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ヒロイン=ヒーロー  作者: だっつ
9/17

第9話 全てを清める鎮魂歌

どうも。読んでくれてます?ヒロヒロの第10話です。

この話を読み終えたとき、「まさか!」と思ってくれたら嬉しいです

前回のあらすじ


よぉ、俺は悟だ。

前回は・・・言葉で説明は難しいな。もし気になるならもう一度読んできて欲しい。

前回最後に言った杏子さんの一言・・・あれは何を意味してるのか、それはもう直ぐ分かるから、安心してくれ。



「くらえ!!ブラックレーザー!!」


どこかわからない異質な世界で、一人の黒いゴスロリの服を身に包んだ少女が、高らかにそう叫ぶ。


すると大きな爆発音が広がり、それと同時に星がきらめく夜空も広がった。その夜空を見上げながら、疲れたように後ろにどさりと倒れこむ、この少女。名前は


『小森 杏子』


と言った。


彼女はただの女子高校生であるが、ひょんなことからディザイアと戦う魔法少女となった。


最初は危険なことも多かったが、今は多少慣れてきて、特に問題なく生活していた。少し授業中に寝てしまうという欠点はあったが。


それでも今までの何もない人生に多くの刺激ができたのは間違いなかった。彼女にとってはある意味幸福なのかもしれない。


そうだ、とポツリと声を漏らし、ポケットから何かを取り出した。それはもう直ぐ開かれるコンサートのチケットであった。風に揺られてパタパタと音を鳴らしていた。


杏子はあまり音楽などに興味はない。ただ、抽選で当たったので行こうとしてるだけでコンサートで演奏する音楽家の名前すら知らなかった。


「まぁ、いいや。帰ろう・・・お母さん達はいないけどね・・・」


そう悲しそうに彼女はつぶやいた。彼女の両親は、ディザイアに殺された。そのディザイアは大きな熊のような化け物であった。


両親が死んだあと、改変された歴史の中では杏子は名も知らない遠い親戚からお金をもらってるということになった。


もらえるお金は少ないが、生活にはあまり苦はない。趣味がせいぜいパン作りで、その道具はなぜか全て家に置いてあったので、あまりお金を使わなかった。


そして彼女は重い足取りで家に帰って行った。夜空に輝く星が、彼女の歩く道を明るく照らしていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ここかぁ・・・コンサート会場・・・ほえぇ、人がいっぱいいるなぁ」


思わず感嘆の声を上げた杏子。今日は待ちに待ったコンサートの日である。なんやかんや言ってもやはり楽しみでもあったコンサートをめいいっぱい楽しもうと彼女は決めていた。


中に入り、指定された席に向かう。案外早く見つかり少し安堵しながらその席に座る。ガヤガヤとコンサートが始まってないのにそこそこ賑やかであるのが、少しおかしく思わず笑ってしまった。


「お嬢ちゃん。何がおもろいん?」


すると隣から優しそうなエセ関西弁の声が聞こえた。杏子は慌ててそこを見たら、優しそうな女性が杏子をにこやかな目で見つめていた。


「あ・・・いや、その・・・」

「ふふふ、少し驚かせちゃった?堪忍や。そうや、自己紹介しとこ。うちの名前は里中かすみや」

「あ、わた、私の名前は小森杏子です」


緊張で口がうまく回らなくなる杏子を、かすみと名乗った女性は優しく微笑みながら見ていた。それはとても美しく、同性ながらドキッとしてしまい、思わず見とれてしまった。


ふと、視線を落とすと、かすみのお腹が少し膨らんでいた。視線に気づいたのか、かすみはお腹をさすりながら。


「じつはな、もうすぐ子供生まれんねん。女の子やったらいいけど・・・」


少し恥ずかしそうにそういうかすみだったが、どこか誇らしげで、母親になるのが楽しみで仕方ないというような顔であった。杏子はそんな彼女に先ほどあったばかりなのに、何故か尊敬を抱いていた。


(こんな人を守れるから、魔法少女ってのはやめられないよね)


そんなことを考えてたら、いつの間にか公演が始まる時間になり、大きなアラームが鳴り響いた。始まる前はあまり楽しみではなかったが、いざ始まるとなると、やはりドキドキする。座り直してゆっくり上がっていく幕を見つめていた。


一番上まで上がった時、ステージの真ん中には一人の人間が立っていた。手品師の風貌で、見た目は少年が少女かわからないような、そんな中性的な顔立ちをしている。その小さな手品師はゆっくりと頭をさげる。暗い青の髪が揺れている。


