第13話 はじめてのお使い
7歳になった。
アンバーは9歳だ。
7歳になった俺は今日、はじめてのお使いに行く。
何でも東の森を抜けた先にガラディンと言う比較的大きい街があるそうで、そこに必要生活用品の買い出しに行くと言う訳だ。
ルーファスは町の護衛がある為、森より先には行けないので今までは町の人何人かのグループで行ったりしてたみたいだが、俺とアンバーが成長してある程度強くなったので、もう大丈夫だろうと言う事で今回の買い物に任命された。
ガラディンまでは大人の足で一日半かかるそうだが幼い頃から毎日訓練している俺達なら子供とは言え大人と変わらない時間で行けるだろう。
一応、中間地点になる森の中にルーファスが建てた小屋があってそこで一泊して行くのが通常らしい。
工程としては往復で3日掛かって、ガラディンで買い付けもあるので一泊。
計3泊4日と言う事だからはじめてのお使いと言うよりはじめての小旅行と言ってもいいかも知れない。
帰りは荷物もあるから中々の旅になりそうだ。
まぁルーファス曰く、この辺にはめったにCランク以上の魔物や魔獣はいないし俺とアンバーの強さならBクラスでも大丈夫だと言うから大丈夫だろう。
めったに、と言うのが気になるし、ルーファスの大丈夫はあまり当てにならないから不安もあるが俺達も実際Cランクは敵じゃないし、Bクラスでも2人がかりなら問題無い。
それ以上のクラスや集団で来られたら困るが、そん時はそん時だ。
逃げるか闘い方を考えるかしよう。
さて、いよいよ出発だ。
一応昼と夜の分の食料を持っているが基本的には軽装だ。
「それでは父様、母様行ってきます」
「ジェイク、あまり無理しないで危なくなったらスグに逃げるのよ」
「はい、母様」
「ピンチになったらアンバーだけは守るか先に逃がすかしろ、最悪お前は後でも死なない限りはアンバーの治癒魔術で治せるが、お前は治癒魔術使えないからアンバーがやられたら致命的だからな」
「はい、父様。肝に命じてアンバーの安全を優先します」
「ジェイク、安心しなさい。このアンバーが助けてあげるから」
「アンバー!何偉そうに言ってんの!あんたが守ってもらうんでしょ」
「お母さん、何で私が年下のジェイクに守ってもらうのよ!
ジェイクが前衛で闘って、私が後衛で守ってあげるんだから私がジェイク守るんじゃない」
「そう言う事言ってるんじゃ…」
「ま、まあまあ。とりあえずそんなに危険度が高い魔物は出ないから普通に気をつけて行けば大丈夫だろう」
「2人とも仲良くね。これが婚前旅行かも知れないんだから」
ミランダが悪戯な目線で茶化す。
「母様!!」
「ミランダ教授!!」
ったく、ミランダが変な事言うから微妙な空気になったじゃないか。
「とにかく、気をつけてな」
「アンバーもあまり偉そうにしないのよ」
「ふふふ、行ってらっしゃい」
ーーー
そんな送り出しで俺達は町を出発した。
草原は何事もなく通過し森に入った。
まあ当てにはならないとは言え、ルーファス曰くめったにCクラス以上の魔物は出ないって言ってたのを信じよう。
実際、森では何匹かの魔物に襲われたが問題なく退治した。
途中休憩を挟みながら日が暮れた頃、今日の目的地である小屋に到着した。
小屋はルーファスがある程度の整備と小屋の周りに魔除け代わりに雷属性の魔術を掛けているのでこの辺の魔物や魔獣なら近寄れないので思ったより綺麗だった。
ちなみにアンバーの王笏の先の石にも魔法陣が書いてあり低級な魔物や魔獣ならヤケドさせる位の魔力を帯びてるそうだ。
俺達は事前にルーファスから聞いていた場所に隠された魔法陣を見つけ一度雷属性の魔力を無効化して敷地内に入り、再度魔法陣を起動させ前世で言うところのセキュリティーをオンにした。
これで防犯と言う意味では今夜は安心して眠れるだろう。
簡単な晩飯を取り早めに就寝して明朝は早めに出発して午前中にはガラディン入りしたい。
あ、ちなみにアンバーは9歳、俺は7歳なので中身がおっさんとは言え一晩小屋に一緒にいても何も無い。
が、問題はある。
俺にとっては大問題だ。
こんな電気も無い世界の真っ暗い森にぽつんといる訳だ。
低級とは言え周りには魔物や魔獣がいる世界だ。
つまり何が言いたいかと言えば、アレだ。
アレと言えばアレしか無いだろう。
口するだけで恐ろしいアレだ。
要するに幽の霊さんだ。
前世から霊感はゼロだからその手のものを見たり、ましてや金縛りなんかにもあった事無いけど、俺は昔からその手が苦手なのだ。
もちろん転生してからも見た事無いがこの世界ならそんな存在がいてもおかしく無いだろう。
ってか絶対いるっしょ?!
