第2話 悪魔の赤ちゃん
もうすぐ1歳の誕生日らしい。
時計やカレンダーの類が無いから正確には分からないけど、この世界の1年は前世換算だと大体1年半位だろうか。
まだ、喋れはしないが何と無く言葉の意味が少しずつ分かり始めてきた。
やっぱこれって前世の記憶があるから理解出来るのかな?
いわゆるチートってやつなのかな?
それにしても異世界かぁ…。
前世では電車で通勤の時にラノベとかで異世界だの転生だのは読んだけど、まさか自分にそんな事が起こるとはね。
そりゃあ異世界へ転生したら面白そうだなとかRPGとかのゲームの世界への転生なんかにも冗談半分で夢見た事もあったよ?
でも、まさか…ねぇ。
でも俺が読んだラノベじゃあ、大体が前世の記憶持ち越しのチートスキルで大活躍!!みたいな感じだったよな。
今の俺も前世の記憶持ち越しの赤ちゃん転生。ククク。
来たか?!人生逆転劇!
気になるのは親が悪魔って事だけど、この感じだと魔王の子供でいわゆる魔界のプリンスって事?
いわゆるヤサイの星のエリート王子みたいな立ち位置か?
ん〜…悪くない…というよりはっきり言ってウレシイ。
…ククク、ダァーッハッハッハー
『ドゥドゥドゥ、アーアーアー』
「あら?またオッパイ?さっき飲んだばかりなのに」
「っ!」
いかん、心ん中で高笑いしても実際に出る声は赤ちゃんがダーダー言ってるだけでオッパイ催促とカン違いされた。
それにしてもこの成長の遅さも気になるっちゃあ気になるしな。
まぁでもこれからグングン成長してチートスキルフル活用で溢れ出る魔力から上級魔法ガンガンぶっ放してサクセスストーリー登りつめる感じかぁ?
グヘヘへへへへへ。
『ダァダァダァダァダァダァ』
「はいはい今あげますからそんなに慌てないで」
あ、またカン違いされた。
別にオッパイ催促してる訳じゃないだけどね。
でもこんなに綺麗で妖艶な感じな女の人のオッパイでもムラムラまったくこないしヤラシさすら感じないのはやっぱ母親だからなのかな?
とりませっかく出されたオッパイだし、ありがたく頂きますか。
早く成長もしたいしな。
ん?
今のくだり、フラグ立ってないよね?
ーーーーー
もうすぐ2歳になる。
だが俺の成長の遅さと言ったらようやく立っちが出来る様になった位だ。
前世換算だと3歳だし、いくら何でも遅すぎないか?
それなのに親悪魔のお二人さんは
「ウチの子は天才よ!」とか
「俺に似て運動神経がいいんだ!」とか
親バカ通り越して、こっちが逆に子供ながらに心配しちゃうよ。
この世界の子供ってこんな感じに成長ゆっくりなのかな?
つーか、悪魔って子供の成長にキャッキャ、キャッキャ喜ぶキャラなの?
あ、そうそう。
何か最近頭が痒いなぁ、と思ってたらついに俺にもツノが生えてきました。
それを見た両親が金属色角だと大騒ぎしてたけど何なんだろう。
何か特別な力でもあるのかな?
って、フラグじゃないよね?
ーーーーー
3歳になった。
ようやく歩ける様にもなり、言葉も少しずつだが喋れる様になってきた。
聞いたところ、この世界では子供、って言っても悪魔の子供の話だろうけど、が立てる様になるのは大体4歳位からで歩ける様になるのは早くても5歳過ぎてかららしい。
ましてや喋るなんて最低でも6歳過ぎないと無理だと言う。
何でも俺らの種族は平均して250年位は生きるらしい。
ちなみに人族はこの世界にもいて平均寿命は80年位というから前世と同じ位だ。
まぁそう考えると寿命が長い分、成長はゆっくりなのだろう。
そりゃ2歳で立ち上がり3歳で歩けば親バカ度差し引いてもあのはしゃぎっぷりは分からないでもないか。
そんな成長が早い俺のつい最近までの趣味は家内散歩、いや城内散歩だった。
そう、家というよりは城だ。
階数は地上3階、地下1階で部屋数は13部屋と家にしては豪邸と言っていいだろうけど城としては…微妙な感じだ。
まして魔王の居城にしては小さ過ぎじゃね?
城に住んでいるのも両親と執事と俺の4人だけだし…
う〜ん、俺の転生サクセスストーリーに陰りが……
ていうか完全にフラグおっ立った???
ま、まぁいずれにしても一度色んな事、確認する必要があるな。
その為にも勉強だ。言葉を喋れて理解出来ない事には始まらない。
最近までの趣味は城内散歩だったが、今の趣味は専ら言葉の勉強だ。
両親や執事さんが俺に話しかける言葉は、俺が赤ちゃんと言う事もあり理解しやすい優しい言葉だから覚えやすいし、
何より図書室の様に本が何千冊もある部屋があるから今は大体この書庫に来て本を見て文字の読み方と意味を勉強している。
もちろん親も勉強熱心なのはいい事だと書庫を好きに見させてくれるが中には貴重そうな古文書みたいな本もあるからホントに3歳やそこらの子供に好き勝手見せていいのかと、こっちが気を使う。
それだけ信用に値する子供だと思ってるのか、よっぽどの親バカのどっちかだろう。
ま、本を熱心に見ている俺を見て「本を見たり勉強熱心なのは私に似たのね!」とか「いやいや俺だって本読むのは好きだぞ」とか言ってる位だから後者の方が強いのだろう。
しかし悪魔にしてはアットホームというかホンワカというか…色んな意味で大丈夫だろうか…?
