十話
食欲に勝る欲はない
赤熱した惑星を黒い波が覆い尽くしてゆく。
分体を生み出し続ける私は眼下に広がってゆく私達を見つめていた。
この星と共存し進化を共にしてきた生命体を吸収し、その生命体によって私が精製され、同化し分化し新たなる生命体となって生まれた私が生命体の母たる惑星を蹂躙してゆく。
なんとも皮肉なことだ。
自分を糧に作られた者で自分の生きるべき場所を奪われるのだ。
私達は地中深くまで浸透を始め、惑星の外殻たるマントルを突き抜け、内核部分までも捕食活動が行われている。
あらゆる場所で行われる惑星への侵食活動とともに活発を極めてゆく火山活動。
天変地異というべき惑星をも揺るがしているのではないかと思われる大きさの噴火や地震が引き起こされる。
ああなるほど。私には感じられる。
噴火や地震など外要因によって自身の身が危険に陥ったときに保護作用が引き起こされているようなものだ。
しかしそれはきっと惑星の悲鳴であり、抵抗であり、軋みなのだろう。
素晴らしい生の在り方だ。
唯のデカイ岩ではない。貴方は立派な母であった。
少なくともイソギンチャクにとっては貴方は母であった。
私のエゴによって貴方は私となる。
許して欲しいなどと言わない言うものか。
食欲のままに、蹂躙し捕食し、私としたのだ。
ならば貴方は私のものだ。
私となって生きるがいい。
宇宙から見れば不気味なほどゆっくりなのだろう。
しかし、私は凄まじい速度で惑星を覆ってゆく。
分体達はこの惑星の裏側からも侵食を行っている。
もう終わる。
私の初めての星が終わる。
私が終わらせた星だ。
そうして。
赤熱した惑星は黒天となった。
・・・ザザ・・・ザザザ・・・
(アロー私。)
アロー私たち。
こんにちは私となった私よ。
黒天と化したその惑星を眺めながら私は思考する。
この星が第一の捕食先であった事は私たちにとって幸運だった。
それも凄まじい幸運だ。
あの流星となった岩が偶然私の傍を過ぎなければ
この星を私が運良く見つけられなければ
この星にもし生命体が存在しなければ
現在の私たちは存在していない。
凄まじい確率だ。
あの黒天はかつての赤熱の星だ。
私が奪った。
しかし私たちは与えれた。
私たちが存在するのは間違いなく彼女のお陰だ。
母というのが私を生み出したものならばそれは宇宙自身であろうが、私たち分体の母はあの星だ。
糧となったものには感謝を。
黒天と化した惑星から分体達が引き上げ始める。
捲られた地表とまさに本能のおもむくままに捕食が続けられたのだろう、凸凹となりマントル部分までもが露出している場所がいたるところに見られる。
宇宙空間で一つになった私は糧となったその惑星に対して最大の敬意を表する。
ありがとう。
私たちの糧になってくれて
私たちとなってくれて。
ごちそうさまでした。
ごちそうさまでした。
母は偉大である。