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第19話 空間魔術

残酷な表現があります。

苦手な方は本話はスルーして下さい。

 ヒル姐を攫い、俺とアンバーを奴隷市場に流そうとした人族のパーティーは壊滅した。


 卑怯者の人族が1人気絶してるがわざわざ殺す事も無いだろう。

 死んで終わらせるより今までの罪を償わせる方が意味がある。

 もちろん敵討ちされるならされるで助けるつもりも毛頭無いが。


 このまま放置プレイで此処に置いていっても良いが罪を償わせる為には面倒だがトータリスまで戻って当局に引き渡すしか無い。


 一先ず俺がトータリスまで戻り当局関係者を呼んでくる。


 ヒル姐とアンバーなら夜になってしまうが大丈夫だろう。

 俺は能力強化(レインフォースド)でトータリスまで一気に戻り冒険者ギルドに行き事情を説明し関係者に同行してもらう。



 現場には夜中になって戻ってきた。


 ん?

 何か様子がおかしい…。

 ヒル姐もアンバーも無事だが魔術士2の様子がおかしいのだ。

 土魔術で棺桶の様な箱状に固められて顔だけ出しているが何か細い?


 っ!?

 魔術士2の両腕が無いのか!?


 聞いたところによると、あれから暫くして魔術士2は気がついたそうだが気絶してるフリをしてヒル姐とアンバーの隙を伺っていたそうだ。

 そして逃げようとするだけならまだしも、魔力回復を待ちまた懲りもせず雷属性の魔術を発動させ2人を殺そうとしたところをヒル姐の魔力感知眼でバレ、怒りを買い、ヒル姐がハルバートで両腕を切り落とし更に傷口を火魔術で焼き2度と魔術を使えない様にしたんだとか。


 トータリスの冒険者ギルド関係者も魔術士2を見るなり人攫い、殺人、ギルド依頼横領などで近々デッドオアライブで指名手配を掛ける容疑者だと言う事で俺達の主張が全面的に通り、正当防衛と犯人確保で罪に咎められる事は無かった。


 魔獣士2は最後まで見苦しく何か喚いていたが知った事か。

 と言うより最後まで名前さえ覚えられなかったな。

 何かマッチョが名前言ってた気もするが…ま、いっか!



 とりあえず罪人とは言え人が死んだところで野営するのも何なんで今夜は先に進む事にした。



「ね、ねぇ、ジェイク…」

「はい?」

「あ、あの…さ、さ、さっきは…」

 ??

「ま、守ってくれて、あ、ありがとぅ…」

「え?あ、いや、ど、どう致しまして」


 アンバーがモジモジしながらお礼を言ってくるから、何か俺までドギマギするやん!?

 いつもだったら『誰が助けてくれなんて言ったの?私がジェイクを助けてあげるつもりだったのに!』とか言うのに。


「な、何ですか?ヒル姐!?」

 ヒル姐が目を逆三日月にしてニヤニヤと俺とアンバーを見てる。

「ふふふ、いえ。別にぃ」


 アンバーも何か言ってって、何!?赤くなってんの??


 あ〜何だろ?このドキドキ感?前世の中学生だった頃に味わった様な甘酸っぱい感じ…。


 これってもしや…。


 いやいや、いかん!

 アンバーは幼なじみでパーティーの仲間だ。


 でも逆にこーゆーシチュエーションって…。


 あ〜〜〜〜〜、俺の中の天使と悪魔が闘っているぅ!


 イエス!!今が楽しい!!


「で、ジェイク。さっきの空間魔術だが…」


「…………………」


「おい!ジェイク?聞いてるか?ったく、アンバーお前からも…ってお前もボーっとしてんのか?」


「…………………」


「おーい…。お二人さ〜ん。

 ったく、おい!ジェイク!!アンバー!!」


「はぃい?呼びました?ヒル姐さん…?」


「しっかりしろ!2人とも。

 それよりジェイクの空間魔術だが……伏せろっ!!」


 ヒル姐の声にハッとし全員伏せる!


 頭の上を何かが素早く通り過ぎた!!

