第15話 彷徨える王女
「ジェイク?あんた何セコい事言ってんの?
男のクセに女の子の弱みに付け込むなんて許せない…」
アンバーの魔力がみるみる上がってくる。
「いや、アンバー。ジェイクの言ってる事は何も間違っていない。そういう約束だ」
ヒルディさんがアンバーを制する。
「ヒルディさん…」
アンバーが心配そうな目でヒルディさんを見る。
ヒルディさんは優しげな目でアンバーを諭す。
ヒルディさんみたいな若いイケメン女子に何でも言う事を聞かせられる…。
前世だったらエロい事言いつけそうだ。否!言い付けるな。
「ジェイクゥ…あんた、やっぱり…」
アンバーが再び魔力を上げる。
俺はアンバーに掌を見せ待ってくれと示す。
「ヒルディさん、それじゃあお願いを聞いてもらいます」
「ああ、何なりと言ってくれ」
「その前にひとつ質問していいですか?」
「何だ?」
「ヒルディさんはこの後どうするんですか?」
「さあ、まだ決めていないがまずはお前達の願いを聞き約束を果たす。
その後は行く当てもないし、着の身着のままで旅にでも出るか、な」
「そうですか。では俺達の願いを聞いてもらいます」
「ああ」
「俺達の仲間になって下さい」
「っ!?」
「え、ジェイク?あんたの願いって…?」
アンバーが拍子抜けした顔で俺を見る。
「アンバー。相談なしに俺の勝手でヒルディさんにお願いしてゴメン」
「え?あ、いや、まあ、私は別にそれならいいけど…」
「ヒルディさん、これはお願いであって命令ではありません。嫌なら嫌で断って結構です」
ヒルディさんも鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。
「えっと、あの、その…なんだ?そんな事って言うか、行く当ての無い私にとっては願ったり叶ったりの申し出だか……いいのか?」
「はい、それが俺達のお願いです。ね、アンバー先輩?」
「え、あ、ああ。そ、そうよ。私から言おうと思ってたのにジェイクが先言っちゃったけど、ヒルディさんどう?私達と一緒にいてくれる?」
「ああ、こちらこそ宜しく頼む…」
頭を下げるヒルディさんの目が潤んでた気がするが中身は大人な俺は見て見ぬ振りをしよう。
「もう一つついでと言っては何ですが、俺達、冒険者ギルドに登録したいのですが俺達と一緒に冒険者登録して貰えますか?」
「ああ、問題無い」
「ありがとうございます。
ところでもうすぐ夜が明けますが不死魔族の方って日光にあたって大丈夫なんですか?」
「ああ、不死魔族でも別に日常生活に変わりは無い。まあ中には日光が苦手な種もいるが私に関しては問題無い」
「それなら安心しました」
こうして長かった夜も明け、目的地であるガラディンに向け出発した。
「ところでヒルディさんは、おいくつなんですか?」
「生きていると言うか、生まれてからは800年位経つかな?ちなみに死んだのは20歳の時だから見た目は20歳のままだがな」
不死魔族と言うのは死なないから年も取らないのか。
「ねぇ、ヒルディさん、私も質問あるんだけどいい?」
「ん?何だ?」
「ヒルディさんの目って左右で色が違うじゃないですか?それって何か特別な意味あるんですか?」
「ああ、この目か。この目はアニエスに殺された時から色が変わったのだが、それに伴って魔力が見える様になった」
そう言いながら前髪をかきあげ金色の右目を見せてくれた。
「魔力って、どう見えるの?」
アンバーが興味津々に聞く。
俺も知りたい。
「魔力って言っても空気中に漂う魔力全てが見える訳じゃなく、誰かが魔力を高めている時や魔量の多い者の得意な魔力が見えると言ったものなのだが、
例えばアンバーは赤い魔力が強い。
これは火属性を得意とする者に見られる色だ」
「ヒルディさん、俺は?どう見えます?」
これは気になる!金属色角でいながら魔術が使えないんだからせめて得意属性だけでも分かれば、その属性を徹底的にブラッシュアップすればやがて魔術が発動出来る様になるかも知れないからな!
