第29話 竜人族
残酷な表現があります。
苦手な方はスルーして下さい。
竜人族の子分2人がコートを脱ぎ捨てその姿を見せた。
青い鱗に全身覆われ顔立ちは竜っぽいって言えば竜っぽい。
頭頂部から後ろに向け2本の角が伸び背中には竜の翼が生え、尻尾も生えている。
服装は服と言うより鎧の様な胸当てと腰巻き、籠手にブーツと言った出で立ちだ。
武器は腰からぶら下げた刀でスラリとその刀を抜く。
三国志とかに出て来そうな青龍刀みたいな刀だ。
だが…俺が想像してた竜人族とイメージが違う。
リヨークで見た竜人族の冒険者パーティーももっと人っぽかったよな?
こいつ等竜人族と言うより蜥蜴が人型になったみたいな…
「ぐふふふ、今更怖気づいても遅いぞ」
「あ、あのぉ…ヒル姐…」
「ん?何だ、ジェイク」
「竜人族ってあんな感じなんですか?」
「え?ああ、あいつ等は竜人族の中でも低級なリザードマンだ。まあ知恵を持った魔物と思えばいい」
「ぷっ!あははは、あ〜はははっ!!何が誇り高き龍の血を引く種族よ、リザードマンって、蜥蜴男じゃない!?蜥蜴の魔物なら地下迷路でもっとデカイのと闘ったわ!」
「き、き、貴様ぁ…!絶対に許さんぞ!?俺達を蜥蜴の魔物と一緒にするなよ!?」
「一緒になんかしてないわ、地下迷路の蜥蜴の方がデカくて迫力あったって言ってんのよ」
「ふ、ふ、ふ、ふぬーーーーーーっ!!!!」
えっと…こっちはリッジテールって言ったっけ?
アンバーの挑発に目を白黒させ怒り狂ってる。
リッジテールがいきなりダッシュしてくる!!
「っ!?」
が、一歩踏み出した所でひっくり返る。
セラムって言ったっけ?子分2と竜人族の親分リュディルガーがひっくり返ったリッジテールを見る。
「どうした…?」
リュディルガーが理解出来ずに思わず口にし、椅子から少し腰を浮かし前のめりに倒れたリッジテールを覗き込む。
リッジテールは口から泡を吹いて倒れている。
そして倒れたリッジテールの足元には剣が1本落ちている。
「怒り狂ったリッジテールにカウンターでリッジテールの喉元に空間魔術で剣を出したって訳か…?」
リュディルガーは理解した様だ。
「ええ、あまりにも隙だらけだったので試しに出したら面白い様に剣に自ら刺さってくれました」
「あ〜はははっ!ホント竜人族ってバカなの?あ〜はっはっはっ!ひぃひぃ…お腹痛いわ…ぷっ…あ〜はははっ!お願い、勘弁して…笑い過ぎてお腹痛いわ…あ、ある意味攻撃?これ?」
「きっさまぁ…!我等竜人族を馬鹿にし過ぎだぞ…」
セラムが怒りにわなわなと肩を震わせ怒っている。
「だって、実際泡吹いてぶっ倒れてるじゃない。あ、もしかして竜じゃなくって蟹じゃないの?」
「…っ許っさぁあぁぁぁんっ!!!」
よしっ!!
セラムも挑発に引っかかってブチ切れた!
今だ…
「落ち着けっ!!!セラム!!!」
「っ!?」
リュディルガーが一喝しセラムの動きが止まった。
くっそ、後もう少しだったのに。
「安い挑発に乗るんじゃない、たった今リッジテールが怒りに我を忘れ敵の策にハマったの見たばかりだろうが」
「ぐ…」
「あのぉ…教育中すみませんが…まだあります…」
一応警告してやる。
「っ!?…上だ!!セラム!!」
リュディルガーが慌てて上を指しセラムも上を見る!
天井には無数の剣がぶら下がっている。
もちろん俺が空間魔術で出した剣だ。
と次の瞬間!
