十九話
捕食開始
---マザー---
感知内を航行している彼らと接触する為にはどうしたらいいだろうか。
まず第一に知的生命体が未知と出会った時感じることはなんであろうか。
例えば君が旅をしていて黒い球体が目の前に現れたらどうだまず近寄ろうとは思わないだろう。
不信と警戒を持つことは自身の保護行動として正しい。
ではどうしたらいい。旅人が旅先で会って警戒しない遭遇とはそれは同族と会うことだろう。
幸運なことに私にとって物体の造形などどうとでもなる。
完全に同じ形だと不自然だ。
X線による透過を行い内部構造を解析。
同系統の構造となる様に少しいじる。解析が行われた場合不自然に思われない為だ。
私は自身の技術で宇宙に進出した存在を侮ったりはしない。私がX線による透過を行えるのだ類似の技術を保持していると考えるのが適当だろう。
そしてイメージを固め、再構築を行う。
デブリ帯には彼らの様な楕円形ではなく細長い長方形で彼らのデザインを真似た様な所々が角張った形をしている。
完璧だ。
我ながらいいセンスだと思う。
接触計画はこうだ。
生み出したこの物体(以下船)に私を紛れさせ彼等の近くに漂流させ接触を図る。
簡潔でわかりやすいだろう。
早速行動に移そう。
時間は少し巻戻る
---ヘッケベルト中隊長---
「亜空間フィールドを抜けます。ジャンプ終了。各部チェック開始。…各部異常なし。エンジン安定。」
部下がチェック報告を淡々と行う。
「ご苦労。干渉域までどれ位だ。」
コーヒーを部下に前に置きそう尋ねる。
「ありがとうございます。巡航速度でおよそ30時間ほどです。」
コーヒー片手に艦長席に戻りつつ指令書に書いてある通りの指示を飛ばす。
「干渉域に到達後、感知波による探査を実行せよ。」
「了解です。」
ディスプレイには漆黒の海が変わらずに表示されている。
そうしていると副官が近づいてくる。
「艦長。」
「どうした。お前もコーヒーか、あいにく男にコーヒーを入れる趣味はないな。」
部下の肩がピクリと動いた気がするが気のせいだろう。
「コーヒーではありませんよ。交代の時間です。お休みになってください。」
なるほど確かに丁度航路の半分を来たところできりがいい。体も中々硬くなって来た所だ。
「やっと寝れるな。異常があれば知らせる様に。」
「分かってますよ。まぁ特に何も起こらないでしょう。定時報告の際にアラームをお鳴らししますのでこちらの方まで。」
「はいはいっと。」
軽く連絡事項と引き継ぎを行い俺は部屋まで戻り睡眠を取った。
暫く時は過ぎる。
---ウィリス中尉---
私たちがその反応をキャッチしたのは干渉域まで後およそ半分といった所だった。
私は艦長と交代し巡航速度で進む船を副艦長席で確認し、残っていた仕事を片付けていた。
私達の艦は近隣のデブリ帯の進路予想を行いながら航行している。
当然艦に当たる可能性があるデブリを事前に知る為である。
そうしたデブリ反応の中に一際巨大な反応を示すものが現れたのだ。
その反応は近隣のどのデブリ帯よりも巨大な反応を示し、かつゆっくりとではあるが私達がこのまま航行を続ければ進路と交差する可能性があることが判明している。
宇宙はその性質上大部分が謎に包まれている。多様な種族が惑星間移動を可能にし跳躍航法まで編み出したにも関わらず未だ宇宙の全体図は把握されておらず現在も新物質が発見される有様だ。
そうした中でどのような物質で構成されたかわからないようなデブリとの交差は、例えぶつかりはしなくとも至近距離で通過すること自体が危険であるというのが宇宙航行上の鉄則だ。
君子危うきに近寄らず。
昔の人はうまいことを言ったものだ。
何はともあれ件のデブリを詳細に調べ必要なら航路の再決定を行えばいいだろう。
そうして考えたのが数時間前。
各種感知波の範囲内に反応が入ったのを確認し、観測を行った私達に突きつけられた現実は到底認められないものだった。
「なんだ…これは…」
ディスプレイに表示された観測結果を眺めながら私は愕然とした感情に囚われていた。
そのデブリは明らかに手を加えられた物だ。
いやもはやデブリとは言えまい。
完全に船の形をしたその物体は静かにこちらへ向かって来ていた。
「艦全長およそ250m、巡洋艦級です。艦識別コードに登録なし。こちらからの通信に返答なし。生体反応なし。熱源反応なし。しかし内部にはこちらと同技術をもって作られたと思われる構造体が多数存在しています。」
何を言っているんだ。部下の報告は私には現実感が全くともなっていないように聞こえた。
ここは未到達地域だ。
そこに私達と同じ技術をもって作られた船が宇宙の向こうからやってくる?
