第6話 春樹の憂鬱
どうもは〜げんです。この作品が評価されて馬鹿みたいに騒いでました。
私の中ではこの作品はファンタジーになりました。
前回までのあらすじ
どうも。エレンホスです。
前回僕は少し実験をしてみました。その結果はとてもすばらしいものでした。
そして少し事後処理をテベリスに頼んだら、なんと、アナザーが止めに来たのです
アナザーを倒し天使を殺そうとしたらアナザーが覚醒。テベリスは破れ行方不明になりました。少し心配ですが、きっと彼女なら大丈夫でしょう。
「・・・!?こ、ここは・・・?」
「お、目が覚めたか。テベリス」
モコモコなベッドから、飛び起きて周りを見渡す少女。彼女の身体中には、白い包帯が巻いてあったりおでこになぜか絆創膏がはってあったりで、介抱の痕跡がうかがえる。
彼女の名前はテベリス。ディザイアという化け物たちの1人である。
そんな彼女を介抱するのは、小野悟。年齢より、少し大人びているただの男子高校生である。
テベリスは悟の方をじーっと見つめる。悟は顔を少し赤らめ目を背ける。なぜか照れてるようであった。
テベリスは少し考え、そして全てを思い出した。あの時、テベリスは魔法少女に負けてから、逃げる時に力尽きてしまった。おそらくそのあとこの少年に助けられたのだろう。少し理解に苦しむ。
何故なら、彼はテベリスの体から出る血を見たはずだ。赤ではなく、緑色の。普通の人間が見たら逃げ出すはず。だが、彼は違かった。
テベリスはよくわからなかった。だが、彼を見ると何故か胸の鼓動が少し早くなる。それは心地いいが、感じてはいけない感情な気がした。
テベリスは窓をがらりと開けて外に出ようとする。そんな彼女を悟は慌てて手を引っ張り引き止める。
「お、おい!まだ怪我は治ってないんだ。もう少し家にいろ!」
「お礼はいう・・・けど、私はここにいてはいけない。何故なら・・・人じゃないから」
テベリスはいつも通りのやる気のない。そして冷たい瞳で悟を見つめた。
悟は今度は目をそらさずにテベリスの目を見つめ返した。しばらくの間が空き、やがて悟が口を開く。
「・・・俺が助けたいから助けたんだ。そこに理由なんてない。そして俺はお前に元気になってほしい。だから引き止めるんだ。だって・・・」
ここまで言い、悟は目を背ける。テベリスはやはり意味がわからない。もしかしたら、この胸のドキドキに関係するのかもしれない。だが、そんなことは関係なかった。
テベリスは手を振り払い、もう空いている窓に片足をかける。そしてちらりと悟の方を向く。
「感謝の言葉は・・・今『は』言わない」
と言い、テベリスは窓から飛び出していった。悟は身を乗り出して外を見るが、もうテベリスの姿は見えなくなっていた。
「・・・今は、か」
悟は先ほどまでテベリスを握っていた手を見つめていた。そして、確認するように手を握った後、窓をぴしゃりと閉めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん?小峠どうした?なんか浮かない顔だけど・・・」
「あ、あぁ。西園寺・・・そんなに浮かない顔してたか?」
「おうよ。まるでこの世の終わりみたいな顔してたぞ」
夏の太陽が照らす通学路。そこには二人の人間が立っていた。男の方は、薄く見えるが下に「剣の舞」と書かれたシャツを着ていた。彼の名前は「小峠春樹」私服がちょっとダサい男子高校生である。
そんな彼を心配そうに見る少女。髪は短めで、もしスカートをはいてなければ男性に見られるかもしれないような、顔立ちであった。名前は「西園寺あかね」
改めて浮かない顔をしてる理由を聞くと、春樹が少し頭をかきながら、こう言った。
「いや、この前さ美冬に買ってもらった服があんだけど・・・なんか着る気が起きないというか、なんというか・・・」
