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ワンダフル☆ジェネレーション   作者: 品川恵菜
stage2:吉野影斗∪吉野御影
16/18

5、伝えるということ

「本番三分前でーす」


「吉野さんスタンバイしました」


…どうして、こんなことになったんだろう。


僕は今、ラジオ局に居る。

これから、夜の音楽系ラジオの「FunFunMusic」の収録。

しかも、初回。

何故、こんなことに?


一時間ほど前に、レンとの喧嘩で落ち込んでいた僕は、瀬里の励ましにより復活して。

そこで自主練しようかと、音楽をかけようとした僕に、やって来た総マネの森坂さんが言った。


『吉野。今すぐ車に乗れ。移動すんぞ、仕事な』


いつもは優しいお兄さんの森坂さんが、ドスの効いた声で言うものだから、あぁ、元ヤンさんだという噂は本当なのかと思ったりして。

で、そのまま流されて気付いたらここに居た。


「…可笑しいよね!?」


「吉野煩い!」


一人叫ぶと、見ていた森坂さんに怒られた。

いや、可笑しいよ。説明されてないし、待って僕何したらいいの。


このラジオは、人気音楽の紹介をメインにしている。

本当は、うちの事務所のタレントさんのお仕事だった。

でも、まさかのブッキングが起き、手が空いてるうちの事務所の人を代わりに差し出そうとなり、僕に白羽の矢が立った。


やることは、注目な新曲や歌手の紹介。

毎回様々な特別コーナーも設けている。

今回はカラオケランキングトップテンの紹介。

音楽メインな分、トークは少ない。

でも一人で回さなくちゃいけないし、僅かにトークも入る。

因みにこれは、ファンたちのネットアンケートによって作られる。

番組作れるくらい集まるんだから、リスナーさんたちが沢山居るってことだよね。


「ラジオなんて初めてだ…」


誰にも聞こえないようにポツリと呟いた。

ラジオは音のみの情報で、聞き手を楽しませるもの。

ワルジェネにラジオの仕事が来ても、他の皆よりも格段にトークが苦手な僕には、それは回って来なかった。

だから、安心していたんだけど…。

まさか、ね。


僕は目の前の進行用の紙を見た。

始めに自己紹介。

その後に今期注目な新人歌手さんの紹介。

そして、カラオケランキング。


地上波とインターネットで配信されるこれは、当然、多くの人に聞かれる。

僕自身じゃないにしても、ワルジェネの知名度は高いし。

ナビゲーターは誰だか明かされていなかったらしく、そこは助かった。


「じゃあ、収録始めます!!」


そう言われて、僕は目の前のマイクに向き直った。

僕は、レンに憧れてる。

でも、それはファンとしてじゃない。

仲間として、一緒の舞台に立ちたいと、願うんだ。

だから、進まなきゃ。

得意なことも、苦手なことも、全部全力でする。

僕はすっと息を吸ってから、口を開いた。

大切な、ファンたちに語りかけるように。


「こんばんは。今週からスタートの、FunFunMusicの時間です。僕は、ワンダフルジェネレーションの吉野影斗です。この番組のナビゲーターをさせて貰うことになりました。宜しくね」


表情は伝わらないけど、でも笑顔で。

僕の笑顔が、元気をくれるって、そんなファンレターもあったと思い出した。


「この番組は、株式会社Funの提供でお送りいたします」


ちゃんとスポンサーの紹介して…と。


「それじゃ、早速行こうかな。始めのコーナーは、FreshMusic。最近要注目な新人歌手さんや新曲の紹介をするよ。今週のピックアップは、今年デビューした、シンガーソングライターのキャロルさんの新曲で『水色』。この曲は、夏にピッタリなサマーソングで、キャロルさんらしい爽やかな曲だと思うな。キャロルさんは幼少期、夏はお父さんの故郷のイギリスで過ごしていたらしいよ。だから、彼女の独特な夏への想いを感じ取れる作品だと思います。それじゃあ、キャロルで『水色』。どうぞ」


