六話
未知ってすごい
無知ってむごい
既知ってつまらない
でもきっと世の中未知だらけなんだろう
気付いてないだけ気付きたくないだけ
火口付近に大きさ約0.1私単位くらいのその生命体は郡をなして生息していた。
感知した限りでは動くのは触手部分だけであり、その下の岩石部分は癒着しているようだ。
「・・・」
そっと私の触手を近づけてみる。
イソギンチャクの触手は近づく私の触手に気付いたのか漂わせていた触手をまとめ合わせ岩石部分へと引っ込んでしまった。
ほうほう。面白い。
感知範囲内に私以外の生命体はこのイソギンチャク以外には存在しない。
つまり外敵となる生命体が存在しないにも関わらずのこのイソギンチャクは自衛手段を持っているのである。
自衛手段を持っているということは外敵が存在するということだ。
でなければ自衛を行う必要性はない。生命体が持つ機能には須らく必然性があるのだ。
必要でない機能は退化し、なくなっていく。
いやそれは退化ではなく環境に即した進化というべきか。
ここでこのイソギンチャクを捕食することも簡単だ。しかし外敵が存在するとなればその存在を確認してからでは遅くはなかろう。
私が近くに存在していては外敵は姿を見せぬだろうしイソギンチャクも活動を再開しないだろう。私は体を浮かせて火口を感知することのできる少し離れた岩の影へと身を寄せた。
視覚による感知方法を取っていないからこそ影にいながらにして対象を感知、監視することができるのだ。すばらしいぞ私の体よ。
しばらくするとイソギンチャクは活動を再開した。
私も何をするわけでもなく転がっている岩やチリを食べながら過ごした。
・・・・ゴゴゴ・・・ゴゴッゴゴ
「・・・・・・・・???」
大きく響くような地鳴りが聞こえると同時に地面が揺れだした。地震だ。それもかなり大きな。
私は浮遊しながら火口と地表面の観察を続ける。
これほど大量に活火山をもつ惑星なのだ地震やら地殻変動はいつものことなのだろう。
地鳴りがしばらく続いた後に火口から大量の溶岩と宇宙空間まで噴出する火山ガスが発生した。
なるほど、なんと言うことはない。考えれば当たり前のことなのだ。
外敵というのはこの惑星自体であった。活火山によって頻繁に起こる火山ガスの噴出から身を守る為にあのイソギンチャクは進化したのだろう。
真実はいつも単純なのだ。
未知は解き明かされた時点で神秘ではなくなる。
なるほどなるほど。
私は自身がもったまだ見ぬほかの生命体を期待したがその期待は裏切られた。
しかし、特に思うところはない。
これもまた面白い現実なのだ。
さもありなん。宇宙において生命体を見つけるということが極めて、極めて珍しいことなのだ。ならばこのイソギンチャクと出会えたことは僥倖に他ならないではないか。
それ以上を望むことはわがままというものだろう。
では真実を解き明かしたところで。
食事の時間だ。
私は火口付近に存在する彼らの内のひとつに触手を伸ばす。
彼らは触手を引っ込めるが私はその上から袋のように包んでゆく。
触手は細くしようと思えば目に見えぬほどまで細くできる。地表とイソギンチャクの癒着面に浸透し、完全にイソギンチャクを包み込むとそのままはがし捕食を開始する。
私にとって捕食は取り込めればよいのだ、今までどんな硬いものであっても体内に入れさえすれば分解を行えた。今回も特に問題はない。
「!!!!!」
こ、これはうまい。いやはや自分の語彙の少なさが恥ずかしい。うまいとしかいいようがなかった。今まで食べたどんな岩やチリよりも美味であった。
触手は見た目は柔らかそうであったが実際はケイ酸化合物だ。
外はぱりぱりとした触感で中はぷりぷりの同じく液体化したケイ酸化合物でできている。
下の岩石部分も外側は見た目どおりの岩石なのだが中は保護されていたのかとろっとした溶岩と地表面を構成している鉄やニッケルが含まれていた。これがまたうまい。
言うなれば上はカニ、下はカリカリのパンで包んだグラタンのような感じだ。
生命体故なのかそれともこのイソギンチャクだからなのか解からないが。
そんなことはこのうまさの前にはどうでもよかった。
私の体は取り込んだ次の瞬間から他の群生しているイソギンチャクを捕食に掛かっていた。完全に無意識だ。これが体が勝手にというやつなのか。
分析した結果彼らは珪素生命体なのだろう。
火口から噴出される二酸化ケイ素を触手で採取し体内で精製分解できるようになった生命体だ。
この火山惑星において動かず、惑星内で自動的に精製されるエサを定期的に捕食でき。かつ自身を捕食する外敵が存在しない。すばらしい進化を遂げた生命体である。
繰り返すがすばらしい。彼らの始祖がいつ生まれたのか解からないが、彼らは長い年月を掛けてこの進化を遂げたのだろう。
いいものを見た。そしておいしく進化してくれてありがとう。
私のお腹で私と同化するがいい。
もうしばらくこの惑星にいよう。
だってまだ食べたりないじゃないか。
そして食べ終わったら、試したいことがあるんだ。
きっと素晴らしい。きっとおいしい。きっと私のためになる。
彼女に他者を食べることによっての罪悪感はない。
だって同化するのだ。
何も怖くない。