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ワンダフル☆ジェネレーション   作者: 品川恵菜
stage1:皆堂レン∪水堂廉也
9/18

9、ただいま

 コンサート開始から暫くして、会場のボルテージは、なかなかにいい感じになってる。

ファンの子たちの表情も、サイコー!!って感じ。

でもまだ、最高潮にはさせてあげない。

それをするには、役者が一人足りない。

俺…今は鮎川トオルである自分は、笑顔を振り撒き手を振った。


もうすぐ最後の曲になる。

それ用に、用意された曲は二つ。

一つは、役者が揃わなかったらの方。

そして、もう一つは役者が揃ったらの方。

ずっとステージに居る俺らには情報が入って来ない。

とにかく、泣いても笑っても、これがラストチャンス。

そう、みんなで決めた。


…っと。聖ちゃんに睨まれた。

考え事してて、集中していないの、バレた。

こっそりカイちんに肘鉄入れられたし。地味にイテェ。

…みんな俺に冷たくない?

コラ吉野っち、見なかったフリしない。

橋本っちとくっ付けるの手伝ったの、忘れたのか。

リア充め~。


…はぁ、やっぱり俺ってこのメンバーの中じゃ、常識的な方だと思うワケ。

レンと俺って、意外と考えてることは似てると思う。

レンに前そう言ったら、全力で否定されたけどね。

…って、今はそれはどうでもいいか。

今はこっちに集中。

もて余した興奮を放つように、俺はマイクを持って叫んだ。


「みんな~!最後まで飛ばして行くから、付いて来てね~っ!」


ファンは黄色い声援をくれる。

さぁ、舞台は整ってるよ?レーン?


「それじゃあ、次の曲に行くよ!」


俺の声と共に、イントロが流れ始めた。

音楽に合わせて、ダンスを始める。

吉野っちの声で歌い出し。

で、そこに俺が加わる。うし、成功。

ファンの子たちの手拍子が心地いい。

これ、やっぱり天職だね。



時間なんて直ぐ過ぎる。


「それじゃあ、最後の曲。行くよ!」


カイちんが爽やかに告げた。ここ、だよね。

この曲で決まる。

役者は、揃うのかな?


最後の曲。

その曲が、流れた。

ファンには懐かしいであろうそのイントロに、笑みが溢れた。


「来なよ、レン」


ボソリと呟く。

ファンたちはざわめいているらしい。

当たり前か。レンが抜けた時から、幻の名曲なんて呼ばれるようになったこの曲は、あれから今まで歌われなかった。

それが、解き放たれようとする今。

そのことが持つ意味は。

こういう時は、俺の出番。まっかせてよ!

