第20話 ダンジョン第一層 迷路の攻略法
【紅炎の焔】と言うパーティー名で冒険者ギルドに登録修正した。
パーティー名を付けたからと言って特にランクが上がったり下がったりは無い。
メリットとしてはパーティー名が分かっていたら再依頼とかしやすくなるのでリピーターが増えるとかあるらしい。
急ぐ旅でも無いからパーティー名襲名記念にギルド依頼を受けてみる事にした。
依頼板を眺めていると地中迷路調査があった。
何でもここタマンドの近くに新しい地下迷路が出来たみたいでそこの調査だ。
地下迷路には魔導具もしくは魔石と言った類いの魔宝が眠っているが、それに導かれる様に魔物が集まり中でも強い魔物が生き残り、魔宝の影響を受けまれに突然変異の魔物が出現するので魔物退治兼魔宝探しと言ったギルド依頼だ。
報酬はそのダンジョンの魔宝だ。
魔宝はその効果が大きければ大きい程地下迷路の規模と比例するらしい。
つまり魔宝に価値があればあるだけ広く深いと言う事だ。
もちろん魔物の数や強さも魔宝の強さに比例する。
依頼掲載日は4日前だが、まだ魔物退治の報告は無い。
イコール魔宝も見つかっていないという事だ。
魔宝の価値はもとより退治した魔物自体にも魔導具に使ったり出来る部位があったりして価値がある事もあるので危険も伴うがボーナス依頼でもあったりする。
但し、Cランク以上のパーティー限定だ。
早速俺達【紅炎の焔】はギルドを出て地下迷路の調査に必要な物の買い出しに出かける。
買う物は、取り敢えず1カ月分の食料と治癒系魔法封印紙に松明位だいいだろう。
火と水は魔術でどうとでもなるし、食材や治癒系魔法封印紙なんかも俺の空間魔術で収容しておけば鮮度も保てるし重い荷物を背負う必要も無い。
それから天幕も一つ追加した。
これは簡易浴室だ。
空間魔術で収容すれば濡れたままで収容しても問題無いし、地下迷路の規模は分からないが地下迷路生活でも快適に過ごせる様、購入した。
更にヒル姐の新しい武器も購入した。
地下迷路内じゃ長いハルバートじゃ使い勝手が悪いので剣を購入した。
波打った両刃直身の剣、フランベルジュだ。
その後、宿に戻り食事をとり今夜はゆっくりして過ごした。
ーーー
翌朝、早めに起き朝食を取りいざ出発だ。
地下迷路へはタマンドの街を出て南に向かい2時間程歩いた森の中にあった。
その地下迷路への入口は森の中の小高い崖の麓の壁にぽっかり穴が開いていて、まるで岩の魔物が口を開けている様だ。
ここまでは俺が空間魔術で武器も含め収容してたから手ぶらだったが地下に入る前に武器だけは出しておこう。
そしていよいよ地下迷路に入ろうかと言う時、先に入っていたパーティーが俺達と入れ違いに出てきた。
魔族の男2人と女2人の4人組の若いと言うか中堅になりかけと言った雰囲気だろうか。
そのパーティーの男の1人が声をかけてくる。
「お前ら、これからここに入るのか?」
「はい、あなた達は既に入られていたのですか?」
「ああ、2日前に入ったのだがこの地下迷路は広いぞ。それに魔物も強い」
よく見ると4人共傷だらけだ。
「広くて魔物も強いと言う事は魔宝も価値が高いと言う事ですね」
「そういう事だろうな。ここに来たって事はCランク以上なんだろうがお前ら見たところまだ若いすぎるし、言っちゃ悪いが地下迷路経験少なさそうだな、まだここの地下迷路は早いと思うぜ」
「地下迷路は初めてなんですが、地上とは大分勝手が違うのですか?」
「はっ、地下迷路初めてだと!?なら尚更だ、止めとけ。お前らその若さでCランクって事はそれなりに強いんだろうが地上と地下迷路じゃそれこそ天と地の差だぞ」
「そんなにですか?」
「俺達だって5日程度の新地下迷路なら攻略出来る力はある、ランクだってBランクだ。だがこのザマだ。地下迷路攻略はまず先に調査済みの魔宝が無くなった残骸地下迷路からデビューすんのがセオリーだぞ」
「なるほどです。でも取り敢えず行ける所まで行って無理そうだったら引き返します」
「あのな、遠足じゃないんだから行ける所まで行ってなんてノリじゃ死ぬぞ?これ以上行けないって所まで行ったらそれと同じ距離戻らなきゃならないんだぞ。行きには遭遇しなかった魔物に遭遇する事だってよくある。そんなヘロヘロの状態で魔物に遭ってみろ、簡単に殺られるぞ」
「確かにそうですね…」
「大体にしてお前ら武器こそ持っているが食料もねぇじゃねーか。あまりにも軽装すぎだろ」
「あ、えーとですね。それは地下迷路内で倒した魔物を食材にすればいいかな〜?って…」
この人達は悪い人達じゃないみたいだが無駄に空間魔術の事話すのは得策じゃないだろう。
「はあ?マジで言ってんのか?地下迷路内の魔物なんか毒持ちやらゴースト系やらでとても食えたもんじゃねーぞ、そんな事も知らねーで地下迷路に入るつもりだったのか?マジで止めとけって」
「そうですね、そしたら入口から少しだけ入って様子だけでも見て出てきます」
「ったく、死んでも知らねーぞ?仕方ねー奴らだ、んじゃあこれ持ってけ」
魔族の冒険者は黄色い魔法陣が描かれた魔法封印紙を3枚くれた。
俺達が持っている治癒系魔法封印紙は白だが黄色いこの魔法陣は…?