かと言ってアンバーにバレようもんなら何言われるか分かったもんじゃない。
さて今晩どう切り抜けたものか……。
「あのぉ〜。アンバー先輩ぃ」
「何よ、あんたが先輩つける時はロクな事ないのよね」
「んな事ぁ無いッスよぉ。アンバー先輩は今日何処で寝るんスか?」
「はぁ?何処ってこの小屋部屋2つしか無いじゃない。私はあっちの部屋で寝るわよ」
「…じゃあ僕もあっちの部屋で寝ていッスか?」
「はぁあ?何言ってんの?ダメに決まってんじゃない!」
「…夜は冷え込みそうだし。一緒に寝た方がいいんじゃないかなぁなんて」
「あんた、まさか!ガキのくせにエッチな事考えてんじゃないでしょうね!」
アンバーが両手で自分の体を抱く様に隠す。
いやいやいや、アンバー、お前もガキだろ。
「そんな事考えて無いッスよぉ。ただ何かあった時一緒の方が安心じゃないッスかぁ?」
「何かって何よ!教授の魔法陣で魔物も魔獣も襲ってこれないし、魔族や人族だって簡単には入って来れないわよ」
そう言うとアンバーが急に立ち上がった。
「急に立ち上がってどうかしました?」
まさか、何かの気配がしたんじゃ無いだろうな。
「あんたが怪しいからトイレ行ってさっさと寝んのよ」
「一緒に行っていいッスか?」
バッカーン!!!
俺の能力強化でも見切れない速さで死角から棒の様なもので引っ叩かれた!
アンバーの王笏だ。
「良い訳無いでしょ!!この変態!!」
変態って…。
「違うんスよぉ…」
頭がクラクラしながらも口を開いた。
「違うって、何が違うのよ!」
「えっとぉ…。アンバー先輩はその…。アレですか…?」
「アレって何よ!」
このまま変態扱いされるより話した方がいいよな?
「つまり…幽霊的な…そう言う系は大丈夫なのかなぁって…」
アンバーは怪訝そうな顔で見てる。
「大丈夫ってどう言う事?!」
「いや…だから…怖くないのかなぁって…」
「怖いも怖くないも闘った事無いから分からないわ」
闘った事無いから分からない???
って事はやっぱ居るんスか??
「えっとぉ…つまりそれってぇ…やっぱぁ…いるって事ですか?」
「いるに決まってるじゃない。何言ってんの?」
ええぇぇえぇ???そんなにサラッと言う??
「見た事あるんですか……?」
「まだ無いけど、この森にだって何年か前から紫色の長い髪の女の人と赤い髪の長い女の人とがいるって話よ」
話よって…何でそんなに平然としてるの!?
「やっぱ一緒に寝て下さい!!お願いしますっ!!」
もう笑われてもいい!確実にいるの分かったから恥も外聞も無い!