何の冗談だ。
しかも識別コードに反応もしない。
つまりは誰にも知られることもなく建造し、この宙域までジャンプしたというのか。
不可能だ。大航海時代とは訳が違うのだ。
現在のどの惑星であろうと秘密裏に船を建造することなどできまい。
保護下にある惑星には尽くセーフティネットが張り巡らされている。未登録の船の一隻でも出港しようものならすぐさま公安が動く。
かと言って未開拓の惑星に工場を建築し船を作り上げるなどコストパフォーマンスの面では最悪だ。しかもこうして未到達地域に飛ばす理由がなさ過ぎる。
デブリであれば回避すればいいだけであるが、完全に船である。無視はできないだろう。
「艦長に判断を仰ぐしかあるまい。」
私は手元にあるコンソールを操作し艦長に連絡を行った。
---中隊長---
俺は眠気まなこを擦りながらブリッジへ向かっていた。何でも船の形をしたデブリが向かって来ているらしい。
「全く今回の任務は面倒なことばかりだ。」
ぼやきながらブリッジへ入るとすぐに副長がよって来る。
「お休みのところ申し訳ございません。こちらをご覧ください。」
そうして見せてきたのはデブリの観測結果が表示されたディスプレイだ。
「大きさは巡洋艦級。熱源反応はない為何らかの生命体が存在することはないでしょう。」
つまり完全に死んでいるってことか。
「航路とは重なるのか。」
「そうですね。およそ10時間後には我が艦に接近し交差するものと思われます。」
ガシガシと頭を掻きつつ副長に言う。
「未到達地域において、他文明や生命体の痕跡や発見できた場合、詳細に探査を実行し、報告せよ。建前上の任務がまさか本当に実行されることになるとはな。」
艦長席にドスンと心なし肩に重しが乗ったかのように座ると副長が進言して来る。
「調査隊を派遣するに伴い私が隊長として率いたいと思いますがよろしいでしょうか。」
未知に弱いこいつのことだ志願して来るだろうとは予測していた。
「いいだろう人選は任せる。」
了解しましたと返事をした副長が人選に行くのだろうブリッジから退室していく。
「これより我々は未確認物体の探索に任務を切り替える。観測班は観測を引き続き行い変化があればすぐに報告。進路このまま。」
そして10時間後俺たちはその物体と遭遇した。
「流石に250Mはでかいな。」
俺たちの船は100Mちょっとの大きさだ。
「牽引ビーム発射。」
「牽引ビーム発射します。」
俺たちの船から緑色のビームがあの船に伸びていく。
自由軌道を取っているデブリなので特に抵抗もなく俺たちの船に引き寄せられてゆく。
「物体との距離5000。5分ほどで牽引完了します。」
部下からの報告を受けつつ指示を飛ばす。
「距離500でアンカー打ち込み後接舷。」
「了解しました。」
コンソールを指示しブリッジの大型ディスプレイに探査船に乗り込んだ副長へ通信を繋ぎ映す。
「準備はできているかウィリス中尉。」
「はい。調査隊4チーム以下12名準備完了しました。」
「よし。おまえら、未到達地域での初の上陸探索任務だ。何があるのか分かってもいないくれぐれも慎重に探査を行え。」
「了解です。」
各員の頷く姿を確認しつつ最後の指示をする。
「最後の確認だ。調査時間は24時間、安全を確認しつつ進め。不審物を発見した場合はウィリス中尉の指示に従え。時間合わせ3.2.1.今。では各隊発進せよ。揚陸廷パージ。」
「揚陸廷パージします。」
後尾下部の展開しているハッチから小さな揚陸廷4機が発進していく。
「無事に帰って来いよ。」
俺は進んでゆく4機を眺めてながら敬礼をした。
---マザー---
彼等が生み出した私の船に乗り込んで来る。
どうやら四箇所から侵入し中央を目指しているらしい。
生み出した船自体が私と同格の意識を兼ね備えている。彼等の行動は私にすべて筒抜けというわけだ。
12名いるが彼等はその骨格から同一の種族のだけで構成されているわけではないようだ。
手足が4本ずつあるものや身長が極端に小さいものもいる。
彼等を観察するだけでも分かることは数多い。
彼等は他種族間でのコミュニケーション手段を有しているということ。
また他種族が共存を可能にしているということは、そういった共存環境を彼等の船もしくは本星は持ち合わせているというこど。
まずは彼等のうち一人を私に同化するべきだろう。
これまでの実験から生命体に関しても問題なく生み出すことに成功している。
彼等のうち一人を同化し、私の一部としたその者を彼等に合流させ交流を図ろう。
半分に別れて調査しているので片方の一人を同化させてみよう。
---調査隊の一人---
船の外殻をレーザーカッターで切り抜いた俺たちは慎重にその内部へと入り込んだ。
