第2話 誰も失わないという覚悟
前回の話を読んでくれた方はありがとうございます。待ってくれた方はいるかわからないけど、第2話です。
まだまだ拙い文ですが、どうぞよろしくお願いします
前回までのあらすじ
よぉ、俺は天使くんだ。
前回あかねは守るために魔法少女に変身し、美冬を助けに行った
助けに行ったところにいたのは翔と美冬。そして『収集欲』だった
戦いの最中翔を失ったあかね。もう誰も失わないと決めるが…
◇◇◇◇◇
「は!?それは本当か?」
散々泣いた後、美冬に励まされるという、女子高生には恥ずかしいことをされたあかね。美冬は彼女の兄、春樹が迎えに来て、今はいない。
「あぁ、美冬は記憶を持っている。普通は忘れるのにな」
そう、美冬は記憶を持っていた。だから励まし方が「ヒーローです」なのだ。
「恐らくは、だが・・・可能性は二つある」
天使くんが、そういい羽を前に突き出す。勢いをつけすぎたせいか、その羽からはらりと、羽毛がおちる
「一つ。これは一番多いが、『本人が忘れたくない』と思ったとき。まぁ、最愛の人を亡くしたとか、そういうのがあるな。そしてもう一つ。それは、『美冬の魔力が強すぎる』・・・多分これだ」
と言われてもいまいち納得がいかないあかね。それを見た天使くんが哀れなものを見る目であかねを見た後ため息をつく。
「収集欲を倒したときに光の粒子が舞っただろう?ディザイアを倒したら天界に連れて行かれる。そして、天界が今までのことを『なかったことにするんだ』・・・だから、記憶から消えて、建物とか怪我とかも治る。・・・死んだ奴は、元からいないことになるが」
死んだ奴。それを聞いてあかねの脳裏に翔の顔が思い浮かぶ。あかねは守ることができなかった。だが、代わりに覚悟を決めることはできた。
『もう誰も失わないという覚悟』を
と、ここであかねがある疑問を口にする
「なぁ、天界ってなんだ?」
『天界』先程天使くんの口から出た言葉。普通に考えれば天国とかいうものなのか。
「・・・まぁ、天国とかそういうのと同じだな。空にある俺みたいなやつが住んでるところだ」
つまり天界には天使くんがいっぱい。
「あはははははは!!!」
あかねは思わず笑ってしまった。天使くんみたいなのしかいない世界を想像したからだ。
「わ、わらうな!!俺から見たらお前たち人間も魔力以外ほぼ変わらん!!」
天使くんがそう反論するがあかねはあまり聞いてない。
ひとしきり笑った後、笑い声が収まり・・・
・・・いや、肩で息をしている。どうやらツボに入ったらしいく、小刻みに震えながら笑っていた。
それから笑い声が止まるまでに多少の時間がかかった。その間天使くんの顔は不機嫌だった。
そして、あかねは大きく伸びをする。時間はまだ昼の2時ぐらい。確か明日から学校だったような。
笑ったことで少し気分が晴れたあかね。いそいそと布団に入り目を閉じた
近くで天使くんが騒いでるが、あかねは気にしない。おやすみ。とつぶやきそのまま夢の世界へ入っていった。
しばらくした後、天使くんは騒ぐのをやめ、自分も休息を取ろうと床に降りて、そのまま彼も寝てしまった。
◇◇◇◇◇
「おはようございます」
「うん。こんばんわ。あかね」
少し冷や汗を流しながらあかねは目の前の女性に挨拶をする。
時間はもう夜の1時ぐらい。あかねはこの時間までぐっすり眠ってしまった。
改めて目の前の女性を見ると目は口は笑ってるが、オーラは怒っているように見える。
「怒ってないわ。私はただ・・・」
とここまでいって、今度はにこりと笑う
「やるって言ったことはやってほしかったわ〜」
あかねは冷や汗を先ほどより多く流す。
目の前の女性は、あかねの母。名前は「西園寺増穂」
彼女は帰ってくるのが遅いので、家事は基本あかねが担当している。
だが、今の今まで寝ていたので、洗濯はおろか、炊事は一切やってない。
「ごめん!母さん!!」
あかねは両手を合わせ、頭を下げて謝る。
そんなあかねを見て増穂は優しくあかねを撫でた。
「まぁ、わかってたからいいわ。ご飯はお弁当だけどね」
と言って、弁当が入った袋を持ち上げる
「あら?お人形?」
増穂はそういって、床に眠っている天使くんを掴み持ち上げる。
いろんな角度から見つめる増穂。バレるのではとあかねと天使くんは内心焦っていた。
しばらくして、天使くんを床においた。そして増穂が
「あかね・・・」
