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第34話 ヤンキーと武人

 ナランティア領の森の手前にある大きな街バリアント。


 森深い街ナランティアの玄関口でありプラハス大陸の森と平野部の言ってみれば貿易港とも言える街。


 いつもの様に街の入り口には検問所がある。

 検問所には熊と猿の獣人族が警備についていた。


「え?あ?お、おい、あれ!」

 熊の獣人族が俺達に気づき指差して猿の獣人族に呼びかけている。


「ジュリア王女!?」

 猿の獣人族も熊の獣人族同様目を見開きまじまじとこっちを見ている。

 どうやらジュリアの帰りを待ちわびていたみたいだ。


「おい、鐘を鳴らせ!」

「お、おう…!」


 猿の獣人族が櫓に登り鐘を鳴らす。


「すごい歓迎ぶりですね」

「違いますっ!あれは警備兵を呼ぶ鐘ですっ!」

「どう言う事?暫くぶりに王女様が帰ってきたのに」


「警備兵さんっ!私ですっ、ジュリアですっ!!警備兵は必要ありませんっ!!」


「王女!!早くこちらに!!」

 熊の獣人族が必死の形相で叫んでいる。


「大丈夫ですっ!こちらの方々は私の友人ですっ!!」


 ん〜、どうやら歓迎ムードじゃないみたい…


 そんな事を考えている間に20人程の獣人族が武器を持って集まり俺達は囲まれた。


「大人しく手を頭の後ろで組みひざまずけ!!」

 虎の獣人族が槍で牽制しながら言う。


「ちょっと!何よ、いきなり!?」


「言われた通りにしろ!従わなければ力ずくで従わせるぞ!」


「は?何で私達が降伏する様な格好しなきゃいけないのよ!」

 アンバーがみるみる魔力を高める。


「ひっ…」

「うろたえるな!」

 新入りっぽい狐の獣人族がアンバーの魔力に怯えるのを虎の獣人族がゲキを飛ばす。


「やめろ、アンバー」

「ヒル姐、何でよ?」

「アンバー、ここは大人しく従いましょう」

「いやよ!何で私達が従わなきゃならないのよ!」


「皆さんっ!!剣をしまって下さいっ!この人達は私を助けてくれナランティアまで送り届けてくれた恩人であり友人ですっ!」


「ジュリア王女」

 ジュリアと同じく犬の耳と尻尾がある中年の男が一歩前に出てきた。

 この犬の獣人族は他の獣人族みたいに獣の顔した人型じゃなくジュリアと一緒で見た目は人族で犬耳と尻尾がはえているタイプでどこか品がありながらも隙は無い。

 なかなかの武人なんだろう。


「シルヴァ!今すぐ兵達に剣を下げさせてっ!」

「出来ません。いくら王女の指示とは言え今は王女の身の確保が最優先です」

「だからっ!この人達は恩人であり友人だと先程から言っているでしょうっ!!」

「申し訳ございませんが私共にはその冒険者らを信用する事は出来ません」

「もう!何度言えば分かってくれるのっ!」

「ジュリア王女、私共に入っている情報は王女一行とアクリア大陸の獣人族は魔族と不死魔族のパーティーに襲撃され王女が攫われたと言う情報です」

「なっ!?何を言ってるんですかっ!私達が襲撃されたのは竜人族(ドラゴニュート)のパーティーで、この方達はその竜人族(ドラゴニュート)のパーティーから私を救ってくれたのですっ!」

「仮に竜人族(ドラゴニュート)のパーティーが襲撃したのが事実でもその冒険者等が王女を騙し我々の街、ナランティアに誘導している可能性もあります」

「分からない人ねっ!分かったわ、王女として命令します!今すぐ…」


 ヒル姐がジュリアの肩に触れる。


「ヒ、ヒルディ師匠…?」

「もういい、我等なら大丈夫だ」

「で、でもっ!」

「そうですよ、ジュリア。こんなとこで王女の権限を行使するものじゃありません」

「だが、うろつく者(プラウラー)の事はジュリアの父、獣人族の王伝えなければならない」

「その為にはここで騒ぎを起こしたら解ける誤解も解けなくなってしまいます、ね、アンバー?」


「え?あ、あ、えーと、そ、そういう事よ」


「だが、頭の後ろで手を組みひざまずくと言うのは勘弁願いたいな」

「シルヴァ、これはいいでしょう!?」

「…分かりました。但し我々としましても竜人族(ドラゴニュート)のパーティーを倒す程の強さを持つ冒険者等を拘束無しに連行できませんので後手に手錠は掛けさせてもらいます」


