第17話 旅立ち
アンバーとヒル姐とパーティーを組んで3年が経ち俺は10歳、アンバーは12歳になった。
ちなみにヒル姐は不死魔族で歳を取らないので20歳のままだ。
ヒルディさんことヒル姐の事は一緒に城で暮らす様になって間もなくヒル姐と呼ぶ様になった。
ヒル姐はイケメン女子で武士道貫く事から姐御と言うか姐さんっぽいトコから自然とヒル姐さんと呼ぶ様になった。
そして、ヒル姐が、さん付けは止めろと言うのでヒル姐になったって訳だ。
この3年で俺とアンバーはだいぶ成長したと思う。
Bクラスの魔物や魔獣なら1人で楽勝だ。
Aクラスはなかなか現れないから滅多に闘う機会が無いが、たまに出現したと聞けば討伐に行きアンバー、ヒル姐の3人ならまず負けない。
それからガラディンへの買い付けは俺達のパーティーが訓練がてら専門に行っていたのだが3年も通い続ける中、アンバー街道なる道が開通した。
毎回ガラディンに行く際、アンバーが土魔術の訓練として土魔術で道を作ったのだ。
きちんとした道が出来、ルーベリル村とガラディンの交流は容易になりお互いの街は活性化した。
アンバー街道は森も切り拓き、かつてルーファスが作って俺達がアニエスと闘って半壊した小屋も俺達が木材と魔術でちょっとした砦を作りルーベリル村とガラディンの中継地として役立っている。
そしてアンバー街道付近は俺達が行き来する際に魔物も魔獣も退治したので比較的安心な道となったのでガラディンへの買い付けも大人の男なら普通に行き来出来る様になったし、ガラディンからも行商人が来る様になったので俺達の仕事も減った。
そんな中、俺の魔術はと言うと、そう、ご想像通り未だ発動しない、する気配も無い。
おかげで?剣技は見る見るレベルアップした。
買い付けの仕事も無くなり剣技、魔術のレベルも上がったのでいよいよヒル姐の親父さんで不死魔王のビルヘルム・ファビウスに謁見しヒル姐との再会に向かおうと思うとルーファスに相談した。
ルーファスも毎日俺達に稽古を付けていてくれているから俺達の実力も分かっている。
分かっているからプラハス大陸のファビウス家への旅を認めてくれた。
ミランダもメリッサも子供達と離れる事を寂しがるでも無くあっさり行ってらっしゃいと言ってくれた。
それはそれで少し寂しいと言ったら、順調に行けば1年位で帰ってくるでしょ、1年なんかスグよとあっけらかんとしたもんだった。
どうやら魔族と俺の前世の時間感覚にだいぶズレがある様だ。
アンバーも当たり前の様に寂しがる事もなかった。
という訳で旅立ちの朝。
「それではヒル姐の家まで行ってきます」
「おう、気をつけてな。ヤバい時はアンバーとヒルディの安全を優先すんだぞ」
「はい、分かっています」
「アンバーも調子に乗るんじゃないよ」
「分かってるって。ちゃんとリーダーシップ取るわ」
「ったく、あんたは…。ジェイク、ヒルディ宜しくね」
「ヒルディはまた帰ってくるんでしょ?」
「はい、その予定です。父には無事な姿を見せれば安心するでしょうし」
「んじゃ、マジで気をつけてな」
「行ってらっしゃい」
「この村の事は心配いらないから旅を楽しんできなさい」
「それから、も一つ。
このルーベリル村やガラディンがあるアクリア大陸は基本的には魔族が主体の大陸だ。まあ、中にはハワードみたいに炭鉱族だったり、他の種族がいたりする事もあるがそれはハワードみたいな変わり者かアクリア大陸に冒険で来ている旅人だ」
確かにルーベリル村みたいな田舎は別としてガラディンみたいな大きな街でも魔族以外の種族ってあんま見ないな。
「要するにこのアクリア大陸から一歩出れば色んな種族がいて色んな目で魔族を見る奴もいるって事だ。だからって無闇に喧嘩なんかすんじゃねーぞ。まあ、その辺の事は不死魔族になったがヒルディも良く分かっていると思うが」
ヒル姐も神妙な顔して頷いている。
あれか?ヘイト問題的なやつか?
