第11話 一羽の鶴が飛び立つ時
ここに何を書くかは、悩みますね。とりあえず寒いです
前回のあらすじ
どうも。わたくしゼーンと申します。
前回、わたくし達は美冬様を人質にとりあかね様と戦いました。まぁ、わたくしはまけ・・・戦略的撤退をして、エレンホス様に救助を申し入れました。
そして、戦いの最中エレンホス様は何を思ったが、ブルー様にこうげきをし、その結果ブルー様の正体がとうとうばれてしまうのでした
美冬は今の状況が理解できてなかった。いや、理解したくないというのが正しいか。敵だと思ってた魔法少女の正体が、池内千鶴というよく知る人物であるのと、その千鶴がエレンホスの言葉を信じ、あかねと本気で戦っていた。
「なんで、こうなったんです・・・?何故戦うのです?」
そう近くにいる球体の生物天使くんに尋ねる。天使くんはただ2人の戦いを睨みつけてみているだけで、何も答えなかった。
ドゴン!!
大きな音が聞こえたかと思うとあかね。いや、アナザーがいたところが爆発を起こしていた。その時、下着姿の美冬は寒気を感じた。肌寒いではなく、ただ単に恐怖で。
「ボクは、何ができるのでしょう?こんな、状況を打破できるなら、ボクは何でも・・・」
「ふざけたことを言うなよ、美冬」
天使くんは、冷たくそう言い放つ。そんな天使くんを美冬を見上げてみる。冷たく言ったが、雰囲気は何か怒りで震えてるようにみえた。
「お前がここで契約するとか言い出しても、俺は契約をしない。それはあかねが望んでないことだから。もしお前があかねを大切に思うなら・・・」
そして天使くんはその小さな黒い目を瞑った。美冬もしばらくした後に目を閉じる。暗闇になっても激しい戦闘の音は良く聞こえた。が、なぜか先ほどより怖くはなかった。
「目を瞑りそして祈れ。この目を開けた時に広がるのがハッピーエンドであることを」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「わたしは、ひつようとされたの」
「ぐっ!落ち着け!元に戻れ千鶴!!」
今、アナザーとブルーという2人の魔法少女が争っていた。ブルーが杖を振るとそれを片手で受け止めもう片方の手で、ブルーを攻撃しようとするが、ブルーはそれを体を捻り避ける。
「くすくす・・・元に戻れ、ですか・・・」
「なにが、おかしい!エレンホス!!」
アナザーとブルーが戦う姿を、エレンホスは遠くでくすくす笑いながら見ている。それに気づいたアナザーは文句の声を上げる。
「いや・・・さて、アナザーさん質問です。アナザーさんは『自分が絶対と正しいと思い機械を破壊した人に直せと言っても直す』と思いますか?」
「な、つまりよ、千鶴は・・・自分から進んでこうなったから、元に戻らない、っていいたいの、か!」
「イグザクトリー!!(その通りでございます)正解です、アナザーさん!」
アナザーはちらりとブルーの顔を見る。服装と同じように、いやそれ以上に顔を青く染めており、そして目には光がなく、どこを見てるかわからなかった。だが。
「わたしは、ひつようなの。ひつようとされてくれるの・・・」
何故か、笑っていた。まさに今自分がしてることは絶対に正しく、エレンホスのために動くのが幸せと言ってるようにみえた。
そこまでエレンホスに入れ込んでしまうのは、彼の力ゆえか。支配欲。それが彼の欲だった気がする。その恐ろしさが今身をもって教えられていた。
アナザーは一度距離をとり、周りを見渡す。下の方では美冬たちがこちらを見て何か話しているのが見え、彼女達が無事であるのを確認でき一先ずは安心だった。そして今度は顔をブルーに向ける。
「・・・!?」
その時周りの異変に気付いた。アナザーが目の前にいたのだ。いや、前にも横にも無数にいた。が、逆さになっていたり、広がっていたり・・・まるで
「しんで・・・バブルワールド・・・」
そうブルーが呟くと同時に、周りのシャボン玉が一気に破裂し、大きな爆発を巻き起こした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さーつーきーちゃん!」
「ちーづーるーちゃん!」
小さな少女2人が飛びついて抱きついていた。その姿は仲睦まじく、とても可愛らしかった。
周りに血の海が広がっているのを除いては。
彼女たちは魔法少女。マジックブルーというのと、マジシャンレッド。2人は今は11歳ほどだが、この戦いに身を投じてもう2年ぐらい経っていた。つまりは、もう血とかに慣れていた。それだけの簡単な話であった。
「ねぇ、サツキちゃん!一緒に帰ろ!」
「うん千鶴ちゃん!一緒に帰ってお風呂にでも入る?」
2人はそんな会話をしながら、その血だまりがあった場所からトコトコと去って行った。
