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ヒロイン=ヒーロー  作者: だっつ
14/17

第14話 人とディザイアの恋は成立するのか

テストが終わって万歳という気持ちと赤点があったらどうしようかという気持ち

前回のあらすじ

私は・・・テベリス・・・

前回・・・アナザーが自分の欲の防護欲と戦って勝った・・・終わり・・・

え?短い・・・?でも、めんどくさいからこれで終わりでいいよね・・・?


「ジングルベールジングルベール鈴が鳴る〜♪」


一人の幼い少女がそう声を上げて歌っている。場所はアパートの一室。そこに二人の少女と、歌っている少女の腕の中に、まるい球体のようなものがいた。


「やけにテンション高いな、美冬ちゃん」

「えへへ〜だってクリスマスですよ。そしたら、あかねさんの美味しい手作りお菓子がたっくさん食べれますもん」


美冬と呼ばれた少女はサイドテールを揺らしながら、うれしそうに答えた。その時の興奮からか、少し鼻息があらそうに見えた。しかし、今はまだ・・・


「あー、美冬ちゃん。今日はまだ12月の20日だぞ?まだクリスマスは遠いというか・・・」

「時はまさにクリスマスです!!」


そう美冬が机をバンと叩く。あかねと呼ばれた少し驚いた顔をするが、こんなにも自分が作るお菓子を楽しみにしてくれてることがうれしくて、少し顔がほころぶ。


あかねは料理をするのが好きで、その中でもお菓子を作るのは大好きであった。そのレパートリーは万を超える・・・らしい。


これだけ書くとただの女の子に見えるが、実のところ彼女はただの女の子ではない。彼女は町を守る正義の味方。魔法少女なのだ。


彼女が戦うのは守るため。目の前の少女や、手に届く範囲の人全てを守るために戦う。先日はその欲が暴走して大変なことになったが、その欲に打ち勝ち、あかねは心身ともに成長・・・したと思う。最近胸が大きくなったというのは本人の談。


そんな時だった。ドンドンと扉を激しくノックし、インターホンを連打する音が部屋の中に響いた。時間はもう夜も遅いし、増穂が帰ってきたとしては早すぎる。あかねは怪訝な顔をして、扉の前にいる人を確認する。すると、あかねは血相を変えて扉を開けに行った。暫くすると、部屋の中にあかねと誰かがなだれ込むようにやってきた。一人は美冬がよく知る少年、小野悟。もう一人は・・・