「どうも皆さん。さて、まずは自己紹介から始めましょう。僕の名前はエレンホス。そして・・・」


声を聞いたら少年だとわかったエレンホス。彼はそう言って床を二回踵で踏み、音を鳴らした。


すると、大きな地響きがなり始めた。地震かと思い、皆騒ぎ始めるが、そうではなかった。なんと、エレンホスの後ろから、巨大な熊のような化け物が歩いてやってきたのだ。


「彼は僕の仲間・・・さて、早速ですが、お別れの鎮魂歌でも奏でましょう」


そう言い、エレンホスは指をパチンと鳴らすと同時に、観客から大きな叫び声が轟きはじめ、皆逃げ始める。


そんな中、杏子は一人冷静であった。あいつらはおそらくディザイア。だったら倒すしかない。そう考えた杏子はその場で光に包まれ、魔法少女の姿に変身した。


隣でかすみが驚いたように口をパクパクするが、杏子は知らないというように、その熊の化け物の顔を狙い、杖から弾丸を放った。


何発かはあたり、熊の化け物は左目を自分の手で押さえた。どうやら左目を潰すことはできたらしい。杏子はその流れでまた弾丸を放ち、今度は顔を吹き飛ばそうとした。


だが、それは当たらずに何かに撃ち落とされる。どうやら、エレンホスという少年が撃ち落としたらしく、勝ち誇ったように笑っていた。


杏子は面白くなかった。それもそのはず、初めてされた自分の攻撃を防ぐという行為。杏子はまず、エレンホスから倒そうと、一気に近づく。


遠距離攻撃が得意なら多分接近戦が苦手だろうという、甘い考え。


実際この考えはあっていた。だが、杏子は忘れていた。熱くなりすぎて、もう一人の存在を忘れていたのだ。


「ぐっ!?」


腹をえぐられたような痛みを感じ、後方に大きく吹き飛ぶ杏子。腹から血が出ていて、体がとても熱く、まるで燃えるような感じ痛みにより、目から涙がこぼれ始めた。自分が初めて受けた傷。その痛みは想像を絶するものであった。


そんな中、エレンホスがまた指をパチンと鳴らした。すると、コンサートホールの天井に、大きな魔法陣のようなものが展開された。


それは多くの色な複雑に、それでいて綺麗にまとまっていて、見るものすべてを魅了する。杏子も然り、逃げ惑っていた観客たちも固唾を飲んでその魔法陣を見上げていた。


「さぁ、鎮魂歌はあなた達の叫び声です・・・」


そう、ポツリと言ったエレンホス。また指をパチンと鳴らすと、魔法陣が大きく輝き出し、無数の弾丸が降り注ぎ始めた。それも、美しく輝いていた。


歓喜の声を漏らしてた口からは、一瞬で死を拒むための叫び声と変わった。だが、無数の弾丸は残酷に死を突きつける。


杏子もボロボロな体に、無数の弾丸を受け、動こうにも動かなくなった。幸いにも自分の体を治せるため、気絶まではしなかったが、それでも痛く、そして目の前が段々と血の海が広がっていく様を見せつけられ、目からは痛みではなく、悲しみの涙が流れ始めていた。


あんなに守ろうとしたものは一瞬のうちに崩れ去った。目の前に広がる地獄絵図がそれを全て物語っていた。杏子にできることは、一瞬でも早く終わるように目をつむり、ただ時間が経つのを待つだけであった。


何時間経ったがわからないが、機械が淡々とつげた、コンサートの終了のアラームを聞いて、杏子は目をゆっくりと開ける。


目の前にはこの世の地獄が広がっていた。おそらくみんな死んでいる。杏子が守りたかったものはみんないなくなってしまった。


ステージを見るとエレンホス達ももういなくなっていた。やるべきことが終わって帰ったのか、もしくは、最初からいなかったのか。


呆然と周りを見渡すと、ふと、あるところに目がいった。何かがモゾモゾ動いているのだ。杏子はそこにゆっくりと近づく。


そこにいたのは、体から血を流しているが、息をしている一人の女性。かすみであった。杏子は助けようと、手を前に突き出し傷を癒そうとした。だが、このとき彼女はこう思ってしまった。


『もしかしたらかすみがこの悲劇のことを周りに伝え、自分のせいにされてしまうかもしれない』


と。疲労と悲しみで頭は正常な判断ができなくなってしまったのだ。


杏子は光がない目でニコリと笑い、かすみに向かってこういいはなった。


「私のために死んでください。かすみさん」


そして、手から無数の弾丸をかすみに浴びさせた。当たるたびに飛び散る肉片が、あたりを残酷に彩っていく。


何秒間も弾丸を浴びせ、かすみの顔は跡形もなく消え去っていた。それを見たとき、杏子はことの重大さに気づき、どさりと床に座り込む。


流れる涙はもう枯れていて、流れるのは自分のとは思えない、よくわからない笑い声だった。


ふと、視線を上げると、かすみのお腹が、膨らんでるのが見えた。杏子はなんとなく、その腹に手を当てた。すると、コツンと何かが腹を蹴るような感触があった。


杏子は少し驚き、そして考えた。この生きてる小さな命だけは助けよう。どちらにせよこの悲劇を知らないし。


杏子は腹に手を突っ込み、かすみの腹の中にいる赤ん坊を魔力で包みゆっくりと引っ張り抜く。浄化の魔法を当ててるため、問題は一切ない。時間がたてばちゃんと一人の人間になってくれるはず。


「そうだ・・・この子はかすみと名付けよう・・・男でも女でもね・・・」


そう呟き、ゆらりとコンサートホールから出て行く杏子。途中でピタリと立ち止まり。もう一度コンサートホールの方に視線を向ける。杏子は何を考えたか、ふわりと空を飛び、杖をコンサートホールに向けた。


