第12話 堕ちる少女。上がる少女
なんか書くことが思いつかないから、今度からここに適当な一言でも載せようかな。
前回のあらすじ
はぁい!私千鶴!
前回は、私とあかねちゃんの友情がよくわかった話だったね!その後ようやくこの私があかねちゃんの仲間に!!
まぁ・・・仲間になるまでいろいろあったけど・・・あかねちゃん・・・死んじゃ嫌だよぉ・・・
「・・・ここは、どこだ・・・?」
黒髪の少女。西園寺あかねが目をこすりながら、上体を起こし周りを見渡す。確か、ブルーと戦い、自暴自棄になった千鶴を守ってそれから・・・
「あぁ、わかった・・・」
あかねはそう呟き、起こしていた上体をどさりと倒した。そして、青い空を見上げた。周りでは小鳥が鳴いており、花もたくさん咲いていた。まるでここは。
「天国・・・あたし、死んだのかな」
あかねは、自分の意識ではっきりと死んだことを認めた。少し悲しくなるが、途端にどうでもよくなる。なんせ、他人を守って死んだのだ。悔いはいっさいない。
ゴロンと寝返りを打ち、少し目を閉じた。疲れたからか、深い眠りに入りそうだった。
「おい!あかねにいちゃん!起きろって!」
そんな時、少年の声があかねの耳に入ってきた。あかねはうるさく感じ、文句を言おうとまた上体を起こす。瞼をこすりながら、その少年の顔を見ようとした。
「・・・なっ・・・!」
その少年の顔は見覚えがあった。一度守ると決めて、そして一度も守ることができなかった。その少年の名前は。
「し、翔・・・!?」
「なーに驚いた顔してんだよ!あかねにいちゃんはそんなに俺に会うのがサプライズに感じちゃうのか?」
「いや、だって、あんたはあの時死んだんじゃ・・・」
あかねは震える声で翔に声をかける。翔は少し暗い顔になるが、すぐにいつものような笑顔になり、あかねに語りだす。
「ああ、俺はもう死んだ。収集欲に食べられて・・・だから、ここは天国。死んだ人間がやってくる、最後の楽園にして・・・」
翔は一度言葉をためた。その時の翔の顔は年相応に見えず大人びていた。その顔を見てあかねはごくりと生唾を飲み込んだ。そして、ゆっくりと翔は口を開けた。
「・・・最期の、地獄」
「じご・・・く?」
天国とは正反対の単語をあかねは口の中で繰り返す。地獄。確かに彼はそういった。だが、周りの景色は到底地獄には見えなかった。
「ここは、俺たち人間や、ディザイア。そしてあかねにいちゃんのような魔法少女が、流れ着く、最高で最低な場所・・・って、俺は聞いた」
「聞いたってことは・・・誰かから聞いたんだな。それって誰だ?」
「・・・初老のおっさんだったな。そのおっさんから教えられた。意味は、その後おっさんが教えてくれた」
翔は目を強く瞑った。目から少し涙が溢れていて、あかねは少し迷った後頭をポンっと、優しく叩いた。
「・・・おっさんは、目の前で殺された・・・他でもない、天国に住んでる奴らにな・・・!!」
翔はそう言い、憎しみを込めた拳で地面を殴る。だが、あかねは少し戸惑っていた。殺された?しかも、天国・・・いや、多分ここは天界。とにかく、ここの住人に殺されたというのはいったい・・・?