まあ、やはりと言うか何と言うかその手の問題ってどの世界にもあんだな。
「分かりました、では行ってきます!」
先ずはアンバー街道をガラディンに向い冒険者ギルドに寄ってヒル姐に出されてる彷徨える王女救出依頼を正式に受ける必要がある。
ーーー
ガラディンへはアンバー街道でいつも通り平穏に着いた。
とりあえず急ぐ旅でも無いので定宿となった【熊の口髭亭】にチェックインしてガラディンで一泊してから再出発だ。
ガラディンでは顔馴染みになったので気兼ねなく街を歩ける。
早速俺達は彷徨える王女救出依頼を受ける為、冒険者ギルドに行く。
と言っても彷徨える王女ことヒル姐は既に一緒にいるので依頼主であるヒル姐の親父さんビルヘルムに救出報告に行くだけなのだが。
「よう、アンバー、ヒルディ。ジェイクは相変わらずデケェ剣担いでんな」
冒険者のサルファーが声を掛けてくる。
「こんにちは、サルファーさん。愛剣ですからね」
そう3年前のアニエスとの闘いで最初の愛剣であった愛剣の木剣が折れたので、あの後新たな愛剣を作ったのだ。
作者は愛剣の木剣と同じルーベリル村のハワードさんだ。
既に剣を実戦で使った事もあると言う事で刃のついた真剣を持つ事がルーファスから許可されたので木剣では無い。
新しいマイソードはブロードソードだ。
幅広の両刃で直身、まあ冒険者らしく剣士らしいオーソドックスな剣だが、なんだかんだ言って使い勝手がいい。
ただ今の俺の身長に対しては長く太いからより大きな剣に見えるようだ。
サルファーさんとのやり取りで剣の事を考えて歩いている間に冒険者ギルドに着いた。
実は冒険者ギルドに来るのは3年振りだ。
アニエス討伐以来のご無沙汰だ。
あれから3年間毎日座学と訓練の日々を送ってたし、買い付けやルーベリル村近辺の魔物退治やらで仕事としてのギルド依頼を受ける時間が無かったし、とりあえずとは言え冒険者としてCランクまで上がってたからと言うのもある。
久しぶりって言うか2回目の冒険者ギルドに入ったが特に何も無い。
冒険者ギルドへは2回目だがガラディンの街や近辺で大体の冒険者と顔見知りになってるからだ。
受付カウンターに行き彷徨える王女救出依頼を受けに来た事を伝える。
3年前と同じ魔族女性の受付嬢だったから話は早い。
すぐにギルドマスターのエルヴィンさんの部屋に通された。
部屋に入るなり巨大な拳が飛んできた!!
俺は能力強化のおかげで拳が俺の顔面を捉える寸前にしゃがみ躱したが頭の上をスゴい風圧が掠めた。
慌てて見てみればエルヴィンさんが振り下ろす形で右ストレートを放ったのだった。
「ちっ!」
当たらなかった事に舌打ちするエルヴィンさん。
「ちょ、エ、エルヴィンさん!?」
「お前、この3年間何してたんだよ!」
「え?え?何って…えーっと…マナー学んだり、剣技訓練したり、ルーベリル村の…」
「そういう事聞いてんじゃねー!何で3年間もの間ここに顔出さなかったんだ?って聞いてんだよ!」
「えーっと…普段は訓練してたり、買い付けが……っ!?」
今度は右下から巨大な拳が迫ってきた!
これも能力強化のおかげで躱す。
「ちっ!何で躱すんだ?!」
「何でって、そんな拳でぶっ飛ばされたら痛いでしょうよ!」
「ぶっ飛ばしてーから殴ってんだろうが!」
はあ?滅茶苦茶な事言ってんなぁ。
「ルーファスに宜しく伝えてくれっつっのはどうした?!」
「ちゃんと伝えましたよ!なあアンバー、ヒル姐?!」
「ええ、ちゃんと伝えたわよ!」
「じゃあ何であの野郎は俺に会いに来ない?それにお前らもだ!」
ああ、そーゆー事か。
エルヴィンさん寂しがり屋さんなのね。
「ふーっ、ふーっ…」
あ、エルヴィンさんも目を三角にして鼻息荒く怒ってる。
ルーファスと言い、魔族って怒ると桜○花○デフォ入るの??