とつぶやいた。はい!!と叫びあかねは背筋をのばした 。増穂から怒られると思い身構えたのだ。
だが、次に聞こえたのはあかねにとっては意外な一言だった
「お人形が欲しかったら言えばいいのに・・・」
という増穂。それを聞いて思わず、え。と、口から出てしまう。
そう言えば、と、あかねは考える。人形なんて一個も持ってなかった。だけど、それは人形じゃない。天使くん。少し違うが生き物だ。
「か、母さん!!早くご飯食べようよ!」
といいあかねは増穂の背中を押して部屋から出て行く。床の上では天使くんがほっと一息ついていた
◇◇◇◇◇
お弁当を食べた次の日。あかねは時間きっちりに起きて、朝ごはんを作り、そして高校に行く準備をしていた。
天使くんは付いて行くと言って聞かない。仕方ないから連れて行くことにした。
あかねが通う高校は「三月高校」と言う。最近できた高校だ。
何もかもが平均的な高校。それがここの高校だ。
いつもの道をトコトコと歩く。あかねは友人たちの集合場所に行こうとしていた。
すると目の前から1人の子供が歩いてきた。
遠くからはよく見えないが、手品師のような服に帽子をかぶっていた。
それに、内側が赤いマントを羽織っていた。
その子供が近づくにつれて顔が見えてきた
その顔はとても整っていて、中性的な顔立ちであり何故か右の目に片眼鏡をつけていて、本格的に手品師に見えた
「おはよう、おねぇさん」
いきなり目の前の子供が声をかけてきた。一見女の子に見えた子供だが、声を聞いたら男の子の声だった。
「あぁ、おはよう」
あかねは挨拶を返す
すると目の前の少年が笑った。
それは太陽なような笑顔だった。
だが、あかねは少し違和感を覚えた。
(笑顔が出来すぎてる・・・)
そう、完璧すぎたのだ。まるで何回もやったかのような。
そんなあかねの疑問を知ってか知らずか目の前の少年はあかねの横を通り過ぎていった。
あかねは少し疑問を抱いただけだったが、天使くんはそれよりも何かを感じていた。
(あいつ・・・へんな気を感じた・・・)
杞憂になればいいか。と考えながらあかねのバックに揺られる天使くん。少し酔い始めたのは秘密である
◇◇◇◇◇
集合場所についた。まだ誰も来ていなかった。
いや、1人いた。
「ん?おお、西園寺じゃんか。おはよう」
片手を上げながらあかねに挨拶をする少年。制服を着てるが、前のボタンは何個か開けており、そこから下のシャツが見えた
「おはよう。小峠・・・」
その下に見えるシャツは一言で言えばださい。それもものすごく。
(なんでこいつ、男気とか書かれたシャツ着てんだろ)
改めて彼をよく見る。髪は男性にしては少し伸ばしているが、校則に引っかかるほどじゃない。
顔も悪くはない。普通か。
だが、シャツで全てを台無しにしている。
彼の名前は「小峠春樹」美冬の兄だ。
二人でしばらく談笑しつつ待ってると、後ろから1人の男性がやってきた。
髪は春樹より長く、そして、少し銀色の髪。
ベルトのあたりにはチェーンをつけている。あかねはいつもつける意味がわからないという顔でそれを見る。
「おはよう、悟」
春樹がそういい、あかねもおはようという
「・・・おはよう」
と、二人に言う悟と呼ばれた彼。
近づくにつれて顔がよく見える。キリッとした目に、整った顔。世間一般的にはイケメンに分類される顔だった。
彼の名前は「小野悟」
その顔で学校での女子人気はナンバーワン。でも本人はあまり恋愛に興味はないらしい
悟が来て、あと1人来ればいいのだが、なかなか来ない。
するとあかねは後ろから来る気配に寒気を感じた
「あかねちゃん!!会いたかった!!!」
後ろから来た女性があかねに抱きつく。
あかねは離そうと抵抗するが相手は離れない
「あかねちゃん!!私は離れないよ!!ほら!ここにつかまる所があるから!!」
といい、後ろの女性はあかねの胸をつかむ
ひゃん!!と、変な声を出したが、あかねは女性の頭を怒りに任せて思いっきり殴る
「ち、千鶴!なにすんじゃー!!」
「いやーん!怒ってるあかねちゃんもかわいい!」
といいながら体をくねくね動かす女性。
前髪はすべて切りそろえ、明るい茶色のロングヘアーが、体が動くたびに揺れる。ついでにふくよかな胸も。
首元にはいつもつけているネックレスがあり、それは太陽の光を受けるたびに輝いた。
彼女の名前は「池内千鶴」なぜかあかねに好意を寄せている
四人は楽しく喋りながら学校に行く。
あかねは友人と会話することは好きであった。