「ここの奴らはな、俺たちのことは唯の、食料だと思ってやがる・・・多分おっさんも文字通り料理されて殺されたんだろな」
翔はもう涙を流してなく、顔を下に向けてただ、そう喋った。あかねはその言葉を聞いてさらに頭が混乱する。なぜか頭痛もしてきた。そう言えば、昔天使くんが言っていた気がする。
「所詮、家畜同然・・・?」
「あぁ、そんなこと言ってたな。抵抗していたおっさんに向かってあいつらはそういった・・・さて、そろそろ本題に入ろうか」
翔はそう言い、あかねの肩を強く押した。あかねは体のバランスを崩しておもわず地面に手をつける。だが
「はぁ!?」
地面に手はつかず、逆にズブズブと地面に沈んでいく。まるで泥水の中に手を突っ込んだような。
「あかねにいちゃんは死んだけど、まだ死んでない。兎に角、ここにいてはいけない人間なんだ。だから」
そして、翔は力強くあかねを地面に押し込んだ。あかねは翔の顔がとても暗いものに見えた。それを見たあかねははぁ、とため息をひとつつき、声を上げた
「翔!一つ言っといてやる!!」
「なんだ・・・あかねにいちゃん?」
あかねはもう顔しか見えなかったが、翔を見て、ニカッと笑った。
「あたしは!にいちゃんじゃねぇぞ!!」
その言葉は、翔が生きていた時によく聞いた言葉だった。翔はその時、この場所があかねとよく遊んだ公園にみえ、少し涙を流した。そしてその涙をぬぐった後、翔もニカッと笑い。
「わかったよ!!あかね姉ちゃん!!」
そう、何もいない地面に向かって叫んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どこかの裏路地に2人の子供が立っていた。が、なぜか2人から感じるオーラは子供のそれではなかった。そして、手品師のような少年が、ゴスロリの少女に語りかける。
「覚えてますか?ゼーンさん・・・」
「ん?なにをですか?エレンホス様」
ゼーンと呼ばれた少女は意味がわからないというように、エレンホスという少年の問いに答えた。エレンホスは、少し悲しそうな顔をして、壁に手をついた。
「ここは、マタル・・・僕の大切な仲間が死んだところ・・・なんですよね」
そうエレンホスは呟くが、ゼーンにとってはだからどうしたという話であった。確かに、死んだならそれはとても悲しいが、面識はないはず。だから、他人事のように聞き流せるてしまう
「それは・・・とても悲しいことですわね」
とりあえず、エレンホスの意見に同意した、ゼーン。しかし、これ以上いう言葉が見つからずに押し黙り、なんとなくウサギの人形を強く抱きしめる。
「ここで戦ったマタルは、1人の魔法少女の決死の覚悟の攻撃で、相打ちとなりました・・・」
エレンホスはそう言いながら、壁をペタペタ触り始めた。ゼーンはその光景を見てゴクリと生唾を飲み込んだ。
「恐らく、マタルも黒い魔法少女も最後に望んだことは・・・」
その時のエレンホスの瞳は、なぜか怒りの色に染まっていた。声のトーンも、通常では考えられないぐらい低くなっており、ゼーンは少し後ずさりをした。エレンホスはゼーンが怖がっていることを知ってかしらずか、ゼーンにどんどん近づいていき、それに従い、ゼーンも後ろに下がっていく。
「ところで、ゼーンさんは『奇跡』を信じてますか?たとえそれが・・・」
ドンっと、やがてゼーンは壁に背をつけ、エレンホスは後ろの壁に手をついていた。ゼーンは思わず尻餅をつき、震えた顔でエレンホスを見上げていた。
「たとえそれが、『作られた奇跡』だとしても・・・」
ゼーンはその時頭の中にたくさん『何か』が流れてきた気がした。その『何か』が頭の中を駆け巡るたびに、電流が走ったような錯覚に陥り、頭がクラクラしてきた。
「教えてあげましょうか・・・貴女の正体を・・・『作られた奇跡』である、貴女の正体を・・・」
「わたくしは・・・ウチは・・・俺は・・・?」
ゼーンは目がぐるぐる回り始めた。作られた奇跡。その言葉が頭の中をぐるぐる回り巡り、そして体の中にスッと消えていく。まるで、土に水がしみこんでいくように。