そんな事言ってる場合じゃないか。
「あ、えーっと、父様もエルヴィンさんの事気にかけてました!あいつの体逞しいだろうって」
「っ!?」
あ、エルヴィンさんの鼻がピクついた!
嬉しいと鼻がピクつくのも魔族の特徴だな。
あと一押しで落とせる。
「僕達もエルヴィンさんに会いたかったんですけど、自信を持って彷徨える王女救出依頼を受けれる位の実力をつけてエルヴィンさんに褒めてもらいたい一心で修行してたのでつい3年、いえ、あっという間に3年が過ぎてしまいました。本当にすいません!でもそれだけエルヴィンさんに認めらるたかったんです!!」
チラッとアンバーとヒル姐にアイコンタクトで話を合わせろと合図を送ろうとするが2人ともベタ目になってる。
やっぱクサすぎたか…。
恐る恐るエルヴィンさんを見る。
「っ!?」
両方の鼻がパカパカしてるっ!!
えぇ!?効果あった?
「ちっ、ったく、しょーがねーなぁ。そんな一生懸命にならなくったって俺ぁオメー等の事、認めてんぜ?」
「ホントデスカッ!アリガトウゴザイマスッ!」
そう言いながらエルヴィンさんの手を掴み握手する。
「っ!?お、おう。まあこれからは気軽に顔出せよ」
ふーっ、やれやれだぜ。
「まあ、立ち話も何だ、座れよ。で、ヒルディの親父さんに会いに行くって?」
「はい、ようやく会いに行きます」
「そっか、まあオメー等の強さは噂でよく聞くし、さっきの俺のブーストパンチも難無く躱すぐれーだから大丈夫だとは思うが闘い以外にも気をつけるんだぜ」
「はい、色んな種族と会う事になるから色々気をつけろと父様からも言われました」
「ま、若ぇ内から色んな世界見てまわんのも良い事だ」
そう言うとエルヴィンさんは自分の机の引き出しから1枚のカードサイズの石板を持ってきた。
その石板には魔法陣が書いてある。
「この石板に魔力流し込みな」
残念ながら俺は魔力流す事が出来ないのでパーティーリーダーのヒル姐にやってもらおうと思ったが依頼主の血縁者と救出目的者じゃ意味が無いって事でアンバーが魔力を流した。
すると魔法陣が赤く光った。
「よし、これで後はヒルディの親父さん、ビルヘルムさんに会ってこの石板に魔力流してもらいな。そうすっとこの魔法陣が青く輝く。もちろんビルヘルムさん以外の魔力流したって何も起きねーし、お前等以外がこの石板手に入れても石板はその効果を無くす」
なるほど、これでギルド依頼の横取りや達成偽装なんかの不正を防ぐ訳か。
「もし、この石板を無くしたり壊したりしたら?」
「そん時ゃ、最寄りの冒険者ギルドに寄ってまたここからやり直しだ、達成報告もここのギルドじゃ無く最寄りのギルドで報告しても有効だ」
「それじゃ別にここに来なくてもいいですね」
エルヴィンさんの眉がピクッとあがる。
しまった!!余計な事言った!!
「いや、ダメだ。オメー等は俺の特別な配慮で新人登録した瞬間にCランク登録してやったの忘れたか?