「これは…?」
「やっぱ持ってなかったか…。まさかお前ら松明か何かで地下迷路に入るつもりだったんじゃねーだろうな。つーか、松明すら持ってねぇじゃねーか。しょーがねーな、いいか、松明なんか持ってたら片手がふざがるだろうが、そんなんで魔物とまともに闘えるか?そこで両手が空くように明かりになる照明系魔法封印紙で地下迷路に入るのは基本だぞ」
「なるほど、ありがとうございます!」
「なんだかんだ言って魔族同士、知らねー間柄でもこうして話した魔族に死なれちゃ寝覚めが悪いからな、ちょっと様子覗いたらスグ出てきて出直せよ、分かったな」
「ありがとうございます、僕達は【紅炎の焔】と言います。パーティー名を伺っても?」
「【梟の鉤爪】だ、俺らもしばらくはタマンドを拠点にこの地下迷路調査にいるつもりだからまたその内会うだろうよ」
「はい、宜しくお願いします」
そう言い俺達は別れた。
なかなか親切な魔族パーティーで勉強になった。
「我々も少し地下迷路調査を軽んじてたな」
「はい、軽く考えていました」
こう言うトコから時間を無駄にするし結果パーティーを危険晒す事になるから反省すべき経験だ。
「それでジェイク、あんた魔力流せる様になったの?」
「そうですよね、魔力流せないと魔法封印紙使えないですからね」
空間魔術が使える様になったから何となく魔力を流すと言う感覚も分かる気がするが、どうだろう。
俺は魔法封印紙を持ち魔法陣に魔力を流してみる。
!!!
魔力が流れた、と言うか光が眩しすぎて魔力流せた感動より眩しさが前面に出てもうた。
「やったわね、ジェイク!!」
「それにしても明るいな」
続いてアンバーとヒル姐も魔法封印紙に魔力を流す。
当然、光った。
光ったが俺の程明るくない。
例えるなら俺のがサーチライトなら2人のはLEDの懐中電灯と言った感じだ。
「ちょっと、ジェイク。あんたの魔法封印紙だけやけに明るいわね」
「そうですね、取り替えます?」
「い、いいわよ。別に」
「多分、魔法封印紙の出来不出来と言うよりジェイクの魔力の強さだと思うぞ」
「くっ…。じゃ、じゃあジェイク、そんだけ明るいんだからあんた先頭行きなさいよ」
「分かりました。それじゃあ僕が先頭、アンバーが真ん中、ヒル姐が殿で行きましょう」
「了解だ」
「ジェイク、地下迷路の中は幽霊が出るらしいから気をつけてね」
「っ!?マ、マジっすか!?」
「ふふん、そんだけ明るい照明あれば大丈夫でしょ」
「バカな事言ってないで行くぞ」
各自、魔法封印紙を額に貼りいよいよ地下迷路に入っていく。
中に入ると真っ暗闇なのだろうが俺の明る過ぎる照明系魔法封印紙で昼間の様に明るい。
普通に屋内って感じだ。
地下迷路は思ったより狭くなく普通にヒル姐でも歩ける位の高さがある。
尤も壁は洞穴、といった感じで土壁だが、これが廃墟なんかに出来る地下迷路だと石レンガ造りの壁だったりする事もあるらしい。
入口から100m程進んだ辺りで道が3方向に分かれている。
進んできた道と合わせ十字路だ。
前世で確か、迷路は右手を壁に付けて歩けば出口に辿り着くと聞いた事がある。
ならばこの右手法で進んでみるとするか。
ちなみに真っ直ぐ行っても、左に行っても右に行っても魔物はいるとヒル姐は言っている。
右に曲がり壁伝いに50m程進んだ所でヒル姐が「その先の壁を曲がったトコに魔物が2匹いるぞ」と言ったので俺達は武器を構え進む。
!?
蛙だ、体長1m程で黒に近い紺に黄色い虎柄のデカい蛙だ!
「ヴェノムフロッグだ。触られたりするなよ、触られるだけで毒で動けなくなるぞ!ましてや舐められたりすれば命にも関わるぞ!」
俺の照明で目眩しになっているところにブレードソードで斬りかかる。
1匹目はあっさり斬り捨てられたが2匹目がジャンプして飛びかかってくる!