「貴女は僕の命令はなんでも聞いてくれますか・・・?」
「・・・はい・・・」
「それは良かった。では、早速一つ命令を・・・」
エレンホスはそう言いながらゼーンの唇に唇を重ねた。甘く、そして妖美な味にゼーンはただただ唇を重ねることにあらがえず、ただボーッとしてその行為が終わるのを待っていた。
やがてエレンホスは唇を離し、その唇を白い指で拭う。それはどこか美しく、神秘的であった。
「僕の為に、貴女のために、そして最後の駒のために、死んでください」
その言葉を聞いたゼーンはただ頷き、フラフラとした足取りでどこかに去っていく。その後ろ姿をエレンホスは少し悲しそうな瞳で睨みつけていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あかねはその日、自分の家のベッドで目を覚ました。なぜかひどく疲れていた。理由は恐らくブルーとの死闘。そして、先ほど見た天界の夢。
「んん〜あかねさん・・・」
「・・・あれ?美冬ちゃん?」
ふと視線を落とすと、サイドテールの少女。美冬がベッドに顔を伏せて寝ていた。よく見たらその隣に千鶴と天使くんがいた。よく見たら千鶴と美冬の目が赤く腫れていた。先ほどまで泣いていて、泣き疲れて寝てしまったのだろうか。
「おーい、みんな元気・・・あ、あかね!?」
「んー?あー、おはよう春樹」
ドアがガチャリと開いたと思ったらそこには、胸に『ガラパゴス』と書かれた深い緑のシャツを着ている少年。名前は小峠春樹。美冬の実の兄である。
「お、おま!?大丈夫なのか!!生きてるか死んでるかわかんねぇ状態だったんだぞ!!」
「ははは。大丈夫だよ。見ての通りピンピンしてるさ」
といいあかねは肩を回したり首を回したりして元気なのをアピールしていた。それを見ても春樹はまだ心配した顔であかねを見ていた。あかねは少しため息をついて春樹の方に歩み寄った。
「ほれ、熱もねぇだろ?大丈夫だって」
「ちょっ、おま!近い!近いって!!」
あかねは春樹の額に自分の額をつけた。春樹が妙に慌てるの意味があかねはよくわからなくて、少し首をかしげる。
「っーーー!!とにかく!お前はしばらく安静にしろ!!」
「おわ、あぶ・・・」
春樹は恥ずかしさのあまりあかねをベットに突き飛ばそうとする。が、あかねも日頃の戦いで癖がついたのかはわからないが、倒れまいとして春樹の腕をつかんだ。まさか掴まれるとは思ってない春樹はバランスを崩し・・・
ドスン。と、2人同時に倒れこむ。あかねは下に、春樹は上という形に。その姿はまるでよく恋愛漫画などで描かれる、男性が女性をベッドの上に押し倒すような風に見えた。
「あーすまん、春樹、どいてくれないか?」
「す、すまん!!すぐにどく!すぐにどくから訴えないで!!」
そう言いながら、春樹は慌ててあかねから飛び退く。あまりにも慌てすぎて壁に頭をぶつけてしまい、痛そうに頭をさする。
「おいおい、あたしは確かに可愛くないけど、そんなに慌てるほど嫌だったのか?」
「い、いや!そうじゃない!むしろ・・・あー!違う!いや違わない!!」
「お、落ち着け春樹・・・」
あかねは頭をかきながら春樹に手を差し出した。春樹は少し慌てるが、気分を落ち着かせてその手を握り立ち上がった。
「おやおやぁ?お熱いですなぁおふたがた」
「っあ!?ち、千鶴おきてたのか!!」
2人の光景を先ほどから見ていた千鶴がニヤニヤした目で2人を見ていた。春樹は頭を抱え、あかねは少し困惑した顔になった。そしてあかねは少し嫌な予感がした。
「ふっふっふ!でもね小峠くん、残念ながらあかねちゃんの正妻はこの私!池内千鶴なのだー!!」
といったかと思うと千鶴はあかねに飛びかかる。あかねは避けることができず、千鶴に抱きつかれてそのまままた後ろに倒れてしまう。
「あだっ!!は、離れろ千鶴!!」
「いーやーだー!あかねちゃんは私の婿となるのだー!!」