千鶴は今考える。わたしなんて恵まれてるのだろうと。サツキはボーイッシュな感じだが、そこが良い。全てが可愛い。何もかもが可愛い。
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。
自分でもおかしいとは思う。同性の相手をここまで好きになるなんて、多分変だ。
でも、そんなことを忘れるほどの可愛さを彼女は持っていた。だから表には出さないが、ここまで可愛いと言える。
「うふふ」
「んー?千鶴ちゃんどうして笑ってるの?かわいいけどー!」
千鶴は自分が笑っているのに気づいて口を押さえる。そしてなんでもないというようにニコリと笑う。
そしてニコニコ談笑しつつ、2人はお風呂に入り、そして同じベッドで深い眠りにつく。それが日常であり、普通であり、当たり前の光景だった。
サツキは千鶴の家に泊まりに来てる。なんでも両親が遠くに旅行に行ったらしい。サツキは寂しそうな顔をしているが、不謹慎なことに千鶴はいつも会えるのでとても嬉しかった。因みに千鶴の両親は両方遅くまで仕事をしてるため、滅多に家にいない。
2人は静かな眠りに落ちていく。とても気持ちいい眠りだった。
数匹の鳥がチュンチュンと鳴いてる声で千鶴たちは目をさます。大きくあくびと伸びをし今日1日分の行動をするエネルギーをためる。
「おはよう、サツキちゃん。ご飯はなんにする?」
「うーん・・・ハムエッグ食べたい・・・」
そうサツキがぼそぼそ呟く声を聞き千鶴はご飯を作りにキッチンに向かう。そのあとすぐに香ばしい匂いが。香ばしすぎてまるで焦げてるような匂いが・・・
「はっ!?そうだ、千鶴ちゃん料理大の苦手だったんた!!」
バッと、布団から飛び出て一気にキッチンまで行く。するとやはりというべきか、そこにあったのは黒く焦げた卵とハムであろうものだった。
「うぇ〜ん・・・サツキちゃん失敗しちゃったよぉ〜・・・」
千鶴は泣きそうな顔でサツキをみる。いや、もう泣いてるかもしれない。それを見たサツキは少し息を吐き、サツキの頭をポンと叩き、優しく微笑む。
「大丈夫。失敗したら2人でまた作り直そう?それが私たちだから」
「サツキちゃん・・・!」
サツキに頭を撫でられ心臓がドクンドクンと加速する。そして顔も赤くなる。それを気づかれないようにと、千鶴はサツキに抱きつく。
サツキも少し驚いたが、すぐにまたニコリと笑い同じように強く抱きしめる。千鶴はそれはとても嬉しく、そして叶わぬ恋と知ってるためとても悲しくなった。
そして、2人で作ったハムエッグをパクリと口にほおばる。少し食べたあとは、卵の黄身をつぶしたあと少し白身とハムを一緒に食べる。これが俗に言うほっぺたが落ちそうになる味というやつなのか。
「・・・ねぇ、千鶴ちゃん」
サツキはハムエッグを全て食べたあと、千鶴にそう声をかける。その声をその声を聞いた千鶴はこくりと頷く。彼女は理解した。
ディザイアが現れたのだ。
魔法少女はディザイアがどこにいるか大体のところはわかる。魔力がないとわからないらしいが、まさかそこまで魔力がない魔法少女がいるわけない。もしいたら、それはものすごく小さな魔法少女であろう。
「よし、行こうサツキちゃん!!」
そして2人は朝の日差しを浴びながら外に駆け出す。その姿を二羽の鳥が上から見下ろしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(なんで、今頃この記憶を思い出してるのかなぁ)
ブルーは爆発したところをじーっと見ながら、そんなことを考えていた。あのとき考えた弱い魔法少女を今、殺しにかかってる。普通に考えれば、千鶴が悪だ。
だが、千鶴は今してる行動は絶対に正しいと言う思いがあった。その思いに『正義』も『悪』も関係ない。なんせ・・・
「わたしは、ひつようとされてるもんね・・・」
「ええ、僕はあなたのことはとても必要としてます。ですから、ちゃんと活躍してくださいね?」
エレンホスはそう無表情で千鶴に言う。千鶴は先ほどから変わらず、爆発の煙がはれていくのを見つめていただけだった。
「・・・ほぅ」
エレンホスは少し興味があるような声を出す。その煙がはれた時、そこにいたのは体がボロボロになっているアナザーが肩で息をしながら立っていた。
「・・・戦わないと・・・」
アナザーは一旦声を止めブルーの方を見上げる。ブルーは光がない目でアナザーを見つめていた。まるで、機械人形のような瞳だった。その瞳をアナザーは見たくなかった。
「戦わないといけないのかよ!!」
だからこそ、アナザーはそう叫んだ。自分の考えを消すように。今の出来事は夢だから覚めろというように。が、その夢は覚めず、現実だけが流れる。
ブルーは少しの迷いを見せず、アナザーの方に一気にかけだす。アナザーはその場から動かず攻撃が来るのを待っていた。そのアナザーの頭をめがけてブルーは杖を振り下ろす!
