十六話
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情報の更新作業が終わり、分体の私たちも活動を再開した。
マザーである私はというと、分析した情報因子の解析と大質量を吸収した私の体について思考を巡らせていた。
大質量であるあの穴を吸収した私だがそれでも満腹という感覚にはなっていなかった。
今更ではあるが私が吸収したそれらの物質はエネルギーに変換されどういうふうに保管されているのだろうか。
まず考えられるのは体内で何らかの栄養素へと変換されているのか。
それにしては私の体はエネルギーを消費して動くような体ではないと思う。
あの穴のように際限なく吸い込み自身の質量を増大させていくような感じではない。
私という存在は生まれた時からその質量自体は変わっていないように思われる。
触手を生み出すとき、分体を生み出したとき確かに質量は増大しているはずなのに、格納または同化したとき、私は一つの時の私と同質量となっている。
同じ私に吸収されているはずなのに私という質量が増えない理由が別の場所に保管していると感じていた感覚なのだろう。
ではどこに保存されているのか、そんなものは知らない。感じられるのは同じ三次元空間上に存在はしないということくらいか。
エネルギーとして保存が行われ、私の要求に従って、エネルギーを再構築、質量体として私が呼び出している。そんなところだろう。
そこまで思考を巡らせた私はある結論にたどり着いた。
つまり私が要求する存在としてエネルギーが再構築されるならば、どんな形、どんな存在でも再構築が行われるのだろうか。
物は試しだ。
今まで散々吸い込んできた岩を一つ適当にイメージし体から出してみようと考えた。
するとどうだろう体から何かが生まれる感覚と共に私の背面から岩がせせりだしていた。
無骨なただの岩のイメージだったので丸いただの岩として出てきたが、どうやら正しい形のイメージを持てば鋭い刺のような形にも出来た。
また吸い込むのが面倒でやらないが、恐らくあの穴も再構築できるものと思われる。
あらゆる物質を再構築できるというのは素晴らしい汎用性だ。
なるほどなるほど。便利じゃないか。
次に私が思考したことはあの穴から得られた情報についてだ。
特に大事なのはあの穴が持っていた大質量故の強大な引力とそれに伴って行われた空間の歪曲。
まず空間を捻じ曲げることで違う場所と場所を結びつけること。
言うなれば長方形の立体物を、端と端が上下に重なるような感じで空間が捻じ曲げられる。その上下間にあの穴の引力によって無理やり通じる穴を作り出す。
その穴を通ることによって傍から見れば長方形の端から端へ瞬間移動したように見える。
一般にワープやらワームホールやらと言われているような現象だ。
確かにこれを使うことで光より早く宇宙をめぐることができる。
なるほど便利だが、これを行うにはあの穴の再構築を逐次行わなくてはいけない。
急ぎの場合のみの使用ということになるだろう。
考察を終えると解ることがある。
まず先ほど私は目標の第一が達成できたと考えたが、あくまで解の一つではあるが利便性の面では正解とは言えない。引き続き目標の探索を続けるべきであろう。
未だ分体からは芳しい報告はない。
感知外で判断はできないが、渦を巻いている星の纏まりが存在しているのが見て取れる。
この宇宙をあてもなく彷徨うよりあの星団を旅する方がはるかに有効であろう。
あれだけの輝きを持つのださぞいろいろな存在がいるのだろう。
楽しみだ。
分体を飛ばし、同時に私自身もめぼしい星団へと体を進ませてゆく。
新しく生まれ変わった私の初めての大きな食事だ。
エネルギーを消費して再構築させるのだからエネルギーが多くあることに不満はない。
より多くより貪欲に。
これこそが私のあり方だ。
初めまして。
そしていただきます。
出張終わり。
でも不定期更新は変わらない。