ワーワー騒いでる春樹を少し羨ましい目で見つめていた。この前デパートのときは、なんとなく抱きつけたが、なんだかこの2人の間には入ることができなかった。
「そういや・・・」
ふと、春樹はある人物の事を思い出す。ここにいない1人の友人。確か電話で連絡をしたはずだが・・・
「遅いなぁ、悟・・・どこにいってんだろ」
そんなことを考えながら、春樹は2人の少女が騒いでるのを少し微笑みながら見ていた。
だが、先ほどまで騒いでいたあかねがいきなり黙り、窓のそばを睨みつけた。すると、千鶴もゆっくり立ち上がり窓をいきなり開けた。
「なんのようですか?ゼーンさん」
そこにいたのはゴスロリ姿の幼女。ゼーンだった。空を飛びながら窓の外からあかねたちをじっと睨みつけていた。
「・・・ウ・・・わたくし、アナザー様に用がありますの。まぁ、俗に言う・・・決闘。を申しいれに・・・あー裏切り者のブルー様にも申し入れますわ」
ゼーンは淡々と2人の魔法少女にそう伝え、どこかにふわふわと下に降りて行った。窓から下を見ると、玄関の前に立っておりついてこいと言ってるようであった。
「・・・どうする?あかねちゃん。ついていく?」
「なーにいってんだ。向こうから来てくれたんだ。丁度いいじゃねぇか」
そう言い、あかねと千鶴はドアから出て行き、アパートの階段を降りて行った。彼女たちの背中を見ていた春樹は何故か少し不安なようなものを感じた。
「んん・・・あれ?あかねさんたちは?」
「なっ!?ディザイアの気配!?ど、どこだ!?」
すると、美冬と天使くんが目を覚ました。春樹は簡単に今さっき起こったことを説明して、2人にこういった。
「なんか、嫌な予感がするんだ。一緒についてきてくれないか?」
春樹はそう言い、あかねたちを追いかけて外に出て行った。天使くんと美冬は顔を見合わせた後、春樹の後を追いかけた。春樹は今胸にある悪い予感が当たらないことを祈りながらただ、二人を追いかけた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゼーンは考える。自分はなんのために生きているのか。なぜ、生きているのか。
生存欲として生まれたからは、生きていきたい。しかし、彼女はこの世に生を受けてまだ一月も経ってなかった。まだ、欲として完全に自立してないため、他の欲がある。
エレンホスに愛されたい。そういう欲である。なぜ、エレンホスのことをこんなに好きなのか。初めて会う前から好きだった。そもそも名前を知っていたのは、自分が作られた奇跡だからか。
そんなことを考えてたら、目の前に大きな広場が見えた。ここはゼーンが作った異次元空間。ここで、ゼーンとアナザー。そしてブルーが死力を尽くし戦う。結末はもう決まってるのだが。
しかし、おかしい。なぜ、生存欲の自分が死にに行くのか。でも、それはエレンホスが望んでいることと、言い聞かせる。
「それでは、準備はよろしいですか・・・?」
そうアナザーたちに確認する。見ずにもわかる、彼女たちはもうすでに変身して戦う準備をしていることを。それを考えたら、確認を取るというのは野暮かもしれない。いや、野暮か。
ゼーンはそう自問自答しため息をつく。そして片目が潰れているウサギの人形を巨大化させその上に乗る。戦いの準備が整った合図であった。
ふと前を見ると、やはり二人は変身しておりすでに戦う準備を整いていた。それを見て少し悲しい目になる。でも、戦わないといけない。それが『わたくしが愛した人が望むこと』ならば
「あなたが望むことなら、死にましょう・・・」
そう呟いたゼーンの瞳は悲しく、青く光っていた
「いくぞ!ブルー!!」
「OK!アナザーちゃん!!」
二人は目の前の巨大なウサギの壁に臆することなく、前方に向かって駆け出す。目の前のウサギの人形は、アナザーに向かってこぶしを振り下ろした!!アナザーはそれを見た後、右にステップして避ける。そのウサギの拳は地面に衝突し、地面のかけらを多く巻き上げる。アナザーは地面に刺さったウサギの人形の右腕を狙い、魔力を込めた右手で殴り飛ばす!!
