、お父様に聞いてきてくれるっ??」
「はっ!畏まりました」
ジュリアもテンパりながらもナイスアシスト!
だけど当の本人は至って普通だったな…
恐るべしはシルヴァってやつか…
ー
そしてその夜は城にて市民参加で俺達を歓迎する宴が大々的に行われたのだった。




