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ワンダフル☆ジェネレーション   作者: 品川恵菜
stage1:皆堂レン∪水堂廉也
2/18

2、帰って来てよ

「ごめんな、ヨッシー」


俺はもう一度、ヨッシーにそう言った。

待っててくれたのかな。

それは嬉しいことだ。でも、もう…。


「駄目だよ」


ヨッシーが言った。


「…は?」


俺はぽかーんとした。

あれ?聞いてなかった?


「だってレン、誰より歌うの好きだったじゃん。スゴイ頑張ってたじゃん」


ヨッシーはそう言って、俺の肩を掴んだ。

その力が強くて、俺は驚いた。


「ヨッシー?」


「帰って来てよ、レン。みんな、待ってるからさ」


ヨッシーは俺に言い聞かせるようにして言った。

待ってる?みんなって誰だよ?


「あの時、何があったのかは、社長から大体聞いた。力になれなくてごめん」


俺に動揺が走った。

知ってんの?ヨッシー。

俺がした、悪いこと。


「でも、あれは絶対レンのせいじゃないよっ!本当に悪いのはっ!」


「兄さんを、悪く言うなっ!」


俺は思わず叫んだ。

そうせずには、居られなかった。

いくらヨッシーが親友でも、それだけは許せない。

ヨッシーは俺の剣幕に驚いて、俺から手を離した。あ、思わず怒鳴ってしまった。


「…ごめん。けど、ヨッシー。俺、やっぱり兄さんのこと、尊敬してんだ」


そう言い残すと、俺は力の抜けたヨッシーの手から眼鏡を取り返し、踵を返して走り出した。


***


「…ねむ」


俺はポツリと呟いた。

今は入学式なう。

ヨッシーに会って俺の精神はガリガリ削られたからね。

もう早く帰りたい。てか、転校したい。

なんで一番会いたくない人らと一緒の学校なんだよ。

俺、運悪。いや、運じゃないか。

パンフレットちゃんと見とけば良かった。

うぐぐぐぐ…。ワルジェネ全員居るって聞いたっけ。

ヤバイ。ヨッシー言ってないかな~。

バレたらソッコーで事務所に連れてかれる予感大な人も居るし。

ううう。怖い。


「わが校は、普通科を始めとし、その他五つの科が有ります。その中でも、昨年導入された芸能科は、現在活動中である芸能人の学生を、積極的に受け入れています」


校長の自慢気な説明。

あーもう。そうそう、コレ!!

なんでもっとパンフレット見なかったんだ、俺。

てか、絶対に磨奈は昨日見てたよな?ワザと!?

いや、まさか。

俺の可愛い妹に限ってそんなことは…無い、と信じ…?


うがあああ!!!!!メンドイ!!


「通っている芸能人としては、皆さんも知っていらっしゃるでしょう、ワンダフルジェネレーションを始めとし、多彩なジャンルの方々が通っています。では、代表として、ワンダフルジェネレーションの皆さんに挨拶をして貰いましょう」


来た。ワルジェネ。ヤダヤダヤダヤダ。


「キャアアアッ!!!」


鼓膜がっ!ヤバイッ!

しかも体育館だから更に響くし。

ファンってどこでも凄いな…。しみじみ。


「皆さん、こんにちはーっ!ワルジェネこと、ワンダフルジェネレーションです!」


マイクを通した声がした。あ、アユさんだ。


「アユくーんっ!」

「頑張ってーっ!」


体育館に響く黄色い声。

これもう入学式じゃないよね、コンサートじゃん。

…と、一人で突っ込んでいると。

あー。メンバー全員出てきたんだろうな。

歓声(主に女子の)がヤバイ。

見ない見ない。俺は瞑想します。


「芸能科とその他の科は別の校舎になるけど、同じ学校の仲間として、みんな頑張ろうね」


甘いボイスでそう言ったのは…。

もう、帰っていいかな。なんか悪寒がする。

風邪かな。あの人にバレたかも。

そうだったらヨッシーめ。恨むぞよ。


「ありがとうございました。ワンダフルジェネレーションの皆さんでしたぁ…」


司会の女教師までもを骨抜きにして、奴らは降りて行った。

やり過ぎんな、馬鹿ども。

俺は眼鏡越しに去っていく彼らを睨んでおいた。

勿論、俺も怖いからすぐそらすけど。

くそぅ。ヘタレって言うなよ。

人数的に向こうの方が有利だろ。


まあ、そんなこんなで入学式は終わった。

さてと。ではクラス分けか。

今日は教室には入らず、クラス分けだけ見て帰ることになっている。

まあ見ずに帰って明日見るのでもいいが、それはそれでメンドイから今日見てく。


俺はクラス表を見るために、普通科の教室塔へ向かう。

さっさと見て帰ろう。

悪の組織ワルジェネなんぞに捕まってたまるか。


「レンの教室は一年二組」


「!?」


突然、首根っこを捕まれた。

俺、この声知ってる!

無理無理無理無理無理。無理だからっ!


「俺、まだ死にたくないですっ」


「俺も死にたくないし」


そのまま、ずーるずーると廊下の隅に引っ張られて行った。

ヒイイイイイッ!誰かっ!お助けを…!このイケメンの皮を被った誘拐犯をっ!

何とかしてえぇぇぇ…!

なのに廊下には誰も居ないっ!

権力かっ!権力使ったのかっ!


「だからさ、俺のために男気見せろや」


「ひいいいいいいいいいいっ!」


そして、一つの空き教室に放り込まれたっ!

嘘だろぉ!?手荒い!!