「ブラック・・・・レーザー・・・」


そう、ポツリとつぶやき、コンサートホールに向かって大きなレーザーを何発も放つ。


そこは大きな爆発を起こし、そしてすぐに消えて無くなっていた。それを見下ろした杏子はかすみを連れてどこかに飛びだった。


ふと目を触れると、目から涙が流れていた。その涙はなぜ流したのか。誰にもわからなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



時代は流れ。次の視点は我らが西園寺あかねに移り変わる。彼女は今、いつもの小さな公園に来ていた。


ベンチに座り、空を見上げながらあの時杏子に言われたことを思い出す。なぜあのような奇行に走ったのだろう?なぜ手を差し伸べなかったのだろう?そんなことはあかねにはわからない。


「あたしなら、エレンホスに突っ込むんだけどなぁ。痛いだけで死なないし・・・」


そう、ポツリと呟く。痛いだけと言えども、身体中を弾丸で撃ち抜かれるのだ。並の人間なら痛いだけとは言わない。が、彼女は痛いだけであった。そう考えるのは守るからか。それとも、守ることしかできないからか。


その時、強い風が吹いた。あかねは思わず目を瞑る。すると、聞き覚えのある曲が聞こえてきた。


「この曲・・・歓喜の歌?」

「正解正解っと・・・よぉ、アミナ・・・いや、今はアナザーだっけか?」


あかねが目をゆっくり開けると、目の前から一人の男性が歩いてきた。イヤホンをつけてるが、少し音楽が漏れていた。彼の名前はマタル。


あかねは身体を強ばらせる。襲われると思ったからであり、当然の行動。だが、マタルは予想に反して、あかねの隣に座っただけであった。


あかねはなぜそんな行動をするのかわからない。マタルはただ座り、目を閉じながら音楽を聴いていただけであった。


敵と敵。よくわからない微妙な空気がこの場を支配しており、あかねは何か喋ろうとするが、何を話せばいいかわからなかった。


「・・・おい、アナザー。気を悪くするかもしれんが・・・」


いきなり、マタルが口を開けそう不吉なことを言おうとする。あかねは先程より身体を強ばらせて、しばらく待った。


「俺はお前のことが嫌いだ。エレンホスになぜそこまで気にかけられる存在かわからないし、そもそも魔法少女という存在だからだ。だが、だからこそ俺はお前を、お前らを正々堂々と叩き潰したい・・・おい、そこにいるんだろ?黒い魔法少女さん」


マタルはそう言いながら投げる。コツンと音が鳴り、石が弾け飛んだ。そのかけらを女性の腕が拾い、こちらに歩いてきた。


赤いウェーブヘアーを揺らし、三月パンと書かれた割烹着を着た女性。彼女は杏子の成長した姿であった。


「・・・面白そうな話やな。どうや?うちも混ぜてくれへんか?」


そう言いながら杏子も、あかねの隣に座る。魔法少女とその敵ディザイアが、なぜか争わずにここに集まってるのが、なんとも奇妙だった。


「うちもあんたのこと嫌いやし・・・ここらで決着つけるか?」


挑発的にそういう杏子は、おそらく過去と決別したいのだろう。その為にまず、マタルを倒そうとしてるのだ。


そして、その声を聞いたマタルは大声で笑い始めた。まるで、殺しあうのが日常であり、日常の中で笑ったかのような、そんな笑いであった。


「はっはっは!!おいおい、まるで俺が負けるみたいに言うなよ・・・俺はまだエレンホスが作った世界を見てねぇんだぞ?負ける気はねぇ。負けるのは・・・」


と、ここまで行って一旦言葉を切る。そして、ギロリと杏子たちを睨みつけた。思わず、びくりとしてしまう。


「てめぇらの方だ。エレンホスの為にも、てめぇらは死ななきゃならん・・・場所と時間は後で伝える。そんじゃ、残り少ない人生を楽しんでおけよ」


と言いまた、歓喜の歌を歌いながら公園から出て行った。歌の通り、とても歓喜に包まれているような気がした。


杏子とあかねはしばらくぼーっとしていた。あかねはなんと声をかければいいかわからかなかったので、すくっと立ち上がり公園から出ようとした。


「・・・あかねちゃん。ちょっと待って」


と、杏子は声を投げかけてきて、た。あかねはその場で立ち止まり、後ろを振り向いて杏子の方を見る。杏子は立ち上がっており、手を前に突き出していた。


「絶対、勝つで。そしてまたここで・・・一緒にベンチに座ろうや」

「・・・もっちろんです。あたしと師匠の二人ならわかるはずないですから」


そしてあかねも拳を前に突き出し、そしてニコリ笑った。杏子もつられて笑う。

あかねは少し気恥ずかしくなり、外に駆け出していった。杏子はそのあかねの後ろ姿を見つめている。


「・・・せめて、あかねちゃんだけでもこのベンチに座ってね・・・」


そうつぶやく声は誰にも聞こえないほど小さいが、杏子はとても悲しそうに見えた。


そして、あかねは家に帰ろうと道を歩く。そういえば最近天使くんと話してない。何やら天界に用があるとか言って海に行った日から見ていない。もうすぐ帰ってくるはずなので、なんか買ってやろうか。