ここで、曲が入る。

良かった。キャロルさんって言ったら、うちの事務所のシンガーソングライターだ。

元々はネットで人気のあった人だったんだけど、うちの社長が自らプロデュースして、メジャーデビューしたんだよね。

だから、ネットでの活動期間も入れると、ある意味僕らよりも先輩なんだ。

本人はハーフさんで、事務所で会って話すとなかなか気さくな人なんだよ。

少し抜けてるところがあるけど…。あ、次か。


「じゃあ、次。人気バンドのmildさんの新曲で、『step by step』。これはデビュー十周年を迎えた彼らの記念の曲なんだって。十周年かぁ。僕らはまだ四年しか経ってないから、そう考えると、凄いよね。mildさんは言い表しにくい気持ちをはっきりと言葉にしてくれるから、僕も彼らのファンの一人なんだ。それじゃあまた早速。mildで、『step by step』。どうぞ」


mildは今人気の四人組のロックバンド。

デビュー十周年にもなると、貫禄がすごい。

音楽番組で会ったりすると、凄く親切にしてくれて。

俺たちは若手だからか、可愛がってくれてるんだ。


…あれ。みんな、知ってる。

そう言えば、俺は他のアーティストさんとの交流が多いかもしれない。

その理由は、思い返せばレンに近付こうとして技術を盗んだり、アドバイスを貰ったりしてたんだ。

音楽は良く聞く。

他のアーティストさんたちは、俺に無いキラキラしたものを沢山持っていて、惹かれるから。


もしかして、森坂さんが今日俺にこの仕事を持って来たのって…。

チラリと顔を上げれば、ガラス越しに腕を組んで僕を見守る森坂さんが居た。

…そっか。なんだ、そうだったのか。


レンはそのハイレベルな歌とダンスで引っ張る。

カイさんはその容姿や身のこなしをふんだんに活かして、皆の目を集める。

アユさんはそのトークで場を盛り上げる。

リーダーは、その頭のよさとリーダーシップで皆をまとめる。

そして、僕は…



『ヨッシーって、ファンサービス過剰だよな』


あるコンサートの後に、レンが僕に言った。

そこにカイさんも加わる。


『確かに。何気にアユさんよりもしてるよね。慈しむっていうの?』


『そうなんだよ、聞いてよこの子!握手会だと吉野っちのところで滞るし、しかもこの子、握手会の常連さんになると、顔と名前と趣味が一致するんだよ!?』


そう、アユさんが会話に割り込んできたっけ。

そして、リーダーが笑いながら言ったんだ。


『吉野の持ち味は、自然とファンに寄り添えることだろうね。一番、皆にワルジェネとはどんなグループなのかを伝えてくれる』



プロなんだ。ファンじゃ、駄目だ。

昔、自分にそう言い聞かせた。

このままじゃレンの隣に居られない。

そう、必死になって。

でも、そんなことをしているうちに、レンは長期休業に入って。

彼の抜けた、大事な大事なこの場所を守らなきゃと、僕はそのせいで、見失ってしまっていたんだね。


僕は、僕に出来ることは、伝えるということ。

最高なこのグループを、どれだけ、どんなところが最高なのかを、教える。

それが僕の仕事。


出来ないことをしようとするんじゃなくて。

出来ることを、探す。

だって僕らは五人居るんだから。補い合える。

だからワルジェネは最高なんだ。



収録が終わったスタジオで、僕は呆然としていた。

そうか、僕が、僕はすべきことは…。


「そんなに簡単なことだったんだね」


誰にも聞こえないくらいの呟きを溢し、僕は立ち上がった。


「吉野?」

「森坂さん、事務所のスタジオ、空いてますか?」


目を丸くする森坂さんに、問いかける。

レン、僕は逃げないよ。

しがみついてでも、君に着いていくと、決めたから。

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