第11話 レインフォースド
武器を手に入れた翌朝。
俺は昨夜のうちにルーファスに今日から朝練に付き合わせて欲しいと言っていたので、また日が昇る前に起きてルーファスとランニングに出かけるとこだ。
城を出て街を抜け、愛剣の木剣の材料になったスティフトレントが棲息している森まで走って、また街に帰ると言ったコースだ。
特に魔物に出会う事も無く、復路で街に入りアンバーの家の前に差し掛かれば家の窓を開けているアンバーが見えたので声を掛けようとした時、アンバーも気付いた。
その顔は朝の爽やかな雰囲気に似合わず、かと言って寝ぼけているでも無い。
憤怒だ。
まさに憤怒の顔だ。
「ちょっと、ジェイク!あんた何してんの!?」
「え、え? な、何って…ランニングだけど…」
「そんなの見れば分かるわよ!私が言ってんのは何で教授と朝からランニングしてんの?って事よ!」
「おはよう、アンバー」
「おはよう、アンバー。じゃないですよ、教授!
教授も教授でどういうつもりですか?!」
「えっ…と、どういうつもりって言うと?」
「私を差し置いてジェイクだけ特別扱いしてるって事です!
ジェイクもあんた1人で抜け駆けしたわね…」
アンバーの目が三角になってつり上がり瞳の代わりに炎が見える。
「い、いや。あの、その、これは…そうじゃなくって。
あれですよ…。
たまたま早起きしたら父様がランニングに行くって言うのでお供しただけですよ、ね?父様?」
俺はルーファスが天然で余計な事言わない様、具体例をこっそり耳打ちした。
“女の人は誤解とは言え怒らせると面倒くさいです。
ここはそう言う事にしておいて下さい。
例えば僕が母様に父様がメリッサさんの前で鼻の下伸ばしながら寒いダジャレカマしていましたよって言ったら母様どうしますかね?”
“な、ちょ、おま!自分の父親脅すのか?
大体にして俺は鼻の下伸ばしてなんかいないぞ”
“分かってます。例えば、ですよ。初めての外出だからこれがホントの世間知らずとか言って僕をメリッサさんに紹介した時の情景を例えるならそんな感じだったかな〜?って話ですよ”
“わ、分かったよ。それは誤解とは言え恐ろしい事が起こりそうだ”
“分かってもらえて良かったです”
「ちょっと!何ごちゃごちゃ話てんのよ」
アンバーは母親譲りのメンチを切ってきた。
やっぱりヤンキー家系なんだろうか?
いや、そんな事考えてる場合じゃない。
「いや、アンバー先輩、誤解ッスよ〜。
いやだな〜。アンバー先輩差し置いて自分みたいのが抜け駆けする訳ないじゃ無いッスかぁ〜。
ホントに今日はたまたまなんスけどぉ、これから毎朝ルーファス先輩の朝練に自分ら同行させて貰いたいって交渉してたんス。
いや、勿論アンバー先輩がその気ならッス」
「そうッス。ジェイク後輩の言う通りッス」
ルーファスが慣れない言葉使いで変な感じになった。
アンバーも目を細め疑いの眼差しだ。
「……まあ、いいわ。そんなに言うなら朝練、付き合ってあげる」
「マジっすか!あざーッス!流石アンバー先輩ッス!」
「…何か軽いわね」
「んなこたぁ、無いッス!」
ふ〜っ、やれやれだぜ。
そんな訳で明日から3人で朝練する事になった。
まあ1人より2人、2人より3人って言うしな。
結果オーライでしょ。
とりあえず後で訓練の時また会おうって事で一旦別れた。
ーーー
そして約束通りいつもの訓練で合流し俺とアンバーは新たな武器を使いたい気持ちを抑え、午前中は基礎体力作りをした。
午後になりようやく新しい武器が使える。
アンバーは早速新たな王笏を使い、火弾を発動した。
その威力は以前の物よりパワーアップしており且つ消費魔量は軽減されているとの事で喜んでいる。
俺はと言うと実戦的な訓練にはならず型や基本動作と言った基礎的な事をやらされている。
まあこれはこれで剣を振り回すなんてなかなか厨二心くすぐる動作で楽しい。
ーーー
翌朝、ランニングの往路でアンバーと合流しまたアンバーん家で別れ、お互い朝食をとり又合流し午前中は基礎体力作り、午後はアンバーは魔術訓練、俺は剣技訓練と言ったパターンで過ごしていった。
ちなみに俺も魔術ぶっ放したいがルーファスが俺の場合は先ずは剣技を磨き少なくとも中級位までは剣技だけを訓練しろとの指示なのでまだ魔術を試した事が無い。
何でも剣技も中途半端なまま、魔術をやってもどっちも中途半端になるだけって言う考えらしい。
確かにアンバーも魔術だけを訓練している。
ーーーーー
1年が過ぎ、俺は5歳、アンバーは7歳になった。
アンバーの魔術は火属性が上級、土属性が中級、風、氷、雷は初級と一通りの魔術が使える様になった。
しかも治癒魔術も中級まで使える様になった。
魔族とは言え7歳でここまで使えるのはやはり自分で言うだけの事はある、天才だろう。
俺はどれ位強くなったのだろう?