美冬。それは彼の妹である。兄思いの優しい子であり、みんなかわいがっている。
しかし、着る気が起きないというのはこの前買ってきたジャスティスTシャツのことなのだろうか。春樹はダサい服。しかも美冬が買ってきた服は喜んで来そうなイメージがあるためあかねは少し驚いた。
「ま、趣味に合わなかったんだろ。今度自分で買ってきたらどうだ?」
あかねは元気付けるようにそういった。それを聞いた春樹はそうだな。と呟き、その話はここで終わった。
「久しぶりあかねちゃん!!正確に言えば1話ぶり!!」
「1話ってなんだよ・・・おっす。千鶴」
いつも通りに飛びかかる少女の頭を抑えつつ、いつも通りに挨拶を投げ返す。あかねに飛びかかってきた少女の名前は千鶴。なぜかあかねに好意を寄せてる少女だ。
そんな千鶴の後ろから大きなあくびをしながら歩いてくるのは悟。少し眠そうな目を擦りつつ、彼の性格からはあり得ないほど間が抜けた顔をしていた。
「ん?どうしたんだ悟」
「春樹か・・・いや、少しな」
と言いながら恥ずかしそうに頬をかく悟。心なしかどこか遠くを見つめている用にも見えた。
あかねは早く行くぞと声をかけようとするがそんな彼女の肩をトントンと千鶴が叩き、あかねの耳に口を近づける。
「あかねちゃん。きっと悟くんは恋をしてるよ。熱々でジューシーな恋だよ。乙女の私にはわかるよ!」
「そ、そうなのか?というか、千鶴が乙女なら世界中の男女問わずみんな乙女だ」
「いやーん!辛辣なあかねちゃんもかわいい!でも私のどこが乙女じゃないっていうのー!」
頬をぷくっと膨らませてそう反論する千鶴。乙女じゃないというのはあかねに向ける謎の好意だけで、ほかは普通にかわいいんだけどな。と考える。
すると、春樹が腕時計に視線を落としたあと、慌てた声で
「時間がやばい!みんな急ぐぞ!!」
言われてみれば、成る程もう学校が始まる10分ほど前。少し話しすぎたと皆は後悔した。
「走るぞみんな!!」
あかねの合図で皆一斉に走り出す。目指すは学校。カバンの中で天使くんが声にならない叫び声をあげてるのは気にしないでおこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暗い個室に、手品師の風貌をした一人の少女のような少年が座って、目の前のガタイがいい男に話しかけていた。
少年はエレンホス。そして男はマタルといった。マタルは少し落ち着きがないようにそわそわしていて、対照的にエレンホスは落ち着いていた。
「この前の性欲。彼は『欲を溜め込んだらどうなるか?』という実験のために彼には尊い犠牲になってもらいましたが・・・結果は上々です」
ふふふ、と可愛らしく笑う少年の名前はエレンホス。魔法少女の敵ディザイアの事実上のトップである。
「そうか・・・エレンホスが喜んでんならいいけどよぉ〜テベリスは無事なのか?」
心配そうな声をかける大男はマタル。エレンホス一筋の彼でも、やはり仲間の安否は気になるらしく、落ち着きのない声でエレンホスに話しかける。
その様子を見たエレンホスは大丈夫だというように、マタルに微笑んだ。マタルは思わず変な声を上げそうになるのを理性で抑える。
「まぁ、お前が言うなら大丈夫なんだろう・・・よし、じゃ俺は曲でも作ろうか。暇だしな」
といい、気合い充分というように袖をまくりながら目を閉じて椅子の上に座る今頭の中で今日を作ってるのだろう。
そんなマタルの様子を見ながら、エレンホスはいたずらっ子みたいにくすりと笑いトコトコとマタルの近くに寄ってきた。そしてマタルの膝の上にちょこんと座った。
「い、いきなりなんだ!?エレンホス!?」
「いやぁ、座りやすそうだったのでつい・・・」
迷惑でしたか?と上目遣いで言われて迷惑と言えるはずがない。鼻から何か垂れそうなのを抑えつつ、マタルはまた頭の中で曲を作りはじめる。
