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ヒロイン=ヒーロー  作者: だっつ
16/17

第16話 三人の勇者

今年中には終わります。多分

地獄絵図。


まさに目の前に広がる景色は、地獄絵図であった。至る所でディザイアによる殺戮や、極限状態に陥った人間の殺し合い。そこには、平和なんてない。日常などない。あるのは、非日常。


「くっ、そ・・・これはやばいだろ」

「アナザーちゃん、まずはエレンホスがどこにいるか探そうよ」


そんな、地獄絵図に見合わないほど、ファンタジックな服装に身を包んだ二人の少女が、空を飛んでいた。


青い衣装に身を包んでいるのは、マジックブルーといい、その正体は池内千鶴という少女。


そして、黒を基調とした服に身を包んでいる、小さな女の子はマジカル☆アナザーといい、変身する前の名前は西園寺あかね。


彼女達は、ディザイアという敵と戦う魔法少女である。ディザイアから見たら、魔法少女が敵だというだろうが。


さて、話は少し前にさかのぼる。ディザイアの完全体の恐らく最後の一人であろう、エレンホスがこの世を支配すると宣言したかと思えば、街のいたるところにディザイアが発生し始めた。


エレンホスは、まず日本を支配すると宣言した。彼がやろうとしてるのは、力による制圧的な支配。いつもの彼からは連想がつかない強引的な支配の方法にアナザーは内心首をかしげる。


「ーーっ!アナザー!あぶなーい!」

「はっ!?やべっ!」


そんなことを考えてたからか、横から飛んでくる攻撃に気づかず、直撃を許してしまい大きく吹き飛ばされる。


しばらく重力に逆らいながら飛ばされ、止まったのは家を二つぶつかった衝撃で壊したときだった。


「ご、ごふっ・・・!!や、やべぇかも・・・」


ガラリと音を立て、瓦礫をどかしながらアナザーはそう言葉を漏らす。こんな調子で、エレンホスを倒すことができるのだろうか。こんな調子で世界を守ることができるのだろうか。弱気になっている自分に驚き、そしてフッと笑ってしまう。


「大丈夫!?アナザーちゃん!」


心配した顔でブルーが猛スピードで近づいてきた。アナザーは大丈夫だと教えるように手を挙げる。いいや、弱気になる暇はないと自分に言い聞かせる。守ると決めた。戦うと決めた。ならそれをしなければならない。それだけのことだ。


そんなとき、風を切る音が聞こえたかと思うと、ブルーが吹き飛ばされていた。アナザーはおもわず声を荒げて叫ぶ。ブルーは地面に何度もその華奢な体をぶつけて、転がっていった。


「がっはっ・・・な、なに・・・」


なにが起こったの。そう言おうとしたが、なにが起こったかは、次の瞬間にわかった。目の前に巨大な何かが降ってきた。それは地響きを上げて、大きな咆哮を上げた。


「なにこれ・・・?動物じゃない・・・いろいろつなぎ合わせた・・・え、キメラ?」


そう、それはライオンであり、馬であり、蛇であり、鳥であり、そのどれにも属さない存在。まさにキメラであった。


そのキメラが大きく咆哮するたびに、体がビリビリとしびれる感覚に陥る。ブルーは少し怯むが、しゃぼんを展開し攻撃する。


パァン!!


何度も大きな音を出してしゃぼんが割れるが、キメラはなんともないというように体を振った後、ギロリとその巨大な目で睨みつける。


「ひっ・・・!」


ブルーはおもわず恐怖による小さな叫び声を上げた。体が、ガタガタと震え始める。それでも逃げるわけにはいかず、ブルーは空に大きく飛び上がり、ナイフのような形のしゃぼんを無数に出した。


「これで、どうよ!!」


ブルーはそう叫びしゃぼんをぶつけた。その巨大な体に深々と突き刺さり、大きな爆発を何度も起こした。


煙がでて、そしてだんだんとはれる。が、キメラは当たり前というか、無事であり、ブルーをずっと睨みつけていた。


すると、キメラは大きく飛び上がり、ブルーに爪を突き立てた。その身を削られて、ブルーは叫び声をあげる。そして、キメラは追い打ちというようにその巨大な前足で地面に向かって叩きつけた。


ドン!と大きな音を鳴らし、ブルーは地面に衝突する。口から血を吐き出し、ブルーは肩で荒く息をする。息をするのも困難なほど、大ダメージをおったらしい。


「あ、あはは、ピンチ・・・ぶっちゃけありえないよ・・・」


ブルーはそう呟くが、キメラはそんなことお構いなく一気に急降下して、ブルーを捕食せんとする。そして、ブルーは目を瞑る。心の中でアナザー達に謝罪しながら、自分の命が消えるのをただ待っていた。