「えっ・・・!さ、悟さん・・・!その人は・・・」

「頼む、あかね・・・!テベリスを助けてくれ!」


ディザイアの一人、怠慢欲のテベリスと言う少女が、身体中から緑の血を流しながら、悟に抱えられていた。





「・・・で?なんでここに来たんだ、悟」


部屋にやってきたテベリスをあかねは介抱してる中、天使くんは険しい顔(と、言っても顔は変わってないが)で、悟と話していた。


「・・・テベリスが前言ってたんだ。『アナザーがエレンホスを救う』・・・つまり、もしかしたらディザイアを救えるかもしれん」

「・・・それはあながち間違いではない。が、救うと言っても一時的に癒すだけ。それにあかねの魔力じゃ、限界がある・・・テベリスの体はもってあと・・・」

「・・・少し、黙って・・・」


すると、小さな声が聞こえた。皆声が聞こえたところに一斉に顔を向ける。テベリスがボロボロな体を押さえて上体を起こしていた。


「テベリス・・・お前・・・」

「・・・私は・・・アミナが暴れていた時、エレンホスに襲われて、命からがら逃げ出した・・・でも、エレンホスは諦めてなかった。そして、逃げる私を見つけて・・・」


そう言いながら、テベリスは胸に手を当てて顔を下に向ける。少し、悲しそうに見えたのは、気のせいではないだろう。


「私は多分もう直ぐ死ぬ。どう死ぬかはわからないけど・・・自分のことは自分が一番分かってるから・・・」


そして、後悔はないというように悟たちに笑顔を向けた。その笑顔は愛しく、どこか悲しかった。


「俺に、できることってあるのか・・・?」


悟が震えながら、テベリスに問いかける。テベリスは少し考えたあと、口を開けた。


「何もしなくていい・・・けどせめて、私がいたということは・・・覚えておいて欲しい。忘れないで欲しい・・・」

「そんぐらい・・・お安い御用だ・・・」


そういったあと、悟は顔を上げてテベリスにかすれた笑顔を向けた。彼も無理して作っているというのが一目でわかった。


外は、雨がザーザーと降っていた。それからしばらくテベリスは、あかねの部屋にいた。魔力を与えないと、すぐに体が壊れてしまう。なぜ、ここまでエレンホスはテベリスを痛めつけたのか、正直理解に苦しむ。ここまでするなら、殺したほうがいいと思うのだが・・・


死ぬよりか、死ぬような苦しみの方が、きついということを知って、いたのか。だとしたら相当なひねくれものだ。


「・・・なぁ、テベリス?気分は・・・」

「・・・最悪・・・」

「だろうなぁ・・・」


魔力を与えながら、あかねはテベリスに話しかける。だんだんと体の色や、形が消えていくテベリスを見ると、あかねは敵のはずなのに居た堪れなくなってくる。


「ねぇ、アナザー・・・」

「ん?なんだ、テベリス?」


突然、テベリスがアナザーに声をかけた。アナザーは少し焦るが、それを表面に出さず、相槌をうった。


「マヒロ・・・って、知ってる・・・?」


それはあまりにも突然な質問。マヒロ。そんな名前聞いたことも見たこともない。


その趣旨をテベリスはホッとしたように息を吐いた。


そんな時、突然チャイムが鳴った。あかねは早足で、チャイムを鳴らした人を確かめに行く。部屋に一人になったテベリスは、目を閉じて先ほど言ったマヒロについて思い出していた。


「私はマヒロちゃんの幸せを願った・・・だけど結果は・・・不幸。だった」


「あー、テベリス。お客さんだ・・・」

「・・・悟・・・」


あかねは申し訳なさそうにあたまをかきながら、悟を連れてきた。


そんな悟はバッグの中から、何か紙のようなものを取り出し、文面を読み始めた。


「200◯年。とある少女が複数の男性から性的暴行を受けた。その少女の名前は・・・竜宮城マヒロ」





マヒロ・・・その名前を聞いたとき、テベリスはびくりと体をこわばらせた。そして、諦めたように息を吐いた。


「そう・・・その、性的暴行を受けたマヒロ・・・その子は私が人間だった時の大切な親友で、私が・・・」


ここでテベリスは言葉を切る。次の言葉を言うのをためらってるように見えた。


「私が地獄に落とした・・・」


そのあまりにも衝撃的すぎる告白は、どれほど辛かったのかがよくわかった。テベリスが震えているのが、それを物語っていた。


「私が・・・私のせいで、マヒロちゃんは・・・」

「そうです、あなたのせいです」


いきなり、部屋のドアから声が聞こえた。その声を聞いて皆が一斉に振り返る。そこには手品師の風貌をした、少年が立っていた。


「どうも、アナザーさんたち。家のドアは閉めておいたほうがいいですよ」

「エレン・・・ホス・・・!」


ディザイアの事実上のトップの、エレンホス。彼が丁寧のお辞儀をしながら、あかね達に声をかけてきた。


「しっかし、まさかあんなにも逃げるなんて・・・あなたらしくありませんね。動くなんて、ね」

「死にたく・・・ないもん・・・」

「おい、エレンホス。なんで、テベリスをここまで痛みつけた?仲間なんだろ・・・?」


悟がまるで蛇のようにエレンホスを睨みつけながら、こう言った。エレンホスはやれやれというように首を振り、口を開ける。


「何を言ってます?僕は確かに攻撃しました。けれど、『ここまで痛みつけてませんよ』」

「は?どういうことだ・・・?」


悟は疑問を口から思わず漏らす。ならば、なぜこんなにもテベリスはボロボロなのだ?