「・・・貴方は、あんなことがあっても曲を作り続けるのですね」
「・・・あんなことがあったからだ。ここで俺が人間だった頃の仕事みたいなもんをやめちまったら、それはあいつに負けたことになる。それは嫌だ」
ポツリと、声を漏らすマタル。彼が考えてることは、エレンホスにはよく掴めない。なぜならエレンホスはマタルじゃないから。
エレンホスは目を閉じ、マタルと会った時のことを思い出す。あの日、あれは絶望しきった顔で歩いていた。そして少し血の匂いがしていた。そんな彼を見つけたエレンホスは彼の欲を解放してあげたのだ。善意などではない。ただ単に興味と、新しい駒が欲しかっただけである。
そして、なぜかマタルはエレンホスに対して好意を持ち始めた。いや、エレンホスの命令をどんなものでも聞くあたり、好意をというより心酔か。
そう言えば、テベリスもそうであった。彼女もエレンホスに対してマタルほどではないが心酔していた。だからこそ
「ただいま・・・て、何してるの・・・?」
「あっ!?違うぞテベリス!!これはちょっとあれがあれしたんだ!!」
「はいはい・・・ふぁ・・・エレンホス、少し寝てていい・・・?」
だからこそ
「・・・ええ、それが貴女の欲ですものね。構いませんよ」
だからこそ、テベリスがいつもとは違い、エレンホスと目を合わせようとしないというのと、額に絆創膏がはられているのに気づいた。
「・・・少し厄介かもしれません・・・」
エレンホスはそう呟き、マタルの膝から降りた。そして帽子を深くかぶり、外に出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うーん・・・何がおかしかったのでしょうか」
顎に手を当てながら、ポツリと呟く幼い少女。可愛らしくサイドテールを揺らしている。名前は「小峠美冬」
「まぁ、たまたま趣味に合わなかったんだよ。あんまり気にすんな」
そんな彼女をなだめるのは、あかね。場所はそんなあかねの家である。学校から帰る時、いきなり春樹から美冬をしばらく家で預かってくれと言われた時は少し驚いたが、あかねは快く家に美冬を招き入れた。
美冬があかねの家に入った時に見た春樹の顔は、なぜか安心したというか、変な顔をしていたのも気になったが。
と、ここで美冬が未だに納得してない顔だというのにあかねは気づく。
「趣味ですかねぇ・・・自慢じゃないですが、ボクが選んだ服はいつも来てくれますよ。それに、ださい服がいいと言ったのは春兄ですし・・・」
だんだんとうつむき始める美冬。あかねは少し頭を掻き、どうしようかと天使くんをチラ見するが、天使くんはお手上げだというように羽を上に軽く上げる。それを見たあかねは美冬に取り敢えず向き直る。こういう時は話題を変えるに限る。ついでに前からの疑問を聞いてみよう。
「そう言えば、美冬ちゃんの両親はどんな人なんだ?」
小峠家の両親というのはあかねは見たことがない。噂では、海外で何かの修行をしてるらしい。
「ボクの両親ですか?・・・春兄が言うには有名なデザイナーだったそうですよ。今は海外で修行して、ボクたちにお金を送ってきます。まぁ、足りないから春兄がバイトしてるんですけどね」
少し誇らしげにそして照れ臭そうに話す美冬。それを見たあかねは美冬は家族が好きだと改めて実感して、微笑んでいた。そして、あかねはよしといって立ち上がる。
「うだうだ悩んでもしたないしな。なんか服でも買って行こうか。それで小峠に直接言ってみろ。「大好きな春兄のために買ったから来てくださいー」って」
「だ、だだだ、大好きって!!そそそそ、そんなことないです!!わけわかめです!!」
顔を真っ赤にしてそういうが、あかねは大声で笑いながら扉を開け外に出ていく。その後ろから天使くんと、慌てて美冬が追いかけてくる。
