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第28話 人攫い

 プラハス大陸に着いた。


 着岸する少し前から船の上は騒がしくなってきたから分かった。

 俺達もそれに合わせ荷物を元通りにし下船の準備をしておいた。

 獣人族の少女が入っている荷物に動きは無い。


 しばらく船底で待機しているとようやく船員が降りろと言いにやって来たので他の乗客が降りきったのだろう。


 まあ、船への乗り降りは一番最後だったがなかなかの船旅だった。


 途中3回程海の魔物の襲撃があったみたいだが乗り合いの海の魔物退治専門冒険者パーティーが退治してくれたから俺達は労力使う事なくゆっくりできた。

 体はゆっくり出来たが横に拘束されている少女がいると思うと心はゆっくり出来なかったが…。


 そんな事を考えているとさっさと降りろと催促されたのでご希望通りさっさと下船する。


 初めての異国の地だ。


 同じ港町でもアクリア大陸のリヨークとは街並みから行き来する種族、空気まで違う。


「わぁ、異国の地に来たって感じね」

「そうですね、アクリアとは全然違いますね。アクリアでは当たり前にいた魔族が全然いませんもんね」

「まずは航海ギルドに行って入国手続きをして船が見える店で食事を取りながら荷下しを見届け、あの獣人族の少女を攫った犯人を突き止めよう」

「そうですね」

「はいっ!捕まえてボコボコにしてやるわ」


 俺達は航海ギルドに行き入国手続きを済ました。

 基本的には冒険者は冒険者カードを見せれば終わりだ。

 それは嫌われ種族の魔族でも同じだった。


 後は入国手続きと言っても不正な物の密輸防止の身体検査と預けた荷物があるか無いか、ある場合は中身が何か、ここで虚偽の報告をしたり不正な物を密輸にすると冒険者ギルドに引き渡されるらしい。

 本来なら荷物に攫った少女がいる時点でアクリアから運び出せないハズだが船員あたりを裏金か何かで買収し密輸したのだろうからここで獣人族を攫った犯人が逮捕されるとは考えにくい。


 入国手続きを済ませた俺達は船が見える海に面したオープンテラスの店に入った。


 食事を注文し食べていると俺達が乗ってきた船の影に隠れる様に何やら小型の船が近づいてくる。

 俺は能力強化(レインフォースド)で目を凝らし様子を伺うと、獣人族の少女が包まれていた紺色の荷物が受け渡されている。

 小型の船に乗っている奴等はフードで顔を隠している為、顔は勿論、種族も確認出来ない。

 人数は3人だ。


「ヒル姐、アンバー、例の荷物が受け渡されました。フードで顔は確認出来ませんが3人組です」

「入国手続きを済ませ船をチャーターしたか奪ったか知らんが3人で小型の船で海上で受け渡しする位だ。海の魔物を恐れない強さがあると見た方がいいな」

「早速行きましょうよ」

「うむ、いくら強いにしても不利な海上をいつまでも行くとは考えられない、近くに着岸して上陸するはずだ」

「じゃあ奴等に悟られない様距離を置いて尾行しましょう」


 俺達はテーブルチェックで会計を済ませ店を後にし港町の人達に紛れ小型の船を尾行した。

 すると程なく着岸し奴等は上陸した。


 船から下りた犯人達は身長が高く、周りの通行人の人族等と比べても頭1つ出ているから身長約2mといった所か。

 それよりもフード越しにも分かる頭頂部から後ろに向かって伸びる2本の角とフード付コートの裾から出た尻尾が特徴的だ。


竜人族ドラゴニュートか」

「フードで顔は分からないけどあれだけ特徴が分かれば竜人族ドラゴニュートって事は分かるわね」

竜人族ドラゴニュートって戦闘力は高いんですか?」

「ああ、基本的に戦闘力っていう意味だけで言えば魔族や人族より高いな」

「だから小型の船でもちょっと海に出る位なら平気って訳ね」

「僕達のパーティーより強いですかね?」

「今は奴等も魔力解放していないからその魔力は分からないが竜人族ドラゴニュートイコール最強種族と言う訳じゃない、人族でも竜人族ドラゴニュートより強い者もいれば炭鉱族でも竜人族ドラゴニュートより強い者もいる。もちろん魔族だってそうだ」