ドゴン!と大きな音がなり、ウサギの人形が大きく後ろに仰け反る。それを待ってましたと言わんばかりにブルーが傷がついた右腕の周りにしゃぼんをまとまりつかせ、一斉に爆発させた!それによりウサギの人形の右腕が吹き飛ばされた。
「・・・っ!なんだ、頭がいてぇ・・・?」
「どうしたの?アナザーちゃん」
アナザーは吹き飛んだ右腕を見て頭を抱える。頭痛がしてきた。まるで、テスト中に答えが出てきそうで出てこない・・・そんなモヤモヤがアナザーの頭を包んでいた。
だが、今はそんなことを考えても仕方ない。アナザーは目の前の敵に意識を集中する。
「あの時と手は逆だけど・・・仕方ありません・・・ね!!」
ゼーンはそう言い、アナザーたちに向かって突っ込んでいく。大きく地面を踏み鳴らし、まるで餌を求める猛獣のように、加速していく。アナザーは思わず距離を取る。それでも間に合わず、腹に左手の一撃を受ける。
「アナザーちゃん!?この、ゼーン!!離れなさい!」
ブルーが数多くのしゃぼんを飛ばす。それを見た、ウサギの人形はその巨体に似合わず俊敏に動き回り、全てのしゃぼんを退ける。
そして、ゼーンはクイっと顎を上にあげる。その合図を見て、人形は空に大きく飛び上がりアナザーの首を掴みながら地面に叩きつける!!
「がああぁぁぁああッ!?」
アナザーは思わずそう叫ぶ。口から何か出そうになるが、それと同時に何かを思い出していた。前にも、あったような気がしていた。しかし、なんでこんなに冷静なんだろう。いくらなんでも戦いに慣れすぎてるだろう。
「だ、大丈夫!?アナザーちゃん!!」
「ぐっ、はぁ・・・だ、大丈夫だ、まだまだいける・・・!」
アナザーは震える体に鞭を打ち、立ち上がる。ブルーは少しその体を見て目を見開くが、すぐにゼーンの方を見る。そのゼーンは獰猛で静寂な猛獣のようにゆっくり近いてくる。
「しかし、少しきついかもな・・・つーわけだ、さっさと決めるぞ!!」
そう言うと、アナザーは一気にゼーンに近づいた!ブルーはそれを見た後、周りにしゃぼんを展開してアナザーを援護する。
「・・・これが運命でしょうか・・・」
「何を・・・言ってやがる!!」
いつの間にか、ウサギ人形の懐に潜り込んでいたアナザーか人形に向かってこぶしを連続で突き出す。
「マジカル☆ガトリング!!」
ドガガガ!と連続で爆発音が響き、ウサギの人形が吹き飛ばされる。上に乗っていたゼーンは手を離し、一度その場から離れるが、アナザーの方をみると、手を突き出し黒い弾丸をアナザーに飛ばす!アナザーは片手でそれを払い、ゼーンに向かって飛びかかる。その時も少し頭に何かが響いていた。もうすぐで何か思い出せそうだった。
「マジカル☆インパクト!!」
そう叫びアナザーはゼーンの顔を狙い全力で拳を突き出す。ゼーンはその拳を見た後目を大きく見開く。その時の目は何か見たことがある。忘れてはならない。そんな目だった。
「うそ・・・つき・・・」
「・・・え・・・・?」
ゼーンがそうつぶやく声を聴き直すのと、ゼーンにアナザーの攻撃が当たり、大きく吹き飛ばされて消えていくのと、アナザーの頭に嘘つきという言葉の意味を理解しようとするのが同時に行われた。
消えていくゼーンを見ながらアナザーは青ざめた目でゼーンを見て、おぼつかない足取りでゼーンに近づき急に膝ををつく。そのまま虚ろな目でゼーンを見つめて、口を開けた。
「師匠・・・?」
アナザーはただ何もない空間をただ虚ろな目で見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい・・・これはどういう状況だ・・・?」
アナザーがゼーンにとどめを刺したその後すぐに、春樹たちが途中で悟を拾ってやってきた。今のこの場は、アナザーがただ虚ろな目で立っていて、ブルーがそれをなだめているという状況だった。
「おおー!流石ゼーンさん。要望通り死んでくれましたね」
後ろから楽しそうな声が聞こえたと思うと、いつの間にか目の前に少年が立っていた。先程まで後ろにいた筈。
「おや、春樹さんたちお久しぶりです。僕ですよ、エレンホスです」
そう言いエレンホスは礼儀正しく帽子を取り頭をさげる。思わず春樹は頭を下げてしまい、美冬達に白い目を向けられてしまった。
「・・・ほう、あなたが・・・」
「な、なんだ?俺に何か用か?」
エレンホスと悟の視線があい、思わず悟はうわ付いた声でそうエレンホスに言う。エレンホスは取り付くったように笑顔になり、帽子をかぶった。
