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第35話 風の噂

 ジュリアと離され俺達は今、連行されている。


 猿の獣人族を先頭にアンバー、俺、ヒル姐の順で一本の紐で順に腰に巻かれ、後ろには10人程の多様な獣人族が武器を構えながら歩く姿は正に護送だ。


「僕達これから何処に連れて行かれるのでしょう?」

「まあ、順当に考えれば牢屋だろうな」

「え〜、やっぱりそうなる?衛生的には大丈夫かしら?」


「おい!黙って歩け!」


「はいはい…」

 面倒くさそうにアンバーが返事する。


 しばらくバリアントの街を晒し者となりながら歩くとこの街の冒険者ギルドについた。

 なるほど、牢屋の類となると警察署が無いこの世界だと冒険者ギルドになるよね。


 ここバリアントの冒険者ギルドも他の街同様に石造りの立派な建物で3階建だ。

 中に入ると2組みの炭鉱族(ドワーフ)パーティーがいる以外は獣人族の冒険者ばかりだ。

 もちろん全員の視線が俺達に注がれる訳だが、その視線は当然忌み嫌う視線だ。

 バリアントの街中でもその様な視線で見られていたが冒険者ギルドともなると更に攻撃的な意味合いを持つ様になる。


 そんな視線の中、俺達は最上階である3階まで連れて行かれた。

 3階に牢屋はある。


 俺達は一番奥の牢屋にぶち込まれた、と言っても実際は通されたって感じだが牢屋に入るのだからぶち込まれたと言った方が雰囲気があると思ってそういう言い回しをしてみただけだ。


 牢屋に入ると鉄格子を背に立てと言われたので、言われた通りにする。

 すると手錠が外された。


「おい、お前等。手錠は外してやるが妙な気を起こすなよ、知ってるかも知れねぇが一応教えて置いてやる。牢屋の鉄格子は手錠と同じ魔道具だ。つまり魔術は通用しねぇから魔術で脱獄は無理だ。またその鉄格子に触れれば魔力も吸い取られるから気をつけな」

