第12話 同棲開始!?
今日も朝練から始まり、午前中は基礎体力作りをして過ごした。
そして午後のこれからいよいよ待望の魔術訓練が始まる、
昨日はルーファスとの模擬戦で剣技の才能と能力強化を使えているって言う、自分でも気付いていなかった特技に気付けた。
魔術は使った事さえ無いけど自信がある。
いわゆる根拠のない自信ってやつだが。
いや、根拠が無い訳じゃない。
何しろ能力強化も言って見れば魔術っちゃあ、魔術な訳だし。
その要因として考えられる金属色角も持っているって言うのが根拠だ。
しかし剣技の才能があって魔術も天才だったらまさに絵に描いたようなチート転生じゃね?
ククククク。
やったぜ。
「……イク、……ェイク、………おい!ジェイク!」
「!、は、はい!?」
「さっきから呼んでんだろ。また目ぇイっちゃってたけど、大丈夫か?
何かお前、空想の世界に旅立つ癖あるよな」
「どうせ又、才能に溺れた夢でも見てたんでしょ?」
ヤッベ、バレてーら。
2人が呆れた顔して見てる。
「い、いやだな〜。
ちょっとランチ食べ過ぎて、ついウトウトしてました」
「食べ過ぎてって私達と同じランチだったじゃない?」
「え!?そうでしたっけ?
ま、まあ、それより早く午後の訓練始めましょう!
いよいよ魔術ですよね!ささ、父様、宜しくお願いしますっ!!」
「お、おう。それじゃあ始めるか。
んじゃ、先ず我々魔族が得意とする火属性魔術の基本である火弾からやってみる。
本来なら魔術を発動させる為に呪文を詠唱するのだが我々魔族は魔術を得意とする種族であるから基本的に無詠唱で魔術が発動出来る」
確かにルーファスはともかく、初めて会った幼いアンバーでさえ無詠唱で魔術発動させてたもんな。
「ただ無詠唱で発動出来ると言っても条件がある。
一度詠唱で魔術を発動させて対象魔術を体にインプットする事が条件だ。
まあ、インプットって言っても勝手に体が記憶するから後は発動したい魔術をイメージするだけで発動する。
もちろん使う魔術によって魔力消費量が違うから何時でも何処でも好きな魔術が使える訳じゃないから、その辺は注意が必要だな」
なるほど、一度詠唱で発動すれば次からは無詠唱って言うのは魔族のチートスキルだな。
「それじゃあアンバー、火弾を詠唱して発動してみてくれ」
「ふふふ、いい?ジェイク。このアンバー様の素晴らしい魔術をよく見ておきなさい」
そういうとアンバーが右掌を前に突き出し詠唱を始めた。
「我等を加護する威大なる火の神よ。我、今此処に熱く煌びやかに燃え盛る汝の力を求め得ん。出でよ、火弾!!」
詠唱を唱えてる最中からアンバーの突き出した掌に魔力だろうか?光の屑が渦巻き始め詠唱が終わると同時に火の玉が発射された。
発射された火の玉は数十m先の岩に当たり砕け散った。
岩は割れこそしなかったが数十cm穴を開け焦がしていた。
「ふふん、どう?ジェイク。恐れ入った?」
アンバーが腕を組み足を肩幅に開き斜に構え顎を上げ斜め下に見下ろしながらドヤってる。
内心火の魔術の基礎だろ。と思いつつも改めて詠唱から発動させるのは初めて見たから勉強になった。
「流石アンバー先輩ッス。勉強になりました」
「よし、イメージは分かったな。
じゃあ次はジェイク、お前の番だ。アンバーが詠唱した文言は覚えてるな?」
「はい、父様」
「じゃあ、早速詠唱して発動してみろ」
ゴクリ…。
初めての魔術だ。少し緊張するな。
俺はゆっくり集中しながら右掌を真っ直ぐ突き出す。
「では行きます。
我等を加護する威大なる火の神よ。我、今此処に熱く煌びやかに燃え盛る汝の力を求め得ん。出でよ、火弾!!」
……………………。
ん?