「止まれこのクソバカアホやろう!!」


そんな、まるで小学生のような罵倒が聞こえたかと思うとピシッと音が聞こえて、キメラがすんでのところで止まる。


「ア、アナザーちゃん・・・!!」

「お、めぇんだ・・・よ!!くそがぁ!!」


そう言いながら、ブルーは後ろに投げ飛ばされていくキメラを見た。それをしたのは、自分より幾分も小さい勇者。その勇者が勇敢にも、自分より大きな化け物を後ろに投げ飛ばしていた。


「ブルー!?立てるか!」


アナザーはブルーを抱き起こした。ブルーは震えながら、アナザーの肩を借りて立ち上がる。その行動は、まだ戦える。まだ戦うという意思の表れだった。


「あいつ、あのキメラみたいなの・・・多分、ディザイアがごちゃ混ぜにされてできたやつだと私は思うの・・・倒すことが、救うことだと思う・・・いこう、アナザー」


ブルーが力強くそう言い、アナザーもそれに対して力強く頷く。アナザーとブルーは力強く手を握り合った。


「私、さっき攻撃されたとき、あのキメラの声が聞こえた気がしたの。タスケテって・・・だから、助けよ?」

「いいだろう。まずは、一体だけでも倒さないとな・・・!」


アナザーはそう言うと同時に、また大きな咆哮が聞こえた。キメラが瓦礫を壊しながら這い上がってきたのだ。二人は身構えて、キメラも身構える。


「いくぞおらぁあぁあああ!!!」


まず突っ込んだのはアナザーだった。キメラに向かってまっすぐ、愚直に一直線に突撃していく。


キメラはそれを見て大きく前足を振り上げてアナザーを押しつぶそうとした。アナザーはそれをうまく避けて懐に潜り込む。そして、上を見上げて拳を打ち込もうとする。が


「な、なんだ・・・!?人の顔・・・?」


その腹には何十何百の人の顔が付いていた。その顔は苦痛とも快楽とも取れるような表情を浮かべており、アナザーはおもわず目を背けようとした。が、これは避けてはならない問題。


「すまねぇ、これで助けたということにしてくれ・・・」


アナザーはそう言い、両手に魔力を込めて、二つの手をあわせる。そして、魔力を倍にして、拳を突き上げる大きな爆発音を響かせ上に打ち上げられるキメラ。アナザーは大きな声で頼もしい仲間の名前を叫んだ。


「まかせて、アナザー!!」


ブルーはそう叫びキメラをしゃぼんの中に閉じ込めた。キメラは脱出しようと爪を突き立てたりして、しゃぼんを破壊しようとする。が、しゃぼんは破壊されず、だんだんと息ができなくなっていく。


そして、半分気を失っていくキメラは大きなしゃぼんの爆発によりまた打ち上げられた。無防備になったキメラを追い打ちするように、しゃぼんを周りを展開する。アナザーはそのしゃぼんを足場として利用して、縦横無尽に飛び跳ねる。そして、アナザーは何度も何度も打撃をくわえる。


体がボロボロになったとき、アナザーは最後というように上に大きくまた打ち上げる。そのキメラを追いかけるようにしゃぼんは周りを囲みながら飛んでいく。そして、ボロボロになったキメラの身体中に付着して、そして。


ドゴーーン!!!


大きな爆発が起こり、キメラの体が爆発四散した。そこら中に飛び散るキメラの肉片は、少ししたら粒子となり飛んでいく。


「はぁ・・・はぁ・・・やった・・・やったけど・・・」


アナザーが息をするのもきついのに、無理やり息を をするのに合わさるように、アナザー達を囲むように無数のキメラが降ってきた。そのキメラは唸り声をあげて、二人を睨みつける。


「エレンホスを・・・倒す前に、あたし達が死ぬかもな・・・」


エレンホスを倒す前に、全く関係がないキメラたちに殺されるかもしれないという、辛く悲しい現実を前に、二人の少女は


「そんなわけない。勝つよ、アナザー」

「もちろん、そのつもりだぜ、ブルー」


真っ正面から、戦うことを決めた。


その姿は、まるで風車を巨大な竜と勘違いしたドン・キホーテのように滑稽な、ただの蛮行かもしれない。しかし、彼女達には進むべき道はこの先にあると、信じていた。信じていたからこそ、進むために、まず目の前の壁を破壊すると、心に決めた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



