第27話 船底での発見
港でのいざこざの後、リヨークの街を見て回ったのだが明らかに俺達は悪い意味で有名になっていた。
それは種族を問わず噂になっており完全に荒くれ者扱いだ。
家族連れなんかで小さい子供を連れた親は見ちゃいけません!みたいな絵に描いた様なリアクションをとっていた。
…まあ、仕方ない。これは完全に身から出た錆だ。
肩身も狭いので今日の所は早々に街からは引き上げ次のプラハス大陸に向かう船の出航を確認しに港に戻った。
港には航海ギルドがあり、そこで船旅に関する一切を統括している。
主な事業としては船のチケット手配、海運に関する荷代から税関の様な密輸監視、船のメンテナンスなんかもここで行っている。
また、船乗り専門の冒険者なんかは冒険者ギルドからここに派遣され登録し働いている。
俺達は肩身の狭い思いをしながら航海ギルドに入って行ったが、どちらかと言うと歓迎ムードなのに驚いた。
何でも船乗り達は力自慢の猛者が多く、喧嘩なんか日常茶飯事なんだとか。
ここリヨークの港から出航している船はプラハス大陸との行き来をしている一便だけで週に一度出航し、また1週間後に戻ってくるとの事だ。
つまり先程入港してたから次にプラハス大陸に向け出港するのは1週間後と言う事になる。
取り敢えず次の便のチケットを購入しておく。
俺とアンバーは魔族なので他の種族より高い1人5銀貨、ヒル姐は不死魔族なので4銀貨、計3人で14銀貨を支払う。
何か腑に落ちないが仕方ない。ここで受付のお姉さんにクレームをつけてもラチがあかないし。
大体にして受付のお姉さんも魔族だから他の種族の旅人から嫌がらせの様な目に会う事も多いだろう。
代わりと言っては何だが受付のお姉さんも魔族で俺達に忠告とアドバイスをくれた。
何でも魔族は高い船代払うにも関わらず部屋、というか船室は貨物室だと言う。
当然の様に船底で暗く荷物と一緒だから狭いとの事。
なるほど、さっき着いた船から魔族が降りて来るのが1番最後だったり妙に疲れた表情をしていたのは暗く狭い貨物室に追いやられていたからか。
だから少しでも船旅を快適にするなら他の種族の商人や冒険者が持ち帰る荷物で服なんかの柔らかい物を敷き布団やクッション代わりに使うのがコツだとコッソリ耳打ちしてくれた。
俺達はお礼にチップをはずんだ。
その後、航海ギルドを出て冒険者ギルドへ向かった。
何しろ出港まで1週間あるから何か情報を含め得られる事は無いかと赴いたが特に収穫は無かった。
ーーー
それから1週間やや時間を持て余した感はあったが街を散策したり露店や商店を見て回ったりしてたら意外に早く出港の日を迎える事となった。
出港の時間は朝早い。
日の出と共に出港となるのでまだ日が昇る前の薄暗い時間から船に乗る者達は港に集まる事になる。
「プラハス大陸に行く船に乗船する者はこちらへ集まって下さ〜い」
航海ギルドの職員らしき魔族の男が呼び掛けている。
集合場所に行くと種族別に分かれて並んでいた。
全部で30人位だろうか?
色んな種族がいるが魔族は俺達だけの様だ。
周りの種族からは相変わらずヘイト発言が聞こえるがシカトだ。
まあ、あまりしつこいとウチの女性陣がキレるが最近俺も人の事は言えない。
「今日は尖耳長族の方はいらっしゃいませんね?それでは人族、竜人族、炭鉱族、獣人族、不死魔族の順にご乗船下さい。魔族の方は最後の乗船となりますので暫くその場にてお待ち下さい」
う〜ん、なかなかあからさまな差別だな。
「そちらの不死魔族の方、先にご乗船出来ますが…?」
航海ギルド職員がヒル姐に乗船を促す。
「いや、私はいい。この者達と仲間だから同じ待遇でいい」
「そうですか」
魔族の航海ギルド職員が近くに来て小声で囁く。
「本当に申し訳ありません。魔族の方にはいつもご迷惑をお掛けし同じ魔族なのに、何卒ご容赦下さい」
「あなたが謝る事じゃ無いですよ、あなたは仕事をしているんだから当然の事をしているだけです」
「そう言って頂けると救われます。中には魔族の方でも私にあたる方も少なくないので…」
「ご苦労察します。どうぞ僕達の事は気になさらずに」
「ありがとうございます」
そして俺達の乗船となった。
改めて近くで船を見るとデカい。
木造帆船でマストが3本あり前世の大航海時代なんかで見た様な帆船だ。
こんな船に実際乗船するのかと思うとワクワクする!
