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ワンダフル☆ジェネレーション   作者: 品川恵菜
stage1:皆堂レン∪水堂廉也
8/18

8、飛び込め

○コンサート会場ワルジェネ楽屋にて



「…」


吉野御影は、不安そうに楽屋の時計を見た。


「みー君、どうしたの?」


彼のマネージャー兼彼女である橋本瀬里が、声をかけた。

吉野は時計から視線を外すと、苦笑いしながら、


「うん、一縷の願いにいろいろ託してた」


と言った。

橋本はそれを見て、自分の恋人が考えていることに当たりをつけて、ため息をついた。


「もう!ちゃんと集中力して!みー君がどう思っているにしろ、決めるのはレンなんだから」


橋本はそう言ってから、手帳を見ながら吉野に確認事項を読み上げていく。


「…それと、もしレンが来るとなったら、最後の曲…。テレビ中継される場面でだよ。そこでレンが出れば、必然的に全国にレンの活動復帰が伝えられる」


「…逃げ道を塞ぐんだね、相変わらず社長は怖いね」


吉野は表情を引き攣らせて言った。


「僕もレンみたいになってたら…。あ、こわ」


「大丈夫よっ!」


そう言って、橋本は吉野に抱き付いた。


「みー君には、私っていう彼女が居るのよ?私が愛の力で連れ戻してあげる!」


「せ、瀬里…」


ぽっと赤くなった吉野は、橋本の背中に手を回した。二人は今日も通常運転であった。


「あー暑い~。誰かクーラー付けてよ」


鮎川徹はそんなことを言いながら、そんな二人の様子を見ていた。


「ていうか可笑しいよねぇ?なんでレンと吉野っちのマネージャーは可愛いオンナノコなのに、俺らのはムサいオッサンなわけ?」


「お前のような年がら年中発情期な奴に、異性のマネージャーなど付けられる訳ないだろう」


リーダーの篠原聖一は読んでいた本から顔を上げて、冷ややかに鮎川を見た。


「うううっ!痛い痛い!聖ちゃんその目はヤメテー!」


鮎川はそう言いながら、椅子の上で身悶えする真似をした。

それをも篠原は華麗にスルーした。

日頃王子様と称される彼が、実際は皇帝様だというのは、メンバーとマネージャー、そして事務所の関係者だけの秘密である。


「あれ、アユさんどうしたの?」


そう言って楽屋に帰って来たのは、暮谷海渡。

ワルジェネ随一のイケメンフェイスを引っ付けて、こちらも通常運転である。


「てか、マネージャー全員揃ってないって、どういうことだろうね?」


暮谷はそう言って、苦笑した。

それに反応した篠原は、暮谷を一瞥してから、ニヤリと笑った。


「君がそれを言うのか?」


暮谷はそれに対して、またニヤリと笑った。


「気づいてましたか?リーダー」


篠原は暮谷から目線をそらし、ため息をついた。


「…なんとなく、だ。僕が動こうとしたら、もう既に動きがあったようだったから」


「それはそれは。でも、名案だったでしょう?」


暮谷はクククと笑って言った。

他のメンバーたちは二人の会話の真意がなんとなく分かってきて、若干青ざめている。


「彼は俺のライバルですから、いろんな意味で。だから不戦勝は嫌なんですよ」


暮谷はそう言ってから、目を細めた。

ワルジェネ随一のイケメンだけはある。

貴公子とファンたちに呼ばれている、甘いマスクで、儚げに笑った。

そして、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。


「さぁ、飛び込んでおいでよ。レン」




「カイさんって、参謀向きだね」


「う、うん。敵に回したくないかも」


部屋の隅っこで、バカップルがこんな会話をしていたことは、露しらず。



***


○レンside


 いつも優しい人ほど、怒らせたら怖い。

それは、すごくよく聞くことだけれども。


俺はそれを、現在進行形で、身を持って体験していた。


「いいか?分かる?勝手に仕事投げ出してしかも辞める?そんなん簡単に出来る立場じゃないくらい、もう分かってんだろ?は?分からんとか言ったら怒るぞ?てか何?嘗めてんの?芸能界は弱肉強食って、何度も言ったよな?普通こんなに戻って来いって言われるのも、凄く恵まれてんだぞ?ありがたいと思えコラ」


「は、はい…」


「シャキッとせんか!」


「はいっ!」


俺は背筋を伸ばして元気よく返事をした。

俺は今、ワルジェネ総括マネージャーの森坂さんの運転する車の後部座席に座ってお説教をされている。

多分、俺のことでかなり迷惑をかけたんだと思う。

…だが。


「本当、みんな俺に押し付けて来て…。篠原は相変わらず皇帝様だしよぅ…。この間なんか、脅されたんだぞ?信じられるか?鮎川はルーズすぎて扱いも困るし、口だけは達者だから直ぐにそれを使って逃げるし。暮谷はいつもニコニコしてて表情読めないし、実は腹黒だし。吉野なんかコノヤロー!リア充爆発しろ!!」


結論、それは俺には関係ない。

そしてまとめて俺にぶつけないでほしい。

森坂さん、あの人らに何されたんだ?

