第8話 あたしが変わったわけ
どうも。前回の話覚えてますか?はい。これは前回の続きです。
個人的に一番書きたかった話なのでこの話自体は1日で書き終えました。ええ、疲れました。
では、楽しんでもらえたら幸いです
ういっす。俺は春樹だ。
俺たちは今海に来ていて、みんなで遊びまくってた。そんな中、あかねと美冬がマタルに連れらて洞窟の中に入って行った。
そこでしばらく待つと、師匠やエレンホス。そして蒼い魔法少女が。
そして、あかねの人格が変わったんだ・・・そう言えば、天使くんはどこに?まさかあかねの奴、置いてきたのか?
薄暗い洞窟の中に、二人の男性と四人の女性がいた。しかし、女性の方は一人はスク水。残りの三人はファンタスティックな服装であった。
「・・・おまえ、確かアミナって言ったよな?」
左目が潰れている男性。マタルがそう少女に質問する。少女は呆れたように顔を横に数回振り、マタルに勢いよく指でさした。
「そうですよぉ?マルタさぁん。でもぉ、人の名前はすぐ覚えましょうねマルタさぁん?」
「な、てめぇ!テメェも名前間違えてるじゃねぇか!!」
「あららーすいませ〜ん!えっとぉ、マルルーンさんでしたっけ?」
他人をおちょくるような言動でマタルを挑発するアミナ。マタルは殴りかかりそうになるのをなんとか抑える。
「ふふふ、アミナさん。実は僕はあなたに聞きたいことがあるのですよ」
手品師の風貌の少年、エレンホスがそうアミナに優しく聞く。アミナも聞く姿勢というように耳に片手を当てて、エレンホスの言葉を待った。
「あなたは、どっち側ですか?」
「・・・私はあたしとは違うからねー。でも答えは変わらない。私の答えとあたしの答えは一緒。エレレンくんもこれでいいかな?」
くるくる回りながら、アミナはそう言った。それを見たエレンホスはクスリと笑う。そんなエレンホスをマタルはちらりと見た、その時の彼の崩れない表情が恐ろしくも美しくもあった。
「いいですよ、もう結構です。帰りましょう、マタル・・・あぁ、ブルーさん。あなたは彼女達を可能なら殺してくださいな」
子供のような無邪気な笑顔でエレンホスはマタルと、蒼い魔法少女、マジックブルーにそう言う。すると、エレンホスの体が光ったかと思うと、その場にもういなかった。
「・・・と、いうわけ。あなたはここで死んでもらいます」
「うにゅにゅーん!ころさないでくだちゃーい!わたちはか弱い少女なんでちゅーーーーよっ!!」
と、アミナがいきなり駆け出してブルーに一気に近づく!ブルーの顔を狙い、アミナは拳を突き出す。ブルーは上手く避け、アミナの小さな足を掴んだ。
そして、壁に向かって投げ飛ばした。だが、アミナは壁に当たる瞬間、足を使い壁を蹴った。その勢いをつけて今度もブルーを狙う。
ブルーは杖を軽く振り周りに無数のシャボンを出した。これが彼女の能力。触れたら小さな爆発を起こし、腕一本ぐらいなら吹き飛ばしてしまう。
だが、アミナはそれを気にしないというように、シャボンに手をを伸ばし、そのシャボンを破壊するパン!と爆竹のような音が鳴り、アミナの片腕が弾き飛ばされる。だが、次の瞬間ブルーは驚愕により目を開いた。
なんと、アミナの腕が治ってたのである。ブルーが驚いた一瞬の隙をつき、アミナは魔力を込めた拳をまっすぐ突き出す!
