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第37話 アンバーの審判

 話を丸く収めようとした所でシルヴァさんが口火を切った。


「う…む…シルヴァよ…」

 ウェルアス王の表情が一気に曇る。


 ウェルアス王だけじゃない、この場にいる全員の表情が曇った。


 そんな雰囲気の中、シルヴァさんが話し出す。

「わたくしシルヴァはジェイク殿達がいいと言っても済ませられない約束があります」


 俺はアンバーをチラ見する。

 アンバーは何処という訳も無く顎を上げ宙を見ている。


「分かっている、シルヴァ…」

 ウェルアス王は苦渋の表情になる。

「あ、あのぉ…シルヴァさん…アンバーとの事ならもういいんじゃ…」

「ジェイク殿!やめて下さい」

 俺が助け船を出しかけるがシルヴァさんは被せて俺の言葉の続きを言わせない。


「アンバー殿…シルヴァから話は聞いているが、シルヴァも役目を果たしたまで、図々しいのは百も承知で…」

「ウェルアス王!!わたくしに恥をかかせないで下さい!」

 俺だけじゃない、ウェルアス王自らも恥を忍ぶ形で助け船を出すがシルヴァさんは聞かない。


「アンバー、もういいでしょう?」

 俺は大事にしない為にも何とか丸く収めたい。


「そうだぞアンバー、お前だって分かっているだろう」

 ヒル姐にしても同じだ。


「お二人ともアンバー殿とわたくしの約束は聞いていたでしょう、ならば立会人と言ってもいい、その立会人が情けで騎士の約束を反故する様な真似は勘弁願いたい」

 ったく、シルヴァさんもシルヴァさんで頑固だ…。


「アンバーさん、私からもお願いします。何とかシルヴァを許して頂けませんか?」

 王妃が立ち上がり身を乗り出し頭を下げる。

「アンバー姉様!私からもお願いしますっ!」

 ジュリアも両手を前に組み祈る様なポーズで嘆願している。


「アンバー!!」

「アンバー!もういいだろう!?」


 腕を組み足を肩幅に広げ目を瞑っていたアンバーが目を開け口を開く。

「うるさい!!皆んな!!」


 アンバーの一喝に皆が黙る。


「さっきからアンバーアンバーアンバーって!!まるで私が殺しに来たみたいに悪者扱いして言うけど命かけるって言ったのはそっちでしょう!?違う!?」

「誰もアンバー殿が悪者なんて言っていない。それにアンバー殿の言う通り、私が言い出した事だ。皆の心遣いは有難いが約束は約束で強いて言うならジュリア王女の命の恩人を罪人扱いした私が悪者だ」


「いえ、シルヴァさん、誰が悪者って言う事では無く、先程ウェルアス王がおっしゃった通りシルヴァさんは職務を全うしたに過ぎない訳で、あの時は何て言うか、言葉のあやというか、成り行き上そうなったと言うか…」

「いや、ジェイク殿。わたくしはあの時、ジュリア王女の命の恩人に非礼をしているなら命をかけ責任を取ると言った言葉に嘘は無い」


「アンバー、お前だってシルヴァ殿の命を奪ったからと言って気が晴れる訳でも無いだろう?ここは大人になり許すべきだぞアンバー」

 ヒル姐が諭すようにアンバーに言う。


「いいえ、いくらヒル姐だろうとジェイクだろうと、更にはウェルアス王でも王妃でもジュリアでも絶対に私は許さない!」


「アンバー!!いい加減にしろ!!」

 ヒル姐もいい加減、声を荒げる。


「ヒルディ殿!!アンバー殿を叱るのは筋違い、アンバー殿の言っている事が正しいのだ」

「シルヴァ殿…」


「だからそれが許せないのよ!!何さっきから皆んなで慰め合ってんのよ!?いい?シルヴァ!あんた本気でジュリアの事、命かけて守る気あんの!?」

「当たり前だ、だからこうして約束を果たし責任を取ると言っている」


「何が当たり前だ、よ!!バッカじゃないの!?本当に命懸けでジュリアを守る気があるなら吐いた唾位飲みなさいよ!!」


「っ!?」

「死ぬ事なんか逃げてるか自分に酔ってるだけじゃない!!」

「……………………」


「死ぬなんか一瞬の痛みで後は死んで終わりなだけじゃない!死んだ本人はそれでいいわよ、下手すりゃヒーローみたいに扱われて!じゃあ残った人達はどうなの?ジュリアは?自分のせいであんたを死なせたって、ジュリアは一生重い十字架背負って生きるのよ!私達だってジュリアに負い目を感じて、ウェルアス王だって王妃だって皆んなあんたを庇ってやれなかったって、責任を1人に押し付けたって、残された側はそうやって後ろめたい気持ちで生きていくのよ!」


