第22話 ダンジョン第三層 人族の冒険者パーティー
今日は第三層だ。
1日一層のペースで進めているから思ったより順調に進んでいる。
第二層から第三層へ下ると水の音が聞こえた。
地下水脈があるのか川のせせらぎと遠くには滝の様な音も聞こえる。
水がある分気温は低く感じ湿度も高い。
第一層は細かい迷路だったが第二層は第一層より道が広がり、第三層まで来ると完全に迷路と言うより広い部屋に所々土の柱があるといった感じで見通しは良くなった。
しばらく進むとヒル姐が複数の魔力を感知し魔物と遭遇した。
蛾だ。蛾の大群だ。
蛾と言っても前世の蝶々と変わらない大きさの蛾では無く、ゲイラカイト位ある。
羽に目玉みたいな模様があるのもゲイラカイトを彷彿させる。
ただ色はゲイラカイトみたいに白地に目玉じゃなく、赤、それもベルベットみたいなモフモフした質感の赤で目玉みたいな模様は緑と黒の二重丸模様だ。
いや、完全に毒持ってるでしょ?
そんな蛾が20匹はいる。
蛾の大群は俺達に気付きこっちに飛んでくる!
それはバッサバッサと音を立て向かってくる!
羽を羽ばたかせる度、赤い粉が舞ってるがアレ絶対毒でしょ?
吸わなければ害が無いかも知れないが、分からない以上触らないかからない様にした方が賢明だと思い魔力がもったい無い気もするがアンバーに火属性魔術を射出してもらい距離を取った方がいいな。
「アンバー!ここは火属性でお願いします!」
「分かった!」
アンバーの王笏から大きめの火弾が数個射出され蛾の大群目掛け飛んでいく。
アンバーの射出した火弾は蛾の大群の一部に当たり燃えたが、舞っていた蛾の鱗粉に着火し激しい火の雨が辺りに舞い踊る!!
爆風によってその火の粉、と言うより火の散弾銃は俺達にも迫り来る!!
「アンバー、ヒル姐俺の影に!!」
俺は掌を火の散弾銃に向け開く!
火は見る見る俺の前から消えた。
安心したのも束の間、蛾の大群は炎の蛾になり飛んで来る!
その鱗粉は火の粉となりあちこちに火をばら撒きながら迫り来る!
しかも火が落ちた地面や壁はジュウジュウとくすぶりながら煙を上げている。
毒に引火して火と毒の相乗効果になっちゃったのか!?
あんな蛾の大群の下に入ろうもんなら溜まったもんじゃないぞ!?
「っ!?」
アンバーが水属性魔術を射出した!
火がヤバいなら水、そうだろう!
ナイス!アンバー!
水の玉が炎の蛾に命中する!
すると今度は火が爆発した!まるで煮え滾る油に水を注いだ様だ!!!
俺は空間魔術を全開にし弾けた火を収容するがあちこちに乱反射している火は間に合わないのもある!!
「きゃあぁぁあ!!」
「ぐぉおおぉ…!!」
「あっぢぃいいぃぃぃ!!」
その火は1000℃はあるんじゃないかと思う位の熱さだ!!
よく見ると蛾に当たったり火の粉に当たった水が地面に落ち水溜りが出来てる。
その水溜りはブクブクと泡が弾けて煙を噴いている。
塩酸みたいな感じで入れば溶けるだろうと想像させる。
火もダメ、水もダメならなんだ!?
雷??風??土??
土かっ!!
「アンバー!天井から土槍を蛾に!!」
「土槍…!」
熱さに耐えながらアンバーが土槍を発動する。
すると土の天井から硬く形成された槍の雨が蛾の大群に降り注ぐ!!