だから、この日常を壊したくない。失いたくない。
あかねは改めて心に決めた。
◇◇◇◇◇
キーンコーンカーンコーン
終了のチャイムが鳴り響く。退屈な授業も終わり、今から帰る。
さてと。といい、カバンをからい春樹達に一緒に帰ろうと声をかける。
春樹は笑顔でOKと言い、悟にも声をかけた。悟も無言で頷いた。
あかね達は2-2。誰も部活に入ってないので、帰りも一緒だ。
「あかねちゃん!!お疲れ様のキスを私は求める!!」
後ろから千鶴がそう言いながらあかねに抱きつこうとする。
あかねはそれを軽く避けて、千鶴にチョップをする。
チョップされたところを千鶴がわざとらしく頭をさする。軽く涙目になってる気もするがあかねは気にしない
それを見て春樹が爆笑し、悟が軽く笑う。それにつられてあかねも笑った。
千鶴はふてくしたように頬を膨らませる。それもまたおかしくてあかねたちはまた笑ってしまった。
「そうだ。今日もパン屋いこうぜ」
するといきなり春樹が思い出したかのようにそういう。
学校からの帰り道にある、小さなパン屋。店名は「三月パン」
そこでオススメされるクロワッサンを食べて帰るのが彼女達のブームであった。
さっくりとしたパンの生地を口に入れればバターの香りが広がる。
それはあかねの好きな食べ物である。が、少し乗り気ではなかった。
(・・・翔・・・)
心の中で一人の少年の名前を呟く。
三月パンでは、翔もその母親もよく行っていた。
だから乗り気ではなかったが、あかねは久しぶりに三月パンのクロワッサンを食べたいとも思い、その提案を頷いて肯定した
翔の母親に合わないように願いながら
◇◇◇◇◇
「・・・あ」
「・・・あら、あかねちゃん?」
いた。翔の母親だ。三月パンに置いてあるパンを1〜2個買っている。
(そうか・・・)
あかねは昨日天使くんに言われたことを思い出す。『死んだ人間は存在を消される』
だから翔の母親は自分が食べる分だけのパンを買っていた。
それをみると、少し悲しくなり、同時に少しだけ、安堵した。
最低だな。と自嘲気味に考える。
「あかね。お前は何も買わないのか?」
悟があかねにそう聞く。言われてみればあかねは何も買ってなかった。
そういえばいくら持ってたっけと、ポケットから財布を取り出す。すると、するりと何か落ちた
それは緑のスカーフ。翔が大切にしていたスカーフだった。
翔の母親はそれを拾う。そしてそれをしばらく見つめていた。
あかねは少し心配して声をかける。
「あ、いや。なんかこれ見たことがある気がするの・・・ふふ、ごめんね。こんなこと言って」
といい、スカーフをあかねに渡しそのまま出て行った。
その後ろ姿をあかねはただ見ることしかできなかった。
「あら〜あかねちゃんやないの。何買うの?」
すると、後ろから間延びした声が聞こえる。
「あ、店長・・・」
そこにいたのは、この三月パンを切り盛りしている店長。髪は明るい赤。そして少し短めでウェーブがかかってる。
割烹着を着ていて真ん中にクロワッサンのイラストと三月パンという文字がプリントされている。
名前は「小森杏子」あんずと読む。
「そうや、ウチのパンやに来たらかわなあかんで!」
今度はあんずの後ろから舌足らずな声が聞こえる。すると、杏子の隣に小さな女の子がいた。髪は黄色で三つ編みにしていて、可愛らしいリボンが付いている。
杏子とは違い、子供用のエプロンをきて、そこにもクロワッサンの絵と三月パンという文字がプリントされている。
この少女の名前は「小森かすみ」まだ、5歳ぐらいだが、杏子と二人で三月パンを経営している。
「あかねちゃん、えがおがかわいいんやから、わらってわらって」
といい、かすみは無邪気に、にー。と、笑う。それにつられてあかねも笑顔になる。
エセ関西弁だが、それのおかげで一段と親しみがわく。
「そーだよ!!あかねちゃんは笑ったほうが可愛いんだから!!」
と、千鶴が首元に抱きつきながらそういう。
あかねは抱きつかれながら、クロワッサンを二個トングで取り、トレーの上に置く。
「あれ?無視?これを利用して胸を揉ーーー」
あかねは瞬時に頭を後ろに降り千鶴を頭突いた。
顔に思いっきり頭突きをくらい、鼻を押さえながらその場にうずくまる。
「二個で120えんやで〜」
ちょうど120円払い千鶴の首根っこを掴んで引きずりながら店から出て行く。後ろからかすみと杏子の二人が、ありがとうございました。といっている声が聞こえる。