「教えてくれてありがとうございます、なかなか獣人族の方は親切なんですね」


 けっ!と狸の獣人族は言うと言葉を続けた。

「別に親切で教えてるんじゃねぇよ、シルヴァ隊長がお前等とはきちんと接しろって指示したからだ」


「あの無表情が?」

 アンバーが意外そうな顔で言う。


「ちなみに牢屋内では魔術を使ってもいいのですか?」

「ああ、本来はダメなのにお前等に限っては攻撃魔術以外なら使わしてやれとの事だ、ったくシルヴァ隊長も何考えてんだか」

「ありがとうございます」

 礼を言うと狸の獣人族は何だかバツが悪そうな顔をして角の見張り机の所へ行き椅子に座った。

 狸の獣人族の他に熊とサイの獣人族が見張り番としている。


「シルヴァとか言うあの男、なかなかいいとこあるな」

「そうですね、アンバーもそう思うでしょ?」

「はんっ、私は別に何とも思わないわ」

 アンバーは憎まれ口を聞いているが目線は上を見ている。

 内心は口とは別と言う事だろう。


「ジェイク、此処にいつまで拘束されるか分からないから、すまないが掃除を頼めるか?」

「そうですね、まずここを掃除しましょう」

 俺は手を部屋に向け空間魔術を発動した。

 すると何と言うことでしょう、埃っぽかった牢屋が塵1つ無いピカピカの床と壁に返信しました。

 要は埃や汚れを空間魔術で収容しただけだが。


「ジェイク、あそこもキレイにして」

 アンバーが指差す先は部屋の角に腹くらいの高さの目隠しの壁を隔てたトイレだ。

 トイレと言っても目隠しの壁の向こう側に穴が掘ってあり下にブツが落ちるだけのモノだが。

「あそこはいいんじゃないですか?どうせ見えないし」

「いやよ、さっき見たら穴の周りに汚れがついたし臭いも何となくするし」

「え〜…」

「ジェイク、私からも頼む。流石に私もキレイなトイレの方がありがたい」

「……はい、分かりました」

 俺はトイレに行き掌をトイレの穴に向ける。


 当然キレイになった。

 なんなら今舐めても大丈夫な位、汚れはもちろん雑菌までも空間に収容した。


 トイレ掃除の気が進まないのはそう言う事だ。

 汚れに直接触る訳じゃないし俺の体に取り込む訳では無いが、無くなった汚れや雑菌は俺が管理する空間には有るのだから何となく気持ち悪い。


「終わりましたよ」

「ありがとう、ジェイク!じゃあ早速失礼して一番乗りしちゃおう」

「アンバー、年頃なんだからそう言う事は宣言しなくていいですよ」

「そう?別に見せる訳じゃ無いからいいじゃない」

「まあ、いいですけど…」

「じゃあジェイク、紙出して」

「はいはい」


 その後、ベッドを空間魔術で掃除してアンバーの火魔術とヒル姐の風魔術を合わせ熱風殺菌したりして牢屋を快適とまでは行かないが普通に過ごせる位にはした。

 これでテーブルやら椅子やら出せば正に快適空間になるのだが、それは流石にやり過ぎだろう。


 ー


 日も暮れかかり夕方になった頃、シルヴァがやって来た。


「なかなか快適そうじゃないか」

「ええ、シルヴァさんが看守の人達によく言っておいてくれたおかげで思ったより悪くないです」

「それは良かったな」

 そう言うとシルヴァは見張り机の所から椅子を1つ持ってきて鉄格子を挟んだ真向かいに座った。


「さて、それじゃあ尋問するとしよう」

「はい、どうぞ」

「まず、お前等がジュリア王女をどうやって見つけたのか聞かせて貰おうか」

「はい、まず最初に僕達が…」


 俺達は包み隠さず、そして付け加えず端折らず事の顛末を話した。


「ふ〜む…」

 話を途切らず最後まで聞いた後、シルヴァは目を閉じ右手で顎を触りながら考え込んでいる。


「お前等の話は分かった」

「それじゃあ、早く出しなさいよ」

「話は分かったが信じた訳じゃない。その話が本当だと言う証拠は無いしな」

「証拠になるか分かりませんがこれをどうぞ」

 俺は空間から龍斬剣を3本出しシルヴァに渡した。


「確かにお前が言っていた竜人族(ドラゴニュート)を倒し手に入れた龍斬剣の様だな、話通りの3本」

「これで僕達の話に真実味を帯びましたか?」

「確かに龍斬剣は売っているものじゃない、だが可能性の話をするならお前等が竜人族(ドラゴニュート)を単純に殺して手に入れた可能性も、またその人攫いの竜人族(ドラゴニュート)と仲間の可能性もある」

「なかなか用心深いな」

「我々獣人族はそうして生き延びてきた」


「どう取ろうとその龍斬剣はシルヴァさん、あなたに託しますのでお持ち下さい」

「ああ、証拠品の1つとして預かろう」

「その証拠品と今のジェイクの話をきちんと裁判官なり王様なり然るべき判断の出来る人に伝えてよね」

「分かっている」

「頼むぞ、我らは其方に託すしか無いからな」

「心得ている」


「1つ質問していいですか?」

「何だ?」

「ジュリア、いやジュリア王女が魔族と不死魔族の冒険者パーティー、しかも魔族は空間魔術を使うとまで具体的な情報は何処から入った情報だったのですか?」

「………何処からと聞かれると困るな」

「それは情報源の保護観点からですか?」

「いや、それもあるが今回はそう言う事では無い」

「じゃあどういう事です?」

「………………」

 シルヴァは腕を組み考えている。


「シルヴァさん、僕達はその情報源を突き止め何か復讐しようとか報復しようとか考えている訳ではありません、ただジュリア王女を誘拐した犯人はまったく事実とは違うのに何故そこまで具体的に僕達を犯人であるかの如くの情報、噂が流れているのか知りたいだけです」

「………………」

 シルヴァは腕を組んだまま無言で俺の目を見ている。


竜人族(ドラゴニュート)達は人目につかない様に用心深くジュリア王女を運んでいましたし、僕達が竜人族(ドラゴニュート)達と闘ったのも空間魔術使ったのも奴等のアジトで地下の密室だったので誰かに見られていたとは思えません、それに竜人族(ドラゴニュート)達の遺体はゾンビになるのを防ぐ為、遺体は僕が空間魔術で森まで運び完全に火葬して埋葬しました、だから竜人族(ドラゴニュート)達と僕達しか事の一部始終を知らないはずなのに、まるで誰かが僕達を犯人に仕立て上げようとしている様な具体的すぎる情報が流れている」


「………………」


「僕達はそれが不思議でならないし、違和感を感じているのです」


 先程から腕を組み無言で俺の目を見て聞いていたシルヴァが口を開いた。

「確かに改めて情報源は?と聞かれると何処からか、誰からか思い出せないな。強いて言うなら風の噂に聞いたと言うのが本音だ」


「風の噂で聞いた程度で私達をこんなトコにぶち込んで大丈夫?あなたの、い・の・ち」

 アンバーがシルヴァと同じく腕を組みながら八重歯を見せながら微笑む。


 シルヴァの顔色が一瞬曇った気がしたが直ぐに冷静に喋り出した。

「確かに今冷静に考えれば何故風の噂程度で情報を信用しきっていたが私も違和感を感じるが、火の無いところに煙は立たないとも言うしな、逆を返せば何故お前等の事がそこまで具体的に情報として流れるのかも違和感を感じる所に変わりない」

「疑わしきは罰せずとも言うが?」

 ヒル姐もオッドアイのその目でシルヴァを射抜く様に見る。


「そうとも言うな。だがお前等が犯人じゃ無い決定打も無い」

「証拠はありますよね」

「ああ、証拠の1つである龍斬剣は確かに受け取った。その上で全てを公平に王へと報告する」

「宜しくお願いします」

 シルヴァは無言で頷き椅子から立ち上がり戻ろうとした。


「ねえ、ジュリアは元気?」

「ああ、元気だ。お前等と離され少し寂しげだがな」

「そう、ジュリアに宜しく伝えてね、直ぐまた会えるから心配しないでって」

「必ず伝えよう」

「あ、後、余計な心配だと思うけどあんた自分の命が惜しくて出鱈目な事、王様に報告しないでしょうね」

 その言葉にシルヴァは反応し振り返った。


「おい、舐めてくれるなよ」

 明らかにシルヴァの表情は怒っている。


「…………ごめんなさい。口が滑ったわ」


 アンバーもシルヴァが怒っている事に怖じ気づいて謝った訳では無い。

 シルヴァの誇り(プライド)に軽はずみに触れた事を謝ったのだ。


「あ、いや、こちらも大人気なかった…」

 シルヴァも慌てて冷静になる。


「それでシルヴァさん、これからジュリアを父である王の所へ送り届けるのですか?」

「ああ、先程から話している風の噂は当然ジュリア王女の父であるウェルアス王の耳にも届いているからな、安心させる為にも早く会わせてやりたいし、それに…」

「それに?」

「それに風の噂とお前等の話もウェルアス王に報告したいからな」

「くれぐれも宜しくお願いします」


 シルヴァは2、3秒程俺達一人一人を見つめ無言でフロアを後にした。


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