そして近くのデパートで買った緑色の服に白い文字で「白葱」と書いてある服をかい、春樹の家に向かって歩いている。美冬はニコニコしてるが、あかねと天使くんは少し引いている。
そして春樹の家にやってきた二人。ピンポーントチャイムを鳴らすが、春樹が来る様子もない。バイトにいってるかと思えば鍵も開いていた。お邪魔しまーすと言いながら扉を開けて中に入るあかね達。なにやら異質な雰囲気であった。
「・・・この気配。まさか・・・」
天使くんが何かを感じたのと、リビングにいる春樹を見つけたのは同時であった。だが、隣に一人の少年がいた。見たことのある手品師のような風貌。
「エレンホス・・・!?」
「おやおや、これはアナザーさん・・・お久しぶりです」
といい礼儀正しく頭を下げるエレンホス。あかねは思わず身構える。それを見たエレンホスは安心しろというように手を上に挙げた。
「戦うつもりはありませんよ。ただ、僕はただ・・・」
とここまでいい、春樹の肩をポンと叩いた。そしていつものようににこりと笑ってあかね達を見た。その時の顔。可愛らしいが、思わずゾッとしてしまう。
「彼・・・春樹くんの欲望を開放させるためです」
と言った。
そして、その言葉が合図になったように、春樹は真冬の近くまで行き、そして彼女が持っている白ネギと書かれた服を取った。
「春兄・・・?な、何をする気ですか・・・?」
美冬は震える声で春樹にそう聞く。春樹はいつも通りの笑顔を見冬に見せた。その笑顔はとても優しく、美冬はおもわずつられて微笑んだ。
ビリィ!!
春樹が、持っていたハサミでそのシャツをビリビリに切り刻んでいた。
美冬とあかねは呆然とした顔でその光景を見つめ、後ろでエレンホスがクスクス笑っていた。
「な、なんでこんなことを・・・?」
今にも泣きそうな声で美冬は春樹にそう聞いた。すると、春樹は先ほどとは違い、冷たい目を美冬に向けた。
「誰が好き好んでこんなダサい服着るかよ。バカじゃねぇか?」
と、春樹は美冬に言った。それを聞いた美冬は床にぺたりと座り込み、涙を流し始めた。あかねは美冬をなだめるように背中をさすりながら、エレンホスを睨みつけた。
エレンホスはフッと、息を漏らしながらあかねに対して
「おぉ、怖い怖い。これは僕の責任じゃありません。春樹くんの欲のせいですよ?勘違いしないでくださいね」
くすくすと口元を隠し、笑いながらそういった。
すると、春樹が虚ろな瞳でどこか遠くを見ながら、ふらふらと家の外に出て行った。それを見たエレンホスは、春樹について行った。
あかねも慌てて追いかけようとするが、美冬に手を掴まれて止められる。美冬は震える声であかねに
「ボクも行きます・・・いや、行かなきゃならない。なんで春兄がああなったか、ボクは知らないといけないのです」
震えるが、力強い瞳をあかねはしばらく見つめたあと美冬の手を引き、春樹たちを追いかけて行った、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「見つけた・・・!!」
あの後あかねと美冬は春樹を追いかけていた。思ったより足が速く、二人は肩で息をしている。
「おやおや、速かったですね、お二人さん」
そこには何かの布の上に座り込んでる春樹と帽子を深くかぶっているエレンホスの二人の姿があった。遠くからはよく見えないが、春樹は何やらブツブツ呟いている。
よく見たら春樹が座ってる布はどれもおしゃれな洋服であった。いつも来ているあのダサいシャツとは正反対の。
するといきなりふらり、と春樹は立ち上がりふらふらと美冬のところに歩いていく。
「美冬・・・ごめん。ごめんなぁ・・・」
そして美冬の服をつかみ、春樹は泣き始める。そんな光景を見た美冬は慌てたように体が固まる。
エレンホスは先ほどより大きく笑い声を立て始める。その笑い声は狂ったように聞こえ、まるで悪魔の笑い声であった。その声を聞き、美冬とあかねはおもわずビクリとする。