アナザーは右手を上げて、その攻撃を受け止める。右手に鋭い痛みが走しり、アナザーは思わず顔をしかめる。ブルーは杖を少し浮かせて、右手と杖の間にしゃぼんを出す。それをとっさに飛んで逃げようとするが、それより早く大きな爆発を起こし、アナザーは吹き飛ばされる。
体を地面に何度も強く打ちつけながら転がり、その勢いは壁に当たるまで続いた。ゴホッゴホッと咳き込み、口から血を吐き出す。目が霞んでよく見えないが、その血はなぜか少し緑色に見え、本格的にやばいと悟る。
震える足で立ち上がり、息を整えるが、それを邪魔するようにブルーが突っ込んでくる。さっきより全く迷いがなく、アナザーは右に大きく飛ぶことで避けることしかできなかった。
さっきまでアナザーがいたところに杖が当たり、先ほどより大きな爆発を起こした。もし自分がいたらと考えるとゾッとする。衝撃で起きた煙を突き破るようにブルーがまた近づいてくる。
アナザーは今度は避けることができず、敵の攻撃を必要最低限の力で受けながす。
「なんで、戦うんだよ!!
「だってひつようにされてるもん。しかたないよ」
ブルーは先ほどの同じような顔をしてアナザーの質問に答えると、力強く杖を振り回す。
ブン!と、風を切る音が周りに何度も響きアナザーはそれを致命傷にならないように受け流したり、避けることに集中していた。いつか、チャンスが来るはず。その時を獣のように耐えて、待つのみ・・・
「!?しまっ・・・」
だが、避け続けたら、いつかは当たるもの。アナザーの幼い腹に杖の一突きが深く食い込む。アナザーが口から血や唾を吐き出す。それを見たブルーは杖をふるい連撃をあたえる。柔らかい肉に当たり、何度も骨が折れるような音が響く。
そして、アナザーの顔を思いっきり叩き殴られる。ぐちゃりと嫌な音が聞こえたかと思うと、アナザーは地面に衝突する。ブルーは杖についた鮮血を見て少し顔を歪ませるが、アナザーに攻撃をしようと、杖を持ち急降下する。
「ぐあああぁぁぁああッ!!」
煙がまってるのに、正確にアナザーの腹に杖を突き刺す。口から体の中のものを全部出すような錯覚に陥り、目の前が真っ暗になる。だが、意識が消えていくのは、一つの声にかき消される。
「いやぁ!!血!血ぃ!?!?」
アナザーの半分つぶれた頭を見たブルーは顔を青ざめ、叫び声を上げた。ブルーは両手で頭を抱え、地面に倒れこむ。涙を流し、嗚咽を漏らし、ガタガタと震えていた。
「あー・・・成る程。アミナさんとの戦いで、潰れた頭がトラウマになったみたいですね・・・やはり、人間というのは脆い生き物ですね・・・」
エレンホスはやれやれというように頭を振った。アナザーは頭をまず再生させ、ブルーを抱き寄せる。それでもブルーは泣き止まない。
「わた、わたしはぁ・・・わたしはぁ!!!」
「落ち着け!!千鶴!!」
「わだじはぁぁぁ!!ひづようどざれるのぉ!!!びづよゔして!!わだじを!!もとめて!!ひつようとして!!!」
そう叫びながら、ブルーは周りにしゃぼんをばらまく。アナザーは一度遠くに飛び、周りを見る。そのばらまかれたしゃぼんは形を変え、球体から鋭い刃物の形になった。その鋭いしゃぼんは一斉にアナザーを狙い突っ込んでくる!