「ジェイクなんだが……。
実はその、色が見えないんだ。体全体を常に透明な魔力に包まれている様にジェイクの体の周りが歪んで見えるんだが、色は見えないんだ。ただ常に強力な魔力が出ている。
こんな事初めてだし、そもそも金属色角も800年生きていて初めて出会ったから、それと何か関係してるのかも知れないが…」
「そうですか…」
「すまない」
「いえ、ヒルディさんが謝る事じゃないですよ!」
う〜ん、そっかぁ。
やっぱりまだ俺の魔力は謎か…。
その後もお互いの事を話したり聞いたりしながらして歩き続けた。
道中はヒルディさんの魔力感知眼で魔物や魔獣の居場所が分かる為、無用な闘いは避ける事が出来たが森の治安維持の為にも退治しながら進んだ。
基本的にはヒルディさんが事前に感知出来る為、退治してくれた。
中には危険度Bクラスっぽいのもいたけどヒルディさんに掛かれば瞬殺だった。
ヒルディさんに言わせれば
「この森に何十年もいたんだ、どの敵も目じゃないよ」
との事だ。
アニエスに呪いをかけられてアニエスに攻撃出来なかったが、その実力は皇級に匹敵するだろう。
ちょうど昼時にガラディンの街に到着した。
街に入る時に検問があり身分を証明するものを見せる必要があったがこれはルーベリル村を出る時ルーファスが書いてくれた紹介状があったから問題無かった。
だが紹介状にはヒルディさんの事は書いてなかったから怪しまれたが道中知り合い意気投合して一緒にいると説明すると訝しながらもルーファスの子供と弟子と言う事で何とか入れた。
ガラディンは俺達の住むルーベリル村と比べると街自体も大きいから種族も多様で賑わっているかと思ったが種族的には魔族しかいなかった。
まあ、それでも賑わっている街だ。
初めての街で俺達と言うか俺とアンバーは完全にお上りさん状態だからか、街行く人達が俺達を見ている気がした。
まあ、先ずは今日泊まる宿探しからだが、これはすぐ見つかった。
街の入口付近に露店や商店、宿屋などが集まっているからだ。
俺達は【熊の口髭亭】と書かれた看板がぶら下がっている宿屋に入った。
中に入ると、カウンターになった受付けがあり右手に階段、左手は食堂兼酒場と言った感じの広間になっている。
俺達が入ってくるなり広間や入口付近にいた連中がジロジロと見てくる。
何なんだ?とりあえず誰か入ってきたからチラ見する位なら分かるが何をそんなにジロジロ見てんだ?
ああ、もしかしてあれか?
西部劇的な余所モン来たらとりあえず絡む的な威嚇行為か?
まあ、いい。放っておこう。
俺達は視線を無視してカウンターに向かう。
カウンターには口髭をたくわえた恰幅の良い魔族のおじさんがいる。
「い、いらっしゃ…い。子供2人にお、大人1人でいい…かい?」
口髭の亭主はヒルディさんに目を奪われている。
確かにヒルディさんイケメン女子だからな。
気持ちは分かる。気持ちは分かるがちょっと見惚れ過ぎじゃないか?
「あの〜、すいません。子供2人と大人1人でお願いします」
「あ?あ、ああ。すまない。えっと、食堂利用料と宿泊代で鉄貨5枚だ。食堂利用料には朝と夜の飯、お前さん達はまだ子供だから飲めないが酒も一杯分含まれてる」
「ありがとうございます。で、どの部屋ですか?」
「ああ、今案内するよ」
口髭の亭主の案内で2階に上がり短い廊下を歩く。
「な、なあ、あんたら…。
い、いや、何でもねぇ。宿屋の主人がお客の事、あれこれ詮索するもんじゃねぇな」
言いかけて止めるのは気にならないと言ったら嘘になるが、口髭の亭主の言う通り無駄にこちらの素性を晒す必要も無いだろう。
「だけど1ついいかな?この宿で揉め事は俺の責任で起こさせねぇ。周りの冒険者連中も暗黙の了解で何処の宿屋に行っても宿屋で揉め事は起こさねぇ。
だがな、もしあんたらが平穏過ごしてぇなら部屋での食事を勧めるぜ。言ってくれりゃ俺が部屋まで食事と飲み物は運ぶがどうだい?」
初めての宿だし食堂での食事も体験したいがゆっくりもしたいしな、ここはルームサービスも悪くないか。
「すいませんが、それじゃあ部屋まで食事と飲み物をお願い出来ますか?」
「ああ、それが良いと思うぜ」
俺達の部屋は最上階、と言っても2階建てだが…の角部屋だ。
「じゃあ日が暮れたら部屋に食事と飲み物を持ってくるぜ。
これから何処か出掛けるかい?」
「ええ、少し街をブラつこうかなと思ってます。それからこの街には冒険者ギルドはありますか?」
「ああ、冒険者ギルドなら街のちょうど反対側にあるぜ。それなりの建物だから行きゃ分かる。
だが街を意味なくブラつくってのは賛成しないがな」
「?」
「…………」
アンバーは何で?って顔をしてるがヒルディさんは疑問と言うより神妙な顔つきだ。
「この街は治安が悪いのですか?さっきも宿で面倒起こすなって注意してたし」
「あ、いや。そう言う訳じゃ無いんだが…」
「私の事だろ?」
口髭の亭主の煮え切らない様子にヒルディさんが口を開く。
ん?どういう事?