この人、キレると一番怖い。


「森坂さん、それよりもレンちゃんと会場に着いてからのこと、打ち合わせしていいですか?」


俺の隣に座ったナツがおずおずと切り出したことで、やっとマシンガンが止まった。ほっ。


「じゃあ、始めるね?えーと…」


ナツが打ち合わせするために、手帳を取り出した。


「レンちゃんが登場するのはラストの一曲だけ。メイクとちょっとしたレッスンは受けてね。レッスンって言っても、今回は久し振りだし、ダンスは抜きでいいかな?歌ね、メインは」


ナツがスラスラと読み上げていった。


「や、ダンスもつけてくれ。中途半端は、嫌だし」


そう言うと、ナツは目を丸くしてから、嬉しそうに笑って頷いた。

その後、打ち合わせは滞りなく終わった。


「じゃあ、会場着いたらダッシュね!顔とか見られないようにしてね」


ナツはそう言って手帳をしまった。

俺はそこではたと気が付いた。


「そう言えば…ナツって、カイさんのマネージャーになったんだよな?いいのか?俺の所に居て」


俺がきくと、ナツはきょとんとしてから首を傾げた。


「私、レンちゃんが帰ってくるまではって、森坂さんのお手伝いしてたの。そのとき、カイさんのお世話もしたけど…それだけだよ?え、嫌だからねっ!?私、レンちゃんのマネージャーの座は渡さないからっ!」


「あ、そう…か」


なんだ。そういうことか。

カイさんから聞いたときは、動揺したけど…そういうことか。

…なーんだ。あれ?なんで俺、こんなにほっとしてんの…?


「ちょっと、レンちゃん聞いてる!?」


「え、ああ。聞いてる、聞いてる」


俺はコクコクと頷き、ナツを見た。

そこで、じいいぃぃぃぃ…と、こっちと顔に穴が開きそうなくらいに見つめてくるナツに困惑する。


「うむぅ…。やっぱりカッコいいなぁ」


「なんか言った?」


「え、えと!こっちの話!」


ナツの声が聞こえなくて、聞き直すと慌てて目線をそらした。

…なんだよー。おーい。


「もうすぐ着くぞー。それから奈都乃ちゃん、うちは恋愛禁止はしていないが、俺の処理が面倒だからラブコメは二人きりのときに頼む」


「うぅぅぅぅ…、森坂さんのバカァー」


何故か赤面したナツはそのまま突っ伏した。

シートベルトしてんのに、ナツ、強いな。お腹、ぐえってならないんだろうか。ぐえって。

そんなことを考えているうちに、車はキキッと停まった。

屋内駐車場らしきそこで、俺たちは降りた。


「先に行ってます!レンちゃん、行くよ!」


ナツに手を引っ張られ、車を降りるなり直ぐに走り出した。

建物の中に入ると、入り口に居た守衛さんに関係者パスを見せた。

そうそう…俺のなんだが、なんと服のパーカーのポケットの中に入っていた。…百パーセント、磨奈の仕業たろう。

守衛さんは俺の顔を見て、ん?と不思議そうな顔をしていたが、あの様子じゃ、バレてないだろう。

伊達メガネ装着中だし。

にしても、ここまで来てバレないとか、俺の顔って目に特徴あんのかね~?

ずんずん奥に進んで行くと、スタッフにすれ違う。


「ご苦労様です」


と声をかけながらナツの後について進んで行くと、やっぱり実際に関わったことのあるスタッフには分かるのか、妙に周りがざわめいている。

まぁ、そろそろバレたかな?


「ちょっ…皆堂君!?」


目を丸めたスタッフの一人に声をかけられ、俺は立ち止まりペコリと頭を下げた。


「どうも。ご無沙汰してます」


「ご無沙汰って…そんなんじゃなくて!もう、いきなり消えたと思ったら、今日いきなり現れるし…」


こう言うのは、メイクさんの双木 有加子さん。

結構仲良しなメイクさんだ。

ワルジェネをよく担当してくれるメイクさんで、持ち前の姉御肌からか、締め役として一役勝ってくれている人だ。


「はい、戻って来ましたから」


俺がそう言うと、周りのスタッフさんたちは更にざわめきを大きくした。

俺は周りに聞こえるように、はっきりと、宣言するように。


「皆堂 レン、完全復活ですよ」


そう言って見せると、首に腕がグワシッと回された。


「そう言ってくれるなら、俺も張り合いがあるわ。しごきがいがある。なぁ、レンちゃんよぉ」


俺はその声を聞いて、苦笑した。


「う、うっす。濱野さん…」


「おうよ。待ってたぜぃ?レーンちゃん?ワルジェネ一番のダンステク、見せつけないとなぁ?」


そう言って、鬼の濱野こと、濱野 之雄さんはニヤリと笑った。

この人にはダンスのレッスンで随分としごかれ…否、可愛がって貰った。


「任しとけ。二時間でたっぷりとブランクなんかぶっ壊してやるよ」


…お、鬼だ。どうしてワルジェネ関連の人はこんなにも怖い人が多いのか。

今思えば俺って、大半が恐怖に急かされて、じゃね?あれ、なんか悲しくなってきた…。


「歌の方も、任せてね」


お、この声は。振り替えると、ヘラリと笑いかけられ、手を振られた。

この人は、檍 里志さん。

俺らのボイストレーナーだ。


「素敵!ならメイク班も頑張らなきゃ!」


双木さんはそう言って、周りのみんなの士気を高めた。


「はいはい!みなさん、持ち場に戻って、準備してください!ほら、時間無いから早くしてください!」


ナツがいつの間にか俺の後ろに回ってきて、俺の背中を押していた。

俺はナツに急かされるままに足を進めた。


やんなきゃなんない。

普通なら許されないことをたくさんした。

それなのに、待っていてくれた人たちが居た。

温かく迎えてくれた人が居た。


感謝と謝罪はまだ、言うときじゃない。

成し遂げてからだ。

だから、行こう。


その時。声が聞こえた気がした。



『さあ廉也、飛び込め』


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