タラップから乗船すると甲板には魔族以外の種族がいて海を見たり談話したりしている。
俺達も甲板からこれから進む大海原を眺めようと甲板を横切ろうとすると人族の船乗りに咎められた、と言うより怒鳴られた。
「おい!こら!魔族がどこ行くんだ!?オメー等は船底の貨物室だろうが!」
「え?海位眺めてもいけないのですか?」
「ったりめーだろ!そんな事も知らねーのか!?」
「ちょっと位、いいじゃない!」
「んだと?魔族ごときが随分舐めた口きくじゃねーか?いやならさっさと船から降りろ!!」
「何ですって…」
「アンバー、いいよ。行こう」
俺はアンバーの肩を押さえ制した。
「ジェイク、いいのか?」
「はい、納得はいきませんが初めての船旅です。ここで揉め事を起こすのは得策じゃないでしょう」
「そうか、分かった。アンバーここはジェイクの意見を尊重しよう」
「…ヒル姐までそう言うなら…」
「さっさと船底行けや、他の客人に迷惑だろうが!」
「分かりました」
「ったく、海上でトラブル起こしやがったら海に叩き落とすからな!分かったな!?」
「分かりました」
「何を偉そうに…」
「アンバーいいから」
「だって…」
「大丈夫」
「何ごちゃごちゃやってんだ!?さっさと行けってのが聞こえ、ってぇーーーー!!!」
船乗りの叫び声に皆が振り返る。
船乗りはケツを押さえのたうち回っている。
ケツからは血が出ている様だ。
「テメー等!!何しやがったぁ!?」
「何って、何もしてないですよ。現に僕達はあなたからこんなに距離があるし、あなたと話ししてたじゃないですか?」
「ぐぬぅ…」
「大体にしてあなたのお尻に何があったなら僕達は正面にいてあなたとこうして少し離れて話をしてたんですからあなたの後ろ側のお尻に何かするなんて無理じゃないですか?」
「ぐ……、う、う、うるせー!!さっさと船底に行きやがれ!!」
「分かりました、さっさと船底に行きます」
俺達は階段を降り船室に行き、更に下に行く階段を降り船底に降りた。
「ねぇ、あれジェイクでしょ?」
アンバーが八重歯を見せるいたずらな笑顔で聞いてくる。
「分かります?」
「ジェイクが空間魔術でヤツの背後から何かしたのだろ?」
「ええ、彼も仕事なんでしょうけど言い方はありますよね」
「いい気味だったわ、魔族への差別で溜まってた鬱憤が少しは晴れたわ」
「軽く尻の穴に剣先を刺しただけですがね」
「ふんっ」
ヒル姐も鼻で笑い口には出さなかったが満足気な表情だ。
船底は幅も狭い上に多くの荷物でなかなかくつろぐには程遠い。
足を伸ばして寝るのもままならない感じだ。
そりゃ魔族の旅人は疲れるはずだ。
俺達は荷物の間を進み階段から離れた船尾へ向かう。
荷物で壁を作り外からは見えない様にして船尾にある荷物を俺の空間魔術で収容すれば広い空間が確保出来るって訳だ。
早速荷物の壁を作り空間魔術で荷物を収容する。
うん、広くなった。
そうしている間に出発した。
風向きと風の強さにもよるが、予定では2日程でプラハス大陸には着くそうだ。
後は航海ギルドの受付のお姉さんに教えてもらった服とかの柔らかい荷物をクッション代わりに敷けば快適ルームの出来上がりだ。
と、その前に空間魔術でテーブルと椅子を出しティータイムにする。
ある意味完全個室で快適そのものだ。
周りに人がいる大部屋じゃこう快適グッズも出せないし寝るのもエイリアンの幼虫みたいに無造作にぶら下げられたハンモックで寝るハメになるし船底で良かった。
「それじゃあ服なんかを詰めている柔らかめの荷物を散策に行きますか」
俺達は分かれて柔らかめの荷物を物色する。
「ジェイクこれは?」
「ジェイクこれなんかどうだ?」
見つかった柔らかめの荷物を一旦空間魔術で収容してからまとめて船尾に作った広間に出すので柔らかめの荷物を見つけ次第俺に声をかけてくる。
ぼちぼちいいかな?と思った時少し大きめの丸い荷物があったのでソファ代わりに収容して持ち帰る事にした。
「それっ」
ん?収容出来ない…?
「ジェイクどうした?」
「いえ、この荷物を収容しようとしたのですが収容出来なくて…」
「え?そうなの?」
もう一度試す。
やはり収容出来ない。
「空間に収容出来ないと言う事は…生き物か?」
「ええ?生き物を貨物室に置いとく?」
「いずれにしても確かめてみます?」
「…そうだな」
俺は恐る恐る荷物の紐を解いた。
すると中には…!
獣人族の少女がマスクで口を塞がれ身動きできない様に拘束し薬か魔術か分からないが眠らされていた。
「ヒル姐…これって?」
「…うむ、犬の獣人族の少女の様だな」
「どういう事?」
「状況からして攫われたと考えるのが妥当だろう」
「ひどい…。一体誰が?犯人はこの船に乗ってる訳ね?」
「うむ、恐らくな」
「取り敢えず解放します」
「いや、待て。もし犯人が確認に来たら私達がこの少女の存在に気付いたのがバレてしまう」
「だからって…このままにはして置けないわ」
「私だって同じ思いだ、だが助けたいなら船を降りた後だ。船上で騒ぎを起こしてもこの娘も私達も不利な状況だ」
「でもせめてマスクと拘束衣位とってあげても…」
「荷物だけなら私の感知眼で事前に誰か来るのを察知して直ぐに元通りに出来るが、生きているものに元通りに直ぐ戻すのは無理なハズだ」
「…確かに生きているものに元通り装着するのは無理です」
「この娘には申し訳ないが、幸か不幸か寝ているから今はこのままそっとしておこう、但し船を降りたら皆で救出すると言う事でどうだろうか」
「…分かった」
「…分かりました、それが一番確実にこの娘を救出する術ですね」
そう言うと俺は静かに起こさない様、紐を元通りにした。
「ごめん…後で必ず助けるから。もう少し我慢してて」
何とも居心地が悪くなった船底で俺達は静かにプラハス大陸に着くのを待った。
途中何回か見回りが来たがヒル姐の感知眼と俺の空間魔術で何事も無かった様にしたから特に騒ぎが起こる事もなく予定通りにプラハス大陸に到着した。