流石にこれには蛾の大群も串刺しになり土の槍ごと地面に突き刺さり息絶えた。
「はぁ、はぁ…アンバー、ヒル姐、大丈夫ですかっ!?」
「ええ、何とか…」
「私も大丈夫だ…」
全員全身にいくつもの点の火傷を負っている。
皮膚もそうだが髪の毛も縮れ、服にも穴が開き今までで最大にダメージを負った。
アンバーに全員ハイヒーリングをかけて貰い穴の開いた服以外は回復出来た。
が、アンバーの魔量を相当使ってしまった。
回復系魔法封印紙を使っても良かったがまだアンバーの魔量がある内は保険として取っておいた。
「今回はなかなか手こずったな…」
「はい、やはり地下迷路は大変なトコだと痛感しました。それにアンバーの魔量も大分減らしちゃいましたし」
「私の魔量ならまだ大丈夫よ、それに地下に潜れば潜るほど魔力が強くなるから魔量回復も早い気がするの」
「確かに魔力は地上と比べてかなり高いな」
「取り敢えずテント出しますのでアンバーは中で休んで魔量回復して下さい。その間、俺とヒル姐も見張りしながら休憩して体制を整えましょう」
ー
2時間位、休んだろうか。
アンバーがテントから出てきた。
「ありがとう、ジェイク、ヒル姐。もうすっかり回復したわ」
「早いな、やっぱり魔力が強い分回復が早いんだな」
と言う事は魔力濃度によって魔量回復の早さが違うと言う事か。
「それじゃあ出発しますか」
俺はテントと武器を空間魔術でしまい体力温存の為にも手ぶらで出発した。
第三層を歩いていると川のせせらぎが聞こえていたから当然、川があった。
その地下水脈で出来た川は幅2m位で流れはゆっくりだ。
俺達は川の流れに沿って下る形で歩いていると途中、例の蛾の大群に襲われたが倒し方が分かっていれば問題無かった。
しばらく川に沿って歩くと地底湖が現れた。
地底湖のほとりに人族らしきパーティーがいた。
何やら探している様だ。
「おい、どうすんだよ!?」
「どうすんだよ、ったって仕方ねーだろ」
「まあまあ、落ち着きましょう」
何やら揉めている様だ。
「せっかく手に入れた魔宝を地底湖に落とすバカいるか?」
「好きで落とした訳じゃねーだろが」
え!?魔宝手に入れたの??
「しっ!!」
人族パーティーの1人が俺達に気付く。
すると魔宝を落とした事を責め立てていた人族が俺達を睨む。
「何だぁ?魔族のパーティーか?」
「あ、どうも」
取り敢えず会釈程度はする。
「さっさと行けや」
魔宝を落としたらしき人族が言う。
関わりたくないからさっさと行きたいがこの人達が魔宝を手に入れたならこれ以上進む意味が無い。
「すいません、今聞こえちゃったんですけど魔宝はもう手に入れられたのですか?」
「ほら見ろ、テメーが大声で騒いでんからこいつ等にバレちまったじゃねーか」
「っるせーな、元はと言えばテメーが落としたのが悪りーんじゃねーのか?ああ?」
「止めろって、お前等!今はそんな事言ってる場合じゃねーだろ」
「あ、別に僕達は貴方達が手に入れた魔宝を奪おうって訳じゃ無いですよ、ただ既に魔宝が無いならこれ以上先に進んでも仕方ないなと思って聞いただけですから」
「嘘つけ、テメー等みてーな卑怯種族が簡単に諦めて引き返す訳あるか、騙されねーぞ」
「誰が卑怯なのよ!何なのあんた等さっきから。イライラしてるからってコッチに当たらないでくれる?」
うん、アンバーが正しい。
初対面で低姿勢に出たのにいきなり卑怯者呼ばわりは無いよな。
「オメー等魔族が卑怯種族ってのは世界の常識じゃねーか、何今更言ってんだ」
え?そうなん?俺達魔族は卑怯種族って言うのが世界基準なの??
「世間でどう言われていようと私達は人の物を横取りする様な卑怯者では無い」
「ふん、そう言って騙すのが手だろ?」
「ちょっとあんた、いい加減にしなさいよ…」
「待て待て待て、ノヴァとシェハラもその辺にしろ。この魔族パーティーは魔宝が無いなら引き返すって言ってるじゃねーか、しかも見たトコ子供だし俺等を騙そうなんて考えてねーよ、大体にして武器すら持ってねーじゃねーか。こいつ等に敵意はねー、そうだろ?お前等?」
仲裁役だった人族が間に入る。
武器は無い訳じゃないが、わざわざ初対面の人族に空間魔術をバラす事を無い。
「はい、先程から言っている様に敵意はありません。目的であった魔宝が無いなら引き返すだけです」
「ああ、魔宝は俺達が既に手に入れた。だがこいつが間違って地底湖に落としちまって揉めてたってトコだ。いや恥ずかしいトコ見せちったな。オメー等も八つ当たりなんかしやがって、謝れ」
「別に謝る程、悪りー事してねーだろ」
「あのなぁ…」
「いえ、ホント別に謝る程じゃないですよ」
別に謝れても謝られなくてもどっちでもいい。
「謝りなさいよ」
1人は除いてだ。
「アンバーいいじゃないか、じゃあ引き返しましょうか?」
「すまねーな、気をつけてな」
仲裁役の人族が人懐っこそうな笑顔で謝る。
「っぺ!」
他の2人は魔族なんざファ○ク!って感じだ。
まあ、いい。
「参考までに1つ聞いていいですか?」
「何だ?魔宝は何かってか?」
「はい」
「ははは、悪りーがそれは秘密だ」
仲裁役の人族がまたハニかんだ笑顔で言う。
「分かりました、それじゃあ」
「ああ、それじゃあ」
残念だが仕方ない。
俺達は踵を返し川沿いに戻る事にした。
「ジェイク」
「はい」
俺は空間魔術でブレードソードをヒル姐の背中に添う様に出す。
キンッ!!と乾いた金属音が地下迷路に響く!