「いやぁ、素晴らしいです。欲が溢れそうなのを彼は理性で抑えている!!すばらしい!素晴らしいですが・・・もし」
「美冬・・・こんな最低なお兄ちゃんで・・・」
「解放したらどうなりますかねぇ?」
「本当に、ごめん・・・」
「離れろ!!美冬!!」
あかねが叫ぶのと同時に、春樹の体がいきなり光り始めた。それは金銭欲が現れた時と同じ輝き。つまり、ディザイアが現れるということであった。
あかねは変身をして、美冬と春樹を掴み、その場から遠くに離れた。春樹が先ほどまでいた所には、大きな影があり、それは大きなハサミに殻のようなものを背負っていた。
「ふむ、ヤドカリですか・・・服の欲と、少しの金銭欲もありそうな感じですね・・・素晴らしい、素晴らしい欲だ!!春樹くん!あなたは素晴らしい人です!あはははは!!」
エレンホスは先ほどと同じように狂った笑い声をあげながら春樹の欲を見ていた。
「美冬、春樹を見ててくれ」
その時見たあかね。いや、アナザーの瞳には憎しみの炎が燃えていた。美冬はごくりと生唾を飲み込み、春樹の手を強く握りしめた。
アナザーはまず、ダッシュで春樹の欲に近づく。敵はもちろんハサミを振りかざし、アナザーを狙う。それを間一髪で避けて、隙ができたハサミにアナザーは拳を叩き込む。だが、相手は全く怯まず、それどころかもう片方のハサミをアナザーに叩きつける!
「ぐっ!!」
アナザーは右に大きく吹き飛ばされて、壁に衝突する。脇腹を抑えながらアナザーは立ち上がる。そして、右の拳を開き力強く握りしめた。そして、また駆け出す。
今度は赤く濁った春樹の欲の目を狙う。瞳はむき出しだから、おそらくダメージは通る。右手に魔力を込めて、そこを狙う。
だが、当たる瞬間体を硬い殻の中に引っ込めた。アナザーは硬い殻を殴るが、一切ダメージはなく、逆にダメージを負ってしまう。すると、春樹の欲は器用にハサミだけを殻からだし、無茶苦茶に振り回した!
「ちょ、やばいって!!」
相手が自分を見えてないからこその、予測ができない攻撃にアナザーは翻弄される。距離をとってエアーガンを撃っても全く聞いてる様子はない。バットがあればいいが、あいにく持ってきてなかった。
擦るだけでも体の肉が削れていき、アナザーは思わず声を上げる。声を上げるせいで、位置がばれてしまう。アナザーは口の中で軽く舌打ちをした。襲いかかるハサミは速く、避けることができない。咄嗟に手をクロスにしてハサミから身を守る。
ぶつかった時の衝撃はかなり大きくアナザーは青筋を浮かべ歯を噛み締めながら、攻撃を受け止める。
「こな・・・くそぉぉぉおおぉおぉお!!」
アナザーはそう叫び声をあげて春樹の欲のハサミをはじき返した。が、ハサミが止まったところにアナザーがいるということであり、つまり春樹の欲はそこを狙えばいいのである。
アナザーに向かって一直線に伸びるハサミの攻撃をアナザーは横に飛んで回避しようとするが、間に合わない。
「ガァァッ!」
あえなく腹を巨大なハサミでえぐられてしまい、叫び声をあげる。
そんなアナザーを祈るように見つめる美冬。無意識のうちに春樹の手を強く握った。そのせいかはわからないが、春樹がゆっくりと目を開けた。
「は、春兄!!」
「ん・・・あ、ここは・・・いや、俺はなにをして・・・」
と、言いながらゆっくり体を起こす。すると、目の前のアナザーと春樹の欲の戦いが目に止まり、瞬時に理解してしまった。春樹は小さな声でそうかとつぶやいた。
「あれは俺の欲か・・・見たところ俺がオシャレな服をきたい・・・そんな感じか」
はははと自嘲気味に笑い、どさりと後ろに倒れる。その目は自分に怒っているのか。いや、呆れているような目であった。
「・・・なんで春兄はあんな欲を持ってたんですか・・・?」