そんなことを考えながら、曲がり角を曲がると誰かとぶつかって倒れてしまった。


「イタタタ・・・って、千鶴?そんなに急いでどうしたんだ?」

「あ、あかねちゃん・・・ううん。ただ、少し家の用事があってね・・・じ、じゃ!」

「あぁ、おい待て。ペンダント落としていったぞ・・・!?」


そう言いながらあかねはペンダントを拾い上げる。それは落ちた時の衝撃でか、中の写真が見えていた。その写真は二人の子供が写っていた。一人はおそらく千鶴の子供の頃の姿。そしてもう一つは・・・


「あ、あ、ありがとう!あかねちゃん!!今度こそじゃあね!」


と、千鶴はあかねからペンダントをひったくるように取って、そのまま走って何処かに行ってしまった。


(あの写真・・・なんで、千鶴とあたしが写ってたんだ・・・いや、服装が違うし、そもそもあった記憶がないのに・・・何故だ?)


写ってたのはあかねによく似た子供であった。何か胸に引っかかるものを感じつつ、あかねも家に向かい、歩いて行った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



暗い部屋の中で、マタルとエレンホス。そして眠っている女性。テベリスの3人が集まっていた。


マタルは壁に背もたれして目をつむって歓喜の歌を聞きながら、何かを紙に書いていた。それを見たエレンホスはトテトテとマタルに近づく。


「マタル・・・あなたは何を考えてるのです?」


と、マタルに聞いた。エレンホスは少し彼の考えがわからなかった。今まで一度も彼は自分に逆らうことをしなかった。だからこそ、自分の質問に対して

「・・・いや、なんもねぇ」


と、嘘を言うのが理解できなかった。エレンホスは初めて心配という感情を彼に得た。それほど彼は自分を追い詰めているように見えた。


エレンホスは、マタルの隣にストンと座った。そして、少しうつむきながら


「僕には、よくわかりません。貴女がどこか遠くに行ってしまいそうで・・・」


と言った。それを見たマタルはエレンホスの帽子を取り、頭をくしゃくしゃに撫でた。


「お前は何一つ心配すんな。俺が解決してやる」


そう言いながらマタルはニコリと笑う。その笑顔はいつものようにとても力強く、そして、頼れる笑顔であった。だが、それだけだった。


「リーダーってのは、どっしり構えればいいんだ。俺たちみたいな下のやつはそのリーダーを支える。それがいいんだ」


そしてマタルはエレンホスのおでこをピンと弾くマタルはまたニコリと笑い、紙をたたんでポケットに入れた。


「そういうわけだ。んじゃ、俺は寝るからな。また明日」


と、いいながら彼は布団にもぐり、そのあとすぐにいびきが聞こえた。あまりの早さにエレンホスは苦笑しつつ、小さく呟いた。


「マタル。僕はあなたに絶対に僕が支配する世界を見せます。それで、許してください」


そしてエレンホスはマタルに近づいて、少し迷ったあと。


「英国では当たり前・・・俗に言う、『おやすみなさいのキス』ってやつです」


と言いながら、エレンホスはマタルの額に少しの間だけ唇をつけた。そこには一切邪な感情はない。あるのはねぎらいと彼が今からする行動に対する、安全を願うキスであった。


「では、改めましておやすみなさい。また明日」


と少し照れつつ、エレンホスはベッドの中にいそいそと潜って行った。


「・・・・・」


エレンホスがキスをする間も、実はマタルは目が覚めていた。そしてマタルは額に手を当てながら。


「やべぇ、なんか鼻からでそう・・・」


少しニヤつきながらそう呟く。エレンホスにはよこしまな気持ちがなくても、マタルにあったらあまり意味はない。


そんな彼を一人の少女。テベリスがとても変な目で見ていたのは、秘密である。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「・・・ここに、あいつがいるのか・・・」

「大体の話は昨日聞いた。お前ら無理すんなよ」

「何言うてんの。うちらが負けるわけないやん」


マタルと会話した数日後、あかね杏子に一枚の紙が届いた。そこには日時と場所が書いてあり、右下に小さくマタルと書いてあった。


これから始まるマタルとの戦い、何が起こるかわからない。最悪死んでしまうかもしれないという恐怖がないと言えば嘘になる。


「・・・あ、あかねちゃん。こっから血出てるで?少し待ってや」


といい杏子はあかねが何か言う前に腕に破れたハンカチを結んだ。あかねは血が出てた記憶はないが、杏子がそういうならそんなんだろう


「よし、いくで、あかねちゃん。天使くん」


そして彼女達はは目の前にある結界の入り口をくぐっていく。一歩歩くごとに、緊張で喉が渇いていく。そんな彼女らが歩くたびにどんどんある曲が聞こえてくる。それは今までなんども聞いたあの曲であった。