「だからヤダって言ってるでしょ。出たら出たで話してみるか、相手の出方次第じゃあ闘えばいいでしょ!」
「そんな…俺霊感強く無いし、居ても分かんないッスよぉ」
「霊感って何だかよく分かんないけど、いれば分かるわよ。いきなりドアぶち破って入って来はいないでしょ。あ、でも赤い髪の方だったらあり得るか、何せイかれてるって話だしね」
えぇ〜、何そのイかれてた幽霊ってぇ、メッチャこえ〜じゃん。
コンコン…。
「っ!? な、な、ななな何の音ッスかぁあ??」
「何の音って誰かがノックしたんじゃない?でもどうやって雷を避けて入ってきたのかしら?ちょっとジェイク出てみなさいよ」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!アンバー先輩お願いしますっ!!」
「ちょ、あんた、何言ってんのよ。教授達からもあんたが先頭で頑張れっ言われてたじゃないのよ!」
「いやだってこれ確実に幽霊でしょ!?魔物や魔獣だった先頭立って闘いますから!!」
コンコン…。
「あんたの言う幽霊ってよく分かんないけど魔物とかと変わらないわよ。ほら、早く出なさいよ」
あ、もしかしてこのアンバーの冷静さってドッキリか何かか?
ルーファスあたりが今頃腹抱えて笑ってんじゃねーのか?
大体にして幽霊だったらコンコンなんてノック出来ないだろ?
そう考えればアンバーの言動に辻褄が合うっ!!
何だ、ビビらせやがって。
これで恐る恐るドア開けたらルーファスあたりが『わぁ!!』とか言ってビビらせる作戦だろ!?
ククク、ビビらせがって。バレバレだぜ。
アンバーよ。その冷静過ぎる演技が仇になったな。
大体にして周りはルーファスが仕掛けた雷の魔法陣で入って来れないんだからな。
ようし、そうと分かればサッとドア開けてルーファスがバカみたいにワァッ!!!とかやってきたら思いっきり冷めた目で父様、何してんですか?って言ってやる。
「分かりました。今、出ますよ」
俺は意を決しドアを開けた。
するとドアの前には馬鹿面こいたルーファスが立って、
いなかった!
代わりに立っていたのは紫色の髪の女の人だった!
「ぎぃいやゃあぁあぁああぁぁぁぁあぁあ!!!」
俺は腰が抜けた。
もしかしてルーファスが驚かす為に変装してんじゃねーのか!?
いや、違う体型も身長も違う。
「で、で、で、で、ででで出たたたたた」
「…驚かせたならすまない。決して怪しい者では…いや怪しいか、怪しいかも知れないがそなたたちに危害を加えようとする者では無い」
幽霊さんはそう言うと両手を肩の位置で開き見せた。
「えっと、どちら様ですか?」
アンバーよ、よくそんなに冷静に対応出来るな。
「私はヒルディ。訳あってこの森にいる。いきなりだがこの小屋から強い魔力を感じたのだが誰か光属性の魔術は使えるか?」
「光属性で言うと治癒魔術を中級までなら使えますが」
アンバーは普通に会話している。
ヒルディさんか。
足は生えてるし、噂の紫色のシトは髪が長いって言ってたけどヒルディさんはバッサリ肩位のボブだし。やっぱ幽霊的な生命体?じゃないのか?
前髪が右目に掛かる感じの横分けがイケメン女子感漂わせてるな。
身長も高いし足も長くてスタイルもいい。
オレンジ色のジャケットみたいな上着に同じ色のミニスカートがよく似合う。
だけどジャケットもスカートも左右の長さが違うみたいだけどそう言うデザインなのかな?
何かにスッパリ切られたみたいな感じがしないでも無いけど…。
よく見ると左右違うのは服だけじゃ無いな。
ニーハイブーツも右はモモ位まであるけど左はヒザ位だし。
二の腕から手の甲まで覆うヴァンブレイス?みたいな手だけの甲冑も左手だけだし。
目もオッドアイだ。左目は髪と同じ紫色だけど前髪で隠れ気味な右目は金色の瞳だ。
「!」
ヒルディさんがこっちを見る。
そりゃしげしげと見てたから俺の視線に気づくよな。
「不死魔族は初めて見るか?」
!!
不死魔族なの?
