第9話 剣の材料
森に到着した。
町を出て、途中魔物との戦闘があったものの俺みたいな子供の足で1時間位だから大人で何もなく来れれば30分位の距離だろうか。
森も、The魔の森、と言った感じの禍々しいオーラ漂う漆黒の森では無く、
長閑で木漏れ日が差し込んでいる様な森だ。
「よし、これから森に入る訳だが注意点がいくつかある。
まずアンバー、見ての通り森は樹木が覆い茂ってるな。
だから火属性の魔術は禁止だ。
もし飛び火でもして山火事になったら大変だからな」
「はいっ!教授!」
「次にこの森に棲息している魔物と魔獣だ。
定期的に俺や町の護衛団で魔物や魔獣を退治してるから、そうそう強力な魔物や魔獣はいないが小物はそこそこいる。
主な魔物はゴブリンやインプ、そして今日のターゲットでもあるトレントだ。
まあ魔獣は大していないがたまに軍刀野猪や一角野兎が出る位だ」
「はいっ!父様、質問がありますっ!」
「はい、ジェイク君!」
「今の説明の中で、今日のターゲットのトレントっておっしゃいましたが僕の記憶ではトレントとは樹の魔物と認識しておりますが、如何でしょうか?」
「ご名答。ジェイクはよく知ってるな」
「わ、私だって知ってたわよ!」
「という事は今日の目的である僕の剣の材料確保の材料とは木なのですね?」
「その通り、ジェイクは察しが良いな」
「わ、私は…森に行くって聞いたと、時から、ジェイクの剣になるき木を取りに行くって分かってたんだからね!」
…アンバーはスルーするとして、
な〜んだ木剣づくりの材料確保かぁ。
アダマンタイトやオリハルコンじゃないのか…
「ん?どした?ジェイク」
「…い、いえ、何でも…」
そりゃそうか、剣も握った事ないのにいきなりエクスカリバー的な剣持たないよね。
「ジェイク、もしかして魔剣的な剣、期待してたんじゃない?」
ギクっ!
ホントこの人達、読心スキルあるっしょ!?
「え?そうなのか?ジェイク」
「い、いやだなぁ。父様まで。
そそそんな訳無いじゃないですか?
ぼぼ僕はただの木の棒拾いに来たとばっかり思ってましたから、トレントを倒しトレントの枝から木剣を作るなんて、スススゴいなぁって感動しただけですよ。
ほほほ本当ででですよょよょ」
「…ジロりんちょ」
う!アンバーが目を細め疑いの眼差しで見つめてるぅ…!
「そうか!感動してくれたか!
ようし、そういう事ならトレントも出来るだけ上位種狙おうぜ!」
「はいっ!頑張ってトレント狩りまくりましょう!
ね!?アンバー先輩!」
ルーファスが単純で助かったがアンバーはまだ疑ってるよぉ…!
「さっきはアンバーって呼び捨てしたのに、いきなり先輩なんてつけて怪しい…」
「初めからアンバー先輩って言ってたじゃないッスかぁ。
さっきはたまたま口が滑って先輩を付け忘れちゃっただけッスよぉ。
勘弁して下さいッス」
「…まあ、いいわ。今日のところはこれ位にしてあげる」
「流石アンバー先輩ッス」
「それよりその喋り方がイライラするからやめて」
「了解ッス!」
「だ、か、らぁ…」
「あはははは、なかなか面白いコンビ結成したな!
将来は夫婦吟遊詩人かぁ?
やったな!ジェイク!」
「「教授/父様!!」」
ホント今回はルーファスに助けられた…!
「いいじゃねーか、なかなか似合ってるぞ」
俺とアンバーはいい加減ルーファスにメンチ切る。
「分かった分かった!
じゃあ説明の続きな、隊列はアンバーが前衛でジェイクを挟む様にして俺が後衛だ。
アンバーは敵が現れても慌てず土槍を発動しろ。俺も後ろの気配に気を配りながら前方に注意してるからそうそう不意打ちは食らわないと思うが気は抜くなよ。
そしてジェイク、お前は戦闘経験も戦闘スキルもまだ無いが視力はずば抜けてる。はっきり言ってこのパーティーでは断トツの視力だ。
だからお前はこのパーティーのレーダーだ。敵を素早く感知して俺やアンバーに知らせろ。
2人共OKか!?」
「はいっ!教授!」
『イエッサー!』
「ん?ジェイク今何て?」
ヤバっ!つい調子に乗って地球語で返事しちった…!
「え、えーと…」
「イエッサーとかそんな感じだったよな?」
「え?そ、そんな事、い、言いました?」
「言ったろうよ」
「私も確かに聞いたわ」
ヤバい…!上手い言い訳が出てこない…。
あぁあ〜〜〜、頭ん中真っ白だぁ…。
「いいじゃんソレぇ!!」
「確かに何か気合い入る掛け声だったわ!」
ふぇ?