毎日基礎体力作りと剣技の基礎ばかり繰り返して来たが…。
何回か外で魔物や魔獣と鉢会う事もあったがルーファスとアンバーに持っていかれ未だに俺は闘った事が無い。
まあ普通の魔族なら5歳でようやく喋り始めるくらいだって言うから、それ位の子を魔物や魔獣と闘わせるのは早いと言うのが大きいのだろう。
そんな事を考えていたからかどうかは分からないがルーファスがいよいよ模擬戦をやるか、と言い出した。
俺は待ってましたとばかりにお願いした。
場所は訓練場でもある城の庭。
ルーファスはそこら辺に落ちてる枝を拾い上げ片手で構える。
「よし、1年間基礎を頑張った成果見せてみろ」
「はい、お願いします」
「おう、かかってこい」
「では、行きます」
そう言うと俺は深呼吸がわりに息を深く吸い込めルーファスを見つめダッシュをかけた!
「っ!?」
ルーファスが驚きの表情で一気に間を詰める俺を見た!
俺は低く地を這う様に飛びルーファスの間合いの手前で足を着き踏ん張り上へジャンプし愛剣の木剣をルーファスの頭へ目掛け振り下ろした!
!!
ルーファスは俺の動きに驚きながらも拾った枝の剣で俺の一撃を捌いた。
捌いたが流石に枝は折れた。
「おま、」
何か言いかけたが俺は攻撃を続けた。
アンバーが着実に成長をする中、俺はどれ位強くなってるか試したいんだ。
それにはルーファスをどこまで真剣にさせられるかが目安になる。
だから攻撃を続ける。
ルーファスもそんな俺を見て、俺の攻撃を避けながら近くの樹まで飛び、適当な長さと太さの枝を折り剣代わりにした。
枝を手にすると同時にルーファスがこっちに向かって飛んでくる。
その表情は、にこやかだ。
まだ本気には程遠いのだろう。
だがそのスピードはさっきよりも速くドリル状に半回転しながら飛んでくる。
それは俺の剣の材料とするスティフトレントを仕留めた時の動きだ。
だが俺はそんな風に分析出来る位、ルーファスの動きがハッキリ見える。
ギリギリまで避けれないフリして引き寄せよう。
ルーファスも疑いなしに回転しながら近づいてくる。
俺の間合いに入った!
その回転によりルーファスが地面を背に俺を見上げる形になり枝を振ろうとしたその瞬間、俺もルーファスに向かい飛びルーファスのガラ空きになった腹目掛け愛剣の木剣を振り下ろす。
ルーファスにしてみればその回転技で仕留められると油断していたのだろう。
しかし違った!
慌てて枝を体に合わせ盾代わりにし俺の愛剣の木剣を受け止めた!
受け止めたが、重力には勝てず俺の一振りを受けた衝撃で地面に背中を強打した。
俺はそこでとどめを刺すつもりで間髪入れずもう一度愛剣の木剣を振り下ろす!
決まった!!!
と思ったが愛剣の木剣はルーファスでなく地面に突き刺さってた。
慌てて抜こうとしたが首筋にヒヤリと寒気を感じればルーファスが後ろに立ち枝を俺の首筋に立て立っていた。
「参りました…」
そう言うとルーファスは枝を俺の首筋から外してくれた。
畜生、まだまだルーファスを本気にさせるには程遠いか。
防御の延長線上で地面に背中付けさせたが結局一太剣も浴びせられなかったしな。
アンバーも何も言わない。
まあルーファスは剣技も王級だしな。
当然の結果だな。
「ちょっと、ジェイク。
あなた又、抜け駆けしたわね」
?
「いや、何の事?」
「とぼけちゃって。教授も教授でルーファスだけ特訓してましたね!」
アンバーの表情がまた憤怒の表情になってる。
でも本当に抜け駆けなんてしてないしな。
「アンバー、ホントにジェイクに特訓なんかしてないぜ。
俺も初めてジェイクと模擬戦とは言え闘ったビックリしてんだ」
?
「ジェイク、お前、俺が知る限りじゃあ初めての闘いだと思うが、どうなんだ?」
「はい、いつもの基礎訓練以外では初めて剣を振りました」
「マジかよ。俺の動きも見えてたのか?」
「はい、途中までは。
でも最後の背後に回られたのは全く見えませんでした」
「そうか、まあ前から目がいいのは知ってたけど、それにしても大したもんだったぜ。
………もしかして能力強化が使えるのか?」
「レ、能力強化…ですか?
い、いえ知らないので多分使ってないと思います」
「そうか…。だがあの動きと視力の良さは能力強化が発動しているとするなら辻褄が合うんだが…。
何か体が軽く感じる様な、重力の影響を感じないとか、そんな感覚無いか?」
「あ!そんな感じは物心ついた時から常に感じています!」
そう、物心ついた時と言うより赤ちゃんの時から中身はおっさんだから既に物心どころか擦れた気持ちすらあったが…それは置いといてだ。
何か重力が弱いと言うか、少しふわふわした感じにすら感じてた。
そこで仮説を立てた。
きっとこの世界は地球より小さい星じゃないのか?