「マジカル☆インパクト!!」
魔力を込められた大きな拳が、ブルーを吹き飛ばし、今度は逆に壁にブルーをぶつけた。あたりには殴った時に出た衝撃音が響いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ママー見て見てー!!かわいいお洋服でしょー!」
黒い髪の小さな子供が可愛らしいフリルがついた、ワンピースを揺らしながらそう嬉しそうに女性と男性に声を掛けた。
「えぇ、可愛いわあかね」
「あぁ、さすが俺たちの娘だな!父ちゃん鼻が高いぞ!」
楽しそうに喋るのは、あかねという少女の両親であるとよくわかった。この家族は今とても幸福に包まれていた。
誰がどう見ても幸せな家族。母はパートなどを掛け持ちして、無理ない程度に働き、父は大きな企業のサラリーマンとして働いていた。お金には困らず、そして何より笑顔にも困らなかった。そんな幸せがあかねは好きであった。
「・・・つぅ・・・!」
「あ、あかねちゃんどうしたの!?」
突然あかねが頭を抱えてうずくまる。どうやらいきなり頭痛が襲ってきたようだ。幼い体にはそれはとてもきつくのしかかる。
「アナ・・・・ザー・・・?たたか、え?・・・うっ・・・」
そんなことをうわ言のようにつぶやいたあかねはその場にどさりと倒れこむ。あかねの両親が心配した声をかけるが、あかねの意識はだんだんと遠のいていった。ただ、意識が完全に消える前に遠くで時計が何かの時報が鳴り響いた。どうやら今は5時らしい。そんなことを考えつつ、あかねはとうとう意識を失った。
「う、うぅ〜ん・・・?」
ベッドから重い頭を持ち上げ、上体を起こす。どうやらあかねは先程気絶して倒れたらしい。両親が運んでくれて、そして着替えさせてくれたのだろうか。先程とは色が違うワンピースを着ていた。
「なんだろう、忘れてることがあるような・・・」
痛む頭を片手で押さえつつ、ふらふらした足取りでとりあえずトイレに向かう。そこに向かう途中、リビングがなにか騒がしくなってるのに気付いた。あかねはなぜかそこに行くのを恐れた。でも行かないといけない気がした。
そっと、扉を開けてリビングの中を見る。そこには二人の大人が、何やら言い争っていた。幼いあかねには人間ではなく獣が争っているように見えた。それはとても恐ろしく、今この場から離れたくなった。
すると、男性のほうが女性の方を殴ったかと思うと、扉を開けて外に出て行こうとした。あかねは見つかると思い、その場から離れようとしたが、腰が抜けて歩けない。だが、見つからなかった。いや、まるでその場にあかねがいないかのような。
リビングの方を見ると女性が泣き崩れていた。あかねはなんと声をかければいいかわからずにその場から転がるように、寝床に帰って行った。
リビングからテレビから呑気な時報が、12時を告げていた。
次の日、あかねは目を覚ました。昨日のあの光景はあかねは夢だと結論づけた。そうしないと怖くて泣きだしそうだったからだ。
ゆっくりベッドから降りる。ふと窓から外を見ると、いろんな色が混ざり、思わず目を背けてしまいそなほど、気色悪い色の空が広がっていた。
あかねは扉を開ける。まるで何かに引っ張られるように、あかねはリビングまで足を向けていた。そこからこっそり中を覗くと、そこには一つの何かと一人の女性がいた。
何かは雄叫びを上げ、女性の首を握り潰そうとした。あかねは無意識のうちに飛び出して行き、化け物の手を引っ張った。
すると、化け物の姿が消えていった。そして、女性は膝をつき倒れる。その女性はあかねの母親に見え、そのあかねの母親は目に涙を浮かべていた。あかねはいたたまれなくなり、その女性の手を握った。
「ママ・・・いや、母さん。あたしが守るから・・・あんな男なんかより、ずっと男っぽくなって、ずっと強くなって守るから・・・だから、泣かないで・・・お願いだから・・・」
時計の針がぐるぐる回っていた。目が回るほどの速さだったが、あかねと女性はお互いの目を覗いていた。
「あかねちゃん・・・」
「母さん・・・」
女性はくすりと笑い、あかねもつられてクスリと笑う。そして女性はあかねの方に手を伸ばした。
「・・・図にのるんじゃないわよ!!このクソガキがッ!!」