何も起きない?
え?ちょ、えぇ?
ウソ?
あ、もしかしてスゴい速さで射出して見えなかったとか?
俺は不安になり、チラリとルーファスとアンバーを見る。
「………………」
「………………」
「え、えーとぉ…」
何か言ってよ!
出た?出てない?
どっち??
「ジェイク…?」
「な、な、な、何スか?」
ヤッベ、汗噴き出すよ〜。
「何も出なかった…ですよね…教授?」
「おう、俺も何も見なかった…」
「や、やっぱ火ィ、出てなかったッスか…?」
「うん。出てなかった」
「ジェイク、詠唱してる間手の平が熱くなるようなくすぐったい様な感じなかったか?」
「い、いえ。特に何も…感じなかったと思います」
「っかしーなぁ。何でだろ?
ジェイクの魔量は金属色角の恩恵でかなり有るはずだが…。
まさか火属性が苦手とか…?
試しに色んな属性の魔術やってみるか」
その後、水、風、土、雷と其々の初歩魔術を詠唱しながら試したが結果は一緒だった。
初めは『やっぱりこの天才魔術士アンバー様の様には上手くいかないわね』なんて言ってたアンバーも最後の方は『ま、まあいきなりなんて出来なくて当然よ。私も一緒に魔術訓練付き合ってあげるから一緒に頑張りましょう』なんて気を使われた。
ーーー
次の日も午後からアンバーは魔術訓練、俺は剣技訓練が終わってから魔術訓練をした。
ちなみに俺が魔術訓練している間、アンバーは王笏を使って棒術訓練を始めた。
ーーーーー
6歳になった。
アンバーは8歳だ。
1年間毎日午前中は基礎体力作り、午後は剣技と魔術訓練をやってきた。
俺の剣技に関しては能力強化もあり聖級クラスになっている。
アンバーも魔術は上級、火属性だけとれば聖級魔術を使える。
棒術にしても中級クラスだ。
8歳でこのレベルは自分で言うだけあって天才だろう。
それから肝心な俺の魔術だが、
相変わらず何も発動出来ない。
逆に魔量多過ぎて初歩魔術じゃ、ダメなのかと中級から神級まで一通り試したが結果は同じだった。
いや、剣技だけとれば俺も天才と言っていいだろう。
齢6歳にして聖級クラスだからな。
とは言え、やっぱ魔術使いたいっしょ。
魔術は漫画かゲームかラノベでしか存在しない前世から来た俺にしてみればそりゃ魔術使いたいっしょ。
もしかして火、水、土、風、雷と言ったエレメント以外なら出来るんじゃないかと1人部屋でか○は○波やったが…ダメだった。
ちなみに念力も試したが、もう結果は分かるだろう…。
透視、読心、催眠もアンバー相手に試してみたが発動以前に『何ジロジロ見てんの!?』とビンタ喰らったから最終的には分からないが多分発動しないだろう。
ルーファスに言わせれば『ま、多分そのうち何かしらのきっかけで出来る様になんだろ?』とか言っていたが当てにはならない。
まあでも、それで腐っても仕方ないので毎日同じルーティンをこなしていくしかない。
ーーーーー
相変わらず魔術は使えない。
だがこのルーベリル村近辺に棲息する魔物、魔獣なら倒せない相手はいない位に剣技は上がった。
魔術無しでも剣技だけである程度やっていける自信はあるが世界は広いはずだ。
少なくともルーファスにはまだ剣技だけでも勝てない。
つまりルーファスがいない時にルーファス以上の敵が襲って来たら俺だけではこの生まれ育った村すら守れないって事だ。
結局何が言いたいかと言うと行き詰まっているって事だ。
それでも愚直に剣技のブラッシュアップと魔術発動への反復練習しかない。
ーーー
ある日、アンバーがいきなり言い出した。
「教授、前から思ってた事なのですが…
少し厚かましい提案と言うかお願いがありまして…」
アンバーは、らしく無い口籠った言い方で何か言い出しにくそうに切り出した。
「どうした、アンバー改まって?」
「実はその………。
毎日朝早くから日が暮れるまで一緒に訓練してもらってるじゃないですか……?」
「ああ、それがどうした?