アナザーは右手でなぎ払おうとするが、それは弾かれず、逆に深々とアナザーの右腕に突き刺さる。そして、右腕に半分ほど刺さった時。
パァン!!
大きな破裂音がして、右腕が吹き飛ばされる。アナザーは苦痛で顔を歪め、あのしゃぼんには触れてはいけないと察する。が、しゃぼんは無数にあることに気づき、冷や汗をたらりと流す。
「すごいすごいですブルーさん。僕は必要としてますから頑張ってください」
エレンホスはあくびをしながらそうブルーに言う。ブルーは涙を流しながらも、ニタリと口を曲げ、嬉しそうに大声で笑い始めた。
「ひつようとされてる!!わたしはもとめられてるの!!!」
「千鶴!!騙されるな!!エレンホスはあんたのことは・・・」
「うるさぁい!!」
アナザーが喋るのを大声で遮ったブルー。すると、しばらく静寂に包まれた。それを壊したのはブルーの笑い声。肩を震わせ、笑い始める。が、すぐにピタリとととめ、今度は大声で泣き始める。
「あなたに!あなたになにがわかるの!?つねにひつようとされてるあなたとはちがうの!!わたしは!!わたしは!!!」
そして、ブルーは強く目を瞑る。その時の衝撃で涙が弾け飛ぶ。ヒクッヒクッと、嗚咽を漏らしている彼女は、捨てられるのを極端に怖がる子供のそれだった。そして、口を大きく開けて叫んだ。
「だれでもいいがらぁ!!びづようどざれたいのぉ!!!」
その叫び声がこだまする中、ナイフのようなしゃぼんが一斉にアナザーの体を串刺しにして、大きな爆発を起こしたのは同じタイミングだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここにディザイアがいるんだね?サツキちゃん!!」
「そうだよ千鶴ちゃん。早く倒して、昨日みたいに一緒に寝ようね!」
2人の小さな魔法少女は、裏路地に来ていた。この奥にディザイがいるらしい。確かに先ほどから血生臭い匂いが漂ってきていた。
しばらく歩いて行くと、ぐにゃっと何か柔らかいものを踏みつけた。千鶴は少しキャッと、声を上げる。その柔らかいものをサツキは持ち上げる。
「なんだぁ、ただの人間の死体じゃない。そんなに驚かないでよ」
それは確かに人間の身体がぐちゃぐちゃに潰されたものだった。それをただのと言い切るサツキを千鶴はキラキラした目で見ていた。それほどまでに彼女たちは人の死体を見るのに慣れていた。
それより気になったのはその死体の近くに落ちていた10円玉。千鶴は少し気にするが、どうでもいいかと思い、そのまま道を歩いて行く。
「・・・ん?なんか、音楽が聞こえない・・・?」
そうサツキが言うと、確かに音楽が聞こえてきた。どこかで聞いたことがある。確か名前は・・・
「歓喜の歌。ですよ、お嬢さん達」
突然隣から声が聞こえ、千鶴とサツキはバッと隣を見る。そこにいたのは手品師の風貌の中性的な顔立ちをした少年。
「んあ?そいつらは観客か?それとも・・・俺に曲を聞かせにきてくれたのか?」
今度は道の奥からいかつい男性の声が聞こえた。左目が潰れていたその男性はイヤホンから音楽を流しながら歩いてきた。彼から溢れる殺気に千鶴たちは身構える。おそらく彼らが・・・
「あぁ?あー戦いに来たのか・・・んじゃ、少しついてこいよ」
そう男性は言うと、左の壁を軽くトントンと叩いた。すると、そこが大きく大きく開いたかと思うと、そこに男性と少年が入っていく。千鶴とサツキは顔を見合わせて頷いた後、その2人について行った。罠であるのは重々承知。だが、2人ならば負ける気はしなかった。
しばらく進むと、大きく開けたところに出る。そこには先ほどの2人のディザイアが立って待っていた。
「さて・・・では、自己紹介から始めましょう。僕はエレンホス。そしてそこの彼が・・・」