その女性。いや化け物はあかねの首に手を伸ばし、先程の化け物ように首を持ち上げた。あかねは何が起こってるかわからないというような目で化け物を見つめた。
「ふざけんな・・・!あんたなんかに守ってもらうほど私は弱くない!!そんな風に他人を守ることでなんの意味がある!あんたは無意識の内に他人より優位に立ってると思ってた!!だから、弱いときめつけ守るとか言いやがる!あんたは最低なんだ!自覚がないなら分からせてやろうか!!」
あかねの頬を伝い涙が流れる。その涙は地面につくと、ぴちゃんと水が跳ねる音が響いた。それが響くなか、時計の時報が淡々と時間を告げて行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ブルーさん・・・?あんたあたしに何をしたんですかぁ?」
「別に、ただこのディザイアの能力をぶつけただけです」
暗い洞窟のなか、アミナとブルーが対峙していた。いや、ブルーの近くに小さな虫が飛んでいた。
「このディザイアは睡眠欲。他人の夢を操れるのです。恐らく、アナザーは今悪夢を見てることでしょう。目覚めるのことはない悪夢。行き着く先はデス、オア、ダイ・・・」
そう言いながら、ブルーはしゃぼんをばらまく。アミナはうまいこと距離を取りブルーを攻撃する。だが、一切その攻撃は当たらず、逆にシャボンの爆発を食らってしまう。それでもアミナは攻撃を繰り返す。狂ったようにそう攻撃をする姿、まさしく化け物。
「あなた・・・人間じゃないですね・・・」
「そうそう大正解。私はあたしみたいな純粋な人間じゃないの〜まぁ、あなたも半分人間じゃないでしょ?ディザイアに半分魂売っちゃってぇ!お母さんそんな子に育てた覚えは・・・ないよ!!」
シャボンを壊しながら、アミナは攻撃を繰り返す。そしてとうとう腹を抉るほどの威力を持つ打撃がブルーを貫く。
ドゴンと大きな音を立てて壁にぶつかるブルー。その壁から這い出て、震えながら立ち上がる。
「私は・・・ただ、魂を売ったわけではない・・・!」
「まぁ、どんな理由をつけてもあなたは私とあたしを裏切った。これは変わらぬ事実なのよん。まぁ、許す許さないは私ではない。あたしが決めることだけどね」
「別に許してもらおうとか関係ない・・・!私がこうしないと、ダメなんだから!!」
ぐっと踏み込みブルーは真っ直ぐアミナを狙い突っ込んできた。杖に魔力を込めて、迷いなくアミナの顔を狙ってきた。それをアミナは守るも避けるもせず、ただその場に立ってるだけで何もしなかった。
ぐちゃりと音を出し、アミナの顔が潰れた。あたりに赤い血が飛び散り、ブルーの服を赤く染めた。
どちゃりと、アミナのつぶれた頭が地面に落ちる。ブルーはそれをただ見つめていた。
「・・・・・痛いなぁ」
「なっ!?なんで喋れるの!!」
潰れたアミナの頭から声が聞こえた。ブルーはおもわず驚きの声をあげその場から少し離れる。
「痛い痛いよぉ!あはははは!でも私は痛がるのはダメなんだよねぇ!!だって私はねぇ!!」
そう狂ったような声を出し、アミナの身体は再生してして行った。
「だって私は私だから!私は私私は私私は私私は私私は私!!あはははははははは!!!」
まさしく狂人。目の焦点が合わなく、そして大きな笑い声をあげる。まだ体は再生しきってないのが、また恐ろしくもあった。
「返しなさい・・・!!」
「・・・はぁい?」
ギリリとブルーは歯ををかみしめ、杖に魔力を込める。そして周りに無数のしゃぼんを展開する。それを間抜けな顔で見渡すアミナ。
「その体を速く、あかねちゃんに返しなさい!!」
そう叫ぶと同時に、アミナに無数のしゃぼんが襲いかかり、また大きな爆発が起きた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ・・・ぐぐぅ・・・」
「どうしたのぉ!?私を守るんでしょう!!ならやってみせなさいよ!!」
あかねは首を締められ、苦しそうな声を上げる。それに対して化け物は楽しそうな声を上げる。
あかねは思い出していた。これは彼女の記憶。もちろん首を締められた記憶などない。が、今起きてるのはまぎれもない事実。悪夢のようだが、この首を締められてる感覚は正しく事実。
