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時戻し  作者: 松下戮
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第一説「過去へ」

>「じゃあ明日、隅田川大橋で待ち合わせね!」

彼女が別れ際に言った言葉を、私は未だに覚えている。

あの日は隅田川花火大会の前日、花火大会に着る浴衣を見に行った帰りのことだった。

時間は午後11時を回っていただろうか、終電に間に合わないという彼女を急いで駅まで見送って、私は帰路に着いた。

家に着いたら飲み直そうとビールとつまみを買って、家に着く。

テレビを付けると、見覚えのある景色が、そこには広がっていた。

少し飲みすぎたか、そう思い顔を洗ってテレビを確かめるも、速報などという文字と共に、見送った駅の中継が流れている。


どうやら人身事故があったらしく、駅のホームが写し出されていて、そこには多くの野次馬たちが集まっていた。

酒を飲んで酔った三十代後半男性が電車が来る頃に二十代の女性を線路に突き落としたとのことだった。

『…突き落とされた女性は病院に搬送されましたが、しばらくして死亡が確認されました。女性の身元は千葉県に在住の○○さん―』

そう言いながら画面に写し出された顔写真を見て私は絶句した…

その顔写真の主は疑いようもない自分の彼女だったからだ。

「…うそ…だよな…」

つい口に出てしまった。

驚いていると、ケータイが鳴った。

知らない番号からだ。

出てみると、警察などではなくエスパーだと名乗った。

なんだこいつは。バカにしやがって、くそ。悪質ないたずらだ。

そう思ったが何で事故から一時間も経ってないのに私の電話番号がわかったのだろうか。

犯人なのか。私に恨みがあって復讐を企てた人間なのか。

私の背中に、嫌な汗がぶわっと吹き出た。

電話の向こうでは、

「私は彼女を助けられる、過去に遡れるのだ。」

などと、訳の分からない事を言っている。

時間を巻き戻すなど非現実的だ…「バカなこと言うなよ…時間を遡るなんて不可能に決まってる。」

しかし電話越しに聞こえるそれは平然と「出来るんだよ…」ときっぱりいい放つ。

「一時間後に事故のあった駅の入り口で会おう。」

そう一方的に言われ勝手に切られた。

「なんなんだよ…くそっ!」

手の込んだ悪戯だと思い込んでいたが…行かないで損するよりいって損した方がいいよな…どうせ暇だし。

ケータイをしまった彼は適当に身支度をしマンションから出ていく。

しかし…その選択こそが彼の人生を変えることになるのだった。


駅前に着くと、そこには普段と変わらないいつもの景色が広がっていた。

なんだよ、エスパーとか過去に遡れるとか。

馬鹿馬鹿しい。やっぱりいたずらだったのか。

そう思って落胆し、駅構内のコンビニ横の柱に寄りかかり、肩を下ろした。

そして視線を正面に向ける。

何かが違う、異様な雰囲気を感じた。

何がおかしいのか、必死に考えた。

強く意識して、周りを見渡す。

そして分かった。ここに着いたのは昼間で、辺りは明るかったのに今は、外が真っ暗なのだ。

車はヘッドライトを点灯させていて、まるで本当に夜になったかのようだ。

「なっ、なんだこれ!」

驚いて立ち上がると、周りの人は一斉に彼に注目した。

明らかに不審者を見るような目で見ている。

そのとき、後ろから肩を叩かれ声をかけられた。

「約束通り来てくれたな…」

肩を叩いた主は先ほど電話で会話したエスパーだった。

「これはどういうことだよ…」

今起こってる現象を受け入れきれずにそのエスパーに問いかける。

するとエスパーはさも当たり前のように「あの事故があった時間だ」といい放った。

言われたが、やっぱり納得できない通った矢先に駅の方から人の悲鳴が聞こえ何やら騒ぎ始めたものだから気になり駅に入っていきホームまで降りていった。

そこには、多くの人だかりが出来ていて、線路を覗き込むと血まみれになった枕木に、布切れのようなもの、そして肉片のようなものが散らばっていた。

これは… どういうことなのだろうか。

どのみち事故後じゃ意味ないんだよ。

多くの言葉たちが、彼の頭のなかで錯乱していた。

「分かりました?昨日に戻ったということが。」

そう言われてはっとした。

彼は事故前に戻せとエスパーなる男に迫った。

するとエスパーなる男は、いいけど、条件があるんだよな…

などと下を向いてぶつぶつ言っている。

条件とはなんなのだろうか。

彼は尋ねた。

「一回過去に遡るには代償として君の寿命を一年けずらなければいけないんだ…」

彼の口から放たれた言葉にまたもや衝撃が走る。

一回遡ることに一年俺の寿命が減るということか…

少し一人考え込んだあと目線を原型を伴っていない彼女に向けエスパーとなのる男性の方を向き

「わかった…もう一度時間を遡らせてくれ」

彼は懇願した。

彼女が帰ってくるのなら自分の寿命くらい大したことない、そう思ったのだ。

しかしまた、事故のあとに戻ったら、助けられなかったら、そう思うとかなりの不安もあった。

目に見えないものが減るわけだから、ある種の呪術的な怖さを感じる。

「わかった、いつがいい?」

エスパーとやらはそう言った。

「もちろん事故の5分くらい前に。」

そう言うと目の前がパッと光輝いた。


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