「イエッサー!うん、いいよこれ!なぁ、アンバー」
「イエッサー!どうですか?教授、言われてみて」
「イエッサー!最高だな!」
え?ちょ、えぇ?
何か分かんないけど盛り上がってる??
「よし!これからこのパーティーの掛け声はイエッサー!で行こう!」
「イエッサー!教授!」
「お、アンバー、使いこなしてるな!」
「ありがとうございますっ!」
「バッカ、アンバーそこはイエッサー!だろ?」
「イエッサー!失礼しました!」
………………。
「ジェイク、何ポカーンとしてんだよ!お前が考えた掛け声だろ?」
「…あ、ああ。す、すいません…チョット考え事してました」
「考え事ぉ?何だよせっかくパーティーの掛け声決まって盛り上がってる最中にぃ」
「そうよ、ジェイク。こういうのは一致団結で盛り上がるものよ!」
「イ、イエッサー!」
俺は2人が盛り上がってるから試しに敬礼のポーズをつけて返事してみた。
「…………………」
「…………………」
ヤッベ、調子ノリ過ぎた?
「ジェイクぅ…」
「は、はいぃ?」
「何そのポーズ!!イエッサーとバッチリ合ってんじゃんよ!?
お前が今考え事してたってのは敬礼の事かよぉ!?」
「ジェイク、悔しいけどイエッサーの掛け声と敬礼のアイデアはなかなかいいわよ。
ただね、私も同じ様な掛け声と敬礼考えてたんだからね!ホントだかんね!」
「よし!じゃあパーティーの掛け声も、決まった事だし。いざ上位種トレント討伐に出発!!」
「「イエッサー!!」」
思わぬ盛り上がりがあり俺達は意気揚々と森に入って行った。
「教授!前方にゴブリン3匹発見!」
「イエッサー!アンバー、奴らが3m位前に来たら土槍で串刺しにしろ!」
ルーファスが敬礼しながら指示を出す。
「ジェイクも闘い方良く見て学べよ!」
「イエッサー!」
一応言い出しっぺなので前方を見ながら敬礼して返事する。
これだけ無駄に騒げばゴブリン達も気がつきこっちに向かってくる。
「よし今だ!アンバー!」
「イエッサー!」
アンバーが敬礼をして魔術を発動する。
敬礼してる時間がロスする為、結構ゴブリンが近くまで来て土槍に串刺しにされるからなかなかグロい。
何か危なっかしかったが3匹とも土槍の餌食になり、殺った。
死体はルーファスが焼き払う。
「あ、あの1つ提案なのですが、いちいち敬礼してると指示系統や実行にタイムラグが発生するので敬礼取るのは顔と顔を向かい合わせている時だけにしませんか?」
「そうだな、誰も見てないのに敬礼取るのは意味あるのかな?って思ったしな」
「確かにそうね」
「それからイエッサーは指示出した人に対して答えるって使い方の方がしっくり来る気がします」
「そうだな、じゃあ次からはそうしよう」
正しくは上官に対してだけどまあいいだろう。
イエッサーで一致団結感出たしな。
途中、ゴブリンやらインプやらが数匹出たが問題無く倒した。
しばらく森を歩くと拓けた広場みたいな場所に出た。
「ようし、ここらで休憩にして昼にでもするか」
「「イエッサー!」」
だいぶイエッサーの使い方にも慣れてきて無駄にイエッサーを乱発しなくなった。
「じゃあ、今さっき倒したこの軍刀野猪の肉を調理するとしよう。アンバーとジェイクはそこら辺の薪を拾って来てくれ。俺はその間、土魔術で簡単な釜を作ってる」
ここに辿り着く前に軍刀野猪に遭遇したのだが流石にアンバーでは倒せないがルーファスに掛かれば瞬殺だった。
ただルーファスは昼の食材にしようと言い出し魔力を切り紅炎龍剣に魔力を通さない様にし獲物が燃えない様に倒し食べる部位と持ち帰って利用価値のあるサーベルと言われる所以の牙を切り取り、残りは魔力を通した紅炎龍剣で消し炭にした。
適当な数の薪を拾って来るとルーファスは簡易的な釜と軍刀野猪を食べやすいサイズに切り分け串の様に削った棒に刺して待っていた。
ルーファスの火魔術で焼肉をし、土のコップに水魔術で水を満たし水分確保しながら昼を取った。
ちなみに軍刀野猪は前世で言うと豚カルビみたいな感じで、土魔術で作ったコップはカッチカチに固めていたので水に溶けて泥水になる事も無く美味しく飲めた。
闘い以外でも魔術って便利だなぁと改めて感心した。
ハラも満たし水分補給もバッチリで出発しようとした時、俺は妙な気配を感じた。
誰も気付いていないみたいだが、広場を囲む様に樹々が覆い茂る中さっきまでは無かった樹がある気がする。
「父様、あそこの樹、おかしくないですか?」
「ん〜?」
目を細めジッと樹を見つめるルーファス。
やがてその口元がニヤリと上がる。
「ジェイク、よく気付いたな。
あれこそが今日のターゲット、スティフトレントだ」
アンバーはまだ分からない様だが分かった振りしながら探している。
「奴さん俺達が焼肉してる匂いに釣られ気配を消しそこまで近づいたんだな。トレントってのは元々普通の樹木に紛れ旅人や狩人を襲う習性から隠遁スキルは高いんだが上位種になればなる程、隠れるのが上手くなる。
それにしてもジェイク、よく分かったなぁ。
今でも目をそらすと分からなくなるぜ」
「あ、私も見失なっちゃった。さっきまではこの目に捉えてたのに。
また探すのは面倒だからジェイク、教えてくれる?」
「あそこの他の樹より少し黒いヤツですよ。
あ、少〜し目を開けて見てる」
「え、え?ど、どれ?」
「えぇ?目なんか開けてるかぁ?