「歓喜の曲・・・」


そして、あかね達は扉のの前に着いた。音楽が先ほどより大きく聞こえる。そしてその扉をゆっくり開ける。あかね達はもうすでに戦闘態勢に入って、変身していた。


すると、小さな台の上に一人の男性が腕を組んで座っていた。彼はあかね達をちらりと見ると、台の上から飛び降りる。


「やっときたか・・・びびって帰ったかと思ったぜ・・・さぁて」


と、マタルは腕をぐいっとあげる。すると、歓喜の歌が先ほどより大きくなり、あたり一面に響き始めた。


「鎮魂歌でも奏でようぜ」


その言葉が戦いの合図だった。マタルはまず、アナザーに一気に近づき、顔を狙い拳を突き出す。


アナザーはそれを済んでで避けて、逆にマタルに向けて魔力を込めた拳を突き出す。マタルはそれをもろに受ける。いや。


「そんなカスみたいな攻撃!俺に通ると思ったかこの馬鹿が!!」


右手で抑えていた。そして、その手を引っ張り今度こそアナザーの顔を殴り飛ばす。アナザーは飛ばされ壁に衝突する。マタルはそれを見たあと、次はブラックローズの方をバッと向くが、なぜかブラックローズの姿がなかった。


マタルはとっさに上を見上げる。すると上からブラックローズが杖を振りかぶりながらマタルに襲いかかる。マタルはニヤリと笑い、その杖に対して拳をぶつける。大きな爆発音が響き、ブラックローズもアナザーのように吹き飛ばされる。


だが、ブラックローズもニヤリと笑ったかと思うと、マタルの左腕を狙い、レーザーを発射した。とっさの判断ができず、避けれずに左腕が吹き飛んで、遠くまで飛ばされた。


「・・・へぇ、やんじゃん」


左肩を抑えつつ、そう楽しそうにマタルは呟く。ブラックローズもそれを見て、ニヤリと笑う。そして、マタルは一気にブラックローズに近づく!ブラックローズは慌てずに、黒い弾丸をマタルに向けて飛ばす。


マタルは残った手を差し出し、ブラックローズの攻撃を受け止めた。爆発により煙が舞うがマタルは気にせずに、ブラックローズの鳩尾に向かって拳を突き出す。


「やらせるかっ・・・!!」


だが、ブラックローズもそうくるのはわかっていた。右腕を鳩尾に来る前に杖で弾く。そうなっても、マタルは笑う。


なんと、マタルは弾き飛ばされた勢いを使い、そのまま後ろに倒れ込みブラックローズを蹴り上げる。想像できてなかった攻撃にブラックローズは対処できず上に飛ばされる。マタルは足を踏み込み、そのままブラックローズを狙おうとする。が、それはできなかった。


「・・・あー。忘れてたぜ。チビの存在をよ」


背中に何か当たったのだ。後ろを向くと、アナザーがエアガンを構え、肩で息をしながらマタルを睨んでいた。ブラックローズはマタルの追撃を受けなかったが、そのまま地面に落ちる。


「くっくっく・・・はーはっはっはっは!!!」

「な、何がおかしい!!」


するといきなりマタルが大声で笑いだした。そのことに対して、天使くんは大きく噛み付く。それでもマタルは大声で笑い続ける。それに反応してか、歓喜の歌の音量も大きく上がる。


「すげぇよ、すげぇよお前ら!!俺相手にここまで戦うなんてよ!ほら!歓喜の歌もこんなに喜んでやがる!!実際お前らを殺すのはもったいねぇ!!でも、殺さなきゃならねぇ!というわけで、チャンスをやろう!五分だ。五分だけ時間をやろう。作戦考えるなり、死ぬ準備するなり好きにしろ!!」


と、いいマタルは最初に座っていた、台の上に登り目を閉じて音楽を聴き始めた。


「し、師匠!大丈夫ですか!?」

「あぁ、血が結構で出るぞ・・・!少し休んだほうが・・・」

「ウチは・・・大丈夫や。それより比較的安全な作戦が一つある。少し耳を貸してくれへん?・・・天使くんやあかねちゃんには悪いけど・・・あかねちゃんには、少し無茶してもらう」


と、言ってアナザーに耳打ちをした。アナザーは少し驚いたように目を開けるが、やがて意を決したように頷いた。


「・・・よぉ、終わったか?命乞いか?それとも自害する準備か?」

「あたし達がしたのは、あんたを倒す準備だ・・・いくぞっ!!」


アナザーはそう言い、一気に駆け出す。両手に魔力を込めてマタルを狙う。それをマタルは右に左に避け続ける。アナザーの攻撃は床を破壊し、破片が辺りに舞うだけだった。


ふと、目線を少し上に上げると、空には黒い薔薇が舞っていて、その先端からビームを発する。マタルはそれも簡単に避け、少しあくびをする。


「はぁ、結局ゴリ押しか?期待だけさせやがって・・・しかたねぇ!!」


すると、マタルはアナザーの攻撃を右手で抑えた。アナザーは少し慌てるが、もう片方の手でマタルの顔を狙う!