あかねは先程買ったクロワッサンをひとつ口に運びそして頬張る。
相変わらずとても美味しい。
すぐに全部食べ終わり、春樹達と帰り道を歩いていった。
◇◇◇◇◇
「・・・で、なんであたしの家に来るんだ?」
お邪魔しまーすと、口々にそう言いながらあかねの家に入ってくる春樹達。
ぶつぶつと文句を言いながら、冷えた麦茶を全員分出すのは彼女の性格ゆえだろう。
「いや〜買い食いはだめじゃん?だから仕方ないんだ」
うんうん、と、春樹が自分で言ったことに頷いて自分で納得している。
後ろでは千鶴があかねの部屋のドアノブを回して開けようとしていた。
あかねは慌てて千鶴を扉からひっぺがした
文句が言いたげな顔の千鶴だが、あかねが手をあげたことで押し黙る。
悟は椅子に座って先ほどパン屋で買ったパンを黙々と食べていた。
全員勝手な行動を取るが、それがあかねの家に来た時のみんな。あかねもそれはそれで楽しいので特に文句は言わない・・・千鶴が一度洗濯カゴを漁っていた時はドロップキックをかましたが。
あかねは何気なくテレビをつけた。そこではニュースをやっていた。
キャスターが淡々とニュース内容を話している。すると、気になる言葉をつぶやいた
「今、◯◯県の三木市で神隠し事件が頻発しています。被害者は若い女性に多くーーー」
あかねは眉をひそめる。三木市というのはあかね達が住んでる市。そして神隠し事件はこの前解決したはずなのだ。
ふと隣を見ると千鶴もテレビを凝視していた。やはり、千鶴も怖いのだろうか。
千鶴は同性のあかねから見ても美人に分類される顔立ちだし、事実ナンパとかもよくされるらしい。
まぁ、持ち前の運動神経で逃げるらしいが・・・
何よりキャスターが言った、被害者は若い女性が多い。という一言も原因だろう。
すると、いきなりチャイムがなった。
あかねは慌てて扉を開けに行くとそこには一人の少女がいた。
「春兄がご迷惑をかけました・・・」
彼女は美冬。春樹たちを向かいに来たらしい。
後ろから春樹が顔を出して、覗いている。
よく見ると手を顔の前でふり、否定しているようだが、あかねはお構いなく春樹を目の前に突き出した。
春樹は名残惜しそうだが、悟と千鶴をを呼び、帰っていった。
◇◇◇◇◇
「なぁ、一つ気になることがあるんだ」
あかねは春樹たちが帰ったあとバッグで寝ている天使くんを起こして、話をしようとしていた。
少し顔色が悪く見えたのは多分気のせい。
ふらふらしているのも気のせい。
天使くんがぐったりしながらあかねの次の言葉を待つ。
「朝会ったあの少年・・・あの子、なんか変じゃなかったか?」
そう、あの手品師のような風貌の少年のことだ。
できすぎた笑顔もあるが、そもそも服装がおかしい。
天使くんも無言の肯定をする。
それに何か変な気も感じた。とあかねは言葉を続ける。
普通じゃありえない。人間とは違う気。そう、それはまるであいつら。
「ディザイアみたいって言いたいのですか?お姉さん」
あかねの目の前に今朝あった少年がいた。彼はクスクス笑っていた。
それはとても無邪気な笑顔だが、その奥にはドス黒い何かがあった。
突然目の前の少年が紳士のように帽子を取り頭を下げた
「こんばんは。僕の名前はエレンホス。以後、お見知り置きを。魔法少女さんーーー」
あかねは何も考えず目の前に勢いよく拳を突き出していた。それは早くはないが、子供なら当てることができる。だが、目の前のエレンホスと名乗った少年はそれを受け止めた。
小指一本で
それを見て驚愕したあかね。エレンホスはまたクスクス笑っている
「そういえば、貴女はこの前一人の人間を救えなかったそうですね」
まるで世間話をするかのように、そうあかねに聞くエレンホス。
そしてエレンホスはあかねに顔を近づけ、顎を指であげる。
「収集欲は私たちの中でも下位に属する弱者。そんな奴相手でも貴女は一人の犠牲を出してしまった」
あかねは耳をふさぎたいという気持ちがでるが、エレンホスの声を聞くともっと聞きたいと思ってしまった。それほどまでに彼の声は安心を与え、もっと彼の声を欲してしまう。
エレンホスが、あかねをまっすぐ見つめる。あかねはすぐに目をそらすが、エレンホスは両手であかねの顔を自分の目の前で固定した。
あかねはエレンホスの目を見た。それはとても慈悲深い、優しい目だった。
まるで先ほどまで感じていたドス黒い何かは嘘のように。