美冬は疑問を投げかける。それを聞いた春樹は少し悩んで後、重おもしく口を開けた。
「・・・俺らの母親と父親の職業知ってるよな?デザイナー。それも結構有名な。俺の両親は俺の憧れだった。俺や両親の周りにはたくさんの人がいた。みーんなおしゃれでキラキラしていた。父親が考え母親が作るあの服を見るのがとても好きだった。いつか俺もあんな服を着る。キラキラ輝きたい。そう考えてたんだ」
と、ここで春樹は一度しゃべるのをやめる。そしてちらりと美冬の方を見る。美冬はただじーっと春樹のことを見つめついた。春樹はその視線から逃げるように目を閉じ、また口を開けた。
「ある日、事件が起きた。多分お前が保育園に行って俺が小6ぐらいの時かな。俺の両親が考えたデザインが何処かの国の学校だかなんかのシンボルに似ているって、大騒ぎになった。もちろん両親は否定した。だが世間様は許さなかった。正義の名の下に俺ら家族を追い詰めた。家に嫌がらせの電話なんかしょっちゅう来た。そして俺の周りにたキラキラした人が全員、俺らに牙を向けてきた。そして、俺の両親は俺とお前を置いて海外に逃げた。そっからだ。俺はオシャレな服なんか着たくない。キラキラしたら、俺も他人を追い詰めてしまう。そう考えた俺は、ダサい服を着たんだ。あいつらとは違うって言いたかったんだろうな。けど、実際は違かった俺はおしゃれしたかったんだ・・・はは。そんな小さいことであかねやお前に迷惑をかけてしまったな。本当に俺はダメな人間だなぁ」
目に涙を浮かべながら春樹はやる気がないようにゴロンと寝返りをうった。そして確かめるようにまた、ダメな人間だなぁとつぶやく。
そんな彼を見た美冬は、彼の肩を引っ張り上体を起こさせる。春樹は美冬をぼーっと見るだけで、何もしようとしなかった。そんな春樹を見せられた美冬は震えだした。悲しみで。いや、ちがう。
パシン
弱々しくも、しっかりとした音が響いた。思わず、アナザーもエレンホスも春樹の欲も少し行動が止まってしまう。そして春樹は信じられないという目で美冬を見た。
美冬は震えて涙を流していた。その涙は悲しみの涙ではない。怒りの涙であった。そして美冬は春樹の肩を掴んだ。そして目に涙をためながら。
「春兄は、たしかに大馬鹿ものです!!迷惑?何言ってるんです!!ボクと春兄は家族です!迷惑なんてかけていいんです!そんなこともわからない、春兄は大馬鹿ものです!!」
美冬は叫んだ。その声を聞いた春樹は少し俯く。そんな彼を抱き寄せ、美冬は堪えきれないというように嗚咽を漏らし涙した。
そんな中でもアナザーと欲の戦いは続く。アナザーは痛む横腹を抑えつつ、叫ぶ。
「春樹!!お前はさっきダサい服はキラキラしてないって言ってたよな!!だったらあたしがお前から見えてるキラキラはなんだ!!なんでキラキラしてる!?簡単だ!それはお前自身がキラキラしてるからだ!そりゃ、おしゃれをしたら誰でもキラキラする!けどお前は違う!そんなまやかしのキラキラじゃない!!お前自身のキラキラだ!!それをわかっとけ、この大バカ野郎が!!」
春樹は美冬とアナザーの叫びを聞いて、無意識のうちに涙していた。それに気付き、慌てて涙を止めようとするが、止まらない。それどころかどんどん流れていく。
「おやおや・・・感動物語ですか?でも、アナザーさんを苦しめてるこの欲は、他でもないあなたが作ったものですよ?ねぇ?春樹くん?」
だが、エレンホスが重い言葉を投げる。春樹はそれを聞いてびくりと体を動かす。アナザーは何か言おうとするが、春樹の欲はアナザーをはさみで吹き飛ばす。それを見て春樹は今度は公開で涙が出る。
そして、欲は大きくハサミをふりかざし、アナザーの命を狩ろうとした。春樹はやめろと叫び、エレンホスは大声で笑っていた。
だが、アナザーは怯えた表情を一つ見せず、ただ微笑んだ顔で目を瞑った。
「ひとーーつ!!