 通り過ぎた何かは先で宙返りしてまた向かって来る。

 ブーメランバットだ。

 両翼を広げるとブーメランみたいな形状で翼は硬くブーメランの様に回転して飛んで相手にぶつかる両翼広げると2mある蝙蝠の魔獣だ。


「ふっ、僕に任せて下さい。アンバー、ヒルディ、下がってて」

「ジェイク…」

 やっぱアンバー俺に気があるな。うっへっへ。


 俺は右手の掌をブーメランバットに向け広げる。

 雷に比べれば小さき者よ。

 吸い込まれるが良い!!


「ってーーーーー!!」

 右手に思いっきりブーメランバットが当たった!!

 つーか手ぇ折れたよ!!

 吸い込まねーし!!


「ったく、しっかりしろジェイク!」

 右手を押さえる俺を尻目にヒル姐がハルバートでブーメランバットを仕留めた。


「ジェイク、大丈夫?」

「え、ええ。すいません」

 アンバーが治癒魔術をかけてくれ腕は治った。

 とほほ…だぜ。


 だけど何で今は空間魔術が効かなかったんだ?

 魔術にしか空間魔術は使えないのか?


「アンバー、俺に火力弱めで火弾ファイヤーボール打ってくれませんか?」

「えぇ?大丈夫?」

「はい、ちょっと試したいので」

 俺は立ち上がりアンバーとヒル姐から10m程離れ位置に立った。


「それじゃあ火力弱め、速度遅めでお願いします」

 そう言い右掌をアンバーに向ける。


「じゃ、じゃあ行くわよ…火弾ファイヤーボール

 アンバーから小さめの火弾ファイヤーボールが射出された。

 火弾ファイヤーボールが徐々に近づく!

「はぁあ!!」

 俺は左手で右手首を掴み右掌に意識を集中した!


 っ!?

 消えた!!アンバーが放った火弾ファイヤーボールが俺の前で消えた!


「ふんっ!!」

 俺は便秘を踏ん張る様な掛け声と共に右掌を宙に向かって広げ意識を集中した!

 するとアンバーが放った火弾ファイヤーボールと同じ火力、速度で宙に射出された。


「やっぱり空間魔術使えるんだな!」

「すごい!ジェイク!」


 う〜ん、魔術には有効なのか?


「アンバー、次は本気の火弾ファイヤーボールをお願いします」

「分かった!火弾ファイヤーボール!!!」


 え、ちょ、早っ!!

 まだ構えてねーし。

 慌てて右掌を火弾ファイヤーボールに向ける!

 消えた。


「次は氷散弾アイスショットをお願いします」

氷散弾アイスショット!!」

 今度は左掌を向ける!

 これも消えた!


 なるほど、左右は関係無しに魔術には有効なんだな。


 アンバーとヒル姐のトコに戻るとブロードソードを地面に置いて右掌を向け意識を集中する。

 っ!?

 ブロードソードが消えた!

 また右掌に意識を集中してブロードソードをイメージする。

 ブロードソードが出た!


「ヒル姐のハルバートをお借りしてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 ヒル姐がハルバートを俺の前に出す。

 俺は右掌を向け意識を集中してする。


 …………


 消えない?


「はぁあ!!」

 冷たいプールに入る様な掛け声と共に右掌を思いっきり広げるが消えない。


 う〜ん、大きさか?

 でも雷の方がデカイだろ?


 続いてアンバーの王笏でも試したが消えない。


 人の所有物だとダメなのか?


 試しに近場にある木に向けたがダメだった。


 が、木の横にあった大きな岩に向けたら消えた!!

 何処に消えたが分からないが俺自身に重さは感じていない。


「はぁあ!」

 掛け声と共に岩を出すイメージをすれば大きな岩がドスンと現れ地面を揺らした。


 もしや?


「ヒル姐、ハルバートを俺に放り投げてもらっていいですか?」

「うむ、そらっ!」

 ハルバートに向け掌を向ける。

 消えた!