「いいえ、なんでも・・・さて、この状況の説明。聞きたいですか?」
その質問に春樹たちは頷くしかなく、それを見たエレンホスがさっきより笑顔になるのも仕方なかった。
「さて、あなた達は『黒い魔法少女』のこと、覚えていますか?」
「黒い魔法少女・・・?いや、知りません、よね?天使くん」
「・・・あぁ、知らん」
その答えを聞いたエレンホスは呆れたように首を振り、アナザーの方へ歩いて行く。
「少し前!黒い魔法少女と僕らの仲間のマタルが死闘を繰り広げ、そしてお互いに死んでしまいました!ですが!!」
エレンホスはブルーの横を通り、アナザーを見下ろす。アナザーはしきりに何かをつぶやいてるように見え、それを見たエレンホスは満足そうに微笑んだ。
「ですが!!でーすーが!!二人は最後に!!『まだ生きたい、生き続けたい』こう望んだことでしょう!!その願いを・・・か、神様が!叶えてくれました!!奇跡を作ったんです!」
「あな、あなたは何を言ってるの!!アナザーちゃん耳塞いで!」
エレンホスが喋るのをブルーが声あげて遮る。それを見たエレンホスはブルーを軽く睨み、アナザーの耳元に口を近づける。
「マタルの『器』に黒い魔法少女の『欲』が、奇跡的に入って生まれたのが、ゼーンなんですよ・・・それをあなたは・・・」
「あたしは、それをあたしは・・・」
アナザーはゆっくりと立ち上がり、顔に手をつけた。その表情はよく見えないが、泣いてるようにも見えず、笑ってるようにも見えず、例えるなら『無』であった。
「あなたは、自らの手で師匠を殺したんですよ・・・」
その言葉を聞いたとき、アナザーは少し笑ったように見えた。すると、彼女の周りが突然光始める。あまりにも眩しくブルーはおもわず距離をとる。
「あたしは、師匠を・・・〇〇さんを殺したのか・・・名前も覚えてないけど、殺しちゃったんだ・・・ははっ、守るはずが、殺したのか・・・」
その言うと、ピシッと何かが割れるような音が聞こえた。すると光が突然強くなった。
「もう、どうでもいいや」
そうアナザーが呟くと光が爆発したように広がり、あたりを光で包んだ。その光が収まったとき、彼女は立っていた。それを見たエレンホスは近づいていき彼女に聞いた。
「あなたの名前はなんですか?」
そんな簡単な質問。しかし彼女はしばらく悩んだ後、エレンホスに笑いかけこう声を出した。
「それじゃ、改めて自己紹介しまーす!!私の名前はアミナ!!あたしのぉ・・・」
ここで一度アミナを声を切った。まるで周りの反応を楽しんでるように周りを見渡して、春樹達の顔を満足そうに見る。一通り見た後右手を腰に当て左手を差し上げた。
「あたしの欲!『防護欲』のアミナ!!簡単に言うなら、ディザイアでーす!!」
まるでドン!と後ろに文字が書かれてもいいぐらいの大声でそう言ったアミナ。とても満足そう
「デ、ディザイアって・・・でもどうして・・・?」
ブルーが当然の疑問を震えた声で聞く。それを聞いたアミナは少し悩んだ後口を開けた。
「どうしてって聞かれても!これが運命?宿命?諸葛孔明?あたしはこうなる運命だったのだ!!ま、あたしも人間だから、欲の一つや二つ持つし・・・それに、変だと思わなかった?」
「へ、変って・・・?」
突然、アミナが神妙な顔をしてブルー達に質問をしてきた。ブルー達は互いに顔を見合わせ、みんな目で見当がつかないと言っていた。
アミナはいきなり手をパンと叩いた。その音にびくりとブルー達は反応し、アミナに視線を向ける。
「だってぇ、あたしってただの女子高生ですよ?それなのに、自爆したり、腕切られたり、食べられたり・・・たはー!!壮絶すぎますぅ!マニアックすぎますぅ!マニアックなエロ本の内容ですかこのやろー!!」
アミナはそういった。ただの女子高生・・・確かにあかねはただの女子高生だった。いや、もしかしたら。
「つまりあたしはただの女子高生から変わってない。私の力のおかげで、痛みも和らいでたんですよぉ?そこらへんでおかしいと気づきましょうよぉ〜アミナさん泣いちゃいますよぉ〜」
彼女は変わらずにただの女子高生なのだ。
「因みにいつからディザイアが入ってたという質問に対しては、僕がアナザーさんを支配しようとしたときですよ。先に答えておきますけどね」
エレンホスがそう言うと同時に、ブルーが刃のようなしゃぼんを無数に飛ばしたのは同時であった。だが、それを見たエレンホスは余裕の表情を崩さなかった。
ドゴン!!