愛弟子がピンチなときには!!
ふたーーつ!!
師匠が頑張らなあかんやろ!!
みっーーつ!!
そしてうちの名前を刻め!!
ウチの名前はーーー
ーーーーブラックローズや!!」
その声とともに黒い弾丸が春樹の欲を襲う。ドンドンドンと大きな音をたてて小さな爆発がなんども起きる。
「おそいですよ、師匠」
「何言ってんの。ヒーローは遅れて登場するもんやろ?」
ふらふらと、ブラックローズの元に歩いて近くアナザーは、そう軽口をたたく。ブラックローズも笑顔で答える
「・・・春樹くん。欲を持ってるのは恥ずかしいことやない。ダメなことやない。ただ、あんたは溜めすぎたんや。適度に発散しいや。アナザーも、や」
ブラックローズは優しく春樹にそう声をかける。春樹は震えながらも美冬と一緒に立ち上がった。
「・・・俺は、何を悩んでたんだろうな。そうだよな。俺は、俺だ。どんな欲持ってても、どんな服を着ても、俺のキラキラが消えることはない・・・よし」
とここまでいい、春樹はやる気を込めるように両頬をたたく。そして涙で赤く腫れた目をこすり、二人の魔法少女に向かってこう叫んだ。
「だから、あの欲を倒してくれ!!アナザー!!ブラックローズ!!」
「りょーかい。任せな、春樹」
「ま、ヒーローは頼み事は聞くもんやしな。いや、ヒロイン・・・?」
そして、二人は戦う構えをとった。それを見たエレンホスは退屈そうにため息をついた後、マントを翻し、どこかに逃げて行った。たが、最後にちらりと小さく笑う口が見えたのは、アナザーの気のせいだろうか。
「まずはどうします?師匠」
「なーに言ってんのや、やることは一つ。あいつを全力で倒す」
と言い、ブラックローズは黒い極太のレーザーを春樹の欲にめがけて放った!!
だが、その攻撃が当たる前に硬いからにこもり、攻撃をはじき返す。そしてアナザーは近づき、右手に魔力を込めて先ほどレーザーが当たった所を連続で殴る。だが、やはり効果はない。
だが、ブラックローズとアナザーは小さく笑う。そしてブラックローズは杖を回して、小さなバラの形のビットを周りにばらまく。そして。
「無数に落ちる黒い弾丸!!耐えれるなら耐えてみろ!!『ブラックストーム』!!」
まるで無数の爆竹が爆発するような音が響き、その時に起きた煙がもくもくと広がる。その煙がはれたとき、そこにいたのは無傷の春樹の欲だった。おそらく、ニヤリと笑ったのだろう。だが、その顔よりブラックローズの方がニヤリと笑った。
すると、周りがピカッと光り、ひび割れた地面が修復されていくまるで無数の爆竹が爆発するような音が響き、その時に起きた煙がもくもくと広がる。その煙がはれたとき、そこにいたのは無傷の春樹の欲だった。おそらく、ニヤリと笑ったのだろう。だが、その顔よりブラックローズの方がニヤリと笑った。
すると、周りがピカッと光り、ひび割れた地面が修復されていく元に戻るため、先ほどまでたっていた地面により上に弾かれる。
「へっへーん!!計算通りってやつだな!!」
上空を飛んでたのはマジカル☆アナザー。アナザーは右手に魔力を込めて、前に思い切り振り被る。すると、魔力の塊が相手に飛んでいく。
下にはなんとブラックローズが杖を構えていたそして、杖の先端に先ほどより多めの魔力を込めて、思い切り前に突き出す。するとやはり先ほどより大きいレーザーがまっすぐ伸びる!!
「「マジカル☆ブラスター!!」」
二人の声が重なり、そう叫び声が聞こえる。そして、春樹の欲は上下からの攻撃を耐えられるわけがなく、二つの攻撃に貫かれた
ドガン!!