そしてエレンホスは可愛らしくくすりと笑う。あかねは思わず見とれてしまった。
「ですが、もう犠牲を出さない方法があります」
エレンホスはそう言いまたにこりと笑った。
「簡単です。貴女がこっち側にくればいいのです。そうしたら、貴女は誰も失わなくて済みます。どうです?悪い話ではないでしょう」
エレンホスは優しくあかねの頬を撫でた。あかねはどうすることもできなかった。ただ、エレンホスの言葉を聞くことしかできなかった。
あかねは考えることすらできなくなっていた。頭が上手く回らない。エレンホスがいうことすべてが正しいと思っていた。
このまま頷こうか。とまで考えた。その方が楽だと思ったからだ。
意識が消えていく中、あかねはポケットの中から出ているあるものに触れた。
「さぁ、僕についてきてください」
そう言いエレンホスは先ほどより強くあかねを見つめた。
そしてあかねは糸が切れた人形のように下を向いた。
エレンホスは見下したような目でそれを見た。もっと抵抗すると思ったのだが、想像以上にもろかっからだ。
彼は自分の言うことを聞くものは好きだが、こう脆いものは好きではない。
そして、あかねがゆっくりと顔を上げた。あかねの顔は生気がなく、まさに生きる屍のよう。
「ふん!!」
ではなかった。
ごつん!といい音が響きあかねとエレンホスは額を抑える。
あかねは顔を上げたあと、そのまま勢いに乗せて頭突きをしたのだ。
まさかの行動にエレンホスは驚いていた。と、同時に喜びもあった。
顔がにやけるのを抑えるエレンホス。その間にあかねは天使くんを抱え立ち上がっていた。
「誰も失わない簡単な方法は貴女がこっち側に来ること・・・だぁ?ふざけんじゃねぇぞ。あたしはあんたらディザイアと同じなんかにならないし、なるつもりはない」
あかねはそう断言した。目には生気があり、活き活きとしていた。
「それより簡単な方法がある。それは『あたしがみんなを守ればいい』!それに、あたしは誰も失わないという覚悟がある。そうやすやすと覚悟を曲げてたまるか!」
と、あかねは指を突き出しながらそういう
あかねの目は先ほどより生気を増していた。まるで、物語のヒーローのような。
そして、この言葉からはあかねの覚悟は頑固たるものだと思えた。おそらくそれが、あかねなのだ。
エレンホスはしばらく黙っていたが、やがてフラフラと立ち上がった。
あかねは少し身構える。何か恐ろしいことが起こると思ったからだ。
だが、次に起きたのはあかねは予想してないことだった。
声が聞こえた。それはまるで笑ってるようだった。
いや、笑っていた。なぜなら笑い声が漏れていたから。
あかねは若干ひいていた。
エレンホスの口からククッとか、ふふっとか、そんな感じの声が聞こえてきた。
あかねは、少し恐ろしくなってきた。精神的な恐ろしさ。あかねは思わず一歩ひいていた。
するとエレンホスが顔をいきなりあげて
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
と、狂ったように笑い出した。目も焦点が合ってないように見えた。
あかねは身震いした。これほどまでに狂気を持ってるとは思わなかったからだ。
暫くしてようやく笑い声が止まり、エレンホスが口を開けた
「いやぁ、いいですねぇ。貴女みたいな人こそ、僕は支配したい・・・くくくっ」
そういいながら、つかつかと扉の方へ歩いていくエレンホス。
すると扉の前で立ち止まり、あかねの方を向いた。
「そういえば、貴女のお友達。今頃大変な目にあってるかもしれませんよ・・・」
大変な目。あかねは驚いたが、それよりも早く体が動いていた。
待てと声をかけようとするがエレンホスはもうその場にいなくて代わりに一枚の紙が落ちていた。それを拾うと何か文字が書いてあった。
【貴女のお友達は◯◯にある廃工場にいます。さぁ、貴女の覚悟を見せてください】
あかねは全部読み終わる前に外に駆け出していった。恐ろしいことを考えるが、頭を振り否定する。ただ、無事であると信じて
◇◇◇◇◇
うぅ〜ん・・・ここはどこでしょう?
重い頭をあげて、ボクは周りを見渡しました。
周りはとても荒れていて、おそらくどこかの廃工場とかそんなところでしょう。なんでここいるだろう・・・たしか、春兄たちと帰ってたら、目の前から手品師みたいな男の子が来て・・・むぅ、これ以上思いだせません。
とりあえず動く・・・動かない?