ドン!と大きな音が響く。が、マタルはおもいっきり攻撃を受けたのに、全く動じず、ニヤリと笑う。


「弱い、弱い、弱い弱い弱い弱い弱い弱い!!!」


そして、マタルは右腕を使い、アナザーを空に放り投げる!アナザーは何もできずに宙を舞う。そして、マタルはアナザーの方に飛び、首をつかむ。


「ここで死に去らせぇ!!」


その時、歓喜の歌が一番大きく鳴り響く。あまりの音に、マタルがそのあと続けた言葉は誰の耳にも入らなかった。


だが、アナザーはそんなこと考えてる暇はなかった。アナザーはマタルに首を持たれたまま、空中から地面に向かっておもいっきり叩きつけられる!地面は割れ、破片は空を舞い、アナザーは口から血を吐く。そして、ぐったりとして動かなくなった


「黒い魔法少女!!次はお前をぶっ殺す!!」


そう叫びブラックローズの方を睨みつける。ブラックローズは、マタルの方を見た後。


「それはあんたの方や、マタル!!」


何?と、マタルは言おうとしたが、その言葉は周りを見た時に、消し飛んだ。そして、自分の周りが影に包まれる。


破片が空に集まっていってるのだ。しかも、無数の破片が。しかも、アナザーがどこかに消えていた。視線だけ横を見ると、アナザーがいつの間にかブラックローズの近くに立っていた。


視線を上げると、無数の破片が先ほどより多く集まり始めていた。それ言うならば巨大な平たい岩。


「な、なんだありゃ!?」

「ウチの能力は浄化!あんたの上で暴れた時にでてきた破片を元に戻したんや!そのまま押し潰れろ!!」


ブラックローズがそう言うと、空に飛んでいた岩が一気に降りてくる!マタルは片手でそれを支える!!


「これが・・・あたし達の・・・作戦だ!!」

「ふざ、ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!」


マタルは懸命に、片手でそれを支える。震えながらも、アナザー達を方を睨みつける。


「まだまだ!駄目押し!!これで決める!!」

「そうだ!いけアナザー!!」


と、言ってアナザーは拳に込めた魔力をマタルにぶつけ、天使くんとブラックローズは応援をする。アナザーの攻撃から身を守る方法がないマタルは体にもろにうけ、思わず叫び声をあげる。


「殺す!殺す!絶対にお前らを殺す!!!」


と、マタルが叫ぶと同時に、アナザーの攻撃がマタルの足を爆発させる。それは周りのかけらを消失するほどの威力であり、そんな攻撃にマタルの体が耐えれるわけはなく。


「・・・あ?」


ドォォォォォン・・・


そんなマタルの間抜けな声が聞こえたのと、床が完全に修復され、下に落ちた音が聞こえたのは同時だった。


いつの間にか、歓喜の歌は止まっていた。


「や、やったー!!!」


床が直ったのを見て、床に落ちた衝撃の時に舞う煙が舞うのを見ながら、アナザーは喜びの声を上げた。


「やりましたね!師匠!!」

「ああ・・・やっと、やっと倒したんや・・・!!」


ブラックローズは、目から涙が溢れていた。それを見たアナザーはとても嬉しくなった。


アナザーも、つられて涙がこぼれる。それほどまでに嬉しかったのだ。だから、アナザーもブラックローズも手放しで喜んだ。この勝利を。この、戦いの終着が来たことを。


「誰を殺したって・・・?」

「・・・え・・・?」


ブラックローズが、間が抜けた声を出した。後ろから声が聞こえたからだ。そして、ドン、と音も聞こえた。


ブラックローズは視線を下に下ろしてみたら、黒い衣装がなぜか段々と赤く染まっているのが見えた。ふと、前を見ると、アナザーと天使くんがとても怯えた表情になっていた。ブラックローズは声をかけようとする。


「誰を殺したって聞いてんだよてめぇらぁ!!!」

「あんた・・・さっき潰れたんじゃないのか!?なんで生きてるの!!」


身体から、ディザイア特有の緑色の血を流しながらも、そこに立っており、そしてブラックローズの腹をその残っている右手で貫いた男性。


「あぁ!?あんなんで俺が死ぬと思ったか!!それにいっただろうが!絶対殺すってよ!!」


マタルだ。マタルは死んではなく、それどころかブラックローズに大きなダメージを与えた。マタルは手を一気に引っこ抜く。するとブラックローズは膝から崩れ落ちる。


「かっ・・・はぁっ・・・!!」


口から、血を吐きながらもブラックローズはせめてもの争いというように、マタルを睨みつける。マタルは悪魔のように笑い、そして足を大きく上に上げ、ブラックローズの顔を踏みつける。


「殺す殺す殺す殺す殺す!!後悔する暇もなく殺してやるッ!!」


そして、なんども足で踏みつける。その度にブラックローズは口から血を吐き、痛みにより声を上げた。


「マタルッ!!師匠から離れろ!」


もちろん、アナザーが黙って見てるわけがない。アナザーはマタルの腹を拳で殴り、吹き飛ばす。マタルはさすがにダメージがあるのか、思ったより簡単に吹き飛ばされた。


「し、師匠!!早く逃げましょう!!」

「あぁ!お前の傷はやばい!早く安全なところに行って、浄化しろ!!」


アナザーも天使くんも、今のうちに逃げようという。ブラックローズはその意見に賛成しようとした。いくら不死身でも、痛みはある。苦しみもある。それから逃げたいのが正直な気持ちだった。