振り返ると仲裁役の人族が俺の出したブレードソードと自身が振った剣がぶつかり驚いていた。
「なっ!?」
「やっぱりね」
魔力を高めるアンバーに王笏を出す。
第二層でクオリスさんにアドバイス貰ってて良かった。
アドバイスが無かったら無防備に信用して後ろから斬り捨てられてたトコだったな。
「ヒル姐はフランベルジュとハルバートどっちがいいですか?」
「ハルバートで頼む」
俺はヒル姐の差し出した手にハルバートを出現させる。
俺はブレードソードを回収し右手に出す。
「ま、まさか、く、空間魔術か??」
人族は驚きを隠せない。
「それは今、関係無いでしょ」
俺はブレードソードを回し構える。
「だから卑怯者の魔族に騙し討ちは効かねーって言ったろうが!偉大なる火の神よ、火弾!!」
魔宝を落とした人族が火弾を俺に向け放つ!
と、横から別の火弾が人族の放った火弾に衝突し弾ける。
アンバーが放った火弾だ。
「あんたの相手は私よ、さっきからイラつかせてくれた落とし前払ってもらうわ」
「はっはぁ、こりゃいい!1番楽できるぜ!」
「っ!?何ですって!!」
今のアンバーに効果音付けるならカッチーン!!だろうな。
「じゃあ俺はこっちの女頂くとするぜ!!」
「何を頂くのか分からんが相手してやろう」
となると俺は偽善ぶった仲裁役の人族か。
「で?何か言い訳しますか?」
「はあ?何の言い訳だ?後ろから襲った言い訳か?それなら…これでどうだ?雷神の狩人よ!雷矢!!」
ふむ、この人族達は無詠唱では魔術を発動出来ない様だ。
省略しては使えるみたいだが、それでは意味が無い。
人族から雷の矢が飛んでくる!!
俺はその矢に突っ込み掌をかざす!
俺と人族の間の雷は消え、人族は驚く。
驚きながらも剣を振ってくる、この辺は経験値のある冒険者だからか?
が、俺は焦らず今貰った雷の矢を返してあげる。
「っ!?」
人族は目を見開き両手で剣を前に構え盾代わりにする!
いや、金属の盾じゃダメだろ?
避けろよ、と心の中で呟いたが時既に遅し。
自分で放った雷で自分が感電してりゃ世話無い。
人族は黒焦げになり倒れる。
まあ、ジャブみたいな雷属性魔術だから死にはしないだろう。
アンバーへ目をやると王笏で剣と闘っている。
いくらアンバーの王笏でも剣で斬りつけられれば切れるだろう。
アンバーもそれは分かっているからまともにやりあわず、相手の剣筋を見切り相手が空振った剣の腹目掛け王笏で突いて相手の体勢を崩し返す刀の王笏で相手を引っ叩いている。
つーか、魔術士なんだから魔術使えよ、とも思ったがアンバーの怒りが棒で引っぱたくと言う選択をしたのだろう。
相手は堪らず距離を取り魔術を発動しようとする。
「偉大なる…ふべっ!!」
アンバーが距離を縮め王笏で横っ面を引っぱたく!
うん、詠唱なんかしてる時間は無いぞ。
倒れた相手跨ぎ、その口に王笏を石の方からねじ込む!
「っが!?」
あ、顎外れた。
「もごごご!もごっもごっ!!」
顎が外れて喋れない口にアンバーが王笏をグリグリねじ込んでいる。
「えぇ??何て?はっきり言いなさいよ!」
アンバーは目の色を変え見下しながら微笑んでいる、いやその表情は恍惚とも言える。
「っ!?」
顎を外された人族がアンバーの足首を掴む。
「ちょっと!誰が触っていいって言った?」
「あごごごごごごごごーーっ!!」
アンバーが魔族特有な八重歯を見せる様に口角を上げる。
悪い顔だ…。
多分触られたお仕置きに王笏の先の石に火をつけたな。
「もがっ!もごもごもごもごっ!?」
「だから何よ、1番楽な相手なんじゃないの?早く魔術なりなんなり発動してみなさいよ!このブタ!」
このブタ!は何か違うんじゃないかと思うが、ダメだ。
アンバー完全に酔っている、ありゃドSの目だ。
「もごもごもごもご、もごごごごっ!!」
「あ〜ははは、もごもご言って発動する魔術なんか無いわよ。って言うか詠唱しなきゃ魔術使えないくせにこのアンバー様を舐めるからこう言う目に合うのよ!さあ、アンバー女王に許しを乞いなさい!まあ、許さないけど」
完全にプレイだな…。
「もごもごもごごごごっ!」
「うん、いい加減もごもごもごもご聞き飽きたわ。それじゃあサヨナラ。私は無詠唱で魔術発動出来るから」
「もごごごごごごご!!!!!」
「あーはははっ!!」
「止めろっ!アンバー!!」
「逝きなさい」
「もごーーーーーっ!!」
もごもご言ってた人族は白目向いて涙流しながら顎が外れた口からは泡を噴いてる。
しかも下はビショビショのグショグショで異臭を放ってる。
死んでない…??