 皆、下をうつむき言葉が無い。


「そこまで考えて責任取るとか言ってんの?考えて言ってんならどうしようも無い馬鹿だし、考えていないならどうしようも無いアホだわ!」


「確かにアンバー殿の言う通りだ…」

「あっさり認めてんじゃ無いわよ、バーカッ!!」

 アンバーを見れば口は悪いが涙が頬をつたっている。


「ジュリアを命懸けで守るなら私みたいなガキだろうと何だろうと頭下げてでも土下座してでも馬鹿にされようとも約束撤回する位の事恥を忍んでもしなさいよ!!

 少なくともウェルアス王は一国の王と言う立場にも関わらずあんたの為にさっき恥を忍んで私なんかに許しを願ったじゃない!!」


「っ!?」

 シルヴァさんが申し訳無さそうな表情で顔上げウェルアス王を見る。


「それなのにあんたと来たら自分が自分がで自分の意地ばっか通して何なの!?それとも下らない騎士道だかプライドだかの方がジュリアより大事なの!?だったらそんな下らない騎士道だかプライドだかは魔物にでも食わせちゃいなさいよ!!」


「…………………」

 シルヴァさんはうな垂れるように膝をつき肩を落とす。

 そしてうな垂れたシルヴァさんの床には涙が落ちる。


「アンバー殿、わたくしの覚悟が甘かった…」

 シルヴァさんは絞り出すような声でアンバーに言う。


「アンバー…」

「黙ってジェイク、いい?シルヴァ、もう一度言うけど私はあんたを許さない」


「…………………」

 シルヴァさんは恐縮して顔を上げられないと言った感じだ。


「確認するけどあんた私との約束で命をかけて責任取るのよね?」

「ああ…」

「と言う事は私があんたの生殺与奪を握っているのね?」

「ああ…」


「なら命令するわ!あんたは死ぬまで命懸けでジュリアを、そして獣人族を生涯をかけ死ぬまで守ってから死になさい!!いい?分かった!?」


「…アンバー」

「ふっ…アンバーやるじゃないか…」

「う、うるさい…!」

 涙を隠すように下を向きながら悪びれるアンバー。


「アンバー殿…」

 シルヴァさんの顔は何かが吹っ切れた様な清々しい表情になった。


「そ、それからアンバー殿はやめてよ、アンバーでい、いいわよ…」

 恥ずかしそうにそっぽ向くアンバー。


「分かった、アンバー。アンバーから与えられたこの命に誓って、その使命このシルヴァ必ずや果たそう」

「その誓い、破ったら今度は殺すわよ」

「ああ、心得た」

 笑顔で誓うシルヴァさんにドヤったアンバー。

 いつものアンバーだ。


「流石アンバー、惚れてまうやろ」

「なかなかだったぞアンバー」

「ふ、ふん!べ、別に私は…」

「あーーーアンバー、照れてんの??」

「う、うるさい!ジェイク!」


「ヒューヒュー、アンバー!」

「うるっさい!」


「がっ……!!」

 久々の雷神鉄槌ディバインハンマー……

 恥ずかし紛れとは言え、ここまでする?


「ジェ、ジェイク殿は大丈夫か…?」

「ウェルアス王、気にしなくて大丈夫です」

 心配するウェルアス王をよそにヒル姐が涼しい顔で言う。


「そうよ、パパ。ヒルディ師匠の言う通りジェイクさんは日常的に雷に打たれてるから大丈夫なのっ」


「なのっ、ってジュリア…」


「そ、そうか…?そ、それにしてもヒルディ王女、ジェイク殿、そしてアンバー殿いや、アンバーと呼んだ方がいいのかな?改めて心より感謝申し上げる、褒美と言っては何だが何か望みがあれば何なりと言ってくれ、できる限りと言うより何でも叶えよう」


 俺は文字通り頭から煙を噴きながら何とか立ち上がり答える。


「あ、有難きお言葉、な、ならば1つお願いがあります」

 そう、俺にはお願いがある。

 もちろんジュリアをウェルアス王の元へ送り届ける目的はあったが、結果お願い事をする為にここに来たと言っても過言じゃない…。

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