「火神豪火!!」
業火が竜人族を飲み込む!
「どう?馬鹿みたいに上見て隙だらけの所にぶち込まれた聖級火魔術は?」
トドメとばかりに天井からぶら下がっている無数の剣を燃えたぎる火の海へ落とす。
地下迷路の蜥蜴と一緒で上見て下見ての無防備な状態で火魔術と剣の雨のダブル攻撃なら無傷では済まないだろう。
「ジェイク!アンバー!構えろ!!」
「っ!?」
ヒル姐が叫ぶ!
「まだ倒してない、それどころか魔力が上がっている!雷弾!!」
雷魔術が火の海で文字通りスパークする。
「これだけ攻撃すれば殺ったでしょ!?」
「っ!?いや、殺ってない!ジェイク構えろ!アンバーもだ!」
火の中から竜人族達がその姿を見せる。
多少ダメージはあったみたいだがリュディルガーとセラムは立っている。
リッジテールもあれだけ騒げば流石に意識を回復させ起き上がろうとしているところだ。
「だから、蜥蜴の魔物ごときと一緒にするなって言っただろうが」
セラムも完全に冷静さを取り戻している。
「なかなかの攻撃だったが、我等竜人族との闘い方は知らないようだな」
リュディルガーも攻撃は効いていない様だがコートは燃え尽きその姿を見せた。
リッジテールやセラムみたいな蜥蜴が人型になったみたいな外見では無く、人の形をした竜だ。
顔は爬虫類顔ではあるがイケメンで髪は青く逆立っている。
裸に鎧はリッジテール達と変わらないが肌は鱗じゃなく青白い肌だ、いや、よく見ると細かい鱗でぱっと見、肌に見えるのだ。
羽根も同じく竜の翼を小型化した感じで生えている。
「お〜〜〜、痛てて」
リッジテールが喉をさすりながら立ち上がる。
つーか喉に刺さって無いの?
「ちょっと待ってよ、あんた等あれだけの攻撃でダメージ無いの?」
アンバーが驚いた様に聞く。
「くくく、お嬢ちゃん、残念ながらあの攻撃じゃあ我々は倒せないぞ?まあ彷徨える王女様の魔術は多少効いたがな」
リュディルガーが首を回しながら言う。
大して魔術も効いていないのだろう。
取り敢えず剣を収容し俺はブレードソード、アンバーは王笏、ヒル姐はフランベルジュを構える。
「おい!貴様!いきなり剣なんか出しやがって、おかげで一緒息出来なくなっちまったじゃねーか」
リッジテールが剣先を俺に向け言う。
「いや、スゴいです。流石竜人族です。あの攻撃で喉に剣を突き刺した筈なのに何とも無いみたいですね」
「はっはっはぁ、当たり前だろうが。竜人族の鱗を舐めんじゃねーぞ」
「え?やっぱりその神々しい鱗に秘密があるんですね?」
「知らねーのか?魔族の愚民よ」
「恥ずかしながら知りません、後学のために教えてもらえますか?」
「ふんっ!いいか?竜人族の鱗ってのはな雷属性の魔力を帯びた剣か我々の持つ龍斬刀で無ければキズ1つつけられまい!」
「おい!リッジ…」
「へぇ〜〜勉強になりますぅ。リッジテール先生、あ、先生と呼ばせて頂いて宜しいでしょうか?」
「ん?あ、あ、お、おお。いいだろう」
「それでリッジテール先生、魔術もやはりその選ばれし者が身に纏う龍の鱗の前では効かないのですか?」
「ふふふ、なかなか物分りが良いな。魔族の少年よ」
「おい!リッ…」
「では、どうすればその選ばれし者の鱗を纏う者に魔術を有効化出来るのか、博学なリッジテール先生なら分かりますか?あ、いや、流石にこれは…いくらリッジテール先生でも分からないですよね…?」
「はっはっはぁ、おい魔族の少年よ、馬鹿にするなよ。この俺を誰だと思っている?かの高名なるリッジテールとは余の事。分からぬ事などある筈無かろう。いいだろう、特別に教えてやる。まずはこの鱗にキズをつけるのだ、さすれば防御力が落ち、そのキズから魔術が効くのだ!」
「ば、リッジテ…」
「っ!?」
リッジテールが横にすっ飛んだ。
「馬鹿が、煽てられ調子乗って喋り過ぎだ」
リュディルガーが龍斬刀の峰でリッジテールの頭を払ったからだ。
すっ飛んだリッジテールを俺はすかさず追う様に飛ぶ。
「ちっ!」
リュディルガーも気付いたのか俺を追って飛ぶ様に迫る。
更にアンバーが土魔術でリュディルガーの軌道線上に障害物を出す!