「マタルだ。よろしくできたらよろしくな」
「・・・千鶴」
「・・・サツキ」
4人は自己紹介を始めた。エレンホスたちディザイアは機嫌がよく見えるが、千鶴たちは対照的に不機嫌に見える。そんな彼女たちを見たマタルは頭をかきながら、耳にイヤホンをさした。
「んじゃ、戦うんだろ?こいよ、チビども・・・俺はここから動かないからな」
マタルはそう言い、足でぐるりと円を描いた。どうやら本当にここから動く気は無いらしい。エレンホスはというと、少し遠くに浮かんでいた。
「なめ・・・やがって!!」
サツキはそう叫び、一気に駆け出す!彼女の武器は短刀。短いが、彼女はそれでも相手に攻撃を当てる自信があった。サツキはチラリと千鶴を見る。千鶴はこくりとうなずき、しゃぼんを飛ばした。
「・・・へぇ・・・」
そのしゃぼんを弾くが、それはマタルの腕に当たる瞬間に大きな爆発を起こす。マタルはその爆発で少し右腕にダメージを受けるが、涼しい顔でサツキの攻撃の対処をしようとする。
サツキはニヤリと笑った。
「ん・・・!?おいおい・・・!!」
すると、マタルの両腕がだらんとたれた。よく見るとしゃぼんが無数についていた。しゃぼんの重みでマタルは腕は動かすのが困難になっていた。よく見たら足にも付いており、足をなかなか動かなかった。
「大口叩く奴は案外簡単に死ぬものよ!!」
サツキはそう叫び、速度を保ったまま、マタルの胸を狙い短刀を突き刺そうとした。マタルはその短刀が当たる瞬間。サツキの方を見て。
ニタリと笑った。
瞬間。サツキが上に大きく吹き飛ばされていた。マタルは、しゃぼんがついて動かすのが困難な腕を無理やり動かして、サツキを殴り飛ばしたのだ。
マタルは足をぐっと曲げて、上に高く飛ぶ。信じられないという顔をしているサツキを下に見た後、腹を狙い踵落としをして、地面に叩き落とす。
それを千鶴はただ見つめていた。地面に落ちた時に上がった煙がはれていくと、そこにいたのはサツキの頭を握り潰そうとしていたマタルと、だらんと力が抜けてあるサツキであった。
「や、やめて!!」
千鶴は思わずそう声をあげる。ディザイアに助けを求めるというのも変な話だが、サツキが助かるためならなんだってする。
「んー助けたいのですね・・・マタル。少し待ってください」
「たくっ、わかったわかった、わかったよ」
そうマタルは言い、乱暴にサツキを放り投げる。ブルーは近寄るとサツキはもうすでに変身が解けていた。息はしているため死んではいないのを見ると、千鶴は安心した顔になるが、すぐさま、次に起こることを考えて青ざめた顔になる。案の定エレンホスは近づいてきて千鶴に耳打ちをした。
「取引です。もし、あなたが僕達と手を組んでくれるなら・・・この魔法少女は今は見逃してあげます。と、言っても僕達で預かるのですけどね・・・いいですよね?」
その質問にそれからしばらく死んだような生活を送った。仲間を。そして好きだった人を救えなかったことに関する悲しみ。それは予想より大きく千鶴にのしかかる。
小学校や中学校を彼女はまるで抜け殻のように通い、そして卒業した。高校は親に言われるまま適当なところに行った。噂じゃ親が根回しをして合格するようにしたらしいが、正直どうでもいい。
このままサツキが解放されるまでこんな生活を送ると考えていた。ま、それもいいのかもしれないと半ば自暴自棄になっていた矢先に彼女が現れた。
「なぁ、一緒に飯食わないか?」
千鶴はとても驚いた。まさにサツキをそのまま大きくしたような少女が目の前にいたからだ。声は少し違うが、どう見てもサツキそのものだった。
(この子、サツキちゃんみたい・・・いや、サツキちゃんだ!)