でも。


「アナザー・・・いや、あかねちゃん・・・」


それでも。


「ひとつお願いがあるんや・・・うちは奥の手であいつを倒す・・・そこでひとつお願いがある・・・」


そうだとしても。


「また、会えたら手を取ってくれへん?優しく・・・な」

「し、師匠?一体何を・・・?」


だからこそ、自分と同じ思いをする人を増やしてはいけなかった。マタルは今倒さなければならない。


すると、アナザーの右手がいきなり動き始める。いや、何かに引っ張られてるというのが正しいか。


「し、師匠!?何をしたんです!」

「・・・入り口に・・・おいとる『ハンカチの破片』に引っ張られてるんや・・・」


アナザーは思い出した。ここに入るときに右腕に破れたハンカチを巻かれたことを。それを浄化して、元に戻してるのだ。だからアナザーの右手は引っ張られる。


「あかねちゃん・・・」

「・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」


アナザーは抗う。足を踏ん張り引っ張られんとする。が、それ以上にハンカチが浄化され、元に戻る方が早く、結局体が引きずられながら引っ張られていってしまう。


「暫くの間、またね。や」

「ししょぉおおぉおおおぉおおぉおぉぉぉぉ!!!」


そう悲しみの声を叫びながら、アナザーは引きずられて入り口に戻っていく。それを見届けたブラックローズは、ちらりと天使くんに視線を向ける。


「・・・俺は、お前の言葉を信じるぞ。また会おう。ブラックローズ」

「もちろん・・・や・・・」


天使くんはそう言い、高速でアナザーを追いかけていく。それを見届けたブラックローズは、フラフラとした足取りで立ち上がり、前を見た。


すると、煙がはれていき、マタルがボロボロな体でゆらりと立ち上がる。そして、周りをぐらりと見渡した。


「へぇ・・・あのチビは逃したか。ま、あとで殺すから変わんねぇな」

「何言うてんねん。あんたなんかうち一人で・・・充分や!!」

「減らず口を・・・叩くなッ!!」


マタルは一気にブラックローズの方に駆け出す。その目は狂気の目で、殺すことしか考えてなかった。


それとは対照的に、ブラックローズは目を閉じて、杖をマタルの方に向けた。すると、杖の先端が、白く光りだした。


その光はとても輝いており、辺り一帯を包みだした。その中にマタルと、ブラックローズは消えていった。








「・・・なんだぁ?なんもねぇじゃねぇか・・・」


マタルは光が消えた後、そう疑問を呟く。手を握るが、特に違和感はなかった。


そんな時、ドサリと音が聞こえた。前を見るとブラックローズの姿はなく、赤い髪の女性が倒れていた。


「・・・ははっ、魔力を使い切ったか!ははは!笑っちゃうな!」


大声で笑いながら、マタルは倒れてる女性のところへ歩いていく。彼女は片腕を消しとばした存在。さぁ、どうしてやろうか。


「普通ならよぉ〜ゆっくりゆっくり痛ぶるってのがいいんだろうけど・・・俺のテンションは、新しいおもちゃを買ってもらった子供に近い。早く遊びたい。早く殺したいんだ。だからよぉ〜・・・」


そして、マタルは手を大きく上にあげる。女性の方は、苦しそうに息をしており、気絶したわけではないようだ。マタルは今度は手を開いては閉じて、心をすこし落ち着かせた。が、落ち着くなど無理だった。


「さて、てめぇがどう叫びどう泣き喚きどう死ぬか見せてもらおうか!安心しろ!お代は払うし、後で鎮魂歌でも歌ってやるよ!!だから、安心して!安堵して!後悔して!絶望して!」