あー・・・どうやら手と足を鎖でぐるぐる巻きにされてますね。チョベリバです。
春兄たちは・・・無事ですね。よかった。
しかしこれは・・・もしかして、とてもやばい?前の蜘蛛の妖怪と同じ事件の匂いがプンプンします。
・・・おや?みんなが目を覚ましました
みんな暫くしたら異変に気付いて騒ぎ始めましたね。春兄は大声で騒いでます。悟さんは小声で文句を何度もいってます。千鶴さんはとても顔が青ざめています。
すると、入り口が壊れました。いや、壊れたというかなんだろう。扉の『真ん中』だけが破壊されてます。それもとても綺麗に。
「ひっ!?」
春兄が情けない声を出してます。するといきなり土埃が舞いました。
おかしい。なんでいきなり土埃が舞うのか。そんなことを考えてたら僕の足元の地面がいきなりえぐれました。
少しスカートがなくなってます。ボクの頬を伝い冷や汗が落ちました。
すると目の前からいきなり手が現れました。いや、ヒレ?
とにかく目の前のそれはだんだんと形をなしてきました。
キバがあり、ヒレのようなものがあり、そう。一言で言うなら大きなサメですが、色が紫ですし、目が不気味に光ってました。
これは本格的にやばい。
そのサメは少しずつ近いてきました。遊んでるかのようにゆっくり
みんなもっと騒ぎ始めました。あ、千鶴さんが気絶している。
サメは楽しんでるように近づいてきます・・・大きく口を開けて。
助けて。
誰も助けてくれない。でも、あの人なら。
助けて・・・!
今度はもっと強く願う。それでも届かないなら。
「助けて!!」
空に向かって叫ぶ。
「アーイキャーンフラーーーーーーイ!!!!」
すると天井を突き破って一人の女の子がふってきました。
そしてサメに向かって上からキックをして相手を吹き飛ばしました。
「あ、あ・・・あかねさん!!」
助けに来てくれたヒーローの名前を叫ぶと、そのヒーローはニコッと笑い、前を向きました。
「あんた達は私が必ず守る。だから安心してくれ」
そういうあかねさんの後ろ姿はとても頼もしく、幼い背中なのに任せれる気がしました。
「あかねさん・・・ま、まさか!?」
春兄と、悟さんが何か気づいたそうですが、空気を読んで黙らせます
彼女の守る戦いをボクらは見守るしかできませんから。
◇◇◇◇◇
「で?あいつは何の欲だ?天使くん」
さて、やってみたら空を飛べたあかねはまず、目の前の怪物にキックをかました。とりあえずは先手を取れたのだ。
いつものように片足を前に出して身構える。
そして目を閉じ息を整える。が、目を開けた瞬間あかねは驚愕した。
「な、あいつどこに行った!?」
そう、サメの怪物が何処かに消えていたのだ。
ふと、横を見ると天使くんが震えていた。
心配して顔を覗き込むと何かを言っていた。
「あ、あいつは・・・!!」
どうした、と聞こうとするが、その前に敵の攻撃がきた。いや、来たと思う。
それはというと、目の前の地面がいきなり抉れたのだ。
「間違えない!いきなり現れる攻撃方法。奴は『食欲』!!」
そう叫ぶと同時にあかねの右腕がなくなっていた。
痛みで声にならない叫び声を上げるあかね。だが、右腕はなおっていた。
「食欲は、どこからか現れ、空間を削り攻撃してくる・・・!!それも食べるというだけで!!」
あかねはゾッとする。
右腕だけでもこんなに痛い。もし全身を食われたら・・・
あかねは一旦空を飛んで距離をとった。空から見た方がわかると踏んだが、それは間違いで、どこにいるかわからなかった。
あかねは周りをキョロキョロ見渡す。だが、対処方法は見えた。
あかねは空からダンボールの山に突っ込んでいくと、ダンボールがたくさん潰れて、そして中に入ってある砂が入った袋がたくさん破れて砂が舞った。
空間に隠れるといっても、ここには存在している。つまり砂がまえば
「どこにいるかわかる・・・そこだっ!!」
一部だけ変に浮かんでるところにどこからか拾ってきたバットで殴りにいく。
にぶい音をたてて食欲に打撃を与えたあかね。だが、それはそのまま真っ直ぐ突っ込んできてあかねを食べようとする!