「あ、はい。初めてです」
「そうか、まあ不死魔族と言っても色んなタイプがいるがな。
ところでこの小屋には他に誰かいないのか?」
「はい。私達だけですが何か?」
アンバーが殺気立つ。
「落ち着け。さっきも言ったが怪しくともお前達に危害を加えるつもりは無い。
夜の森にいるから誰か大人の冒険者と一緒かと思ったがまさか子供2人だけとは。
いいか、よく聞け。
私を追って赤い髪の女が来る。SランクもしくはAランククラスの冒険者がいれば助けてもらおうかとこの小屋を訪ねたが、お前達だけなら巻き込む訳にはいかないから私は去る。
もし誰かが訪ねてきても絶対開けるな。
もう今日は火を消し、棚か何かの物陰に隠れ一晩やり過ごすんだ。
いいな」
そう言うとヒルディさんは踵を返し去ろうとした。
「あ!すいません、ヒルディさん!」
「何だ?時間が無いんだぞ」
「1つだけ。小屋の周りの雷結界はどうやって入って来たのですか?」
「自然に雷が放射し続ける事は無いから何処かに魔法陣もしくは魔法石があるだろうと探したら魔法陣があったから、その魔法陣の魔力を一時的に止めて入った。
だが安心しろ、入ってからまた魔法陣に魔力を流して起動させたし出た後も責任を持って魔法陣を起動させておく」
「なるほど。分かりました」
そうか、魔法陣で結界張ってても知性がある人なら簡単に解除出来るのか。
尤も魔物や魔獣の類ならその心配は無いだろうが。
「それじゃあさっさと物陰に隠れて大人しくして一晩過ごすんだぞ」
「はい、ヒルディさんも気を付けて」
ヒルディさんは気持ち、はにかんだ様にも見えたが何も言わず去って行った。
「ね、幽霊って言っても別に怖くないでしょ」
「え?不死魔族って幽霊なんですか?」
「だって幽霊って死んだ人の事でしょ。だったら不死魔族は幽霊じゃない」
「不死魔族って死なない魔族じゃないんですか?」
「そうよ、死なない魔族が不死魔族よ」
ん?どゆ事?
「はい、すいませんアンバー先輩。
不死魔族について教えて下さい」
「ふふふ、仕方ないわね。ジェイク、いいわ教えてあげる」
アンバーが顎を上げ見下ろしながら言うその表情は恍惚とした表情にも見える。
ホント頼られて教える時は嬉しそうだな。
「まず不死魔族と言う種族は、元々いた種族でも無いし自分達で子供を作って不死魔族の子孫を繁殖する訳では無いの。
生きていた者が死んでいわゆるアンデッドになった者達の事を総じて不死魔族と呼んでるの。
既に死んでいるから完全に消滅させない限り死なないから不死の魔族、不死魔族と呼ばれるって訳。
不死魔族になるには死んだまま放っておけば不死魔族というかゾンビやゴーストと言った低級な不死魔族になるけど、生前強かった戦士や魔物魔獣がアンデッドになると中級の不死魔族になるわ。
さっきのヒルディさんみたいに知性がある不死魔族は呪いか何かで不死魔族にされたか、なったって言うタイプで上級の不死魔族ね」
なるほど、不死魔族っていう種族じゃなく死んでなお生きる者達の事を不死魔族と言うのか。
たしかに目に見えているなら生きている者や魔物魔獣と変わらないか。
まあ中には見た目グロいのがいるかも知れないけどそれは魔物魔獣も一緒か。
「流石アンバー先輩、勉強になりますっ!」
「ふふん、いいのよジェイク。
まあ又分からない事があったらこのアンバーに…」
!!!!!
アンバーがドヤ顔決めてるその前を何かがすっ飛んで横切り小屋の奥にぶつかり瓦礫に埋もれた。
俺達は瓦礫の山に目をやるとバラバラと瓦礫を押しのける様に中から手が出てきてヒルディさんが出てきた。
「ガハッ、ゴホッゴホッ…。
お前達、さっさと物陰に隠れろと言ったのに…。
早く隠れろ!」
「あら?ヒルディちゃん。私以外にお友達出来たの?もちろん私にも紹介してくれるわよね?」
その声に俺達が振り向くとぶち破られたドアがあった場所に少女が1人立っていた。