そして、マタルは目を見開き左手を握り一気に振り下ろす!狙うは女性の頭。その速度でぶつかれば、おそらく簡単に潰れる。


「しねぇぇええぇえぇえ!!!」


当たれば確実に死ぬ攻撃がブラックローズを。いや、杏子を襲う。死ぬのは時間の問題。当たれば死ぬ。


だが、当たらなかった。なぜか攻撃しようとした腕がない。マタルは疑問を感じるが、すぐに右ひざをつき、すべてを察する。


「あー・・・そうか、疲れてんのか。間違えて左腕で攻撃しようとしたのか・・・かっこつかねぇな・・・」


といい、右手をついて立ち上がろうとした。今度は、間違えなかった。


だから


「・・・・は?」


間違えなかったからこそ


「・・・なんで・・・『右腕もねぇんだ』・・・!?」


そう。間違えたのではない。『存在してなかった』のだ。


「おい!!黒い魔法少女ぉ!!テメェなにしたぁ!!こたえろぉ!!!」


マタルはそう叫ぶ。杏子は倒れながらも、小さく笑っていた。それはマタルは気に入らなかった。やがて、杏子は震えながら口を開けた。


「うちの能力・・・浄化は・・・全力を出せば、全て浄化できる・・・元に戻せる・・・つまりは、自然物以外は・・・消せるんや・・・」


その言葉を聞いたとき、マタルは全て理解した。そして、もう一つの違和感に気付いた。


「テメェ・・・そんなことして・・・!!ふざけんなよ!!」


マタルは立ち上がろうとするが、もう片方の膝を消えていく。マタルは、己の体が粒子となり消えていくさまを、自分の目で見てしまう。それは間違いなく現実だった。


「ふざけんじゃねぇ!!!!」


マタルは叫ぶ。もう体は半分ほど消えていた。それでも叫ぶ。目に涙を浮かべながら。


「俺はまだ!!あいつの作る!あいつが支配する世界を見てねぇんだぞ!!こんなところで!こんなところで!死ぬなんて!!俺はまだ!!」


もう、彼は上半身と顔が少ししか残ってなかった。それでも目に涙をため、さけべるだけ叫んだ。


そして、殺人欲の彼は


「死にたくねぇよぉ!!」


最期には、生きることを求めた。




「・・・これが、マタルの最期か・・・」


マタルは完全に消えた。粒子となり空に飛んで行った。それを杏子は視線だけで追いかけたあと、自分の右腕の方を見る。


「もしかしたら・・・と思ったけど・・・むりかぁ・・・」


杏子の右腕も粒子として舞っていた。右腕だけじゃなく、おそらく膝のあたりも消えていた。が、怖くはなかった。もとから死ぬ覚悟はできていた。そして、杏子はゆっくりと目を閉じた


(死ぬのはこわない・・・これでよかったんや・・・やないと、勝てへんしな・・・あ、でもうちがおらんで、あかねちゃん大丈夫かな?・・・かすみも・・・あぁ、あかねちゃんにまた教えたいことあったわ・・・そうか・・・)


杏子は、消えていくのは怖くないのは本当だった。だが、なぜか目から涙がこぼれていた。理由はわかった。


(うち・・・みんなに会えなくなるのが嫌やなんや・・・)


もう、杏子の体はほぼなかった。あったのは少しだけ残っていた、顔だけだった。


「まだ・・・生きたいよぉ・・・」


この瞬間。一人の魔法少女がこの世から完全に消えた。



そんなことはつゆ知らず、一人の少女が走ってその場にやってきた。目には涙をため、先ほどから同じ言葉を繰り返す。


「師匠!!無事ですか!?・・・・え?し、師匠?どこですか・・・?」


その少女。あかねは今この場にはあかねと天使くんしかいないことを認識し、杏子の声を求めた。


「あかね・・・おそらく、杏子はもう・・・」


そう呟く天使くんの声をきき、あかねは膝から崩れ落ちる。目から滝のような涙を流し、号泣し始めた。


「なんで!!なんで死んだんですか!!またねって言ったじゃないですか!!」


そして、両手を顔につけ、涙を流す。天使くんも悲しそうな顔に見えた。あかねはしばらく泣き続けた。


だが、魔法少女というものは死んだときある現象が起きる。


「・・・な、なぁ、天使くん・・・」

「なんだ?あかね・・・」


ディザイアが死んだとき、その存在が与えた全ての現象が消える。が、一部の人間は覚えることができる。


だがしかし、魔法少女というのはそうはいかなかった。本当に一握りの人間しか覚えられなかった。今回、あかねは


「なんで・・・あたしは泣いてるんだ?」


その中に入れなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「・・・っ・・・」


暗い部屋の中。エレンホスは頭を押さえて座り込む。それを見たテベリスは近くに寄ってそして呟く。


「・・・なんとなくだけど・・・ついさっき、マタルが死んだ・・・」


そして、テベリスは悲しそうな顔になる。それを見たエレンホスはゆっくりと立ち上がり、帽子を深く被る。


を何を悲しそうな顔をしてるのです?たかが駒が一つなくなっただけ。また、調達すればいいのです」


そう、強気になるエレンホス。テベリスは、彼はいつも通りに見えた。そう、いつも以上に。


「でも・・・エレンホス。なんで・・・」


そんなテベリスは彼に声をかけようとして、しばし戸惑う。だが、エレンホスを優しく抱き寄せる。エレンホスは驚いたように目を見開く。


「泣きたいなら・・・泣いていいんだよ?・・・貴方も、泣きたいんでしょ?・・・だったら、溜め込むんじゃなくて、泣いて?ね?」


まるで母親のようにエレンホスに優しく告げるテベリス。エレンホスは一瞬泣きそうな顔になる。が、すぐに顔を拭い立ち上がる。


「僕は泣きません。一刻も早くマタルが見たかった世界。僕が全てを支配した世界。それを作らねばなりません。ですから・・・」


そして、エレンホスは手を前に突き出す。それを見たテベリスはその手を優しく両手で包み込んだ。


「協力願えますか?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




《次回予告!!》

「お姉さんは誰ですか?」

「なんだろう。何か忘れてる気がする・・・」

「貴女を倒さないといけないの!」

「まさか、お前が・・・!?」

第10話『そこに立つ蒼き者』

お楽しみに!!




お疲れ様でした。

まさかと思ってくれましたか?そう、マタルさんだけではなく杏子さんも死んでしまいました。そして、杏子さんの記憶はすべて消えてしまいました。

では、次回も楽しみにしてくれたら嬉しいです。

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