まあ、いいや。
んじゃ、あれは上位種だから俺1人で殺ってくるわ。
お前達は背中合わせにして周囲に気をつけるんだぞ。何か違和感感じたら知らせろ。
まあ、上位種ったってスティフトレント位瞬殺だがな。
じゃあ周囲に気を配り闘いを見てろ!」
「「イエッサー!!」」
するとスティフトレントが真っ赤な目を開き、太い幹が裂け刺々しい口を開き太めの枝を手として広げ向かってきた!
そのスピードは予想は遥かに超えるスピードだ!
だがルーファスは怯む事なく更に速いスピードでスティフトレントとの距離を縮める。
魔術は使わない。
トレント系には魔術はあまり効かない。
むしろ斬撃系の物理攻撃の方が有効だ。
まあ俺の知識は実戦ではなく書庫で読んだ知識だけだが。
スティフトレントの右手?右枝が枝の先端を鋭くし引っ掻こうと振りかざしてくる。
ルーファスは体を縦にドリル状に半回転させ外側に逃げスティフトレントの爪先を避け右枝の根元から斬り飛ばす。
斬り飛ばされた右枝が勢い余って俺達の足元まで飛んできた。
その手はまだウニウニ動いている。
ルーファスは燃やさない様に魔力を切り斬撃しているからその切り口がよく見えるがキレイにスッパリ斬れてる。
多分斬り飛ばされた右枝は斬られた事自体気付いていないのかも知れない。
右枝を斬り飛ばされたスティフトレントは駈け抜けたルーファスを追う様に右回転して振り返る形でルーファスの方を向く。
スティフトレントが振り返り切るかどうかのタイミングでルーファスは着地し無反動で切り返しスティフトレントの左枝も同じく根元から斬り飛ばした。
流石にスティフトレントもこれは堪らないとばかりに金切り音の様な咆哮をあげる。
その大きく開いた口にルーファスの紅炎龍剣を突き刺し魔力を通せばスティフトレントは内側から一気に燃え上がる。
紅炎龍剣の紅炎に内側から焼かれたスティフトレントは一瞬で燃え尽き朽ち落ちた。
と同時に俺達の足元で、のたうち回っていた腕?枝も力尽きた。
「ジェイク、アンバー大丈夫かぁ?」
「はい!」
「木材としちゃあもうちょっと材料確保したかったけどまあ、そんだけ、ありゃいいだろ」
「流石教授です!鮮やかな闘いでした!」
確かに鮮やかだった。
まあ相手は樹だし、あんなもんか?
「とても危険度Dクラスの魔物と感じさせない、華麗な闘いでした!」
「アンバー先輩、危険度Dクラスってどれ位の危険度なんですか?」
「ふふ、ジェイク。
分からない事をこのアンバーに聞くとは正しい行動ね。
いいわ!このアンバーが説明してあげる」
質問されて、と言うか頼られて嬉しさ隠せないアンバーが誇らしげに答える。
「危険度っていうのはSクラスからEクラスまであるの。
Sクラスともなると、それは伝説的強さ。剣技、魔術ともに神級で無いと太剣打ちできないとされてるわ。
次にA+クラス、これは剣技、魔術のどちらかが神級の冒険者でないと倒せないクラス。
そしてAクラス、これは剣技、魔術どちらかが王級の冒険者でないと倒せないクラス。
次にBクラス、これは剣技もしくは魔術のどちらかが聖級なら倒せるクラス。
でCクラスが名級、Dクラスが上級、Eクラスが中級っていうふうに分けられてるの。
だから剣技、魔術ともに王級の教授を危険度のクラスで言うとA+クラスって事になるわね。
どう?スゴいでしょ?」
何だかアンバーが自分の危険度がA+クラスと言わんばかりに鼻高々に説明してくれる。
「誰が危険度Aプラだ。バカな事言ってないで帰るぞ」
「イエッサー!教授!」
でも、アンバーの説明のおかげで強さのランクが分かった。
やはりルーファスが元エリート王族っていうのは本当なんだな。
よし、そんな強者に直に教えてもらえるなら俺のチートサクセス転生は前途洋々だ!
明日からの訓練頑張るぞ!
木剣だけど。