高層ビルの最上階の窓から、街を見下ろしているものがいた。広がっていく地獄絵図を、ただ無表情で見ていた。


「・・・後は、時間の問題でしょうか・・・」


彼の名前はエレンホス。ディザイアの事実上トップであり、ディザイアの完全体の最後の生き残りであった。見た目は子供のようだが、街を見下ろすその瞳は、大人のように落ち着いて、すべてのものを見下すような目であった。


「元気にやってますぅ?」

「また、貴方ですか・・・!!いい加減にしてくれませんか、ね!!」


突如後ろから聞こえた声に向かって、エレンホスは無数の弾丸を飛ばす。大きな爆発が起こり、そこの床が粉砕されて、大きな穴ができた。


「いやぁ、流石は僕。とても激しく、そして素晴らしい攻撃ですね・・・」

「ちっ・・・まだ生きてましたか・・・」


忌々しく舌打ちをして、エレンホスは大きく開いた穴を見る。そこには一人の少年が浮かんでいた。その姿形はエレンホスに酷似していた。いや、エレンホスそのものだった。


「いやはや、そんなに怒らないでくださいます?僕は褒めてるんですよ?」

「その態度が、存在が声が動きが気に入らないんですよ・・・消えてくれません?」


怖い怖いと言いながらも、もう一人のエレンホスはゆっくりと、エレンホスに近づいていく。エレンホスはまた大きく舌打ちをする。


そして、もう一人のエレンホスはエレンホスの隣にたった。端からみれば双子に見えるかもしれない。が、二人にあるオーラは、双子の友情などではなく、ただの憎悪であった。


「これが、貴方の作戦ですか・・・たしかに、このまま日本を支配したら、世界全てを支配するのも簡単でしょうね、よく考えましたね!えらいえらい!!」


そう言うと、エレンホスの帽子を取って頭をワシャワシャと撫で回す。エレンホスは鬼のような形相になり、手を払った。


「触らないでくださいませんか?視界に入れるだけでも不快だというのに・・・触られたら、汚れてしまいます」

「おお、これは失敬・・・そういえばこんな言葉をご存知ですか?」


突然変えてくる話題に、エレンホスは身構える。が、目の前にいた者はその身構えているエレンホスを押し倒した。


暴れるエレンホスの手を押さえて、その者はエレンホスの耳元に口を近づけた。


「同族嫌悪って言葉・・・なんですけどね」


その言葉を聞いた瞬間、エレンホスは相手の腹を蹴り上げ、無理やり引き離した。


目の前の少年はヘラヘラ笑いながら、腹を押さえている。その姿はエレンホスはとても気に入らなかった。


「僕は、自分の仲間を駒として動かした・・・貴方も同じですよね?」

「違う・・・僕は違う!!」

「ちぃがぁうぅ?だったらあのキメラはなんですかぁ?あれは仲間を駒として扱ってますよねぇ〜?」

「ち、ちが・・・あれはただ・・・!!」

「クスッ、まぁいいです。所詮僕は僕なんですよ」


そう言い残し、目の前の少年は粒子となり消えていった。その粒子はエレンホスの周りを馬鹿にするよに回り、どこかに飛んでいった。


残されたエレンホスは膝をついて倒れる。自分自身少し察していた。察していたからこそ、この地上で起きている光景にとても冷ややかな目を向けていた。


まるでもう一人の自分がやっているように見えたから。


「僕は一体なんなんでしょうね・・・いったい・・・」


うわ言のようにそう呟く彼は、生まれたての赤ん坊のように、無防備であった。


そして、生まれたての赤ん坊のように己の欲を求めるだけの存在になっていた。


「わからない・・・わからないよぉ・・・ゼーン・・・テベリス・・・マタル・・・僕はなんなのか・・・おしえてよぉ・・・」


そして、子供のように喋る彼は、先ほどとは打って変わって姿相応。いや、それ以上に幼く見えた。


ぴちゃん


彼は水が跳ねる音が聞こえてそして驚く。自分の頬を伝い何かが流れていた。それは、涙であった。仲間が死んだ時には流さなかった、その涙は、彼の悲しみを、そして変わってしまった彼の心を表していた。