「・・・ふむ、なんでここまでボロボロか知りたいって顔してますから、説明しましょう。例えば、です。お腹が空いた人を、とてもきつい労働をさせる。しばらくした後その人はどうするか、わかります?」

「・・・こっそりご飯を食べる?」

「だいたい正解です。いってしまえば、自分の欲に合わない行動をし続けると、なんとかして欲を解消しようとする。それは、僕たちディザイアも一緒。ただし、僕達ディザイアはこっそりの欲を解消するのではなく、暴れだす・・・さて、テベリスは何をしているか覚えてます?」


エレンホスはテベリスに声をかける。テベリスは下を向いて何も言ってなかった。そんなテベリスに近づく。


「あなたは僕から逃げ続けた。動きすぎた・・・『怠慢欲のあなたが』動きすぎた・・・」

「じ、じゃ、テベリスは・・・」


悟がうろたえたような声を上げる。エレンホスは悟に顔を向けて、にこりと微笑む。だが、その笑顔は天使のようにも悪魔のように見えた。


「そう、テベリスさんは言うならば爆発寸前の爆弾を精神力で抑えてるようなものです。だから、少し背中を押してやれば・・・最期ぐらい、働きなさい」


と言いながらエレンホスはテベリスを抱えて窓から空に飛び出して行った。一瞬、何が起こったかわからないという顔をしていたが、悟は慌てて外に出て切った。


あかねはその後ろ姿を見た後、魔法少女に変身をして、エレンホスを追って同じように窓から飛び出していく。


「天使くん!!千鶴を呼んできてくれ!」

「わかった・・・千鶴が来るまで無茶をするなよ?」


そう言言われると、あかねは少し困ったような顔で、微笑みエレンホスたちを追いかけて行った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ここら辺まで行けば、しばらくは・・・」

「ねぇ・・・エレン・・・ホス・・・?」


エレンホスに連れられて、外に連れ出されたテベリスは、冷や汗を流した顔でテベリスに問いかける。


「エレンホス・・・あなたは今『どっち』になりたい・・・の?」


どっち。その言葉にエレンホスは眉をピクリと動かし、反応をする。そしてテベリスに冷たい目線を向ける。その瞳は、凍てつくような氷を当てられてるような程、冷たかった。


「どっち・・・どっちねぇ・・・そんなの、こっちに決まってるでしょう!」


そう言いながら、エレンホスはテベリスに向かって弾幕を発射する。テベリスはその弾幕を見つめていた。


小さな爆発が起き、煙がはれたあとテベリスは横の地面を見ていた。そこから煙が上がっており、それをエレンホスは忌々しく睨みつける。


「僕はこっちに行きたいのに、『僕』は、嫌みたいですね・・・ちゃんと、あなたの顔を壊すようにしたのに・・・」


そう言いながら、エレンホスはまた弾丸を発射し続ける。何度も何度も発射する。が、その弾幕はテベリスに当たることはなく、せいぜい擦るぐらいであった。


「・・・まぁ、いいです。あなたの運命はもう決まっている。最期ぐらい、醜く暴れて醜く散りなさい」

「エレンホス・・・」


テベリスはマントを翻し去っていくエレンホスの後ろ姿を見つめながら、エレンホスの名前をつぶやく。そして、消えていく意識の中、最後に呟いたのは二つだった。


「大好きだったよ・・・それと、ごめん。悟・・・」


告白と謝罪。普通は相反する二つの言葉を呟いた後、テベリスの体は光り始めて、そして弾けていく。それはまるで、新たな生物の誕生を祝っているように見えた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おいおい・・・なんだ、これ・・・?」


テベリスが己の欲を満たせずに暴走したそのすぐ後、アナザーとブルーはやってきた。そこには一枚の大きな緑の膜・・・いや、何十何百も重なった分厚い膜がはってあった。まるで中にいる子供を守るように。


「多分、テベリスが暴走したんだと思う・・・」


暴走。と聞くとアナザーの心にチクリと刺さる。この間、アナザーは守りたさゆえに暴走をしてしまった。


「とりあえず、近づけないからな・・・どうする・・・!?」


そんなことを考えてると、その緑の膜のいたる箇所がぷくりと膨らんだ。アナザーとブルーはおもわず身構える。すると。


バババババ!!