「土壁!どう?魔術が効かなくても物理的障害物なら当たれば痛いでしょ?」
「くっ!」
仕方無くリュディルガーはアンバーが放った土魔術を迎え撃つ。
それだけで充分時間稼ぎになった。
リッジテールは頭から煉瓦造りの壁にぶつかり半身壁に突き刺さった形だ。
俺はノビたリッジテールの右手首に思いっきりブレードソードを振り下ろす!
龍の鱗に守られた手首は斬り落とせないが右手に持った龍斬刀は手放させる事が出来た。
すかさず空間魔術で龍斬刀を収容しその場を離れアンバーとヒル姐の位置に戻る。
俺はブレードソードを収容し龍斬刀を出す。
重い。
「なかなか抜け目の無いガキだな。だが龍斬刀は貴様の様なガキが使いこなせる刀では無いぞ」
リュディルガーが努めて冷静に言うが腹の中は怒りで煮えたぎっているだろう。
「確かに通常より重い剣ですね」
俺はそう言いながら8の字を書く様にクルクルと回してみせる。
「貴様、さっきの動きと言い能力強化が使えるのか」
「ええ、まあ。それでもまだやります?」
「ふんっ、能力強化を使えるのは貴様だけでは無いぞ」
「っ!?」
リュディルガーが一足飛びに俺との間合いを詰める!
さっきまでより断然早い!
慌てて俺は龍斬刀で迎え撃つがリュディルガーと鍔迫り合いになる。
「…もしかして竜人族も能力強化を使えるのですか?」
「貴様との会話は危険だが、それ位は教えてやる。能力強化は我が竜人族の得意能力だ」
リュディルガーの剣に力がますます加わる。
「…ぐ」
「貴様との身長差はどれ位だ?1mはあるな、お互い能力強化を使っても元々の力の差と1m上から押し込まれる今の状況はどうする?んん?」
リュディルガーは更に力を増してくる
「ぐっ…こ、こうします…」
「っ!?」
大きな鎧、それはリュディルガーをすっぽり囲う大きさの鎧を空間から出し被せる。
地下迷路で蜥蜴の魔物が装着してた鎧だ。
まさかこんな形で役立つとは。
「リュディルガー!」
セラムが叫ぶ。
「あんたは私が相手してあげるわ!」
アンバーが土槍をセラムに放つ!
「ふんっ!」
セラムは竜斬刀を一振りしアンバーの土槍を弾く。
「っ!?」
セラムがギョッとする!
俺が目の前に迫ったからだ。
俺は龍斬刀でセラムを斬りつける!
セラムはアンバーの土槍を龍斬刀で払った為ガードがガラ空きだ。
「ぐぉっ…!」
俺の竜斬刀の一振りをかろうじて籠手とバックステップで躱す。
躱すがセラムの左手からは血が滴っている。
「おのれぇ…」
セラムが怒りに身を震わしている。
「龍斬刀の斬れ味はスゴいですね、あんなに硬い龍の鱗でさえスッパリです」
「感心してる場合か!?雷矢」
ヒル姐がセラムに雷魔術を放つ。
「ぐぁあぁぁあ…!!」
おお、効いてる!