大きな爆発音が鳴り響き、煙の中から春樹の欲が落ちてきた。そして、地面に勢いよくぶつかった後、暫く立ち上がろうとしたが、結局立ち上がることができず、そのまま光の粒子となり空に消えていった。
その消えていく粒子を春樹は見つめていた。そして、目を閉じて
「じゃあな、俺。そして、ようこそ俺」
と、小声で呟いた。腕の中では美冬が可愛らしい寝息を立て眠っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「とりあえず、ごめん!!」
戦いが終わった後変身を解いた二人を待ってたのは、春樹の謝罪であった。深々と頭をさげる春樹をあかねたちは見つめていた。
「あー・・・気にすんな。多少肉がえぐれても死ぬわけじゃない」
「そうや。最悪うちの魔法の『浄化』で治せばええんや」
と、言われて春樹は色々と突っ込みたい気持ちを抑えつつ、ゆっくり頭を上げる。そしてニカっと笑う。
「許してくれるなら、これ以上言う必要はないな。よし!」
そして、手をあかねに突き出す。あかねは暫く考えた後、その手を握り返す。
「ありがとうの握手だ。これで勘弁してくれ」
「ははは・・・いいよ。勘弁してやるよ。ま、小峠も元気になってよかったよ」
そしてあかねも春樹のようににこりと笑う。すると少し春樹が顔をそらした。少し赤く見えるのは気のせいか。
「な、あ・・・えーと、さ」
春樹が少しも照れてるように頭をかきながらそうあかねに言う。あかねは少し首をかしげる。
「迷惑じゃないならあかねって呼んでいい・・・かな」
「なんだ?そんなことか・・・いいよ。代わりに、私も春樹って呼ぶぞ」
すると春樹が照れくさそうにふっと一息をつく。あかねは大丈夫か?と言いながら春樹に顔を近づける。すると春樹は顔を真っ赤にしてあかねを押し倒した。
「いっ・・・おい!何しやがる!」
「わ、わざとじゃないんだー!!」
そして二人はわーきゃー叫びながら追いかけっこを始めた。そんな二人を杏子と天使くんが懐かしい目で見ていた。
「青春やなぁ。天使くんもそう思うやろ?」
「あぁ。若いというのはいいものだな」
今、ここにはいつも通りの時が流れていた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうしたエレンホス?やけに機嫌がいいじゃないか」
「そうだね・・・とっても楽しそう」
「おやそうでしたか。実はですね先ほどいいものが見れましたから」
暗い部屋でエレンホスが嬉しそうな顔で回転椅子でくるくる回る。それをマタルは微笑みながら見ている。
「駒は一つ失いましたが、もう一つの駒は着々と力を貯めています。それが覚醒した時を考えたら、今からでも笑いが止まりません」
「それはすごいな。はは。それを俺も見てみたいもんだ」
そして、エレンホスはピタリとマタルの方で回転椅子を止めて、にこりと笑う。それは見せてやると言ってるのだろうか。
「でもまずはですね・・・」
そして、エレンホスは笑みを止める。そして今度は見るものが震え上がるような顔になる。それをマタルとテベリスに向ける。
テベリスとマタルはごくりと生唾を飲み込む。そして次の言葉を待った。エレンホスはストンと椅子から降りて、そして天井を見上げながら、
「魔法少女の真実を、黒い魔法少女に教えましょうか」
とつぶやいた。その言葉を聞いたのはこの3人だけではない。蒼い魔法少女マジックブルーもいた。そんな彼女は手に握ってるスティックを力強く握りしめた。
「・・・サツキちゃん。私が救うからね・・・」
なにかを確認するように小声で呟いた彼女は、その場から離れていった
《次回予告!!》
「今度海行こう海!!」
「悟・・・」
「教えましょうか?魔法少女の真実」 「お久しぶり?それとも初めまして?アタシはアミナです!!」
第7話『魔法少女対魔法少女』
お楽しみに!!
はい。第六話お疲れ様でした。いやぁ、青春っていいですな。私も経験したいです。
この話はツイッターのフォロワーさんから頂いたアイディアから考えた話です。この場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございたした。
この作品はみなさんのおかげで生きています。ですのでみなさんにもお礼申し上げます。最後まで続けるので、どうかおつきあいくださいませ