「アンバー、王笏を地面に置いてみて下さい」

「え、ええ」

 消えた。


 次に左手に王笏、右手にハルバートをイメージする。

 左手に王笏、右手にハルバートが出た。

 それぞれをアンバーとヒル姐に返す。


 さっきアンバーに打ってもらった氷散弾アイスショットを木に向け射出する。

 うん、出た。


 散弾銃で撃った様な命中音がして木が折れる。

 折れた木に向け掌を広げれば木が消えた。

 さっきは消えなかったのに。


 つまりこういう事か。


 ・誰かが持っている物や身につけている物(これはここだけの話アンバーの服で先程試した)は消せない。

 ・生きている物も消せない。

 ・逆に言うとその状態以外は消せる。

 ・出す時は消した状態で出る。

 これは雷は雷のまま、火は消える事無く吸い込んだ状態のまま、氷も溶ける事無く氷ったまま出たからそういう事だろう。


 他に、どれ位の収容量があるのかとか、鮮度はどれ位持つのかとか試す事はあるが基本的な使い勝手はそんなとこだろう。


 とりあえずアンバーの火弾ファイヤーボールと折れた木が収容してあるから後で出して確かめてみよう。


「しかし、言い伝えでしか聞いた事無かった空間魔術が実在したなんてまだ信じられないな」

「ヒル姐でさえ見た事無かったの?」

「ああ、初めて見た」


「だけど空間魔術以外は、やっぱり使えないみたいです」

 試しに詠唱して火弾ファイヤーボールを試したが不発だった。


「まあ、いいじゃないか。空間魔術が使えるなんてかなりレア魔術だぞ」

「確かにそうかも知れませんが…」

「自信持ちなさいよ、ジェイク。魔術使えなくても魔術溜め込んで発動させればいいだけじゃない」

「っ!?」

 そうか!どれ位収容出来るか分からないが人が発動した魔術を貯めればさっきの狂乱大雷(ヒステリックバースト)みたいな皇級魔術だって魔力消費ほとんど無しでいきなり発動出来たもんな!


「ありがとう!!アンバー!!流石天才魔術士だよ!!」

 嬉しさ余って思わずアンバーを抱き締めた!

「っ!?ちょ、ジェ、ジェイク?」

 アンバーは真っ赤になり直立不動になる!が…。

「ちょ…っと、ジェイク…!」

 アンバーが我に返ったのか俺を引き離し王笏を下から突き上げ見事に俺の顎にアッパーカットを決める!


「がっ…は…!」

 俺は口から血を拭きながら倒れる。

「ちょ、調子に乗ってんじゃないわよ!」

「ふいまふぇん…」(すいません)

「ま、まあ、た、たまにだったらいいけど…!」

「ありあふぉおあいまふ…あふぉ、おえおあお」(ありがとうございます…後、俺の顎)