だから俺の特権でオメー等特別扱い冒険者は1年に1度はガラディン支部へ安全確認の為、出頭する事を命じる。従わなかった場合は冒険者登録抹消だ。但し、長期間ギルド依頼を抱えている際は依頼達成時に出頭する事で免除する。いいな!?嫌なら他の新人冒険者同様下位依頼から地道にランク上げればいいだけだ」
くそぅ、なんて大人気ない寂しがり屋なんだ。
「…分かりました。1年に1度は顔出します。ただ今回の依頼は少なくとも1年はかかると思いますので宜しくお願いします」
「うむ、気をつけて行ってこい」
くっそぉ…エルヴィンめ…伊達にギルドマスターやってねぇな。
その後、冒険者ギルドを出るとアンバーとヒル姐から後頭部を連打された。
能力強化で避けれなくも無かったが、ここは甘んじて受け入れよう。
さて、宿に帰り食堂で晩飯を頂き部屋に戻り今後の予定を確認する。
まずは明朝ガラディンを出立し、一路北西に向いアクリア大陸の最北西部の港町リヨークへ向う。
リヨークから船でプラハス大陸に行き、上陸後はプラハス大陸のほぼ中心地に位置するファビウス家実家である不死魔王城を目指す。
簡単に言うとこうだが道程は長い。
歩いて修行がてら行ってもいいが、ここはやはり足が欲しい。
残念ながらこの世界には車やバイクと言った類は無いので馬車か移動用の従魔を手に入れるしか無い。
まあ、従魔は行く行くはGETしたいが生憎まだ俺達は従魔を従えていない。
従って選択肢は乗り合い馬車か徒歩だ。
とりあえずガラディンを出て次の街トータリスまでは歩いて7日だ。
お金もある程度は持っているがいつ必要を迫られるか分からないからなるべく節制したい。
ここは冒険者ギルドでBもしくはCランクの魔物退治系の依頼をいくつか受け次の街まで歩いて移動しながら依頼をこなし冒険者ギルドトータリス支部で換金する事にした。
まだ体力は十分だし訓練がてら魔物退治をしてある程度金も貯めれるし一石二鳥と考えれば今はこれでいいだろう。
更に依頼以外でもお金に換金出来る魔物や魔獣に遭遇すれば退治して経験値とお金を貯めよう。
「それじゃあ、明日朝食を取ったら出発しましょう」
俺達は明日からの旅に備え早めに就寝した。
ーーー
明朝予定通り朝食を取り、【熊の口髭亭】をチェックアウトした。
【熊の口髭亭】の亭主ことハーレイが弁当代わりの携帯食を持たせてくれたので食材になる獲物を狩る必要性も無いから今日はなるべく進めるだけ進んでおこう。
そしてガラディンの街を行き交う人に挨拶しながら街を出た。
草原を歩いている間は魔物に遭遇する事も無く順調進めたおかげも有り日が暮れる頃には森の入り口付近まで来る事が出来た。
「それじゃあ今日はここで野宿するとするか」
ヒル姐の提案に俺達は同意して天幕を張った。
晩飯の食材はヒル姐の魔力感知眼を活用し食材になる魔獣を探し仕止める段取りだ。
ちなみに夜の見張りもヒル姐が買って出てくれた。
何でも不死魔族だから寝なくても大丈夫との事とやはりと言うか昼より夜の方が調子いいと言う理由もあるそうだ。
普段も別に寝なくてもいいんだが起きっぱなしも時間を持て余し暇だから普段は普通に寝てるそうだ。
とは言え、起きっぱなしで旅させるのも気が引けるので昼間の移動中の休憩時や昼飯なんかで纏まった時間がある時寝てもらうとした。
しかし、魔力感知眼で敵を避けたり見つけたり、夜は寝ずの番をしてくれるなんてヒル姐様々と言うか俺達にとってはヒル姐チートと呼べるスキル持ちだ。
そんな訳で軍刀野猪を探知し仕止め晩飯とした。
ちなみに軍刀野猪は俺が剣技で仕止め、アンバーが火属性魔術で調理した。
せめてそれ位はしないと申し訳が立たない。
夜はヒル姐のおかげで俺とアンバーはぐっすり寝れた。
後から聞いたが俺達が寝てる間はゴブリン5匹と一角野兎が現れたとの事だった。
ヒル姐曰くいい暇つぶしになったとの事だった。
まあ、ヒル姐の実力からすると確かに楽勝だろうけど襲撃されたら遠慮無く起こしてくれと言っておいた。
ヒル姐は大概の魔物や魔獣は問題ないが大物の時は助太刀を頼むと言う事で了承してくれた。