リッジテール先生が言う通りキズを付ければ魔術も効くんだな。
「アンバー、火神豪火をセラムに!」
「りょ、了解!!」
アンバーからセラムに火神豪火が放たれる。
「がぁああぁぁ…!!!」
セラムが業火に包まれ倒れる。
「ジェイク!!後ろ!」
「っ!?」
リュディルガーが鎧から出てダッシュで間合いを詰め上段から龍斬刀を振り下ろそうとしている!
何とか横っ飛びにその剣筋から逃れる。
だがそれは転げまわる様に逃れたのでガードなんかあったものじゃない。
転げまわる視界からリュディルガーがこちらにステップするのが見えた!マズイ!
と次の瞬間リュディルガーが地面に伏しているのが見えた。
俺に集中していたからかガラ空きになった背中にヒル姐がフランベルジュを振り下ろしそのまま地面に叩きつけたからだ。
「貴様ぁ…邪魔をするなぁ!」
リュディルガーは振り返り立ち上がるのと同時に払う様にヒル姐を斬りつける。
ヒル姐もバックステップで躱すが太ももを斬られ血が流れ出す。
「ヒル姐ぇ!!」
俺は叫びながらもヒル姐を斬りつけこちらに背を向ける形になったリュディルガーに斬りかかる。
キンッ!!と乾いた金属音が響き渡る。
「だから貴様が抜け目ないのは分かっている。いや、ずる賢いと言った方が魔族らしいか」
俺の斬撃を背中に自分の龍斬刀をまわし躱したリュディルガーが言う。
俺の剣を払いながらリュディルガーが振り向く!
剣を弾かれた勢いとリュディルガーとの間合いを取る為バックステップで距離を取る。
「っ!?」
雷の矢が放たれる!
何とか躱す。
「おや?まさか竜人族が魔術使えないと思ってたか?」
使えないとは思っていなかったが油断はしてた。
能力強化と剣技に捉われ魔術に関しては油断していた。
俺の横を槍が掠め飛ぶ。
「ふ…」
アンバーが放った土槍をリュディルガーは竜斬刀で払う。
続け様に土槍がいくつもリュディルガーに撃ち込まれる。
リュディルガーは能力強化をフルに使い全てを捌いている。
たちまち土煙に包まれる。
もちろん俺もその隙を見逃さない。
一足飛びにリュディルガーに詰め上段から龍斬刀を振り下ろす!
手ごたえが無い!
剣の風圧で土煙が晴れる。
リュディルガーはいない。
「ジェイク!後ろだ!!」
「っ!?」
振り返りるとリュディルガーがいた!
剣は??
下か!?
俺も能力強化で龍斬刀を盾に躱そうとするが間に合わない!!
苦しまぎれにバックステップもするが間に合わない!
俺の右の二の腕から肩にかけリュディルガーの龍斬刀の切先が走る!
顔を精一杯左に傾け避けるが右頬を斬りつけられる!
熱い…傷口から血が噴き出す。
その傷口が痛いとも熱いとも言えない感覚だ。
俺はそのまま地面に転がり間合いを取ろうと試みる。
右目に血が入り視界が遮られながらもリュディルガーの姿を確認する。
「裏の裏をかくお前的な闘い方だろ?そしてこの機を逃す手も無いよな?」
「くっ…!」
「「土槍!!」」
アンバーとヒル姐がリュディルガーを挟む様に土槍を放す。
「ちぃ…!」
流石にリュディルガーも堪らず避ける。
おかげで距離が取れた。
取れたがリュディルガーもすかさず俺に向け雷矢を放ってくる。
右目に血がかかり視界が悪いが何とか能力強化で避ける。
「ジェイク!」
「だ、大丈夫です。アンバー治癒魔術を!」
「了解!!高治癒魔術」
傷口は塞がり体力も回復した。
「ふん、治癒魔術をかけてもらって回復したか?だがまだまだ続くぞ?」
竜人族がここまで強いとは…今までで最大のピンチかも…