すると、いきなり首を締める力が弱くなった。あかねは激しく息をする。そのせいか大きくむせ、その勢いで少し嘔吐してしまった。
「そうだわぁ、こんな他人のことを考えられない子はぁ・・・」
そして、化け物は手を離す。普通なら床に手をついてしまうが、手をつかず、それどころかだんだんと下に落ちていった。
「死んでくれる?」
そう言い放った化け物の声を最後に、あかねは暗い闇の底へとその身を落としていった。
だが、意識は消えてなく、逆にはっきりしていた。思考も元に戻り、なんとかしてここから抜け出そうと考えた。変身ができないため、なんとか自分の力で切り抜けなくては・・・
そんなあかねの耳に声が聞こえてきた。子供のような、幼い声。なんと言ってるか最初はわからなかったが、だんだんと聞こえてきた。
「・・・なぁ、知ってるか?あかねっておなべってやつらしいぜ?」
「マジで!?気持ち悪!」
「・・・え・・・?」
その声は記憶の片隅にあった、小学生の頃に聞いた同級生の声だった。確か二人の少年が、あかねのことをバカにし始めた。
「あかねちゃんって気持ち悪いよね・・・」
その少年たちが小学校の中でかなりの権力を持ってたのがいけなかった。一人がそう言うと、だんだんと嫌な噂は広がっていく。その噂はとどまることを知らず、尾びれをつけて広がっていく。
「あ・・・いや・・・ちが・・・ちがう・・・」
あかねは耳を塞いだ。もうこの声を聞きたくないのだ。思い出したくない。思い出したくないから、記憶の片隅に置きやった、悪しき記憶。
「あかねって女装した男って本当か?」
「あた、あたしは女だ!!男じゃない!」
「ふーん・・・じゃ、証明してよ・・・?」
そういえば、多数の男子生徒の前で服を脱がされたこともあった。それ以上はなかったが、それでも恐ろしい記憶でもあった。
「やめろ・・・やめろ・・・」
「お前さぁ、気持ち悪いんだよ」
いじめ。いじめというものは途中からなぜいじめてるかみんなわからなくなるという。もはや気持ち悪いという言葉だけが先行していき、特に意味もなくいじめられた。
「やめろ・・・もう何も言わないでくれ・・・お願いしますから・・・」
あかねは強く耳を抑える。顔が潰れてしまいそうなぐらい。だが、その残酷な声は頭に直接響いた。背けたくても背くことができない。どう頑張っても聞こえてしまう。
「お前は気持ち悪くてみんなに嫌われて、母親からも好かれてない・・・そんなゴミ生きてる価値あんのか?」
あかねは暗い暗い闇の底。一番下につくまでただ永遠と声を聞き続けて、落ちていった。その目にはもう、光はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あっはっはっは!!どうしましたぁ?ブルーさん!さっきまでの威勢はぁ!!」
「くっ・・・がはっ・・・!!」
場所は変わり洞窟の中。そこでは今アミナがブルーの腹を蹴り上げていた。狂ったように笑うアミナと、体がボロボロになって、口から血を吐いているブルー。他人から見たらどっちが悪かわからない状況だった。
「まぁ、殺すつもりはありませんけどぉ。殺したらあたしが悲しみますしねぇ」
「早く体を・・・あかねちゃんに返せって・・・言ってるでしょう!!」
もう一度ブルーはたくさんのしゃぼんをばら撒く。アミナはそれをもろに受ける。もちろん身体は木っ端微塵になるが、すぐに体は修復される。体が半分以上ないアミナがゆっくりとブルーに近づいてくる。
ブルーは今度は小さなしゃぼんを一点集中で放つ。だが、アミナはいくら体がなくなろうが関係ないというように、確実にブルーに近づいていった。
「来るな・・・来るな・・・!!」
「そんな怖がらないでくださいよぉ?アミナさん傷ついちゃう!」
「来るなぁああああぁああぁあああ!!!」
無数の爆竹を爆発させたかのような音が鳴り響く。それもそのはずしゃぼんも先ほどよりも無数に増えており、それが一斉に爆発した。
その煙がはれたあと、その場には何も残ってなく、ただ、爆発によって大地が壊れていただけである。それもうぼろぼろに。
ブルーは肩で息を整えながら端にいる美冬たちの方をちらりと見る。二人は今寝息を立てていた。その二人を殺そうと、ふらふらと歩いて行くと、突然肩を叩かれた。ドクンと心臓が大きく脈打ち、全身に緊張が走る。ブルーはゆっくり青ざめた顔で後ろを振り向いた。