あかねは慌てて避ける、間一髪どこも食べられないで済んだ。
肩で息をするあかね。おそらく食欲の周りは硬い鱗かなんかで守られている。
「言っただろう!あいつには勝てないと!」
天使くんは大声でそういうがあかねには聞こえてない気がした。
「あいつは食欲!!俺たちは食われるだけだ!!」
逃げようと言葉を続けようとするがあかねはそれを手で制した。
変な空間が周りをふわふわ動いている。いつ狙われてもおかしくない。
「勝つとか負けるとかそんなことどうでもいいんだあたしはあいつをぶっ飛ばす。その先にあるのが『勝つ』『負ける』なんだ。あたしの大切な人を恐ろしい目に合わせたあいつをな・・・」
ここまでいい、あかねは上に手を伸ばす。その手を天使くん達は集中する。あかねはその手を一気に下におろし
「覚悟しろよ。バケモノ」
と、鋭くいった。そのバケモノという言葉は食欲にいったのか。それとも先ほどあったエレンホスに言ったのか。もしくは自分自身か。
あかねは息を整える。そして食欲をよく見る。それはふわふわ浮かんでいるが、一瞬であかね達を殺すことができる。
あかねはバットを前に突き出し、瞼を閉じる
正直言ってあかねは怖がっていた。もちろん、食われるのは誰だって嫌だろう。しかし、怖がってる理由はそれだけではない。
『また失うのが怖い』
あかねはもう失いたくないという覚悟を決めた。だが、それだけでは足りない。もっと強い覚悟を背負わなければならない。
その覚悟は
「犠牲となる覚悟・・・!!」
あかねは魔法少女になると、不死身となる。その肉体は決して滅びず再生し続ける。だから、右腕が生えてきたのだ。
ならばその不死身を利用する。それで勝利をつかむのだ。痛みは大きい。事実右腕が食われた時、声にならないほどの叫び声を上げた。
だが、それがなんだと言うのだ。体の痛みと心の痛み。今、痛みから逃げてあの時の思いを、覚悟を無駄にするのか。
今、痛みに立ち向かい覚悟を持って進むか。どっちがいいかという、そんな簡単な二択。もちろんあかねが選択するのは、後者だ。
隣で天使くんが慌てているが、あかねは安心させるように笑う。
だが。
「っ!?」
食欲がいきなり襲ってきた。それはあかねの右ほほを軽くえぐる。
あかねの頬から血が流れる。肉体は徐々に再生されるが、それでも痛みは強い。
そして食欲は無茶苦茶に襲ってきた。
右に来たかと思うと、次は左。そのまた次は上や下から・・・その度に肉体がえぐれる
「っーーーーー!!」
また食われる。今度は左足。あかねは思わず声を上げ、そして右ひざをついて倒れた。
身体中から血が流れ、あかねがいるところがだんだんと血に染まっていく。
それでもあかねは立ち上がろうとするが、再生途中の左足では満足に立てることもできず何度も倒れる。それでもなんとかバットを杖代わりにして立ち上がる。
口から幾度も漏れる荒い息。それは彼女が疲労や痛みでほぼ限界だと言うことを表している。
天使くんはたまらず声をかけようとする。が、あかねはまた手で制する。
何故彼女はここまでして立ち上がるか、天使くんは理解できなかった。
すると、あかねがポツリポツリと、つぶやき始めた
「痛い・・・痛いけどよぉ・・・ここであたしが倒れたら、誰があいつを止めるんだ?
誰があいつらを守るんだ?・・・私がやらなきゃいけないんだ。ここで倒れることは・・・許されないんだ!!」
小声だが、確実に天使くんの耳に届いた。
それは聞いて天使くんは理屈じゃなく、直感でわかった。これこそがあかね。今のあかねなのだ。
普通の女の子じゃこんなことできない。でも、あかねはできる。いや、できないといけない。
できないと、また失う。だから、あかねは震える体をごまかし、立ち上がる。恐怖を覚悟で押さえ込んでいる。
そんな中でもあかねは笑っていた。目も死んでない。
天使くんは彼女に尊敬と恐怖を覚える。が、その恐怖は恐ろしくない。どちらかといえば自分と全然違う存在と考えてしまう。たどり着けない。とおすぎる。そういう恐怖だ。
だが、それはとても頼りになる恐怖でもある。
その背中はとても力強かった。
でも、その背中は次の瞬間になくなっていた。
代わりにあったのはあかねの左腕と食欲が何かを美味しそうに食べているところだった。
天使くんはあかねを探す。でもいない。
可能性があるのは食欲の腹の中。そこしかなかった。
あんなに力強い背中を持った少女は片手しか残らなかった
天使くんは叫ぼうとする声を抑えた。まずは、あかねが命を張って助けようとした美冬達のところに行かないといけない。
だが、それよりも早く食欲が美冬たちのところに行っていた。
怯えたように身をすくめ、顔を青ざめる美冬たち。
天使くんは今度は叫んだ。逃げろと。