「僕は結局・・・あいつと、変わらない。ただのディザイアなのかもしれない・・・」


エレンホスは虚ろな瞳でそう呟く。誰もいないのに声を出してしまうのは、先に散っていった仲間に聞いて欲しいという心の表れかもしれない。


「・・・・・・・」


そして続く無言。その空白の時間は、とても長く、とても短く感じれた。


「・・・・・僕は、なんの欲なんだろう・・・支配欲・・・でも、僕は支配できてないのかもしれない。自分自身を支配できてない奴に、他のものの支配なんか、無理なのかぁ・・・」


弱気につぶやく、彼の周りには、彼の声を聞いてくれるような者はいない。すべて己の手で消してしまっていた。


己の判断ミスのために


己の作戦のために


己の存在意義故に


そのために、大切な仲間たちは消えてしまっていた。今更悔やんでも仕方なく、できることは床の上で掌を握ることだけだった。


「本当に、哀れですね・・・」


彼はもう、何も残ってなかった。残ってたのは、天界のために人間を支配し、そして殺す事。それだけだった。


だが、これでいいのだろうか。支配欲の自分が、他人に支配されるように生きて、いいのだろうか?

答えはNoである。が、本能がそう言っても、エレンホス自身は、それでいいと考えていた。


「僕が本当に支配したいのは・・・仲間でも、こんな世界ではなく・・・なんでしたっけ・・・」


そう言うエレンホスは何かが階段を駆け下りていく音が聞こえて、ゆっくりと立ち上がる。その足音はだんだんと近くなり、その足音の主は扉を勢いよく開ける。


「みつけたぞ!エレンホス!!!」

「アナザー・・・さん・・・?」


そこにいたのはいつもの魔法少女姿ではなく、普通の姿になっている、アナザーと丸い球体の天使くんだった。


エレンホスはその二人を見てこう思った。どちらにせよ、目の前の壁は破壊したければならない。ならば、まずはアナザーを


「よく来ましたね・・・残酷に、そして美しく殺してあげます・・・」

「はっ!やれるもんならやってみやがれ!!行くぞ、天使くん!美冬ちゃんは大丈夫か!?」

「・・・あぁ、もうOKだそうだ!!行くぞアナザー!!これが最後の戦いだ!!俺ともう一度契約を結べ!!」


そう天使くんが叫ぶと同時に、アナザーの身体がまばゆい光に包まれて、いつものように、小さく、そして大きな覚悟を背負った少女になっていた。


(僕が本当に支配したい者は・・・それは・・・)


そんな事を考えながら、エレンホスは手を前に突き出し、無数の弾丸を発射して、アナザーを攻撃した。


大きな爆発が起きて、巻き上がっていく煙をボーッとエレンホスは見つめていた。その瞳には、何もうつってないようにみえた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて


話は少し遡る。アナザーとブルーが3体目のキメラを倒したぐらいまで溯ろう。


「おらしねごらぁぁぁあ!!!」


おっと、今4体目だ。


彼女たちは今、キメラを蹴散らしながら、エレンホスがいるであろうところを探している。というか、おおよその見当はついている。先ほど大きなビルが揺れたのだ。エレンホスはいなくても、何かが起こったというのはわかった。


「わかってるけど・・・!!」

「敵が多いし強いよ・・・!!」


しかし、そこに行くまでの壁があまりにもきつく、そして硬かった。4体倒したとしても、キメラはなかなかの強敵であり、気を抜いたらすぐにやられてしまう。


「ぬぅあ!?危ねぇ!!」


気を張っていても、一瞬の隙をついてきてキメラは爪を突き立てて殺そうとしてくる。それを紙一重でかわし、アナザーたちは前に進んでいく。


「ーーーーーー!!!!」


突然、無数のキメラが大声で吠えた。その時、空気が揺れてアナザーたちは足を止めてしまう。それを狙い一匹のキメラが突進してくる。アナザーは避けることができずに、後ろに大きく吹き飛ばされる。


ブルーがアナザーの名前を呼ぶ声が耳に入ってくるが、アナザーはかなりの長い距離を吹き飛ばされて、ビルに背中から衝突した。


「がっは・・・・・!!」


口から血と唾を同時に吐き出し、アナザーはぐらりと下に落ちていく。


「ちっ、くしょう・・・諦めるわけにはいかねぇのに・・・」


ボロボロになりながらも、アナザーはゆっくりと立ち上がる。肩で荒く息をして、ふらつきながらも、また前に進もうとしていた。


そんな時だった。近くの破片のあたりから、ガラリと何かが少し崩れるような音がした。


「ひっ・・・!!」

「おいおい、マジかよ・・・」


そこにいたのは、小さな女の子であった。そんな女の子が震えて、恐ろしい者を見るような目でアナザーを見つめていた。


逃げ遅れたのか。と、アナザーは考えていた。いや、もしかしたらこの町の人間はほとんどディザイアになってるのかもしれない。そう考えると、彼女は逃げ遅れたのでなく、生き延びたというのが正しいか。