入った場所は全く光はなく何処までもツルツルとした廊下が続いている。
「よしレーダーに異常なし。ではここで近辺の調査を行う。二人一組で調査に当たれ。くれぐれも慎重に行うこと。時間は一時間だ。その後中央へ進む。」
「了解しました。」
そうして俺たちは二人一組で調査を開始した。通路には小部屋が幾つもあり、中には何もない部屋や俺達が使うような机の形をした岩や本棚のようなものも存在した。
「おいゲノスどう思う。」
俺は調査端末をいじりながら相方に訪ねて見る。四つの手を持つ彼は多肢種の一人だ。
「どうもこうもお前、これが自然物に見えるのかよ。」
大げさに三つの手を振り一つの手で机のような物を叩きながら言う。
「全く見えんね。だがどうにもおかしい。何だってこんな未到達地域に船があるんだよ。」
どう見ても自然物ではない。心の何処かでただのデブリなら良かったのにと思っていたのだが現実は厳しいようだ。
「そんな物は頭のえらーい奴らが考えればいいんだよ。俺たちは端末をぴぽぱっとすればお金がもらえてラッキーラッキーだ。あいつらは大好きな未知が見れてラッキーラッキーだ。どうだ世の中簡単だろう。」
そりゃそうだ。
「ま、そうだな早いとこ終わらせて船で酒でも飲もう。」
「わかってるじゃん。んじゃお前あっちの部屋頼むわ。別れた方が早く終わって隊長にも褒められてボーナスでるかもな!ぐふふ」
通路の少し行ったところにある小部屋を指差しながらゲノスは笑った。
「あの硬い隊長が奢ってくれるかよ。まぁいい調査はきちんとするんだぞ。」
「オッケーオッケー分かってるって。」
「全く。」
ヒラヒラと手を振るゲノスを尻目に俺は言われた小部屋に入った。
そこは先ほどの部屋より少しばかり大きい部屋だった。
部屋の中央に歩き、手元の端末を操作する。
-----ピピ------
小さな電子音と共に探査結果が表示される。
「特にめぼしいものはなしか。さてと。」
そうして先ほどと同じような探査結果に少しばかり落胆しながら振り返った俺は信じ難い物を目にする。
「え…」
なかった。
そこにはあるはずの出口が存在していなかった。あるのは黒い外壁と同じような壁がその入ってきていた入り口部分に存在している。
「ばかな!?」
ダッと壁まで走り入り口があったであろうところにある手を這わす。
「一体どうなって…」
ザワリと背中を嫌な汗が流れるのを感じながら強く壁を叩く。
「おい!ゲノス!!聞こえるか!ゲノス!!」
大きく声を上げるが無線からは返答がない。
「馬鹿な…なぜ繋がらない…」
俺たちが使っている通信手段はGGTと呼ばれる空間波長連動型短波通信と言う物だ。簡単にいえば固定された空間短波波長による通信で短距離通信としては最も確実な通信手段とされている。通信間でどのような障害物や電磁波が存在しても繋がるはずのその通信はエラーを返して来る。
「まさか…」
考えたくはないがこの部屋が隔離されているそれも次元レベルで。
「兎に角なんとか連絡を。」
そう思った時だった。
ゾワッと背筋を強い悪寒が襲う。
「!!」
バッと振り返り咄嗟に壁に背をつけて辺りの様子をうかがう。
しかしそこには何も存在していない。
安全を確保しつつあたりをうかがうにはこの様に壁に背をつけて行うことが大事であるが、今回ばかりはそれが仇になってしまった。
「ふぅ。」
一息ついて落ち着こうと思ったその時。
背中が壁から離れない。
「なっ!?」
俺の声はそこまでだった。
壁から黒い触手が現れ俺を包む様に壁へと取り込まれていく。
そうして俺の意識は途切れた。
---マザー---
二人で探査していた内の一人を二人が別れた時を狙って捕食してみた。
その時私を襲ったのは衝撃だった。
彼等の持つ技術や知識、記憶に至るまで全てを私は吸収した。
特にこの技術に関しては驚きが隠せない
。なんとこの宇宙において私の様に生存可能域を増やして調査を行っているらしい。
特に言語と言われるこのコミュニケーション手段は素晴らしい。
統一された言語を用いることで言語形態が異なる複数の種族間でのコミュニケーションを可能にしている。
やはり単一種族で言語によるコミュニケーションを必要としない私とは違う進化を遂げた生物たちの様だ。
一般的な知識や専門的な知識などは穴抜きの様にチグハグではある。
知識を増やし補完するためにも複数の生物の捕食が必要だろう。
捕食した彼を再構築させる。
彼としての意識を持った私の一部となった彼を。
そして私を彼等の中で増殖させて行こう。
通信手段うんぬんは適当です。
あとすごく中途半端なんだこれ。
でも許してスマホ書きにくいの。
引っ越しがもうすぐ終わるのでパソコンでやれるまでここまで。