あ、もしかして訓練が少しキツいか?」
「い、いえ!
そうじゃなくて……その…なんて言うか……」
「?」
「?」
「だから…その…毎日朝早くに迎えに来て頂き、一度別れて又スグ城に行き一緒に日が暮れるまで訓練して頂き、家まで送って頂いてるじゃないですか……?」
「ああ、そうだな」
「しかも、お昼は毎日教授の家でご馳走になって、たまに朝やディナーにはお母さんまで一緒にご馳走になったり……」
「あ、お礼がしたいのか?
だったら気ぃなんか使うな。ウチはアンバーやメリッサに飯食わせる位なら全然大丈夫だからよ」
あ、そう言う事か。
アンバーも意外と、いや意外とじゃないか、アンバーは普段はツンデレだけどああ見えて律儀だからな。
「いや、それもあるのですが…。
その…………。
はっきり申し上げて朝から晩までご一緒させて頂いているじゃないですか?
しかもご飯までご馳走頂いて。
で、今教授は私とお母さんにご飯食べせる位どうって事無いって言って下さいましたし。
教授のお城は広いじゃないですか…?
ですので、私とお母さんを教授のお城の隅っこの方の部屋に居候と言うか、間借りさせて頂けないかなぁ?と思ってまして…」
「城に!?」
え?アンバーと同じ屋根の下に暮らすの?
それって同棲?!
いや、違うか。
同じ建物に住もうってだけだから城の広さからしたら同じマンションに住んでるみたいなもんか。
「アンバー…」
「いや!ダメならダメでいいんですっ!!
ただその方が効率的かなぁ?と思っただけですし。
もちろんただで住まわせて下さいとは言いません。
お母さんはお城のメイドとして働いてもらいますし、
私も冒険者ギルドに登録して収入を得て家賃払うつもりでしたし。
あ、お母さんにもこの事は言ってないので、ホントダメならダメって言って下さって大丈夫ですっ!
って言うかダメですよね。
すいませんっ!変な事言っちゃって!」
アンバーは言わなきゃ良かったと言わんばかりに目と口を強く閉じ肩と首を竦めている。
「アンバー…」
ルーファスの声にアンバーの小さな肩がビクッとする。
「ナイスアイディアじゃん!それって!
何で今まで気づかなかったんだろ?
部屋ならいくらでも空いてるし飯くらいどうにでもなる。
城の事はランスが完璧にやってくれるからメリッサがメイドなんかしなくても構わねぇ。
あ、でもメリッサにメイドの格好させるのはいいかも。
ジェイクだってアンバーみたいな姉ちゃんいたら嬉しいだろ?
アンバーが姉ちゃんだったらなぁとか言ってたよな?」
「え?」
アンバーが真っ赤な顔した。って言うか。
「言った事ねーし!」
「いや、寝言で言ってた。ククク」
「!」
ホントか!?
「あ、今お前ホントか?って思ったな。って事はやっぱ嬉しいんだな?ええ?」
何故か今度は俺の顔が赤くなった。
ッ!!!
俺は地面スレスレをドリル状に回転しながらルーファスに斬りかかった。
「父様!模擬戦お願いしますっ!」
ルーファスは紅炎龍剣を地面に突き立て剣の柄の部分に軸に右手一本で逆立ちする形で俺の一撃を回避した。
「おお、ついにその技まで使える様になったか」
ルーファスは紅炎龍剣の柄で片手逆立ちしながら逆さのまま感心した様に言った。
俺は交わされるの承知で斬りかかっていたのでルーファスの紅炎龍剣の剣身に思い切り愛剣の木剣を打ち込んだ!