そのぷくりと膨らんだところがまるでマシンガンのように発射された。突然のことでアナザーたちは対処できず、腕をクロスにして攻撃から身を守ろうとした。


しかし、その勢いは凄まじく、アナザーたちは吹き飛ばされてしまう。体に無数の攻撃を浴び思わず痛みによる叫び声をあげる。


「がっ・・・!くそ、無理やり突き破るしか・・・」

「待ってくれ!!」


アナザーが攻撃しようとした時、後ろから叫び声が聞こえた。アナザーがそこを見ると、そこには一人の少年が立っていた。白い髪で、用途がわからないチェーンを腰につけてる少年。小野悟である。


「頼む・・・あいつを、テベリスを助けてやってくれ・・・!!」

「でも小野くん。テベリスは暴走しているんだよ?倒すしかな・・・」

「わかってる!わかってるけど!!」


そういい、悟はどさりと膝をつき、震えながら泣き始める。まるで、大切な親に見捨てられた子供が泣くかのように。


「失いたくないんだ・・・!なくしたくないんだ・・・!!我儘だというのはわかってる・・・でも、だからこそ・・・!俺は、あいつを・・・失いたくないんだ・・・!!」


それは、大人びた少年がみせた、初めての我儘であった。


そのあまりの悲痛さに、ブルーは顔を背けた。そんな中でもアナザーは少し考えた後、悟の肩に手を置いた。


「もしかしたら、だけど。お前が語りかけてくれれば、テベリスは救えるかもしんねぇ・・・どうだ?天使くん」

「前例はないな・・・が!」


そういい、アナザーは悟を頭の上に担ぐ。天使くんも悟の周りをふわふわ漂い、ブルーはため息をひとつついて、アナザーの近くに寄った。


「前例がないなら、あたしたちが第一人者だ!!行くぜ、振り落されんなよ!!」

「アナザー・・・!!」


アナザーはそういい、一気に駆け出した。そして地面を思いっきり蹴り空に飛び上がる。小さな体で悟を背負い


悟は、そう願いながらアナザーに振り落とされないようにしていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



チョコンと、猫耳フードの少女。テベリスが、まるで映画館の座席のようなところに座っていた。そして、目の前では白黒の映画が始まっており、テベリスはボーッとしながら見ていた。


「・・・ここって、どこだろう・・・?天国?それとも、地獄・・・もしくは、私の中?」


そんなことを考えていると、突然、場面が変わっており白黒ではなく、色が付いていた。そこにいたのは二人の少女が映っていた。二人ともセーラー服を着ており、一人は机に顔を突伏し、もう一人はその少女に楽しそうに話しかけていた。


(あ・・・そっか、これって・・・)


テベリスは、その映像から顔を逸らしたいと思うが、なぜか頭が動かなかった。


すると、その映像が切り替わり、先ほどから楽しそうに話していた少女が、遠くから一人の男性を見つめていた。その男性は学ランを着ていて、同じ学年ということがわかった。


少女は愛おしくその少年を見つめており、それを先程から机に顔を突っ伏していた少女が見ていた。


「多分・・・いや、絶対。机に突っ伏しているのは私・・・もう一人の女の子は、マヒロちゃん・・・」


テベリスは口の中でマヒロという名前を何度もつぶやく。マヒロ。それは、人間の頃からめんどくさがりでなにもしなかったテベリスにいた、唯一の友人。いや、親友といえる存在だった。


青い髪を三つ編みのおさげにして、メガネをかけており清楚なイメージの少女。それが、竜宮城マヒロであった。


すると、また場面が変わり、今度はテベリスがその男性を探るように見ていた。なるべく見つからないように動く姿は、普段のめんどくさがりな彼女とは違う、とても機敏に動いていた。


「私は・・・マヒロちゃんとあいつをくっつけるために・・・私はあいつの情報を集めた・・・」


そう呟くと、画面の中のテベリスはノートにあいつと言われた男性についての特徴を書いていた。彼の好きなもの嫌いなもの、いろんなことをノートいっぱいに書いてある。


すると、また画面が変わり今度はテベリスがマヒロにそのノートを渡していた。マヒロはそのノートを見て飛び上がって喜んでいた。画面の中のテベリスはとても嬉しそうに微笑み、それを見ているテベリスはかなり震えながら、無表情で見つめていた。