「はい、レン確保~」


「ご苦労。扉封鎖しろ」


「了解」


俺が受け身を取って教室に滑り込むと、残酷にも、扉はガチャンと音をたてて施錠された。

退路をたたれた俺はじいいいと窓を見ていた。

窓までおよそ五メートル。飛んだら行けるか…?

いや、ここは奥義を使って…。


「考えてることマル分かりだから。取り合えず逃げるな」


「…はい」


ああ…。俺、今日死ぬんだな。

精神過労とかそんなので、多分。

なんか自然に正座取っちゃったよ、泣けるね。


「レン」


グルリと俺を取り囲む四人のイケメン。

ああ、集団リンチの被害者ってきっとこんな感じなんだ。

うん、リンチは駄目だ!


「ちゃんと聞け」


「…はい」


俺は正座してガクブルしながら、そろりと目の前の人を見上げた。

そこには、それはそれは黒おぉぉい笑みを浮かべた王子様、否。

王様がいらっしゃいました。怖い。


「久しぶりです、リーダー」


「ああ、久しぶりだね。レン?ずる休み一年は楽しかったかい?」


ゲホッ!ず、ずる休みけってーい!?

ちょ、ちょっと待った…。


俺はもう一度、目の前の人、俺の二つ上の先輩、ワルジェネリーダーの篠原しのはら 聖一せいいち、芸名は篠原しのはら ひじりを見上げた。

あ、目がマジでした。やめて。


「ずる休みってことになってるんですか?」

「メール一通で、ごめんなさい辞めます。これ、ふざけてる?ずる休みだろ。プロの自覚ある?家は面会拒否、いつの間にか引っ越してるし」


ゴゴゴゴ…!!と、何かがリーダーの後ろに…!!


「そ、それは確かに悪いと思っています!」


「取り合えず。その眼鏡取れ。話しにくい。アユ、没収」


「了解でーす」


またか!!眼鏡えぇ!!

しかし今回は取り返そうとすれば、この俺の蛇に睨まれたカエルの状況が悪化しそうなので、アユさんとの攻防戦は繰り広げないことにする。


「まあ、リーダー。そのくらいにしとけば?レンも多分反省はしてるんだろ?」


思わぬ助け船に、俺はここぞとばかりにブンブンと首を縦に振った。


「ね?」


「…正座解いて良し」


よっしゃあ!!ありがとカイさん!


俺を今救ってくれたのは、ワルジェネ随一のイケメンの暮谷くれや 海渡かいと、芸名は暮谷くれや かいりさん!一つ上の先輩。


あともう一人が、さっきからリーダーの言うことばかり聞いてるチャラチャラした俺をここに放り込んだ誘拐犯。

ワルジェネのメンバーの鮎川あゆかわ おさむ、芸名は鮎川あゆかわ トオル。

俺の二つ上。


で、ヨッシーもそこらへんでオロオロしている。

チクリ魔め。


「レン…。ごめん、僕、リーダーには逆らえないんだ…」


あ、俺もだ。そうか。

ごめんな、一瞬でもチクリ魔なんて思って…。


「で、皆さんはどこまで聞いてるんですかー」


やっと本調子で行けそうな俺はあぐらをかいて、みんなを見上げた。

げ。みんな、デカイ。


「お前がお兄さんに言われたことまで、恐らく全部だ」


リーダーが言った。全部かよ。

社長、俺にはプライバシー保護法は効かんのか。


「社長、バラしすぎ…」


思わず口に出してしまったらしい。

リーダーはクスリと笑って素晴らしい笑顔で言った。


「ああ、社長と一緒に総括マネージャー脅したら結構簡単にポロリと」


「何やったんすか!?」


総マネェェェ!!

チラリとヨッシーを見ると、ばっと視線をそらされた。

え、本当に何したの。


「まあ、彼も人間だったのさ」


完結させないでください、リーダー。

そして、リーダーは俺に言った。


「君の事情は大体知っている。それを踏まえた上で君に言う。…ワルジェネに復帰する気はないかい?」


それは、言われると思っていた。

じゃなきゃ、俺をここへ連れ込む目的が成立しないからな。でも、俺は。


「…無理、です」


俺は振り絞るようにして言った。

誰かが息を飲む音がした。だけど。


「それに、明確な理由は?」


リーダーの声が降って来た。

その声色は、怒りとか残念とかそんなものは無くて、ただ純粋に俺に聞きたいみたいだ。


だから、俺も心のままを言う。


「もう、歌いたくない」


「嘘っ!」


ヨッシーが俺に掴みかかって来た。ぐえ。


「あんなに好きだったじゃん!みんなにだって、レンの歌は認められてたっ!」


分かってる。

みんなの期待も、称賛も、嘘じゃなかった。


「ヨッシー」


俺はヨッシーの手を掴んだ。

ヨッシーがはっとした。


「ごめんな。やっぱ、俺には無理だわ」


スターってさ、選ばれた一人がなるんだ。

俺は選ばれなかった。なのに、でしゃばって。

それで他人に嫌な思いさせて。最悪だな、俺。


「頑張れよ、ワルジェネ。応援してる」


ヨッシーの手から抜け出すと、立ち上がった俺はリーダーと目を合わせた。

リーダーは無表情だった。

そして、アユさんから俺の眼鏡を取ると、俺に投げて寄越した。


俺は一礼してから、眼鏡をかけて、教室を出た。

戸をピシャリと閉めると、あとは一目散に走り出した。

これでもう、戻れない。



さようなら、ワルジェネ。


いつか、思い出に出来たらいい。


皆堂レンが笑い話にでもなってくれれば、きっと楽になる。


みんな、ありがとう。


絶対に、忘れることだけはしないからさ。



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