「どこいくのぉ?」
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」
顔がボロボロになり目玉が飛び出て、体のいたるところから骨が覗いている、アミナが後ろにいた。
思わず恐怖の叫び声をあげたブルー。杖をふり、アミナの顔を吹き飛ばすが、その顔からゆっくりと体が修復されていった。
「いたいなぁ・・・でもぉ、これぐらい耐えれるもんねぇ・・・私は私だからぁ」
「あぁああああぁぁぁああ!!」
すると、ブルーは青ざめた顔で、アミナの顔を何度も杖でつぶした。ぐちゃり、となんども音を立ててアミナの顔は変形していく。あたりには血が広がっていた。
「なんで!!なんで!!なんで!!」
そう叫ぶブルーの顔は完全に恐怖で歪んでいた。呼吸もうまくできなくなり、体が震えていた。そんな中でもアミナは楽しそうに笑っていた。
「なんでよ!なんでなんでなんでなんで!!」
「ほらぁほうしたのぉ?わたしをほろすんじゃないのぉ?」
「なんで死なないのよぉぉぉおおぉぉぉおおおぉ!!」
思いっきり、杖を振り下ろしたそこにはアミナの顔が原型をとどめてなく、そこにあったのはただの肉片だった。
だが、ブルーの耳にはアミナのあの狂った笑い声が聞こえていた。耳を塞いでも、聞こえてしまう。まるでこびりついたかのような。もう一生落ちないような気がした。
すると、今度は後ろから何かが抱きついてきた。右の方から顔をのぞかせたのは、顔が原型どころか、もはや形を残してなく、目も鼻も口も何もかもがぐちゃぐちゃに潰れている、あの少女の顔だった。
「遊ぼうよぉ、ブルーさん?」
「いや・・・いや・・・いや・・・」
ゾンビのように、アミナはブルーに近づいてくる。ブルーは思わずどさりと地面に崩れ落ち、後ずさりしていた。そして
「やだぁぁぁぁぁぁ!!」
そうブルーが叫び、涙を流しながら外に向かって走り出した。恐怖に耐えられなくなったのだろう。見たくない現実から目を逸らした少女の背中は、酷くかなしいものだった。
「あらぁ・・・まぁ、いいや。じゃ、あたしが起きる前に、あの睡眠欲とか言うのを・・・殺さないと、ね?」
と、すると、いつの間にかあの小さかった睡眠欲が、大きなハエのようなものになっていた。
「あらまぁ!こんなに大きく成長しちゃって!!お母さん嬉しい!!でもぉ・・・」
成長した睡眠欲は洞窟内を縦横無尽に飛び回る。それを目だけで追うアミナ。そして、あかねのように拳を握り、そのあとまた開いた。
「殺さないとダメなのよねぇ。お母さん悲しいわぁ」
と、むしろ嬉しそうな声で、アミナは睡眠欲を迎え撃つ準備をし始めた。
「・・・う・・・ん・・・ここは?」
そんな光景を目が覚めた美冬が見ていた。隣を見ると、ブラックローズが荒い息をあげて寝ていた。どうやら夢を見ているらしい。うわ言のように何かをつぶやいて、とても苦しそう死にていた。美冬はなんとなく耳を澄ましその声を聞いてみた
「・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・かすみちゃん・・・」
美冬は何故かこれ以上聞いてはいけない気がした。が、好奇心に勝てるわけがなく、また耳を近づけて、なんと言ってるか聞き取ろうとした。
「あなたのお母さんを・・・殺して・・・」
「えっ・・・?それってどういう・・・」
そんな疑問の声をかき消すかのように、アミナたちの戦いの場から大きな音が響いた。その時の衝撃で美冬は背中を強く壁に打ち、また気絶してしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暗い闇の底へ、ゆっくりゆっくり落ちていく。その少女は流す涙も枯れ果てた。
思い出したくない記憶も全て思い出し、自分は何故生きてるのは分からなくなってきた。こんなにも気色がられてるのだ。もう、他人は自分を見るだけで不快なのだろう。
「はは・・・」
乾いた笑いを出しながら、ドサリと、地面に背中がつく。この闇にもゴールはあったのだ。あかねはしばらく落ちてきたところを寝転がりながら見つめていた。するとまた、先程のような声が聞こえてきた。