ビュン


少し、その少女に気を取られすぎて、目の前からくる巨大な生物が風を切りながら、爪を突き出していく音に気づくのに、少し遅れた。


それが失敗だった。


ぐちゃ


そんな嫌な音が聞こえたかと思うと、アナザーの小さな体に深々とキメラの爪が突き刺さっていた。


アナザーは鮮血を飛ばしながら、大きく打ち上げられていく。キメラはそれを見た後、もう片方の前足で地面に叩きつけた。


大きな地響きが聞こえ、アナザーは動かなくなっていた。そんなものを見せられて、小さな女の子が冷静で入れるわけがない。


「いやー!!!」


大きな叫び声を上げてしまい、キメラにギロリと睨みつけられる。その少女は、青ざめた顔でキメラを見上げていた。足を動かそうにも、恐怖で腰が抜けてうまく歩けなかった。


「た、助けて!殺さないで!!」


少女は声を出した。と、思っていた。実際は恐怖で口はパクパクと金魚のように動いただけで、なにも声は出なかった。


ズシン。ズシン。


そんな大きな音を立てながら、キメラが一歩ずつ優雅に近づいてくる。それは、捕食者と捕食される者の関係。捕食者は勝利の余韻に浸りながら、近づいてきた。


そして、キメラは大きく足を振り上げて、そして少女を殺すために振り下ろした。


少女は目をつむって、その風を切りながら迫ってくるであろう爪の攻撃を受けて、自分が無残にも食い殺されると言う現実を受け止めるしかなった。


ズバン


何かが吹き飛んだような音が聞こえて、次にまた何かが吹き飛んだ音が聞こえた。


少女はいつまでたっても死なないことに驚きながら、ゆっくりと目を開ける。すると目の前に一人の、幼女が立っていた。


「よ、よぉ・・・?元気か・・・?」


先ほどの幼女が、青ざめた顔で、少女を見つめていた。唇からは、赤い血が流れている。そして、肩があったであろうところからも。


「か、肩が・・・腕が・・・!?」

「・・・また・・・か・・・」


少女は震える手で、その幼女。アナザーのなくなっていた方の部分を指差し、そして気を失って倒れた。アナザーはそれを見た後、先程吹き飛ばした、キメラを倒そうと身構える。が、すぐに異変に気付く。


「お、おいおいおいおいおいおいおい・・・!!な、なんで変身が解けてんだ・・・!!」


アナザーは変身が解けて、西園寺あかねに戻っていた。あかねは何度も変身をしようとするが、一瞬も光らずあかねから姿が変わらなかった。あかねはとても焦るが、それでも御構い無しに、キメラは突進してくる。


あかねは横に飛ぶが、キメラはすぐに方向転換して、また腕を振り下ろす。あかねはこの時死を覚悟して、目を見開いた。


「あかねさんに近寄るなぁぁあああぁぁ!!」


聞き覚えがある少女の声が聞こえたかと思うと、キメラの体が、真っ二つにわかれた。かと思うと、全身が一気にバラバラになった。


そして、あかねの目の前に、一人の少女がいきなり現れた。


その少女は、猫の尻尾みたいなものをつけており、ミニスカート。そして深い青の髪をツインテールにしてまとめていた。


「すみません。あかねさん。でも、ボク・・・」


突然あかねに謝罪するその少女。その声はとても聞いたことがあり、よく見たら、面影も残っているようにも思えた。


「おま、お前はまさか・・・!!」

「見てるだけじゃ、嫌なんです!!!!」

「美冬ちゃん・・・なのか・・・!!」


その少女は美冬が、魔法少女になった姿であった。彼女の影から天使くんが申し訳なさそうに覗いていた。


「なんで、変身を・・・!?」

「話は後です・・・少し、待ってください」


そう言うと、美冬は周りを見渡す。そこには無数のキメラが周りを囲んでいて、美冬を殺さんと、身構えていた。


「数は多いですね・・・けれど・・・」


そして、キメラが一斉に飛びかかった。あかねはまた死を覚悟するが、美冬は余裕の表情で、いつの間にか握っていた剣を横に突き出し、そしてくるりと回る。そうしたら、なぜか剣先が消えていることにあかねは気づいた。


ズシャァ!!!