「ふん…!」

 回復魔術をかけてくれ治ったが、いくら回復魔術で治せるからって遠慮無しに怪我させるのやめて欲しい…。

 痛い目に会うには変わりないのだから…。


「とりあえず、天幕テントやらその他の荷物は空間魔術でしまっておきます。手軽な方がいいでしょう?ハルバートや王笏も俺が預かりますか?」

「ああ、そうだな。手ぶらの方が楽だし私の魔力感知眼があれば敵を察知してから武器出してもらっても間に合うだろうし、そうしてもらうか」

「じゃあ私も」


 それからの旅は手ぶらで進める様になった。

 更に天幕テントも設置したまま収納して、そのままの形で出せるから設置時間もかからない。

 ちなみに火属性や雷属性、氷属性の魔術を収納していても他の物が焼けたり濡れたりする事も無かった。


 これは使い様によっては便利だがネコ型ロボットのポケット的魔術だな。

 尤もしまって出せるだけで便利グッズが出てくる訳は無いが…。


 しばらく歩き少し開けた場所に出たので今夜はここで野営する事にした。

 早速天幕テントを出し野営準備完了だ。


 ヒル姐に魔力感知眼で晩飯になりそうな魔物を探してもらい俺とアンバーで仕留めに行く。


 そんな感じで新たなスキルを手に入れた嬉しさ噛み締め就寝しようとしたが、アンバーと狭い天幕テントの中に2人きりだと思うと何かドキドキしてきた。

 心なしかアンバーもそわそわしてる気がする。

 ただ、まだ体はお子ちゃまなのでどこかが大きくなる事も無く健全にドキドキするだけだ。


 先々は分からんが……。



 ーーー



 翌朝、昨日収納した魔術各種を出してみた。

 魔術の大きさ強さは収納したままだ。

 寝たらリセットされるという事は無さそうだ。


 天幕テントをそのまま収納し俺達は出発した。



 昼になり今までは木の陰とかで仮眠してもらってたヒル姐にも天幕テントを直ぐに用意できるので天幕テントで休んでもらった。


 午後は魔物及び魔獣退治兼食材確保しながら進む。



 ーーー



 そんな調子で旅は順調に進み無事タマンドに着いた。


 タマンドは前の街トータリスと同じ位の街並みだが魔族以外の種族が増えてきた。

 段々と港町リヨークに近づいてきたからだろうかプラハス大陸からの冒険者や商人が増えてきたのだろう。


 とは言え、ここはまだ魔族主体の大陸、アクリアだから種族の割合的には魔族6割、炭鉱族ドワーフ1割、人族1割、獣人族1割.その他1割と言った感じだ。

 またつまらないイザコザに巻き込まれなければいいが。

 それでも警戒ばかりじゃ疲れるし、せっかくの旅だから楽しまなきゃな。

 いい人ばかりじゃないけど、悪い人ばかりでも無いって言ってたし。


 タマンドても先ずは冒険者ギルドに行き汎用依頼の報告を済ませ、その他トレンドと言うか情報収集をする。

 出る杭にはなりたくないが同業者の知り合いはいないよりいた方がいいだろうから冒険者ギルドでもオープンな雰囲気を出す様にした。


 その後、街に出て魔獣やら魔物の売れる部位を売り旅の資金を貯める。


 宿を決め街を見て回り1日目は過ぎた。



 翌日も冒険者ギルドに顔を出し依頼を見たりこの後の行程を確認していると若手の冒険者パーティーが話しかけてきた。

 魔族の10代後半の3人組だ。

 3人とも男子で魔族とは言え普通、と言った印象だ。

 彼は【南国の鳥羽】と言うパーティー名だと挨拶された後、俺達のパーティー名は?と聞かれた。


 パーティーを組んだらパーティーを付けなければならないと言う規則は無いが大体のパーティーはパーティー名を付けているとの事だった。


 そういうものなのかと、俺達もパーティー名を付けようとなり今は冒険者ギルドのテラスで会議中だ。


「それでは僕達のパーティー名について考えたいと思います。まずはそれぞれの思う案を言って頂き良い名前があったら採用するとしたいと思います」

「それなら良いのがあるわ」

 アンバーが直ぐに挙手した。大体分かる。


「パーティー名に個人名を入れるのは個人情報保護面から無しです」

「こ、個人情報なんとかって何よ!?」

「むやみに個人の名前とか情報を第三者に知られて悪用されない為の自己防衛手段の一つです」

「くっ…」

 どうせアンバーと愉快な仲間達とかそんな感じだったのだろう。


「はい」

「はい、ヒルディくん」

 何故か挙手制になっているが、まあいいか。


「無敵の騎士団」

「う、う〜ん…ま、まあ、悪くは無いと思いますが…何となくストレート過ぎると言うか、もう少し捻りがあっても良いかと…」


「はい」

「はい、アンバーくん」

「金髪の天才魔術士軍団はどう?」

「金髪の魔術士はアンバーだけじゃないですか…」

「ジェイクは何か無いのか?」

「え?…そうですねぇ…」

 パッと良いのは思い浮かばないが…こういうのはやっぱ厨二魂丸出しな感じが良いかも知れないな。


「ファントム オブ ナイト、とか」

「私は不死魔族だがファントム系でも無いし、お前らはそもそも不死魔族でも無いじゃないか」

「ジェイクも大した事無いわね」

「ぐぅ…」


 その後、「王笏を持つ美女」「不退転の騎士」「ソウル オブ ファイヤー」「黒きマントの魔術団」「鋼鉄の旅団」「ブラックマジシャン」等々出たが、

【紅炎の焔】で落ち着いた。


 最後は面倒くさいからルーファスの弟子と言う事でルーファスの剣から名前を頂いただけだ。


 さて、パーティー名も決まったし旗でも作って名前を知らしめるかと冗談で言ったらアンバーは大賛成した。行く先々で【紅炎の焔】の名前を岩や壁に刻んでみたりしたいとも言い出した。

 もちろん俺とヒル姐で止めたが…。


 やはりアンバーはヤンキー気質だな…。

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