「なんでまだ生きてるの?」
「なんでだろうなぁ、あたしにもわかんねぇや」
無気力にそう答えるあかね。もう何を見て、何を感じているのか、まったくわからない。それほどまで彼女の顔は変わっていた。
あかねの両親は、父親が女を作り、そして離婚した。その時母が涙するところを見たあかねは決めた。
自分が男になって母を悲しませない。と。
その日からあかねは持ってる可愛い服をすべて捨て、父が子供の頃に来ていた服を着るようになった。男になろうとして、一人称は俺に変わった。そんなあかねを母はなんとも言えない目で見ていたことをあかねは知らない。
だが、子供というのはとても残酷な生き物であった。あかねが男らしくなろうとすると、それは他の子供から見ればいじめのネタであった。また、父親がいないというのも、そのイジメに拍車をかけた。
あかねはいじめられた。たが、泣き言一つ漏らさなかった。そんな彼女に対して、いじめっ子たちは面白くないというように、さらにいじめを加速させた。罵声。そして殴る蹴るの暴行。それでも涙を流さなかった。それは、もう父がいなくなった時に子供の時に流すのは全て流したからかもしれない。
泣かないことがかっこいいと思ったから、彼女は何をされても泣かない。
耐えることがかっこいいと思ったから、彼女は耐え続けた。
そして、あかねは小学校を卒業と同時に遠くの地に引っ越した。中学となれば、周りとどう接すればいいかわかっているあかねは、敵を作ることなく、平和な学園生活を送っていた。もしかしたら、いじめがあったからこそあかねの性格はこうなったのかもしれない。
それでも、今は楽しくやってるといえども、彼女の心は確実に小学校のあの悲劇により、蝕まれていた。
「なぁ、なんであたしって生きてるんだろうな?」
誰に聞いたかわからないが、そう空中に告げるそれは、自問自答か。それとも先ほどから聞こえる不愉快な子供の声の主に対してか。
すると、その質問に答えるかのように、周りから小さな声が無数に聞こえてきた。最初はバラバラに喋ってたため、なんと言ってるかわからなかったが、だんだんと耳が慣れてくると同時に、なんといってるかがわかった。
「生きてることを自分に聞く時点でお前は生きてる価値などない」
「だったらどうするかわかるか?」
わからないというようにあかねは首を横に振る。すると、目の前の壁がゆっくりと上に上がり人が一人通れる道ができた。
あかねは、虚ろな瞳でそこを見たあと、その道を進んでいった。まるで磁石のように引っ張られたその先には個室があった。
そこには小さな椅子と、天井から黒く、先を丸くしたロープがぶら下がっていた。あかねは椅子に立ちそのロープを触る。ゴワゴワした感触が、とてもリアルであった。
「自分の価値を自分で見つけれないゴミは」
「早く死んだ方がいいよ」
また不愉快な子供の声が聞こえてきた。しかし、あかねは耳をふさぐどころか、その声に耳を傾けていた。何故かはわからない。ただ、ずっと聞いていたくなっただけであった。
「シネ」
「早くシネ」
「早く首をつってシネ。生きる価値がないゴミが」
「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ」
そんな声を聞いたあかねは目に光を戻し、そして笑顔でこういった。
「ああ!シヌよ!」
そして首にロープをくくりつけて、椅子を思いっきり蹴飛ばした。
パシッ
だが、足で蹴った瞬間誰かがあかねの手をつかんだ。その暖かい感触にあかねはなんとも言えない表情になり、ゆっくりとその手を掴んだものを見た。それは見たことがある顔。自分に馴染みが強い顔だった。
「まったくもぉ、あたし。シヌなんて言うもんじゃありません!お母さん泣いちゃうよ!!」
「ア、アミナ・・・!?」
あかねの目の前にいたのは、あかねと瓜二つの少女。アミナが、にこりと笑いながら、あかねの手を掴んでいた。
「自分に生きる価値を見出せないなら、他人に見出せばいいのよ」
「は・・・?何言って・・・」
「他人のために死になさい。己のために死んではダメ。他人を助け、他人の手を取り、そして・・・」
ここでアミナは一度声を止める。そしてあかねを抱き寄せ。