千鶴はそう愚かにも結論づけた。そして、目を輝かしながらその少女に抱きついた。そのとき顔を赤らめたのが、どこか愛おしくて、大好きで。だからもっと愛したい。もっと近くにいたいと思った千鶴は、もう離さない。逃がさないというように強く強く抱きしめ続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなことをなぜ今思い出しているのだろうと、ブルーは自分に問いかける。アナザー。いや、あかねが無残な死体になっているであろう場所を見下ろしながら。そうしたのは他でもない自分だというのに。
「・・・」
それをただただ見下ろすブルー。その瞳は光も何もなくて、ただあるだけに見える。まるで、そこにあったから目としての役割を与えられただけで、本当はただのガラス玉なような。
「サツキちゃん・・・」
ぽつりと無意識に呟く。違う。そこにいるのはあかね。サツキではない。が、サツキちゃんと呟いてしまう。そんな彼女をエレンホスは少し眠いというように目をこすりながら見ていた。
そんなエレンホスを見てブルーは悟る。が、頭を振りその考えを消す。あとはあの煙がはれて、あかねの死体を確認するのみ。それが終われば、全てを終わらせに行こう。
「・・・おわらねぇ・・・おわらせねぇ・・・!!」
まさか、とまず思った。煙の奥から聞いたことがある声が聞こえたのだ。その声を聞いて、ブルーもエレンホスも驚いたように目を見開く。エレンホスは楽しみという顔で、ブルーは震える顔でそこを見る。
そこには1人の少女がボロ雑巾のようになっていながらも、まっすぐな瞳で前を。ブルーを見つめていた
「あたしは、まだ終わってねぇ・・・それに・・・」
アナザーはそこで一旦声を区切る。エレンホスはワクワクした顔でその様子を見ていた。
「あんたを、守りたいからな・・・!!」
「素晴らしい!素晴らしいですよ!アナザーさん!!僕はあなたに敬意を払います!!」
エレンホスは笑いながら心底嬉しそうにそう叫ぶ。ブルーはそんなエレンホスとアナザーを交互に見た。そして震える声で
「私から・・・エレンホスを奪うなぁ!!」
そう叫び、アナザーに先ほどと同じしゃぼんを作りいっきに狙う。無数の鋭いしゃぼんをアナザーはみたあと、拳に魔力を込め始めた。
「いくら込めても、あのナイフのようなしゃぼんを突破できるわけがない・・・何をする気です?」
エレンホスは顎に手を当てて、アナザーの行動を凝視した。何か考えがあるのだろうか。もしかしたら、ただ無策に突っ込むだけか?それとも・・・
「・・・このしゃぼん。すげぇよな。あたしの周りを綺麗に取り囲んで、あたしに向かって一直線に飛んでくる・・・」
そして、アナザーは身構えた。拳を先ほどより強く握りしめ、目を閉じ気を落ち着かせる。そんな彼女の周りには変わらず無数のしゃぼんがあった。
「あたしに向かってくる・・・つまりは、『どこにくるかわかる』って事だ。どこにくるかわかるならよ・・・!!」
そして、アナザーは大きく拳を振りかぶり、そして『地面』に向かって強く振り下ろした。
「・・・ほう、なるほど・・・」
ドゴン!!と、爆発したような音が響くと、地面が割れ、その破片がまるでシールドのような形になった。そのシールドに当たる無数のしゃぼん。
しゃぼんは小さな爆発を起こし、シールドを小さく焦がすだけで、それ以上のダメージは無かった。無数に爆発しても、その壁を突破することはできなかった。
ブルーは焦った顔で、そのシールドをえらい続ける。何度も何度もしゃぼんをぶつけて、シールドを壊そうとする。何度当てたかわからないが、やっとの思いでシールドを破壊する。破壊されたシールドは破片が飛び散り、その真ん中にはアナザーが・・・
「・・・え!?うそ、いない!?」
その場には何もいなかった。最初から何もいなかったように、何も。
「こっちだ!!」
そんな時声が聞こえた。アナザーが、いつの間にか空を飛んでいたのだ。ブルーは慌ててながらしゃぼんを少し出して、アナザーを狙う。が
「は、破片が邪魔で狙えない・・・!!」
アナザーはその小柄な体を生かし、右や左と、破片に隠れながら縦横無尽に飛び回りブルーのしゃぼんを避け続ける。しゃぼんは破片を破壊するだけで、アナザーにはダメージを与えることはできない。