だが、そんな事よりここ最近で話すべきトピックがある。
それも俺の人生?魔生?に関わる重大トピックだ。
城内散歩している時、発見したのだがこの世界にも鏡があったのだ。
鏡を生まれて初めて見る、その緊張感ったらそりゃあなた。大変なモンですよ。
普通なら意識しない内に何となく鏡見て自分だと分かってんのか分からないのかも分からない内に見るんだろうけど、
これだけ意識もはっきり持っている状況で初めて鏡で見る自分…
事と次第によってはこれから生きていく気力を失いかねない事態すら想定できる。
そんな中、恐る恐る鏡を覗き込めば…
………。
…ウ、ウ、ウツクシイ。
そう、美しかったのだ!!
まあ、冷静に考えればあの親から生まれてきたのだから当たり前っちゃあ当たり前かもね。
前世では自惚れ補正掛けても中の下だったから鏡で自分を見た時はこの世界の鏡は魔力で美しく見せる力でも宿ってるんじゃ無いかと疑った位だ。
試しに執事のランスと並んで鏡見たから間違いない。
いや、別にランスがブサイクとか言う事じゃないッスよ。
ただ両親と比べると…って話で。
ま、まあその辺の話は追々って事で。
とりま自分の話に戻すと、小さいながらに整った顔。
この世界の美的感覚は分からないが前世では間違い無く美形だろう。
肌は色黒な父親と色白な母親の中間、どちらかと言えば母親寄りか前世で言うところの白人と言えば分かりやすいだろうか。
目は両親と同じくグレーっぽい銀色の瞳。
髪の色は父親に近いシャンパンゴールドで両親が騒いでいた金属色角とやらが2本生えている。
確かにその角は両親やランスの黒い角と違ってメタリックブラックというか、ガンメタみたいな色をしてる。
人と違うのは異端児としてイジメられないだろうか?
ただの黒よりカッケーしな。
ーーーーー
4歳になった天気の良いある日、父親のルーファスが外でご飯を食べようと言い出した。
よくあるアットホームな家庭の一言であるが、俺にとっては衝撃的な一言だった。
何故なら産まれてこのかた一度も外に出た事が無いからだ。
ここで疑問が3つ。
①悪魔でも昼間外に出て大丈夫なのか?焼け死んだり塵になったりしない?
②外でご飯って、ファミレス的なお店があるのか?
③悪魔ってこんなにホンワカしてるもんなの?
そこで俺は質問してみる。
「父様、僕達悪魔が昼間外に出ても大丈夫なのですか?」
ルーファスは、マンガに出てきそうなビックリ顔で俺を見た!
ヤバ、何か禁忌に触れる質問だった!?
「ジェイク!お前自分で自分の事、悪魔っいうヤツいるか???」
今度はこっちがビックリした、多分側から見たら似た様なマンガ面だったろう。
「え!僕達悪魔じゃないんですか!?」
悪魔プリンスとしてのチートサクセスストーリーが…!
「当たり前だろう、何も悪い事してないし、悪い事しようとも考えてもいない。俺達はただの、ただのじゃないか? まぁいい、魔族なだけで悪魔ではない!」
あ!やっぱ魔族ではあるのか。でも悪魔では無いってどういう事?
「魔族と悪魔って違うのですか?」
「まぁ、魔族も悪魔も括りで言えば一緒だが普通は魔族。何か悪い事をしたり罪を犯したり、悪い魔族の事を悪魔って呼ぶんだぞ」
つまりこういう事か、人間でも普通に暮らしていれば人間だし法を犯したり罪を起こす人間を悪人って呼ぶのと一緒か。
今の俺は人間だったら『僕達悪人が』って言ったのと同じか。
「そうだったんですね、分かりました。それで僕達魔族は昼間外に出ても大丈夫なのですか?」
「出て大丈夫も何も大丈夫に決まってるだろ、別に昼間外に出ちゃダメだとかいう決まりは無いぞ?」
「いや、今日産まれて初めて城の外に出るから日焼けとか大丈夫かな?と思いまして」
「そういやジェイクは城の外に出るの今日が初めてだったか、確かに普通の子供は5歳過ぎる頃まで立てないし首も座ってないからあまり4歳位じゃ外には出ないかもな、なに今の季節だったら4歳位の子供でも日焼けなんかはしないだろうし、ジェイクは立って歩けるから魔力の影響も受けづらいだろ」
今の季節って事はこの世界にも四季?か季節はあるという事か。今まで城の中にしかいなかったからか、あまり季節感を感じなかったが。
っていうか立って歩けるから魔力の影響受けづらいってどゆ事?
「魔力の影響って何ですか?」
「まぁ、魔力の説明は難しいからジェイクがもう少し大きくなったら詳しく説明するとして、要はまだ首も座らない様な赤ん坊が外に出ると体の抵抗力が無いから魔力酔いしやすいって事なんだがジェイクはもう立って歩ける位体力もあるから大丈夫だろうって事だ」
「そうなんですね、それなら安心しました!ところで今日はどこに外食しに行くのですか?」
「いや、ジェイク連れて街まで行くのは流石にジェイクが普通の子供より発達が早いとは言え、まだ体力的に考えても大変だから今日のところは屋上テラスで食事しようかと思ってな」
心の中では外食じゃないのか、と少し残念に思ったが初めての外だし屋上テラスならこの世界の景色もよく見えるだろうから良しとしなきゃな。
と、そう思ったところで母様が来た。
「お!ミランダ来たか」
「お待たせしました、ランチはランスに言ってテラスまで運んでくれる様、頼んで来ましたわ」
「それじゃあテラスに行ってランチが来るのを待つとするか!」
いよいよ初めての異世界の景色だ!