だとすれば地球より重力は弱いだろう。
地球で37年間生きてきた俺にとっては体に染み込んだ重力感から今世の重力は軽い。
軽いから普通の子供より早く立ったり歩いたり出来るんじゃないか?と。
ただそこで矛盾が生まれる。
重力を軽く感じるから運動神経が良くなるとする。
じゃあ疲れを感じないのは?
いくら体が軽くても3歳の体力から考えれば腕立てや腹筋が無限大に出来ると言う説明にはならないだろう。
が、今の能力強化が発動してるからだとするなら辻褄が合う。
理由はともかく知らず知らずの内に能力強化が発動していたとすれば疑問が全て解決する。
「もしかしたら何らかのきっかけで能力強化が使える様になっていたのかも知れないな。
しかもそれは意識してないから無意識のうちにズーっと発動している。
ただ普通は戦闘状態や物事に集中した時にだけ使える、しかもある程度の上級者じゃないと使えないのだがな。
それも金属色角の恩恵だとすれば納得がいく」
なるほど。
確かに、全ての点と点がカチリと合致した気がする。
「た、例えそうだとしても、結局一太剣も浴びせられなかったですし…」
「バッカ、確かに初めは油断してだがお前の剣が真剣だったら殺られてたかも知れなかったぜ」
「ホントですか?」
「ああ、ホントだ。お前は剣の才能がある」
剣の才能がある…。
なんて素敵な響きだ…。
「ふ、ふふふ」
「な、何よ。ジェイク。気味悪い笑いして」
「アンバーよ。これからは天剣のジェイクと呼ぶがいい」
バッガーン!!!!!
一瞬世界がフラッシュしたかと思うと
頭のてっぺんからつま先にかけて鋭い衝撃と痛みが走った!!!
雷に打たれた事無いけど多分雷に打たれたらこんな感じだろう。
否!雷に打たれたのだ!!
アンバーの王笏の先から煙が出てる…。
「何調子に乗ってんのよ!」
ア、アンバーめ…。
雷属性の魔術使ったな…。
「ア、アンバー先輩。さーせんしたっ…。ち、治癒魔術で、は、早く治癒して下さいッス…」
「分かった?ちょっと剣技が優れてるって言ったって私の方が強いんだからね!」
「わ、分かったッス…」
「ふん!分かればいいのよ!」
そう言うとアンバーは王笏を俺の方へ向けた。
王笏の先の石が淡く光ると俺の怪我は完治した。
「ったく、怒ると雷落とすなんてトラ柄ビキニでだっちゃとか語尾につけるんじゃないだろうな」
「何か言った!?」
そう言いながら王笏を天にかざす。
「い、いえ。何にも言ってないッス」
くそぅ、早く俺も魔術覚えてーぜ。
「と、とりあえずジェイクに剣技の才能があるのは間違い無い。
明日から剣技を更にブラッシュアップさせながら魔術も訓練開始とするか」
「ホントですか!父様!」
「ああ、お前の剣技は中級以上だ。それなら魔術と同時進行でも大丈夫だろう」
ふふふふ。
「何?その目。天才魔術士のこのアンバー様に勝てるとでも思ってるの?」
「いえ、ただ僕も天才かも知れないなぁと思って」
何せ金属色角だしな。
くくくくく。
「さあ、まだ今日の訓練終わった訳じゃないぞ。
アンバーは雷属性魔術の訓練。
ジェイクは引き続き俺と模擬戦だ」
「え、まだ模擬戦やるのですか?」
「当たり前だろ。そんだけ出来れば模擬戦の方がより腕を磨けるぞ?」
「い、いや、さっきので結構体力使っちゃったんスよね…」
「何言ってんだ?さっきアンバーに治癒魔術かけて貰って全回復したろう?何、また倒れたらアンバーに治癒魔術かけて貰えばいいさ。
アンバーだって繰り返し魔術使う事で魔術のスキルアップと魔量の増幅に繋がるから一石二鳥だな」
「ふふふ、ジェイク。安心して倒れなさい。
このアンバーが治癒してあげるわ」
「ええぇ…?だってアンバーの治癒魔術って中級治癒じゃないですか。全回復じゃなく半回復しかしてないです!」
「そうだとしても限界の向こう側に次なるレベルアップが待ってんだぞ?
さあ、かかってこい!今度は油断しないからな」
ええぇぇえ〜。油断しないって地獄やん。
「来ないならこちらから行くぞ」
ルーファスがまたドリル状に回転しながら飛んでくる。
だから、それキツイんだって!
慌てて俺は愛剣の木剣を構え迎え撃つ。
それから何回かぶっ倒れ、その都度アンバーに治癒してもらい、日が暮れるまでそんな事を何回も繰り返した。
これから毎日こんなん続くの??
流石にその日の夜はディナー後、バタンキューってやつだった。