すると、突然キメラの体が真っ二つになって地面に落ちていく。それを見た美冬は剣を上に突き上げる。すると落ちていくキメラがフッと虚空に消えていった。


そして、美冬が剣を振り下ろすと、目の前にバラバラになったキメラであろうものが降ってきた。そして、粒子となって消えていった。


「ボクの能力は・・・ワープです・・・なんでも、飛ばせ、ます・・・」


そう言うと美冬はどさりと倒れる。あかねは美冬に駆け寄り抱き寄せた。


「ははは・・・まだ戦い慣れてないみたいですね・・・魔力がほとんど残ってません・・・」

「なんでこんなことをした!!なんで・・・!!」

「さっき、言ったでしょう・・・戦う力があるのに、見てるだけじゃ嫌なんです・・・もう、戦えませんけどね・・・」

「美冬・・・ちゃん・・・」


美冬が弱々しく微笑むと、あかねもそれに答えて優しく笑い、頭を撫でた。


「美冬ちゃん、ありがとう・・・!」

「どういたしましてです・・・」


すると、ブルー向こうから慌てた顔でやってきた。そして、美冬とあかねの顔を交互に見て首をかしげる。


「さて・・・ここらかが本番です・・・」


美冬はそう言いあかねの肩に手を置いた。あかねはなんとなくその肩に乗った手に手を重ねた。


「今からボクの魔法であかねさんをエレンホスがいる所まで飛ばします。しかし、悲しいことに・・・あかねさんと天使くんしか運べそうにありません・・・」

「じゃ、千鶴は・・・」

「・・・ここで一人で、戦ってもらうことになります」


その言葉は、一人の少女にはとてもきつい宣言だった。まだまだいるであろうキメラを一人で対処しろと言われたのだ。


「なーんだ。そんなこと?」


千鶴はあかねに近づき、そしてあかねが重ねている手の上に手を置いた。あかねはその千鶴の手を見た後、千鶴を見る。


「任せてよ、私って結構強いんだよ?」


彼女は震える声でそう言っていた。視線を下に降ろすと、足がガタガタと震えていた。怖いのだ。千鶴は戦うのがとても怖い。一人の少女が背負うにはとても重すぎる業であった。


「・・・わかった・・・」


でも、怖いことがわかっているからこそ、あかねは強く決心した。


「お前に任せる。頼んだぞ」

「・・・OK!任せてよ!!」


たとえ偽りの勇気だとしても、彼女はその勇気に最大限の敬意を払った。その敬意こそが、彼女を信じることだった。


「じゃ、美冬ちゃん。頼んだ」

「・・・わかりました。ボクはあかねさんを送った後、元の場所に戻って契約を解除します・・・後は任せました、あかねさん。千鶴さん」


3人の勇者は笑顔で見つめあい、そしてパンと、ハイタッチをした。


あかねは目をつむり、そして、消えていった。その消えていく姿を見送り、美冬は申し訳ない顔で千鶴をみる。千鶴はニコッと笑った後、美冬の頭をポンポンと叩いた。


「早く帰りなよ。私が死ぬわけないでしょ?」

「・・・そうですね。あかねさんがあなたを信じるように、ボクもあなたを信じます・・・頑張ってください」


そう、美冬は言い残し消えていった。千鶴は少しその消えていった場所を見つめて、そしてよし!と気合いを入れるように両頬を叩いた後後ろを振り向く。


後ろにはまだ多くのキメラが千鶴。いや、ブルーを狙っていた。そんな無数のキメラを見たあと、ブルーは杖を構えた。


「帰る場所があるから、帰ってくる人がいるから、私はここで負けるわけにはいかないの・・・!!必ず、また笑顔で会おうね、みんな!!」


ブルーはそう叫び、キメラは大きく吠えて、両者が激突する。


(だから、必ず帰ってきてね、あかねちゃん!!)


大切な人の名前を心の中で叫び、ブルーは負けるわけにはいかないというように、また大声で叫んだ。その声に応えるように無数の鳥が羽ばたいていった。


続く・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《次回予告》

「はぁああぁあああぁああ!!!

「うぉおおおぉぉぉぉおおお!!」

最終回『ヒロイン=ヒーロー』

お楽しみに



第16話お疲れ様です。今回が最終回かと思った方もいるかもしれませんが、終わるのは次回です。

因みに、第二部の構成もこそこそしていたり。早く書きたいものです。

では、最後までお付き合いくださいませ

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