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ワンダフル☆ジェネレーション   作者: 品川恵菜
stage2:吉野影斗∪吉野御影
17/18

6、僕の色と、君の色

*翌日、レッスンルーム前にて



「あー…」


「ほら入るよ、レンちゃん」


「うーん、でもほら。なぁ?」


レッスンルームを前にして。

吉野と絶賛ケンカ中のレンは腕を組んで仁王立ちをしていた。

その眉は不安そうにへにょりと垂れているが。

そんな彼の背を押す彼のマネージャーは、困り顔だ。


「相変わらず、いざって時の思い切りが悪いんだから!!」


マネージャーの奈都乃は咎めるような口調で言う。


「だってさ、ヨッシーとケンカとか初めてだし。まさかこの歳で初ケンカとか…。仲直りって、どうすんの?」


「知らないよ~っ。でも篠原さんたちにも散々言われたんでしょ?レンちゃんたち、親友とかっていいながら、言葉が足りないんだよ。ほら、頑張って」


珍しく意気地の無い幼馴染みの背を、奈都乃は押した。

レンもまた、幼馴染みのエールに励まされたのか、足を一歩踏み出した。


レッスンルームの中に入って行く後ろ姿を見て、奈都乃は微笑んだ。


「さあ、仲直りの時間だよ」


***


「ふぅっ…」


キュッと足を踏み出し、そしてターン。

滴る汗をシャツの袖で拭う。

そんな僕の顔に、ばふっと白いものが投げ付けられた。


「…!?」


投げ付けられたものの正体は、タオルだった。

俺はタオルが飛んできた方向を見た。


「レン…」


そこには、仏頂面のレンが居た。

…まだ、怒ってるのかな。


「ヨッシー、頑張ってんのな」

「え、あ、うん…」


でも今のパートは、レンはもっとキレのある動きで踊ることができる。

いざと言うときに意気地無しな僕は、もっと言わなきゃいけない言葉があるはずなのに、口に出来ない。


「…ヨッシー、サビのこの動き、苦手なんだろ?」


レンはそう言って、僕が今踊っていたパートを踊りだした。

キレキレの文句なしのダンスだ。

これは、ダンスコーチの濱野さんが絶賛する訳だ。


「変わんねーよ」


ふいに踊るのをやめて、レンは言った。


「俺もここ、メチャクチャ練習したから」


それを聞いて、ああそうかと思った。

レンはちゃんと頑張っていた。

それなのに、僕はそれを全て才能のせいにして、レンの努力を認めてあげなかったんだ。

表ではレンの努力を誉めていても、裏ではただ、才能を妬んでいた。


「あのさ、レン。ごめんねっ。僕、怖かった。レンに付いていけなくなったらどうしようって、自分に自信がないのをレンに八つ当たりしてた」


ばっと頭を下げて言うと、レンが近付いてくる気配がした。

頭を上げようとすると、上からワシャワシャと、髪を掻き回された。


「え?ちょっ…レン!?」


困惑して名前を呼ぶと、レンの溜め息を吐く音が聞こえた。

そして、今度は無理矢理顔を上げさせられた。


「ヨッシー、いい人すぎだろ。ていうかさ、付いていけなくなったらどうしようって、それ、まんま俺の気持ちだし」


あきれ顔で言うレンは、腰に手を当てて僕を見上げていた。


「私情で勝手に休業して?歌もダンスも一から覚え直しで?その間にメンバーはソロでも活動してるし?」


レンは呼吸もなしに言う。

確かに、レンがそれを不安に思っていたことは知っていた。でも。


「怖かったんだよ、俺も。ワルジェネが、俺が居なくてもいいグループとして、完成されている気がして」


「それは違っ」


レンの言葉を否定しようとしたけど、僕は思わず口を閉じた。

だって、レンは、笑っていたから。


「うん、違った。お前も、皆も、待っていてくれたから。だから、嬉しかったんだぜ?お前に二人で歌おうなんて言われた時はさ」


レンはそう言って、照れ臭そうに「へへっ」と笑った。

ファンに人気なレンちゃんスマイルってやつだ。


いつだったか、誰かが言っていた。

レンは天性のアイドルだって。

その才能は勿論のこと、性格も偽ることなく純粋にアイドルとして受け入れられる、希有な存在だって。

そんなレンがソロじゃなくてグループで、孤立することなく活動出来るのは、親友の僕がいるからなんだろうねって。


「だからさ、ヨッシー。ごめんな。もっと話そう。で、最高の曲にしようぜ」


そう言ってレンはニカッと笑った。