「私達より強いなんてそうそういないわよ」

「たださっきも言ったが種族としての平均的な強さは高いから油断は禁物だ」

「分かりました」


 その後も竜人族ドラゴニュート達は誰かと合流する事は無かったからこの3人のパーティーなのだろう。


 先頭を行くのが恐らくリーダーで一歩後ろを2人が歩いている。

 その2人のうち左側の竜人族ドラゴニュートが右肩に獣人族の少女が拘束され包まれている袋を担いでいる。


 俺達は少し距離を取りながら尾行を続けた。


 だいぶ街の外れに来たがこのまま街を出るのか?

 と思ったその時街角を右に曲がり消えた。


「ヒル姐、奴等の魔力を感知出来ますか?」

「…………」

 ヒル姐がオッドアイの瞳を凝らし建ち並ぶ建物を観察している。


「見失っちゃったかしら…?」

 アンバーが不安そうな顔で街並みを見る。


「…分かったぞ、あの3件目の茶色い建物の地下にいる」

「やった!行きましょ!ジェイク準備はいい?」

「はい、行きましょう」

 俺達は静かに建物に入り薄暗い階段を下りる。


「っ!?」


「遅いじゃないか」

 建物の地下に下りるとそこは20畳程の部屋で奥にリーダーらしき竜人族ドラゴニュートが椅子に座り、その両脇に2人の竜人族ドラゴニュートが立って俺達を待ち構えていた。

 フードはかぶったままだ。


「気付いていたか?」

「はは、あの程度の尾行で気づかない訳無いだろ。逆にあそこの角で俺達を見失ってここまで誘い込めないんじゃ無いかと心配したよ」

「ふん、舐めないで頂戴!見失う訳ないでしょ」

 いや、アンバーさっき見失っちゃったかしらって不安そうな顔してたじゃん…


「威勢は良いが、丸腰のお前達が俺達に何か用か?」

「お前達に用は無い、用があるのはその荷物だ」

 決まったオレ!