 ジュリアが困った顔で俺達を見る。


「いいだろう」

 ヒル姐が答える。


「おい」

 シルヴァとやら獣人族が部下に指示を出し俺達は後手に拘束された。


「ところで貴様等、武器は持っていないのか?」

「いえ、持ってますよ」

「ほう、見た所丸腰のようだが」

「ええ、見た目はそうでしょうね」

「ちょっと、ジェイク…」

 アンバーが心配そうに見る。


「何か隠しているのか?」

「隠してると言うよりしまってあるだけです」

「そうか、なら警備上、提出してもらおうか」

「そうしたいところですが、この手錠のせいか魔力が使えないんですよ」

「ああ、その手錠は魔道具で魔力を封じ込める力があるからな、魔力が使えればそのしまってあると言う武器が出せると言うのか?」

「はい」

「逆に言えば魔力が使えなければ武器を出せないという事だな」

「はい」

「なら、そのまましまっておけばいい。お前だけの空間にな」

「何故、僕が空間魔術を使えると?」

「ああ、さっき言い忘れたが私共に入っている情報は空間魔術を使う魔族と不死魔族のパーティーだと聞いていたからな」

「試したのね?」

 アンバーが殺気立つ。


「ああ、だが喜べ、空間魔術を隠さなかった事で貴様等の信頼度は僅かにだが上がったぞ」

「それは何よりです、早く誤解を解いてもらいたいですからね」

 シルヴァは微かに口角を上げた気がするが、気のせいか?


「連れてけ」

 シルヴァの指示で俺達は連行される。


 シルヴァの前をアンバーが通る時、アンバーが立ち止まりシルヴァの方を向き、顎を上げ見下ろす様な目で話しかけた。

「それで、あんた。ジュリアの言葉を信用しないで友達である私達をこんな目に合わせて、本当に私達がジュリアの友達だって証明されたらどう責任取るの?」


「貴様等の事はさて置き、ジュリア王女の言葉を信用せずジュリア王女の顔に泥を塗る様な真似をしたとしたら責任は取るさ」

「へぇ〜、どうやって?」

「私の命でだ」

「………………」

 シルヴァとアンバーは無言で互いの目を逸らさない。


「ふん、その言葉忘れないでね」

 アンバーは吐き捨てる様に言う。

 と言うか今にも、ペッ、とか唾吐きそうな感じだ。


 シルヴァは黙って背を向け歩き出す。

「さ、ジュリア王女参りましょう」

 シルヴァはジュリアをエスコートする様に言う。

 ジュリアは心配そうに俺達の方を見ている。


「ジュリア、心配いらないわ!」

「そうです、僕達にやましい所はありませんから」

「また後でな」

 ジュリアの口が俺達の名前に動いている。


「おい、お前等、さっさと進め!」

 俺達も兵に促され歩を進める。


 アンバーもなかなか格好良かったな。

 格好いいがどこかヤンキーっぽいのがアンバーだ。

 唾吐かなかっただけマシだが、唾と言えばこう言う時、ビーバッ◯とかだったら吐いた唾飲まんとけよとか言うのだろうな。


「アンバー」

 俺は小声で話しかける。

「何?ジェイク」

 アンバーは振り返らず返事する。

「なかなか格好良かったですよ」


「………………」

 アンバーの肩が一瞬、僅かに揺れた。

 アンバーは振り返らず返事もしないが今アンバーの顔を見たら鼻がピクついているだろう。


「今の去り際、その言葉忘れないでねもシビれたけど例えば『吐いた唾飲まんとけよ』とかもどうでしょう?」

 冗談で言ってみる。


 アンバーが振り返る!

 口を一文字に結び、目を見開いている。


「あ、いや、やっぱその言葉忘れないでねの方が良いですよね」

「何言ってんのよ!そっちの方が断然カッコイイじゃない!」


 アンバーの目がキラキラしている。

 まさに目からウロコが落ちたって感じだ。

 若い女の子がいくら魔族とは言え、吐いた唾飲まんとけよのセリフに目を輝かせるって…どうなの?


「そ、そうですか…?」

「そうですか?ってそうに決まってるじゃない!」

「うむ、今の台詞はなかなかだぞジェイク」

 ヒル姐まで!?


「たまにジェイクカッコイイセリフ思いつくのよね」

 まあ、俺が考えたと言うより前世からの引用なんで。


「おい!お前等静かについて来い」

 猿の獣人族が俺達の腰に巻いた紐を引っ張る。

「うっさい!ボケェ!!触んな!!」

 アンバーが鬼の様な形相で威嚇する。

 いやアンバー、獣人族は触ってないし軽く紐くいくいしただけじゃん。

「うっ…くっ…」

 猿の獣人族は言葉に詰まり冷や汗をかいている。


「ねえ!!シルヴァとか言ったあんた!!」

 アンバーが背伸びする格好でシルヴァを呼び止める。


「何だ?」

 シルヴァは体は返さず顔だけ振り返る様に見る。

「もう一回聞くけど、さっきのあんたの命で責任取るって話、後になって忘れたとか情けない事言わないでしょうね!!」

「ああ、ジュリア王女の面子を潰したなら責任は取る」


 アンバーがニヤける。


「あんた、吐いた唾飲まんとけよ!!」


 アンバー…自分では決まった!ってドヤってるが、何というか…

 ヤンキー通り越して、どっちかって言うと

『いい夢見ろよ、あばよ!!』

 みたいになってるよ…


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