ルーファスも分かっていたかの様にバランスを崩しワザとらしく俺の上に落ちてきた。
マンガならドッシーン!?とか効果音が付きそうなドタバタ劇だ。
「教授!ジェイク!?」
アンバーが心配そうに駆け寄る。
「おおアンバー、平気平気。な、ジェイク?」
「はい…」
ったく、ルーファスめ。
有る事無い事言いやがって。挙げ句の果てにドタバタ劇的な終わり方。
ーーー
あれからアンバーと一緒にルーファスとメリッサの所へ行き城に住まないかと打診した。
その後、帰ってミランダにも相談したが意外にもアッサリとミランダも快諾した。
もうちょっと嫉妬から闘いへと発展するんじゃないかとヒヤヒヤしてたが要らぬ心配だった。
何でも城に親族以外が住むなんて言うのはよくある事だとアッサリしたものだった。
そんなこんなでアンバー家を城に住まわせる事になった。
しかもルーファスが女好きかと思っていたがアンバーの母親であるメリッサも満更でも無かったのだ。
聞いた所、アンバーが産まれて直ぐにアンバーの父親は魔獣を退治しに行って不幸な事に帰らぬ人になった。
そしてその魔獣は後日ルーファスによって退治され一応敵討ちは果たしたらしい。
そんな事もありルーファスはメリッサの事を気にかけてたみたいだが敵討ちをしてくれ親切にしてくれるルーファスに好意にも似た感情を持つ様になってたみたいだ。
そんな中、アンバーに魔術を教えてやり歳の近い俺が生まれ毎日一緒に訓練していれば一緒に住む事も自然な流れなのかも知れない。
それからアンバーが言ってた冒険者ギルドへの登録。
ルーファスは家賃なんか要らねぇって言ってたけど登録してみてもいいと思った。
何しろ訓練しながら経験値を積み報酬としてお金まで貰えるならやらない手は無いだろう。
そこでルーファスに相談したところ、冒険者ギルドへの登録には条件があって人族以外で15歳以下、人族なら18歳以下の子供が冒険者ギルドに登録するには単身登録は不可。
もしそれ以下の歳で登録したいのであれば人族以外なら18歳以上、人族なら20歳以上の人物が入った3人以上のパーティーで無いと登録出来ないらしい。
つまり人族以外で18歳以上のリーダー、人族なら20歳以上のリーダーが務めるパーティーじゃないと冒険者ギルドへは登録出来ないって事だ。
ならルーファスにリーダーをと相談したがルーファスをはじめ数少ないこのルーベリル村の大人は町の保安活動があるから冒険者としての活動は出来ないとの事で断わられた。
となるとアンバーが18歳になるまで待ってもう1人仲間に入れるか、俺が15歳になってそれぞれ単身で登録出来る様になるまで待つしか無い。
う〜ん、前者で10年、後者で後9年待たなければならないのか。
長いな…。
実力的には問題無いと思うがその辺どうなんだろ?
ルーファスもミランダもメリッサも後9年や10年なんか魔族にとってはあっと言う間だなんて言っているしな。
かと言って付け焼き刃的に大人の仲間を入れるのもどうかと思う。
何しろ時には生死に関わる冒険もあるかも知れないのに全幅の信頼を寄せられる相手じゃなきゃ無理だしな。
仕方ない。
俺達が15歳以上になるか、パーティー組める信頼できる人物に出会えるまでは更に訓練して強くなっておくしか無い。
今日からアンバー達と同居だしな。
え?同居だしなってどう言う意味かって?
いや、深い意味は無いッスよ!
マジで。
えっとぉ、訓練がぁ効率的にぃ出来るって事ッス。
他意は無いッス。