「他人を守って死になさい」
瞬間、辺り一面が光り輝き始める。そして、あかねの体はふわりと宙に浮き始めた。そして眼下ではアミナが手を振っていて、あかねも思わず手を振り返す。
「あたしと私の価値は、その程度。他人のためにしか生きられないのよ。ま、他人のために死ぬなら本望でしょ?」
そう最後に聞こえて、あかねの体は空の彼方に消えていった。アミナは嬉しそうにも悲しそうにも見れる、そんな表情を浮かべていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「う、うぅん・・・あれ・・・?ここは・・・」
「あ、あかねさん!!よかった目が覚めましたか!!」
あかねは洞窟の中で目を覚ました。洞窟の中はまるで何もなかったかのように綺麗になっていた。痛む頭を押さえながら、あかねはむくりと上体を起こす。
さっきまでの夢は、なんだったのだろうか夢にしてはリアルだった。だが、確かに心に残ってるのがあった。
他人のために死ぬ。
なんと素晴らしいのだろう!!まさしく自分が生きる道を示している一言。あかねは自分の拳を強く握りしめ、笑みを浮かべる。それが恐ろしかったのか美冬は心配そうな声をかける。
「さて、帰りますか」
何事もないようにあかねは立ち上がり帰ろうとする。が、後ろから声をかけられる。
「なぁ、あかねちゃん。ちょっとええかな?」
その声は杏子の声だったが、いつものような呑気な声とは違い、とても深刻そうな声だった。
あかねはなんですかと言いながら杏子に近づく。隣に美冬を立っていた。何やら暗い顔をしているが、あかねはこの際気にしなかった。
「・・・少し言いたいことあんねん。ええか?」
あかねはごくりと生唾を飲み込み、杏子の次のセリフを待った。杏子は重おもしく口を開けて、こう言った。
「かすみは・・・かすみは、うちの娘やない。それどころか、うちはかすみの本当の母親を・・・殺した」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふふふ・・・いい感じですねぇ・・・」
長い道を歩きながら、手品師の風貌の少年。エレンホスが上機嫌で喋る。少し口笛を吹いてるところから、とても嬉しいことがあったのだろう。
「なんだ?今回の作戦は失敗なような気がするが・・・俺が準備した睡眠欲も、負けたしよ」
それとは対照的に、強面の青年。マタルは不服そうにそう喋る。今回何もできなかったのが、よほど悔しいのだろう。
「大丈夫です。今回の作戦は彼女を本格的に目覚めさせることですからね」
「彼女ってぇと、アミナとかいうやつのことか?」
エレンホスはこくりと頷いた。彼女を目覚めさせることになんの意味があるか彼にはわからない。が、エレンホスには何か考えがあるのだろう。それに、彼の嬉しそうな顔を見るのはマタルは大好きであったから、他のことはどうでもよくなっていた。
「・・・よっと!!」
「うわぁ!?マ、マタルなにを!?」
「へっ!早く帰んないと、テベリスが寝すぎて死ぬからな!ダッシュで帰るぞ!!」
エレンホスを肩に担いだマタルはそう言いながら走り出す。エレンホスも、恥ずかしながらも、少し嬉しそうな顔になっていた。それを見てマタルも嬉しくなる。
(こいつがなに考えてるかわかんねぇけど・・・エレンホスの隣に立って、こいつが作る世界を見れるならそれでいい。それが俺の幸せなんだ)
帰り道をかけていく彼の背中は、夕日を浴びてとても輝いて見えた。
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《次回予告!!》
「あの時、マタルが来た時・・・」 「さぁて、鎮魂歌でも奏でようぜ」 「これできめる!! 」 「ししょぉぉおおぉおおおぉう!!!」
第9話『全てを清める鎮魂歌』
お楽しみに!!
お疲れ様でした。今回もどうでしたか?
あかねさんの過去がわかりましたね。いじめというのは恐ろしいものです。やってる方はいつの間にかなんとなくいじめる。そうなってしまうからです。
そういえば、あかねさんいじめの中で服を脱がされ・・・いや、これ以上はやめておこう。
では、次回も良ければ楽しみに待っていてくださいませ。