俺はステージの中央に飛び出し、叫んだ。


「さぁ、溢れ出せ!!」



***


 ワルジェネメンバーのパフォーマンスを見ながら俺は、ステージ裏で緊張してた。

もちろん覚えてるさ。

ファンの盛り上げ方も、笑顔の作り方も。

でも、いつも兄さんの為って思ってばかりだったから…今は何の為にステージに立つのかって凄い考えてた。

なら何で戻ってきたのかって話だよな。

なんか有るんだよな、でも分からん。何だろう。


「レン。次の曲だからな」


「はい」


森坂さんに言われて、気を引き締めた。

ここからが、俺のステージ。

ここから先は、皆堂レンの出番。

彼は、歌うことと踊ることが大好きで、いつも笑顔を絶やさない、ワルジェネのマスコット。

…いや、もうそう言う設定はいいか。

本当は自分の兄の為とか言って、実際はその人を苦しめていた、しかもそのことに気付くと、さっさと逃げたズルくて弱いヤツ。

その癖、諦めきれなくて、捨てきれなくて、また戻ろうとしている、馬鹿なヤツ。

うん、それでいいや。芸能界なんて、偽りばっかなのが普通で、それが必要なんだだろうけど、俺は俺のままで行くよ。


「今度は、置いてかないよ。兄さん」


そう呟いて、クスリと笑う。

皆堂レンは最早、俺だけじゃない。

俺と兄さんのレンを冠しているなら、俺も兄さんも皆堂レンだ。


「レンちゃん、頑張って」


背に手を当てて、ナツが言った。

それには無言で頷いて返すと、ナツはふんわり笑った。

その時、カイさんの声がして、俺たちのデビュー曲のイントロが流れた。

そう、これこれ、なんかみなぎってくる感じ。

ああ、これ、好きだったなあ。


「じゃ、行ってきます」


「うん。楽しんで」


振り返ると、ナツ、森坂さん、濱野さん、檍さん、双木さんが俺を送り出すべく、立っていた。


「さすが皆堂君、私のメイク、超映える」


「や、メインはメイクじゃなくてレンだからな?ダンスもほぼ完璧に覚えてたし。レン、お前こっそり練習してたろ?」


きゃぴきゃぴとはしゃぎ興奮する双木さんに、横から冷静に突っ込む濱野さん。

あはは、バレてた。

たまに体が動いて勝手に踊ってました。

やっぱり抜けなかったよ、レンは。


「歌も、中々。これからも楽しみ」


檍さんはニコニコ笑いながら言った。


「やっぱりレンはアイドルってことだなぁ…。育てがいのある奴だったしな」


森坂さんは苦笑して言った。


嗚呼、そっか、今この場に立って分かることだけど、俺は何一つ一人では出来てなかった。

すべて、支えられてやって来た。

当たり前のことなのに、ここで気付くなんて…ほんと悔しいなぁ。


「本当、ありがとうございます。…これからも、宜しくお願いします」


そう言うと、皆はそれぞれ頷いた。さぁ、行かないと。


俺は、一歩踏み出した。

これはステージへ伸びる花道。

まだ此処は真っ暗。

もうすぐイントロが終わる。

俺はマイクを握り直し、にやけそうになる表情を引き締めた。

あ、そっか。そういうことなんだ。俺、アイドルやるの、好きだったんだ。

この、今からやるよっていう、何だか友達にサプライズを仕掛けるような、こんなワクワクした感覚。

そして、歌い出す時の、高揚感―――――。

ファンは何かを期待するかのようにさざめく。

それを助長させようと声を上げるメンバー。


目を閉じて、音に集中する。


さあ、歌い出し。

ここはリーダーの役目。甘いボイスで会場を包む。

それに重なるように、アユさんが入る。

ハモった後は、カイさんのハスキー。

ここでさぁ行け、ヨッシー。お前の爽やかボイスを聞かせてやれ。

そして、ここからは俺の番。息を吸う。そして、ここで決めゼリフ。


「Are you ready?」


パッと俺を、ライトが照らし出した。

ゆっくりと、俺は歌いながら花道を進む。


「嘘っ!?」


「レンだ!え、本物!?」


聞こえてくるのは困惑の声。

何だかドッキリが成功したような、そんな嬉しさが生まれた。

体が全部、覚えてる。

ファンに手を振りながら、微笑む。さぁ、叫びなよ。


湧き起こる黄色い声援。

共に生まれる手拍子。

そのリズムに合わせながら、歩く。

ファン一人一人の顔を見るようにして、大切に大切に。

…さぁ、もうすぐサビだ。走るぞ!


目の前に見えるのは、俺を待ち構えるメンバーたち。

なんか後で怒られたり、散々言われるんだろうな。

ま、いっか。それくらいは迷惑かけたもんな。

一回奢るくらいなら、してやるよ。あと、嫌だけど殴られてやっても、いい。


サビに入る前にステージにたどり着くと、メンバーと向き合う前に、クルリとファンに向き直る。


「みんな、ただいま!」


そうファンに告げると、ファンも返してくれた。


「「「「「「「レンちゃん、お帰りなさーいっ!」」」」」」


俺はそれに大きく腰を折り、頭を下げた。

あ、泣くかも。

すると、両脇に腕を差し込まれ、問答無用で起こされる。いきなりのことに少し驚いて横を見れば、右にヨッシー、左にカイさん。


「歌うよ?」


「ミスしたらフォローしてあげるよ」


そう言って、二人はニッと笑った。

ミスとか、有り得ませんから。

俺は頷いて、マイクを口に近づけた。

そして、振り付けと共に、歌い出した。


巻き起こる歓声。手拍子。流れるミュージック。

そのすべてが、俺たちに降り注ぐ。

それに俺たちは音を加えて、一つにする。

そう言えば、こんなんだったな。

混み上がる歓喜。

ああ、やめられないな、これは。


歌い終わり、息を整えながら、俺はメンバーと向き合った。

みんなは、俺が口を開くのを待っている様子。

分かってるよ、これだろ?


「ただいま」


そう言うと、メンバーは顔を見合わせてニヤリと仲良く笑うと――――


「うわっ!」


俺に突進してきた。ぐしゃぐしゃと頭を掻き回され、グルグルと目が回る。


「「「「お帰りなさい!!!!」」」」


揃って言われたその言葉で、ようやく自分が戻って来たんだなということを実感した。

ああ、泣きそうだ。

それを堪えて、俺は今ある幸せを噛み締めるようにしてもう一度言った。


「ただいま」


そして、メンバー、そして勿論ファンにも届くように、口元にマイクを持って行って言った。


「みんな、ありがとう!!」


ほんと、最高。


ワルジェネ、最高だよ。





***


「良かったね、お兄」


輝く自分の兄を見ながら、会場の隅で、磨奈は微笑んだ。

いつもは誘われてもあまり行かなかったライブも、今日だけはとチケットをとって貰っていた。


『磨奈。もしも、もしも廉也が迷ってしまった時は…時間をあげて。そして、いつかは必ず、前へ進んで行けるように、してあげて。そのためになら、僕を蔑ろにしてもいい』


今はもう亡きもう一人の兄の言葉を思い出して、磨奈はクスリと笑った。


「本当、いいなぁ。男の子って…単純で」


二人の兄と同じように整った容姿を持つ彼女は、女であるゆえに、二人よりも苦労した。

そして更に、兄の一人はアイドルなのだ。

彼女しか知らない苦労はたくさんあった。


「私も何か、始めちゃおうかなぁ。大きなこと…」


そう呟きながら、兄を見ていると、何か、もう一つ見えた。


「…ん?兄さん?」


目をこする。そうしてもう一度見てみると、何もない。

異常など、何も。

暫く呆けてポカンとしてから、また微笑んだ。


「そっか。兄さんも居たんだね」


今この会場で唯一の、血の繋がる彼女にだけ、分かること。



「二人で、皆堂レンになったんだね。…おめでとう、二人とも。行ってらっしゃい」


どんな風になっても、紛れもなく二人は磨奈の兄だ。

アイドルであっても、彼を兄と呼べるのは自分だけ、だから。


帰る場所を、私は守ろう。

いつか本当に、巣だって行く兄を見送る、または自分が巣立つ日まで。

それが、家族。


長年彼女の中を占めていた寂しさが、ポロリと。

雫とともに、零れ落ちた。



あと一話、続きます。

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