「あ、ああ。まあ…。
あんた、ひょっとして、まさかと思うが彷徨える王女のヒルディ王女じゃないかい?」
「ああ、そうだ」
彷徨える王女?
「ヒルディさんって有名なんですか?」
「彷徨える王女のヒルディと狂気の王女のアニエスって言ったら伝説的な難題のギルド依頼で有名だぜ。その王女様と特徴がピッタリの女を連れて歩いていれば否が応でも目立つってもんだぜ」
あ〜、なるほど!
だから街の人みんながジロジロ見てたのか!
「へぇ〜ヒルディさんって有名なのね」
感心した様にアンバーがヒルディさんを見る。
「いや、私と言うよりアニエスだろ。何せ私の救出とアニエスの討伐依頼で何百年もの時間と何百人もの犠牲がアニエスによって支払われたのだからな」
そりゃ不死魔族だからな、しかもアニエスの場合は永遠の束縛で自分で自分に呪いを掛け心臓から永遠の束縛を取り出し血を治癒魔術で浄化するなんて倒し方しか無いから普通に武力が強くても太剣打ち出来ないだろうからな。
「その彷徨える王女様がいるって事は狂気の王女は討伐されたのかい?」
「ああ、このジェイクとアンバーが私を狂気の王女アニエスから救ってくれたのだ」
「っ!?あんたら2人でかい!?
いくら魔族ったってまだ子供じゃないか!?
ん?!お前さんその角は金属色角か!?
いや、色んな客人を見てきたが金属色角は初めて見るな。
ああ、それなら分からなくもねぇ。
って事はお前さんはとんでもねぇ魔術士なんだな?」
「いや〜それが…」
「ジェイクは魔術が使えないの。だけど剣技はハンパじゃないわよ」
「え?!魔術が使えないで剣技で狂気の王女を倒したのか?!」
「まあ、でも最後に魔術で倒したのはアンバーなんですよ」
「ふふん、ジェイク。たまにはいい事言うわね」
アンバーは鼻がピクついてる。嬉しいのだろう。
「それが本当なら…いや、現にこうして彷徨える王女がここにいる以上本当なんだろ。
いやはや本当にお前さん達スゴいんだな」
口髭の亭主は目を四方眼にしながら感心してた。
「まあ、そんなお前さん達ならつまらない輩に絡まれても大丈夫だろうが、面倒はゴメンだろ。冒険者ギルドに行くんならヒルディさんには家の奴ので良ければフード付きのローブ貸してやるがどうする?」
おお、渡りに舟とはこの事。
が、ヒルディさんの答えは違った。
「ご厚意は有難く頂戴するが、ローブは遠慮させて頂く。
私を救出に来てくれた方には申し訳ないと思っているが、私自身は世間の目から隠れる様な生き方はしていない。
だから顔を隠す様なこそこそした生き方こそゴメンだ」
「…そうだ、な。お前さんの言う通りだ。
それに比べて俺の器の小さい事ったりゃありゃしねぇぜ。
そうだ!何もお前さんがこそこそする必要はねェ!
お前さん達さえ良けりゃ食堂だろうと何だろうと好きに使ってくれて構わねぇぞ!」
me too
俺も面倒避けようと計算してたよ…。ゴメン。
「流石ヒルディさんね!私も堂々と行くわ」
DAYONE〜。
やっぱ異世界でも女は強し、なのね。
「だが、食事と飲み物は部屋でゆっくり取りたいのでお願いしてもいいか?」
「そりゃもちろん構わねぇぜ」
それから俺達は冒険者ギルドに行く為、街に出た。
やっぱ皆の視線はヒルディさんに行く。
が、流石に話しかけてくる強者はいなかった。
もしそんな強者がいたら面倒が増えるからそこは助かった。
しばらく行くと噴水があり、その噴水を中心に道が広がっているからこの噴水が街の中心なんだろう。
来た道の反対方向へ進んで行くとしばらくして石造りの3階建ての建物が見えてきた。
あそこが冒険者ギルドだろう。
この辺まで来ると冒険者ギルドがあるからか、武器屋や防具屋なんかの商店が増え酒場なんかも結構ある。
商人なんかはヒルディさん目当てというより商人魂で話しかけてくるので用事が終わったら冷やかしてみるのも楽しそうだ。
あ、忘れてた。
そもそもこの街へはルーベリル村の買い物に来てたんだった!
何か色々あったから忘れてた…明日は朝から買い付けして帰らないとな。
そうこうしてる内に冒険者ギルドの建物に着いた。