「このっ!このっ!このっ!!」
ブルーは目を動かし、アナザーを狙う。何度やっても結果が変わらないことは、もうわかっていた。けれど、必要としてくれるなら、諦めるなんてできない・・・
「ブルー・・・いや、千鶴」
目の前にアナザーがいきなり現れた。よく見たら近くに大きな破片があった。あれで身を隠しながら近づいてきたのか。ブルーは叫びながら杖を振り下ろす。アナザーはそれをおもいっきり頭に受けてしまう、クラッとなり、後ろに倒れていく姿を見て、ブルーは安堵する。が
アナザーはそのまま一回転し、近くの破片に足をつけ、バネの原理のように足を曲げて、一気に飛び出した。そして、アナザーは両手を青く光らせた。その光は、魔力を込めた光。ブルーは慌てて手を交差し攻撃から身を守ろうとする。
「暫く、休め・・・」
アナザーはそう小声で呟いた。その声はおそらく誰も聞こえてない。もしかしたら、アナザーも聞こえてないのかもしれない。
「マジカル☆ガトリング!!」
先ほどのしゃぼんのように無数に見える拳がブルーを襲う。最初の数発でガードを崩し、残りのすべてのパンチでブルーを何度も殴った。
身体中から血を出したブルーに、アナザーはもう一度拳をぶつける。その攻撃を受け、ブルーは後方に大きく吹き飛ぶ。ドォン。と、音が響き、ブルーは壁に叩きつけられそのまま下に落ちる。
「なんで・・・なんで・・・」
アナザーは先ほどブルーを殴った手を涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら見つめていた。
「なんでこんなに手が痛いんだよぉ・・・!!」
そんなアナザーの姿をエレンホスは満足げに見つめていた。そして、マントを翻し去って行った。
「もうすぐ最強で最凶の駒ができる・・・そのためには彼女・・・いや、彼か?まぁ、いいや。あの人には、死んでもらうしかないですね・・・」
そんな不吉な言葉を残して。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここどこぉ・・・」
周りには何もない個室の中で千鶴は座り込みながらそう呟く。小さな窓からは一話の鳥が中を覗いていた。
千鶴はとりあえず立ち上がる。どこかわからないが、あそこに窓がある。とにかくここから出よう。と考え変身しようとする。が、その時に後ろに気配を感じた。
「だれっ!?」
とっさに後ろを振り向くが、そこには何もいなかった。千鶴は気のせいと思い首をかしげる。兎に角、早くここからでなければ。千鶴は前を向きなおす。
「・・・・あ」
そこには先ほどいなかった1人の少女が立っていた。虚ろな瞳で千鶴を見つめる少女は見覚えがあり、千鶴は思わず声をかけた。
「あかね、ちゃん・・・?」
その少女はあかねによく似ていた。だから、千鶴はそう名前を言った。まるで赤ん坊が初めて歩けるようになった時のようによろよろと歩き、あかねであろう少女に抱きつく。
「あかねちゃん・・・ごめんね、ごめんね・・・私が間違っていた・・・許してなんて言わない。また仲良くしてなんて言わない・・・けど、せめて、謝らせて・・・自己満足かもしれないけど、謝らせて・・・ごめん。あかねちゃん・・・!」
千鶴は少女の胸に顔を押し付けそう言った。それを見た少女は少し考えた後、千鶴を勢いよく。
引き離した。
千鶴は引き離された勢いで、尻をついて倒れる。拒絶される。わかってたことだが、やはり辛いものがある。千鶴は目に涙をためた。
「あんた・・・少し勘違いしてるらしいから言うけど、私は・・・」
そう少女は言い千鶴を冷たい目で見下ろす。千鶴は顔を上げて、その少女の顔を見た。
「私の名前は、『サツキ』だ・・・」
その声を聞いた千鶴はビクリと、体を震わせる。サツキ。そう彼女は言った。なるほど確かにあかねとは少し雰囲気が違うようにも見える。けれど、なぜサツキがここにいるのか。千鶴はわからなかった。
「あんたって、最低な人間だよなぁ」
突然サツキがそう千鶴に向かってそう言った。千鶴はいきなりそう言われて少し混乱し始める。サツキはギロリと睨んだ後、言葉を続けた。
「あんたはさ、いなくなった私を、目の前に現れた瓜二つの少女のあかねに姿形を重ねたんだ。これの意味がわかるか?」
