第一章:真夜中の神社にて・上
火曜日夜十二十分。現在の時刻だ。
僕達は、住宅街を歩いていた。さすがに出歩いている人もいない。
様々な家を通り過ぎて行く。黄色い光が漏れている。中にはどんな家族がいるのだろう。
「ねえ」
隣を歩く凛が、不意に声をかけてきた。いるはずのない他人を警戒してか、音量が小さく少し聞き取りづらい。
「何?」
「帰りに図書館に寄って調べたんだけどね、こっちに神社があるでしょ。二丁目までは、神社を抜けた方が早いんだけど、どうする?」
マメな奴だ。その情報はありがたい。心の中で、彼女に少し感謝した。
「どうするって、そっちが近いんなら、通ればいいじゃん」
すると彼女は、思いっきり嫌そうな顔をした。
「え〜、神社だよ。夜中だよ。何が起こるか分からないんだよ」
要するに怖いらしい。
アホかコイツは。ならわざわざ言わなければ良いのに、と突っ込む。
雉も鳴かねばなんとやらだ。
「怖いんだろ、桜庭」
僕は、からかい混じりに言ってみた。すると凛は、声のトーンを上げながら、ムキになって反論してきた。
「こ、怖くなんか無いよ。ただその……ほら、変質者とか。神社ってよくいるらしいよ」
「はいはい、そんな事実はありません。ほら、行くぞ」
「あ……待ってよ。お願い、いつもの道で行こ?不審者がいたらどうするの」
「俺がいるだろ。何とかしてやるから。――神社ってこっちだよな」
僕は凛をなだめすかして、ようやく神社へ向かう事に成功した。
彼女は最後にこう言った。
「もう、どうなっても知らないよ」
後に僕は、凛の言う事も聞いておけば良かったと、後悔する事になる。
「ねえ、どう?何か見つかった?」
あれから僕達は、夜の神社を通り抜けて、ここ――二丁目のとあるゴミ収集所までやって来た。明日が不燃物の収集日なので、それなりの数のゴミ袋が置いてある。
ちなみに例の神社では、凛のヤツが帰ろう帰ろうとうるさかったが、ここではその事は割愛しておく。
「う〜ん、こんな所。今日はロクな物が無い」
僕はそう言って手の中にある、先程まではゴミだった物を差し出した。
壊れた懐中時計(これ位修理できる)、ネジとボルト数個(何かの役には立つだろう)、汚らしいホース(元持ち主は洗い方を知らなかったに違いない)。これが今夜の収穫だ。
「お前は?」
僕が尋ねると、凛も、
「私も今日はあまり……」
と言って、手のひらを差し出す。
途中で折れてしまっている消しゴム(それ位買えよ!)、水色の小さなガラスビン(それで何するんだ!)、ヘアピン数個(使うつもりか?!)。
……他人の事って分からない。取りあえず言いたい事は沢山あったが、毎度のようにそう締めた。
「……帰るか」
「……そうだね」
「こんな日もあるさ……」
「だよね……」
互いに今日は厄日らしい。
満足は出来なかったけど、僕達はゴミ収集所を後した。