気絶しただけ?
「ふんっ、このブタヤロウが」
アンバーは恍惚の表情から一転冷めた目で気絶した人族を見下ろした。
でもその冷たい目もそっちの方には需要がありそうだな。
いかん、いかん。
アンバーのドSプレイに気を取られヒル姐を放置したままだった!
「ジェイク、私の事は忘れてたか?」
振り向くとヒル姐は人族を椅子代わりにし足を組んで座ってる。
しかも人族はパンイチだ。
その手足は土魔術で拘束され体の至る所青アザだらけだ。
こちらもハルバートでひっぱたかれ回されたのだろう。
なぜパンイチかは不明だが。
ん?こちらの椅子型人族は何か嬉しそう?
抵抗する素振りもないしな。
「ご、ごほんっ。さて貴方に質問があります」
俺はヒル姐の椅子に話しかける。
「あぁ?何も話すことなんかねーぞ、ゴラぁ!」
ん?よくこいつ椅子型になってんのに強気な発言出来るな。
「質問に答えろ!」
パッシーン!
ヒル姐が座ったままハルバートの柄で椅子の尻を引っぱたく。
「あぁう…」
キモっ…。
「貴方たちはこうやって他の冒険者達を襲うのが手なのですか?」
「あぁ?な…」
パッシーン!
尻を引っぱたく乾いた音が虚しく響く。
「はいぃ…。油断させてライバルを消し更に金や奪った武器を換金して儲け、あわよくば魔宝も横取りする事を生業にしてますぅ」
「もしかして第二層で死んでたパーティーもあなた方の仕業ですか?」
パッシーン!
「はいぃい…。俺達がやりましたぁ」
「それじゃあ魔宝を見つけてなくしたと言うのも」
パッシーン!
「はいぃ。嘘ですぅ…」
「このパーティーのリーダーは誰です?」
「………………」
「ん?どうしました?リーダーは誰です?」
「………………」
まさか……こいつ待ってる?
「ヒル姐、すいません…」
パッシーン!
「あぁ…。そこで黒焦げになってるマエロージュですぅ…」
「今まで何組位のパーティーをそうやって襲ったのですか?」
パッシーン!
「数えきれましぇん…」
「全員殺したのですか?」
パッシーン!
「はいぃ…。基本的には後ろから一突きに殺りましたが、たまに女子供だったら攫って売飛ばしたりしました」
「そうですか…。ヒル姐どいて下さい…」
ヒル姐が立ち上がる。
「あっ…、おい、テメー何どかしてんだよ!」
「っ!?」
俺は手加減無しにブレードソードの刃じゃない腹で変態椅子の頭を粉砕する勢いで殴った。
死んだら死んだだ。
幸か不幸か死にはしなかったみたいだが。
その後、思いっきり硬くした土魔術で猿轡をして魔術詠唱出来なくして同じく土魔術で作った一畳程の檻に閉じ込めて俺達は先に進んだ。
運がよけりゃ生き残るか助けられるかするだろう。
だがアンバーとヒル姐の合作土魔術の檻はそうそう壊せないだろう。
まあ奴らの非道は書き記したからこの地下迷路でわざわざ自分達の魔量を消費してまで助ける輩がいるとは思えないが。
この檻を壊すだけの魔物やすり抜ける魔物に襲われたら運が悪い、それだけで済まされる事をこいつ等はしてきたのだから仕方あるまい。
まあ、運良く生き延びたら冒険者ギルドの然るべきところへ通報し助けてやるがいずれにしても牢獄か死刑だろう。
そんな事を考えながら地底湖の淵に沿い歩いていると下に落ちていく滝があった。
第四層には行けるだろうけど行き先は第四層とは限らないしどこまで落ちてくけ分からないのに飛び込む訳にもいかない。
周りを見渡しても下に続いている様な道は無い。
あるのは地底湖の真ん中にある島だけだ。
そうさっきから島は見えていて祠的な入り口っぽいのがあるのも分かってた。
でもどうやって島まで行く?
この暗い地底湖に入るのはリスク高過ぎだと避けてきたが、あそこに行くしかないのか?