「私が初めてした、他人のために精一杯動く・・・この時のマヒロちゃんの喜んだ顔をみたら、疲れなんか吹っ飛んだ・・・でも、こんなことしなければよかった」


すると、画面が変わりマヒロは男性と仲良く下校していた。それを見た画面の中のテベリスは、窓から覗いていた。その顔には達成感があった。


だが、次の瞬間画面が変わった。同時に色が消えて、最初と同じように白黒になった。


そこに映ったのは、先ほどまで笑顔でいたはずのマヒロが、死んだような目になって、服がほとんどはだけており、周りにはあいつと多数の服を脱いだ男性に囲まれていた。


その映像を始まった瞬間テベリスは目から一筋の涙が溢れていた。それは頬を伝いゆっくりとテベリスの手に落ちていった。


そして、画面の中にはいろがつきやさぐれた顔になったマヒロをテベリスが心配そうに声をかけていた。マヒロはニコリと微笑み、フラフラとどこかに去っていく。が、突然うずくまり、テベリスは慌てて救急車を呼んだ。


「この時、私は知った・・・マヒロちゃんに赤ちゃんがいて・・・誰の男の子供かわかんなくて・・・そしてこんな状況を作ったのは・・・」


そして、テベリスと映像の中のテベリスはマヒロを見つめながら口を開けた。


「「私が頑張ったから・・・私のせいなんだ・・・」」


そして画面が変わり、今度は自宅のベッドの上で死んだように寝転がっている、テベリスの姿が映った。


テベリスは、自分が頑張ったから、マヒロがあんな目にあったと思い、家に引きこもった。外には全く出ずに、風呂にもあまり行かなくなった。


そんなある日、部屋のドアをノックする音が響いた。テベリスはそれに出るのもめんどくさがり、無視を決め込んだ。どうせ、親か何かがご飯を作って持ってきたのだろう。ご飯なんか、食べたい時に食べればいい。なんなら、このまま餓死でもいいかも知れない。


暫くノックが響き、そして止んだ。そんな時、部屋に引きこもってから開きっぱなしにしている窓から、何かが近づいてきた。それは人の形をしており顔から部屋に突っ込んできた。


痛い!という声を聞いてテベリスはゆっくりと起き上がりそれを心配そうに見る。それは、少年のように見えた。


「いててて・・・あーカッコつきませんね・・・まぁ、いいや。えーと、◯◯◯さん・・・ですよね?」

「・・・そう、だね」


画面の中のテベリスはそう答えた。それをテベリスは、顔を涙でぐじゃぐじゃにしながら見つめていた。


画面の中の少年は少し困ったように笑い、テベリスにゆっくりと近づいた。そして帽子を取って丁寧に頭を下げた。


「まずは、自己紹介を・・・僕の名前はエレンホス。貴女を必要とする、存在です」

「必要・・・?私が・・・?面白いことを言うね・・・今なら通報しないから早くかえっーーーー」

「通報なんてする気ないでしょう?」


エレンホスがそう言うと画面の中の少女はピクリと反応した。


「そう・・・だね。だから帰って・・・」

「うーん、そう言われても僕は貴女が欲しい・・・必要・・・じゃ、何をやったら僕のものとなってくれますか?」

「帰って。それでいい・・・」

「ふむ、なんという怠慢欲。ますます欲しくなってきた・・・」


クスクス笑いながらエレンホスは画面の中のテベリスの隣に座る。テベリスはうっとしく視線を向けた。


「貴女は、頑張ったせいでマヒロさんを傷つけた・・・と、思ってる。恨まれてる。と」

「そう・・・私は、マヒロちゃんに嫌われた・・・」

「誰から聞きました?そんなこと」

「・・・え?」

「だから、どこのだれがマヒロさんは貴女のことが嫌いと言ったのです?」

「・・・知らない。けど・・・誰だって恨むよ・・・」

「僕は、そう思いませんよ?」


そう言うと、エレンホスはテベリスを抱き寄せた。テベリスはどきりとしたようにエレンホスを見た。何故か、冷たくても暖かくもあり、久しぶりに人肌を感じた。だからか、目から涙がこぼれた。