俺は慌てず横っとびに躱すがヴェノムフロッグも長い舌を出し俺を追従する。
紫の舌が俺に迫るが、これを斬り捨てる。
斬られた舌を激しくのたうち回す様に振り回すヴェノムフロッグ!
「うぉっ!?」
明らかに毒!と言った体液があちこちに飛び散る!
俺は能力強化のおかげでそれらを躱す。
ヴェノムフロッグの背後から火の玉が飛んできてヴェノムフロッグは焼け焦げた!
「ふぅー、ありがとうアンバー」
「大丈夫?ジェイク」
「ジェイク、大丈夫だったか?」
「ええ、大丈夫です。でも確かに地上にいる魔物とは違いますね、ヒル姐が魔力感知眼で分かってたのとヴェノムフロッグって魔物を知ってたおかげで無傷で済みましたけど知らずに松明持って片手で闘っていたらと思うと無傷では済まなかったかも知れません」
「後、私のおかげね」
「確かに助かりました。ありがとうございます」
「ただこれからはジェイク中心に剣技で地下迷路は進みたいな、休憩をとったり時間を置けば魔力は回復するが、いざ魔力が必要な時に魔力切れだと地下迷路内では逃げ場も無い場合が想定されるからな、出来るだけ魔力温存で行こう」
「分かりました」
「魔力はいざという時ね、分かったわヒル姐。と言う訳でジェイク頑張ってね」
「え?アンバーだって棒術使えるじゃん」
「私に何かあったら誰が治癒するのよ!」
「ぐう…。確かに」
それからも右手法で進んだ、途中何回かヴェノムフロッグに遭遇したが全て奇襲攻撃で事なく退治した。
で、気づけば右手法で一周回って、始めの十字路に戻ってきた。
確かに右手法で出口に出たが、それは入口に戻った事を意味していた。
途中で中に入らないからもしやと思ったが壁伝いに一周しただけだ。
「ちょっと、ジェイク!元に戻っただけじゃない!」
「さーせん…」
「一旦撤収して紙とペンを用意するか?」
「いえ、その前に試したい事があるのですが…」
「何?今度は左手で、って言うんじゃ無いでしょうね?」
「いえ、途中で思ったんですけど壁伝いに歩いて行く際、壁に目印を付けながら歩けば2度目に通る時は、そこは通った、と言う目印になるので目印があったらそこを仮想の壁として右手伝いにして進めば中まで調査できると思うんです」
「…どうゆう事?」
「つまり、右手で壁伝いに線を引いていき分岐の際に線が引いてあった壁があったらその壁の手前で仮想の壁があるものとして右伝いに進めば同じ道は通らないと言う事か」
「はい、そうです。それに逆に進めば戻る事も出来ますし、どうでしょうか?」
「ふ、ふ〜ん。い、いいんじゃない?ジェイクの説明がわかりづらかったけど、私も同じ事考えてたのよ。ほ、ホントだかんね」
「はい、それでは今度はその手法で進んでみましょうか?」
他の冒険者達もいるので分からなくならない様、地面付近に拾った棒で線を引きながら再出発した。
ガリガリと音がするから魔物に気づかれやすくなるのと、結果しらみ潰しし歩く事になるので歩数が増え効率的では無い欠点があるが、魔物はヒル姐が事前に感知出来るし、歩数は訓練兼地下迷路徹底調査と言う事で割り切った。
途中、他の冒険者達とも遭遇した。
魔族パーティー3組と炭鉱族パーティー1組、そして人族パーティー2組だ。
時に前世で登山途中ですれ違う時の様な爽やかな挨拶を交わす事は無く、お互い警戒しつつすれ違ったり曲がり角で鉢合わせる時は身構えたりするといった感じだ。
俺達はヒル姐のおかげで事前に誰か来るのが分かるが相手はどこの誰だが、はたまた魔物なのか分からないから当然っちゃあ当然だ。
また冒険者同士ではあるが魔宝を求める競合者なので情報交換なんかも無くただ黙ってすれ違うだけだ。
そんな感じで1日目は第一層を調査した。
全部は調査仕切れなかったが第二層へと続くであろう下り坂を見つけたので今日はその下り坂の手前にある広場に天幕を張り野営する事にした。
ちなみに第一層にいた魔物はヴェノムフロッグとブーメランバットの2種類だけだったので無事クリア出来た。
ヴェノムフロッグは毒持ちの為、食料にならなかったがブーメランバットは食べらるので夜食はブーメランバットの丸焼きにして、硬く長い骨は壁につける目印の棒代わりにする事にした。
特にその日の夜は魔物に襲われる事も無く休め、俺とアンバーと入れ替わりでヒル姐にも休んでもらった。
翌朝?俺の空間魔術に収納してあった食材を出し朝食を済ませ第二層へと進む。