―――そうだね、最高の曲にしよう。

努力しよう。もっと、納得できるまで。

自信を持てるように、なったなら。

憧れるだけじゃなくて、君と共に戦う人で在りたいから。


君の色と、僕の色。

混ぜればきっと、もっと大きな可能性を得られるよ。


***


*同時刻、レッスンルーム前にて


「どう、聞こえます?」


「いんや、さっぱり」


世間の女の子たちの憧れのアイドルたちが、扉の前で何とも珍妙な行動をしていた。

鮎川は扉に張り付き、その横で暮谷は体育座りをしてスマホを弄っている。


「で、カイちん何してんの」


「ブログの更新です。ファンからのコメントと俺の更新頻度が合致していないと、森坂さんに怒られました」


暮谷はそう言いながらスマホを操作している。


「因みにどっちが多いの」


それを聞かれ、暮谷はスマホから顔を上げ、チラリと鮎川を見た。

そして、フッと笑った。

それを見て、鮎川は悟った。


「俺、毎日更新してるのに…」


「所詮、人間は顔ですよ」


「君ねえ…アイドルなんだから、さらっと夢のないこと言わないでよ」


「大丈夫です、ちゃんと取り繕っているでしょう?プライベート仕様です、今は」


暮谷は再びスマホに目線を戻して言った。

鮎川はそれを見て、溜め息を吐いた。

ケンカするし、自由だし、自分の後輩は曲者が多いと思った。

そこで、シャッター音が聞こえた。

何かと思って音の出所を探すと、暮谷がニヤリと悪戯が成功したような表情をして、此方にスマホを向けていた。

まさか、と思った時には、暮谷は踵を返して走り出していた。


「皆大好き鮎川君の衝撃の趣味発覚って題名でいいですかね?」


走る暮谷にそう言われたところでハッとして、鮎川は追うために走り出した。


「ヤメテ!!覗きが趣味とかにされたら、俺のアイドル生命終わる!!」


バタバタと走るところで、曲がり角で腕を捕まれた。

誰かと思ってそちらに目を向けると、そこには絶対零度の微笑みを讃えた大王様が。


「廊下は走るな」


「ハイ」


敬礼でもしたいくらいである。

メンバーには、リーダー篠原の命令は絶対という刷り込みがしっかりと根付いている。


「全く、ワルジェネの後進も誕生するっていう話まで上がっているんだ。先輩として、しっかりしてくれないと困るよ」


「え、マジで」


「マジだよ。オーディションの案内がもうすぐ出る。うちのアイドル部門の企画の、NEXTジェネレーションプロジェクト、だったかな。うちのアイドル部門で新しく男性ユニットをプロデュースするらしい」


篠原の話を聞き、鮎川は目を輝かせた。

それを見て、篠原は彼を小突いた。


「ライバルが増えるんだよ?今まで以上に、皆には頑張って貰わないとね。特にお前は僕と同じ年長組なんだから」


それを聞いて、鮎川は笑みを深めた。


「勿論ですとも、セイちゃん」


そう言って、鮎川は拳を差し出した。

それを見て、篠原は苦笑すると、そこに自分の拳を合わせた。


「これから忙しくなるな。ところで、アユ」


「え?」


「何でさっき、走っていたんだ?」


「…あ"っ!!カイちん!!」


思い出した鮎川は、はっとして走り出そうとし、隣の篠原を見てまたはっとして、競歩という方法に出た。

それを見て呆気に取られていた篠原は一人になったところで、吹き出した。


「何だあいつは…っ」


「リーダーがそんなに笑うなんて、どうかしたんですか?」


そう声をかけてきたのは、鮎川が今追っている暮谷だった。

しれっとして篠原の隣に居る彼が鮎川の写真をどうしたのかは分からないが。


「いや…でも、そろそろ新しい風が吹くぞ。うちにも。うかうかしてられないな」


「…俺、今からボイトレしようと思ってるんですけど、どうですか?一緒に」


暮谷の誘いに迷う素振りをしてから、篠原は首を横に振った。

そして、暮谷に自分の持っていた資料を持ち上げて見せた。


「グループに来ている仕事の案件だ。ソロが多かったのが、最近またグループに来るようにもなってね。これから森坂さんと話をしてくるよ」


そう言うと、ヒラリと手を振り、篠原は踵を返した。

その後ろ姿を見て、暮谷は笑うと、レッスンルームに向けて、自分も歩き出した。

彼の先輩は、いつ見ても格好よかった。

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