九話
更新はないと言ったな
あれは嘘だ
ウワァァァァァ
触手を通して伝わるありとあらゆる味覚、硬く、柔らかく、トロリとし全てを溶かし、全てを吸収していく私の体。
体から出現しているのは数えるの億劫になるほどの触手の本数。
とは言ってもカウントはできる。
何しろ自分の体だ。自分の腕は何本だっけと考える人間はいない。
1e+19本だ。
わかりにくい?
10^19本だ。
まだわかりにくい?
10,000,000,000,000,000,000本だ。
1阿僧祇だ。
数が多ければすごい強い。小学生のような発想だ。
しかし真実だ。
凄い本数を増やせばもっと吸収効率が上がるだろうと調子に乗ったのがそもそもの間違いだ。
今の私の見た目は本体から伸びる触手のあまりの本数にトゲトゲをひと回りして触手が密集し巨大な丸い玉と化しているだろう。
吸収効率は上がった。それはもう格段に。
出した瞬間にありとあらゆる存在に触手は侵食捕食を開始した。
今まで吸収していた物は当然、地表面を掘り進んで地中へも侵食を開始している。
私の中では凄まじい速度で分析が行われている。
地面と言うものは素晴らしいものだ。
惑星自身がもつ重力や地殻変動、火山活動によってありとあらゆる岩石を豊富に含んでいる。
アプライト、エクロジャイト、塩基性岩、角閃岩、火山砕屑岩、火山弾、火成岩
キンバーライト、玄武岩、スカルン、スコリア、デイサイト、ドレライト
あげ出すと切りがない。本当に。
身を包む全能感と幸福感。
あいにく生命体以外を吸収しても私が増えるといったことはないが、何らかのストックが溜まっているといった感覚を体に覚える。
もう一体の私(以下私2と呼称する)も同様に侵食を開始している。
距離はかなり離れている、感知した限りでは500私単位程か。
しかしどういうことなのだ。
何がって私と私2は現在乖離を起こしている。
にも関わらず私が感じる感覚は私2が吸収しているものも同様に吸収しているように感じることができる。
つまり二箇所で別々の掃除機を掛けているのに、集まるゴミは一箇所ということだ。
不思議な体だ。今更ではあるが。
触手の先から捕食を開始するので所謂口へと食事を運ぶ必要がない私は触手を物体に触れさせるだけでいい。
地表をなでるように現在も何千本もの触手が捕食している。
黒い波が地表を覆い隠している。
その下では地表へと掘り進む私の触手が存在する。
満腹を感じない私。
郡として活動できる私。
捕食形態に適した私。
正しく捕食者として最適な私である。
おそらくこの体は満腹といった感覚を感じることはないのだろう。
入れれるだけ入れ、生命体であれば私と同化し、どんな物質であっても分解できる。
ああ。
素晴らしい。
素晴らしいな。
そう思わないか私よ。
(思っているよ私よ。)
私と同化しようではないか。
きっと素晴らしいぞ。
だってこんなにも幸福なことはない。
須らく自我を持つ生命体ならば考えたことはないだろうか。
永遠の命をと。
郡である私に取って命とは。
同化し私が増える私にとって命とは。
代替が効く消耗品でしかないのだ。
言うなれば私以外の物質はエサだろう。
エサは食べられる運命にある。
そうだろう私よ。
(その通りだ私よ。)
そうなのだ私と同化し私となればすべてが分かる。
宇宙を知ると言ったな。
あれは嘘だ。
宇宙が知るのだ。私を。
私となった存在は私には理解できる。
ならば私になるべきだろう。当然の帰結だ。
祝福すべき最初の惑星は君だ。
火山と溶岩に覆われた君だ。
その為に私は全力で君を食べよう。
何遠慮することはない。恐ろしいことなどないのだ。
体から生み出される分体の私を祝福しながら私は歓喜という感情を発露させた。
私たちよ。
私たちを増やすために私たちは食べよう。
(なるほどなるほど。)
生み出した私は私ではあるがこれからマザーと呼称する。
(了解したマザー。)
これは単純に第一に発生したのが私であるからだ。
(我らはドータと名乗ろう。)
なるほどマザーとドータ分かりやすい関係であると思考する。
全ての存在よ
全ての次元にまたがって
私が君たちを食べに行こう
宇宙の片隅の誰も観察していない。
誰も祝福していない生物がここに誕生した。
岩石引用はwikipedia先生にご協力を頂きました。
ド田舎で俺は世界を制すると叫んだ子供がいたとさ。
触手の本数など適当なのです
私の誕生日の乗数です10月19日だから10^19本なのです。
私の誕生日が1月1日なら1^1本だったのです。
嘘です。