その顔に向かってしゃぼんが向かっていき、大きな爆発を起こす。あたり一面は煙に包まれて、ブルーはそれを肩で息をしながら見ていた。
「・・・くすっ、くすくす!あっははははは!!」
突然笑え声が聞こえてきた。ブルーがビクリと身体を反応させる。どうやら少しおびえてるようだ。それもそのはず、さっきから聞こえるその笑い声はだんだんと不快で狂気で恐ろしいものになっていく。
煙がはれたとき、そこにいたのは何かとエレンホスだった。その何かは顔がないのに笑っていた。
「いやぁ、私は防護欲ですよ?エレンホスさんを守るためならたとえ肉体の半分がなくなっても安いものです!それがあたしの欲ですからねぇ!」
どこから声が出てきてるかわからないが、アミナは確かに生きて確かにブルー達に声をかけた。その声は狂気的な人間と正常な判断をした人間の声を足して2で割ったような声だった。
「ですが、目覚めたばかりで疲れまちた!エレンホスしゃん!おうち帰りましょ!」
「ふふっ、いいでしょう。もともと僕は貴女だけが欲しかった。目的は達成したものですからね。一度アジトに帰りましょう」
「うん!エレンホスしゃんは話がわかりましゅね!ところでわたちあちが痛いのでおぶってもらえたらうれちいのでちゅが!」
「はいはい、まずはお家に帰りまちゅよぉ〜・・・それではみなさん、ごきげんよう」
エレンホスはおぶってくれとせがむアミナをなだめながら、闇の中に消えていった。そこに残ったのはブルーと春樹達。やはり、どこにもあかねの姿はなかった。あるのは喪失感と、あかねの変化に気づかなかった己への怒り。
あかねはこんなにも苦しんでいた。誰かを守るために与えられた力を存分に使ったが、その度に肉体と精神を削られる。それでも立ち上がる。それは彼女だからか、それともアミナだからか。今となっては誰もわからない。
「・・・みなさん!」
そんな中、一人の少女が声を上げた。その声のぬしを皆は顔を向けてみる。声をあげたのは小峠美冬。
「みなさん、何を悩んでいるのです?あかねさんが敵になったかもしれません。ですが、それがなんだというのですか?」
美冬はそう力強く皆に声をかける。美冬以外の者はお互いに顔を見合わせる。みんな、美冬が次になんというか予測ができた。それを、周りを見渡した美冬は確認し、満足そうに笑った後、人差し指を天に突き出した。
「次はボク達があかねさんを守りましょう。そして、エレンホスにギャフンと言わせてやりましょう!!」
その声を聞いた後みんな頷きあい、美冬と同じように人差し指を天に向けて突き出した。
ここに、力ないもの達が力ないものに対して今までの恩返しをしようとしていた。
つづく・・・
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《次回予告》
「人を守るのは大変だ。けれどあたしが身を削れば、少なくとも手が届く範囲の人間は守れる。それでいいじゃんか。それだけで十分なんだ。だから、人を殺してしまったあたしの代わりに私が戦うんだ。それが、幸せになる方法なんだ。だから・・・」
第13話『三つ目の覚悟』
お楽しみに
終わりです。お疲れ様でした。あと書きもなんか書くものが思いつきません。