「泣いてもいいんですよ?泣きたい時に泣くのが一番。僕の胸じゃ頼りないかもしませんが、このぐらいの胸ならいくらでも貸します。だから、仲間になりません?」


何故か、テベリスはエレンホスには心を許していいと思えた。この時は知らなかったが、それはエレンホスの欲が支配欲であるからだろう。


「・・・わかった。こんな私でも力になるなら、仲間になる」

「おお!それは嬉しい!では早速・・・」

「でも・・・一言いい?」


そう言うとエレンホスは首を可愛らしく傾げた。その動作を見て、テベリスはくすりと笑う。そして、ゆっくりと口を開いた。


「借りた胸は必ず返す・・・いつか私の胸で泣いていいよ?」


そう言うとエレンホスは、少しキョトンとした後大声で笑いだす。そしてテベリスに手をかざすとテベリスが光りだす。おそらく人間ではなくなるのだろうと、テベリスは本能的に感じ取った。しかし、恐怖はない。そして、ゆっくりと目を瞑る。


「ま、いつかかりますかね」


そんなエレンホスのつぶやきを最後に、映画は幕を下ろしていった。




映画と言えるかわからないが、とにかくその映画が終わった時、テベリスはすでに涙を流していなかった。胸の中に、一つの感情が湧きあがってきた。それは、マヒロをあんな目に合わせたため、意識的に封印していたある感情。自分の欲と相反するその感情。


「まだ、エレンホスに胸を貸してない・・・その為には、ここで終わるわけにはいかない。適度に、頑張る・・・それが、私ができる最大の、努力・・・それに、また暴走しても・・・」


テベリスはそう言うと同時に声が聞こえてきた。それは、自分が一番聞きたくて、一番安心する声。その声が、小さいが確実に耳に入ってくる。


「その時は・・・あなたが、また助けてくれるよね・・・悟・・・?」


テベリスは、その声が聞こえる方に手を伸ばす。その手は何もない空中をつかむ。が、そのつかんだところに、何かが見えてきた。それはだんだんと形をなし、それは、人の腕に見える。


テベリスはその手を強く握り、引っ張られるように上に上がっていった。テベリスの顔は、とても安らかな顔になっていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「・・・・・」