「いや、ジェイク。こいつ等にも罪は償わせないといけないぞ」

 や、まあ、そうなんスけど…


「ははは、笑わせるな。何が罪をつぐなわせるだ?お前達魔族のガキ2人と不死魔族の女1人が丸腰でやって来て何が出来るんだ?」

 竜人族ドラゴニュートの子分1が言う。


 俺はアンバーに王笏、ヒル姐にフランベルジュ、そして俺の右手にブロードソードを出す。

「っ!ほう…空間魔術か」

 竜人族ドラゴニュートの子分2人は驚き絶句したが、リーダーの竜人族ドラゴニュートの男は一瞬驚いた様だが直ぐに感心した様に言った。


「これで少しは僕達の力が分かったかと思います。大人しくそちらの獣人族の少女を渡して下さい」

「テ、テメー何で獣人族の事を知ってやがる!?」

「落ち着けリッジテール、こいつ等魔族は船で貨物室にいただろ。その時にでも客の荷物を物色してこの荷物を見つけたってトコだろう」

 子分1はリッジテールと言うのか。


「はっ、なるほど卑しい魔族のやりそうなこった」

 子分2が鼻で笑いながら納得している。


「どうでもいいが獣人族を渡すのか渡さないのかどっちだ?」

「渡すと思うか?それよりお前、もしかして彷徨える王女ワンダリングプリンセスのヒルディじゃないか?」

「え?あのヒルディ??」

「黙れセラム、今はそちらの王女様に聞いている」

 うんうん、子分2はセラムっていうのね。


「だったら何だ?」

「ふ、やはりそうか。だったら何だ?か…だったらお前も一緒に攫うまでだ」


「そりゃいい、流石リュディルガーの兄貴!名案だ!」

「だから黙れと言っているセラム、それに俺の名前を気安く他人の前で言うなと何回言えばそのからっぽの頭は理解出来るんだ?ああ?」

「す、すいません、リュ…あっ」

「くくく、バカめ」

「んだと?リッジテール!」

「止めろ、バカども」


「漫才は終わった?こっちは待たされてイライラしてんだけど」

「何だぁ?このガキ」

「少し黙れ、貴様ら。そっちのお嬢ちゃんの言う通り俺も恥をさらしてくれてイライラしている。すまんがお前達もう少し質問に付き合ってくれ」

「いちいち質問に答える義理はないと思いますが」

 俺もそろそろこんな会話は終わりにしたい。


「くくく、そりゃそうだ。じゃあ最後に1つだけ聞かせてくれ、これで最後だ。お前はその金属色角(メタリックホーン)で彷徨える王女ワンダリングプリンセスのヒルディとパーティーを組んでるって事は元魔王ルーファスのご子息で間違い無いな?おっと今更おとぼけは無しだぜ」

「だったら?」

「だったら俺達はツイてるって事だ」


「私からもいいか?私の知っている竜人族ドラゴニュートは人攫いなんかする様な低俗な種族じゃなかったと記憶しているが記憶違いか?」

「ふん、どこの竜人族ドラゴニュートの事を言っているのか知らんが1つの種族でも多種多様と言う事だ、お前らだってそうだろ?」

「しかもよりによって獣人族を攫うなんて半獣同士で気がしれないわ」

「おい!ガキ!俺達を獣人族なんかと一緒にするなよ」

「あんたには聞いてないわ、余計な口挟むとまたルュディルガーのアニキに怒られるわよ」

「な!この…」

「リッジテール…そこのお嬢ちゃんの方がよっぽど理解が早いぞ、しかも俺の名前まで覚えられちまったじゃねーか」

「ぐ、す、すまねぇ…」


「リッジテールはバカだがそいつの言う事も尤もだ。獣人族の半人半獣如きと一緒にされたくは無いな。俺達は誇り高き龍の血を引く種族だからな」

「その誇り高き龍の血を引く種族が人攫いなんかして小遣い稼ぎなんて恥ずかしく無いのですか?」

「ふんっ!言ってくれる、まあいい。そろそろお話は終わりでいいかな?」


「だからさっさと始めましょうって言ってるじゃない」

「おい、リッジテール、セラム、彷徨える王女ワンダリングプリンセスと元魔王ルーファスの息子は生け捕りにしろ、そっちのお嬢ちゃんは好きにしていいぞ」

「何ですってぇ…!私だけ規格外みたいな扱いして許さないわ」


「あ!そう言う事か!」

「何よ?」

「どうした、セラム」


「規格外って言葉でピンと来たんだ!」

「どういう事よ!?」

「どういう事だ?」


「いいか?彷徨える王女ワンダリングプリンセスと元とは言え魔王の息子だろ?つまり魔族の王子だぞ?」

「だから何よ?」

「だから何だよ?」


「くくく、やっぱ俺って天才だわ」

「だから何だって聞いてんでしょ!?」

「だから何だって聞いてんだろ!?」


「知りたいか?彷徨える王女ワンダリングプリンセスは不死魔族の王女、金属色角(メタリックホーン)のガキは魔族の王子、そして攫った獣人族のガキは獣人族の王の娘、王族3点セットで売り飛ばせば一生遊んでくらせる金が手に入るって事だよ!!」

「マジか!?そりゃいいなっ!!!」

「流石リュディルガーの兄貴、考える事が違うわ」

「余計な事をベラベラと…お前等後で仕置きが必要だな…」

「ひぃ…すいやせん、リュ、あ、いや、アニキ…!」


「あの獣人族の女の子、獣人族の王女様なんだ?」

「みたいだな」

「誰だとしても助ける事に変わらないですよ」


「お前等俺から痛い目に合うのを勘弁して欲しければ言われた事を実行しろ」

「「は、はいぃ」」


「あ、僕からも最後に1つだけ」

「何だ?」

「ここは誰かの家ですか?」

「ふ、心配するな。ここは我々の持ち物だ、したがって誰も邪魔できない。分かりやすく言えば誰も助けに来ないと言う事だ」

「なるほど、それを聞いて安心しました。いやぁ細かい事が気になる僕の悪い癖」

「ふん、随分余裕だな。話は終わりだ、おい、お前ら」


「はい…」

 竜人族ドラゴニュートの子分がフード付コートを脱ぎ捨てその姿を見せる!

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