だが逃げれるわけもなく美冬たちは食われるまで待つしかなく、恐怖から少しでも逃れようと目をつむった。それは現実から逃げるためか。
大きく口を開ける食欲。
天使くんも目をつむっていた。
心の中はあかねへの懺悔と悔しさであふれていた。
すると、いきなり食欲がピタリと止まった。心なしかとても苦しんでるように見えた。
食欲は、慌てて土の中に潜る。天使くんはとりあえず美冬たちの近くに寄る。天使くんは何が起こったかわからなかった。
やがて食欲はついから飛び出した。その大きく開けた口から声が聞こえてきた。
「外側がダメなら・・・・内側からならどうだっ!!!!」
それはまさしくあの少女の声だった。
そして食欲の中からあかねが飛び出した。全身ボロボロで服も所々溶けている。だが、力強く地面に立った。
「あ、あかね!!!」
天使くんは思わず叫んだ。それは喜びで。
あかねは顔だけを後ろに回り小さく手を振った。そして前を振り向く。
その背中はあの背中だった
食欲はあかねに襲いかかる。あかねも前に駆け出す
食欲はまた大きく口を開けるが、あかねはそれを見て小さく笑った。
「右手に込める魔力のオーラ・・・!!」
あかねは右手に魔力を込めた。それでも食欲は襲うためまた大きく口を置ける。
「マジカル☆バズーカぁぁぁぁぁ!!!!!」
あかねは大きく右手をふり、そして魔力の塊を飛ばした。
口を開けた食欲はそれをもろに受ける。内側の攻撃を守るすべはない食欲はあかねの攻撃を受けて吹き飛んだ。
「GAAAAAAaaaAaaAaa!!!」
食欲はそう叫び体をあかねの攻撃で貫かれた。
そして光の粒子になり消えていった。
空にまっていく光の粒子を全員見つめていた。そして
「よっしゃぁぁあああぁぁ!!」
糸が切れたようにあかねは叫び、美冬たちも歓喜の叫び声をあげた。
「いやぁ、流石ですねぇ」
すると男の子の声がきこえた。その声はここに来る前に何度も聞いた声。
「エレンホス・・・!」
入り口からエレンホスが拍手をしながら歩いてくる。
その幼い瞳はあかねに対して好奇の目を向けていた。
「いやぁ、貴女の覚悟、見せてもらいました・・・すみませんが、貴女の名前を教えてくれませんか?」
「名前・・・ま、マジカル☆・・・あー・・・あ・・・あー・・・」
名前を聞かれてあかねは声を濁す元から名前なんか考えてなかった。何を言うか迷う。
するとエレンホスが、手をパンと一度叩いた。そして。
「なるほど。『マジカル☆アナザー』ですか」
あかねはもう名前とかどうでも良かった。それだよ!と、ヤケクソで同意する。
エレンホスは子供のように笑ったあとマントを翻した。すると彼は目の前から煙のように消えていた。
そして、戦いで壊れていたこの廃工場内も元通りになっていた。まるで、元からなかったかのように。
あかねは美冬たち手を固定していた鎖を壊した。美冬は礼を言ったが、春樹たちは気絶していた。
あかねと美冬はお互い見つめ合い、そして笑った。
◇◇◇◇◇
次の日。あかねは元気よく家から飛び出した。集合時間より何分か早くつくが、なぜか早くつきたかった。
カバンの中で文句を言う天使くんを無視して走る。
いつもの集合場所につくと春樹と悟が先に来ていた。
あかねは元気よく手を上げて挨拶をして、春樹たちも挨拶を返す。
すると春樹はいきなりあかねの肩に手を置いた。いきなりの行動に少しドキドキするあかね。余る触られるのは慣れてないのだ。
やがて春樹は口を開ける。
「お前・・・何か隠してるだろ?」
そう言われてあかねは少し体が反応する。隠してる?まさか。だが、それを見た悟は
「マジカル☆アナザー」
その言葉にあかねは声を上げそうになるのを抑える。そして三人で顔を突き合わせる。
「なんで知ってんだ!?」
「あんなことがあって忘れるかよ!」
「あぁ。お前に対して感謝を述べたいしな」
そうしたら二人はありがとう。と、感謝の言葉を述べた。あかねは純粋に嬉しかった。
「あ、あれ?」
あかねの頬を涙が伝い始める。それほどまでに嬉しくて、それほどまでにあかねは少女だった。
目の前の男性は大きく笑っていた。それを見てあかねも笑顔になる。
涙を拭い、あかねはもう一度笑った。
今彼女は幸せの中にいるかのようだった。
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《次回予告!!》
「千鶴は知らんだろう」
「いやぁ!今日もパンはうまい!」
「金だよ!!金をよこせ!!」 「黒い・・・魔法少女?」
第参話『二人目の魔法少女』
お楽しみに!!
次回は第3話と言いましたが、もしかしたら番外編を挟むかもしれません。
ネタ回書いてもいいですよね?
第2話ではあかねさんは新たな覚悟を背負いました。それが吉と出るか凶と出るか。それは物語を読んでお確かめください