「・・・テ、テベリス・・・?大丈夫か・・・」

「・・・うん、私は大丈夫・・・でも、みんなは・・・?」


ディザイアの暴走からの救出。それを見事やってのけた、悟たち。が、五体満足とは言わず、アナザーは身体中に傷を負っており、ブルーは体の傷を治していた。


テベリスはちらりと悟の手を見る。それには一切血が付いてなかった。


テベリスはなんとなくその手を両手で優しく包むと、悟は驚いたような顔をするが、すぐにテベリスの手に視線を落とす。


「この手がね・・・私を暗闇から救ってくれたの・・・嬉しかった・・・」

「・・・照れくさいな・・・それに礼を言われることじゃない・・・だって・・・」

「だって・・・何?」


悟は恥ずかしそうに顔をそらし、テベリスはいたずらっ子のように微笑んでいた。それを傷を癒しながら、遠くで見ていたアナザー達がニヤニヤしながら見ていた。


「いやぁ、いいですなぁブルーさん」

「そうだねぇアナザーさん。私たちには及ばないけど、いい感じですなぁ〜」

「おい、私達ってなんだ。私達って!!」


そんないつも通りのやり取りをしている二人を尻目に、天使くんがふわふわと悟達の近くに来る。


「テベリス。お前は悟達の手によって、暴走から助け出された・・・で、だ。これからお前ばどうするんだ?」

「私は・・・」


どうするという質問に対して、テベリスはしばらく考えていた。胸に手を当てて、目をつむり。


悟は心配そうに見ていた。アナザー達も心配してか、近くに寄ってきた。いつの間にか、雪が舞い落ちてきていた。


そして、テベリスは意を決したように目を開け、口を開けた。


「エレンホスを助けたい。この胸を返す・・・その為に、あなた達に力を貸したい・・・いや、貸して欲しいの・・・ダメ、かな・・・?」

「もちろん、OKだよな・・・アナザー、ブルー・・・?」


悟は震える声でそうアナザー達に声をかける。アナザーとブルーは顔を合わせてにこりと笑う。


「もっちろん!こちらこそよろしくだ!テベリス!」

「そうだね。私ももともと敵だったし、あなたの仲間入りを反対することができないもん。むしろ、これからよろしく!!」


そう言いアナザーとブルーは手を差し出す。テベリスは少しも迷わずその手を握り、上下にブンブンと振る。その行動はまるで子供のように無邪気で無防備だった。


それを悟はとても安心した目で見ていた。これで、テベリスは死ぬ心配はない。そして安心したように目を瞑った。


そんな時だった。


パァン。と、何かが弾けるような音が、響いた。そして、何かがピチャリと体につく音も。それは、緑色だった。その液体が悟達の体につくと同時に、テベリスが青ざめた顔で前に倒れた。


「・・・は?おい、テベリス・・・?」


悟は間抜けな声でテベリスの名前を呼ぶ。ふと視線を上げると、テベリスの後ろに手品師の風貌の少年が立っていた。


「まったく。最期ぐらい働けと言ったでしょう。僕の手を煩わせないでください」

「エレンホス!!てめぇえぇええぇええ!!」


そこにいたのは涼しい顔をしたエレンホスだった。彼は手を前に差し出しており、そこから弾幕を発射しテベリスを射撃したのだ。


エレンホスはテベリスを見下したように見た後、まるで千鳥足のようにフラフラしながら、どこかに去って行った。


アナザー達は追いかけようとするが、それよりもテベリスの容態が気になった。テベリスは悟が抱えており、しきりに名前を呼びテベリスを呼び起そうとする。


だが、テベリスの体はだんだんと粒子となっていた。これはつまり、ディザイアにとっての『死』を意味した。


「おい!テベリス!死ぬな!頑張るって決めたんだろ!エレンホスを救うって決めたんだろ!死ぬな!死なないでくれ!」

「さと・・・る・・・わたし・・・もう・・・だめ・・・」

「だめとかいうな!絶対ーーー」


声を荒げる悟の口に、テベリスは白い指をそっと添えた。悟はそれをされると黙ってしまい、テベリスはそれを見て微笑み、今度はアナザー達の方を向いた。


「エレンホス・・・をね・・・助けて欲しい・・・私の、最後のお願い・・・聞いてくれ・・・る?」

「ああ・・・ああ・・・もちろんだ・・・テベリス・・・!」

「ふふ・・・泣かないの、アナザー。ブルー・・・」


アナザーとブルーは涙で震えながら、そこに立っていた。天使くんも顔には出せないが、泣いてるように見えた。テベリスは今度は悟の方を向き、悟の頬に手を添えた。そして


「・・・んっ・・・」


深い、キスをした。それは初めて見せたテベリスの愛情表現であった。それをされた悟は目に涙を溜めながらテベリスを見ていた。そして、消えていきながら、テベリスは口を開けた。


「悟・・・ありがとう・・・大・・・好き・・・」


それは、彼女が見せた初めての愛の言葉。悟はそれを聞いて、テベリスを強く抱きしめた。テベリスは優しく微笑んだ後、空に消えていった。そこに残ったのは、テベリスがつけていた枕のネックレスだけだった。


「俺も、大好きだ・・・!!」


悟は枕のネックレスを拾った後、空に消えていった粒子に声を投げた。


悟は、綺麗な手を空に突き上げる。あたりの雪はとても白かった。


続く・・・




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《次回予告!!》

「何が気に入らないんです?」

「提案があります!」

「宣言します」

「いっちょ、世界を守りますか」

第15話『嵐の前の静けさ』

お楽しみに!!



はい。お疲れ様でした。

今回の話は、テベリスさんと、悟君の悲恋物語の終わりでした。どうでしたか?きゅんきゅんしました?


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