千鶴はわからないというように頭を振る。それを見たサツキは千鶴の頭をガシッとつかみ、一気に持ち上げた。あまりの痛みに少し声を上げる千鶴を先程よりも冷たく、刺すような瞳で千鶴を見つめ続けた。千鶴はそれがとても恐ろしかった。
「つまり、あんたは私を無意識のうちに殺してたんだ。私は人質になってるってあんたは思いながらもな。だからこそ、あかねに私を見た。あんたの価値観を勝手に押し付けてたんだ・・・あんたはあかねに迷惑をかけてたんだよ!」
そして千鶴をいきなり投げ飛ばしたサツキ。いや、背中が地面につかずにそのまま下に、下へと落ちていく。
「迷惑をかけたら何をすべきは・・・わかるよな?」
サツキはそう言い捨てたかと思うと、忽然と姿を消した。千鶴はただ、光がない目をしながら下に落ちることしかできなかった。
「・・・」
「あ!!ち、千鶴!?大丈夫か!!」
下に落ちていったかと思うと、千鶴は今、本物のあかねと美冬に心配そうな顔をしながら、覗き込まれていた。
千鶴はその顔を直視できずに下をうつむいた。そして、あの時に言われた言葉を思い出す『迷惑をかけたら何をするか』
「そうだよね・・・私はあかねちゃんに迷惑をかけた・・・だから」
ドン。と、千鶴はあかねと美冬を手で押した。背中を打ち、そこをさするあかねを尻目に、千鶴は変身をした。彼女はなぜかとても悲しそうだった。
千鶴が杖を振ると、彼女の周りに無数の鋭い刃物のようなしゃぼんが浮かんだ。先ほどとは少し違う感じがした。
「おい!!千鶴、何をする気だ!!」
「あかねちゃん・・・」
千鶴はそう言い、ニコリと笑った。その笑顔はとても眩しく見えたが、無理して笑ってる。そんな印象を受けた。
「さようなら・・・」
千鶴がそう呟くと同時に、その無数のしゃぼんが千鶴めがけて降り注いだ。
ドスッと、刃物が柔らかい肉に突き刺さるような音が聞こえたあと、血が飛び散り、血が滴る音が次に聞こえた。
「なんで・・・」
千鶴はあおむけに倒れた姿勢でそう声を絞り出す。なぜ私は生きてるのということはどうでもいい。ただ一つ。目の前にいる少女がいるのが疑問だった。
「無事・・・・か?千鶴・・・?」
「あかねちゃん。なんでそんなに血まみれなの・・・?」
目の前の少女はあかね。しかもなぜか血まみれだった。あかねはあの時千鶴を押し倒ししゃぼんの攻撃から身を挺して千鶴を守った。
千鶴は意味がわからなかった。なんで彼女が自分を守るのか、声を出して聞こうとした。が、なぜか声が出なかった。
「さっき・・・千鶴は、私に価値観を押し付けてたって・・・いってたよな・・・一つ私も言っていい・・・か?」
あかねは震える声でそう言い、千鶴を抱き起こし、強く抱きしめた。千鶴は驚いたように目を見開いてあかねを見た。
「あたしは・・・千鶴。あんたに、『あたしの大好きな親友』ていう価値観を押し付けてたんだ・・・それでも、迷惑だったか・・・?」
千鶴はそう言われて、目から涙が溢れてきそうになった。そしてゆっくりと顔を横に振った。それが精一杯だった。
「つまりさ・・・あたしもあんたのこと迷惑だなんておもってない・・・価値観を押し付けてた?んなもん、お互い様だ・・・だから、よ」
そして、あかねは強く千鶴を抱きしめる。千鶴はもうあふれる涙を抑えることができなかった。
「あたしの大好きな親友でいてくれるか?」
「うん・・・うん・・・!!」
千鶴は大声で泣き叫んだ。そんな千鶴を見たあかねは安心したように目を閉じたあと。
「・・・あかねちゃん・・・?」
あかねは深い眠りに落ちていった。
続く・・・?
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《次回予告!!》
「私はあたしなんですよ?」
「貴女の正体を教えますよ?」
「わたくしは、ウチは、俺は」
「それじゃ、改めて自己紹介しまーす!!!!」
第12話『堕ちる少女。上がる少女』
お楽しみに!!
あっれー?あかねさん死んじゃた?
今回の話はあかねさんと千鶴さんの戦いをメインとしました。結構きついですね。いろんな意味で。
では、読んでくれてる人がおりましたら、また次回お会いしましょう




