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序章

「ねえ、今日は暇?」

 声と共に、僕の机に白い手が置かれる。

 HRが終わって、徐々に人口密度が低くなりつつある教室。

 教科書類を無造作に机の中に放り込んでいた僕に、桜庭凛が話しかけた。

「何?」

「だから、今日は暇かって聞いたの」

 凛の肩にかかっていた髪が一房、はらりと落ちる。僕はそれを目で追った。


 じゃあね。またね。最後の女子達が、喋りながら出て行く。その声と足音はだんだん遠ざかっていき、2ーCの教室には、僕と凛だけが取り残された。窓から見えるグラウンドでは、練習着に着替えた生徒達が、部活動の準備を始めている。

「ああ、そう言えば今日は火曜だっけ」

 そうだ。すっかり忘れていた。今日はアノ日だ。

「うん。今日は晴れているし、丁度いいんじゃないかな」

 彼女は頷いた。僕は立ち上がりながら言う。

「分かった。じゃあ十時にいつもの場所で」

 僕は随分と軽くなったリュックを背負った。あんなに重いものは持ち運びたくない。そして足早に教室を出る。凛と一緒にいる所を見られるのは勘弁だ。

「遅れないでね」

 殆ど教室を出かかっていた僕の背中に、凛が言った。

「……前回遅れたのはお前だよな」

 教室を出る前に、僕は一言言っておいた。凛も何か言い返したようだが、聞き取れなかった。



 人間の趣味は、実に多種多様だ。それはスポーツだったり、映画鑑賞だったり、好きな物の収集など。

 そして中には、犯罪まがいの趣味まである。僕の知り合いにも、公園で遊ぶ幼児を観察するのが趣味という奴がいた。

 しかし僕には、他人をとやかく言う資格なんてない。僕の趣味だって、決して褒められるものではないからだ。

 それは凛にも当てはまる。



「遅い」

 そっと呟いてみる。

 約束の十時。待ち合わせ場所に凛の姿はまだない。ちなみにここは、桜庭家から約二十メートル程のコンビニ駐車場。(僕はいつも現地集合にしようと言っているが、凛いわく『女の子が夜一人で出歩くのは物騒』とのこと)

 暇つぶしに凛が来るまで、コンビニに入ることにした。

 コンビニのドアを開けると、涼しい空気が気持ちいい。僕は近くの書籍コーナーで雑誌を手に取る。今週号だ。

 しばらく読んでいると、凛が来た。

「ご、ごめんね。えーと……父さんがお風呂に入ってて、えーと……私、なかなか入れなかったの」

 凛は黒色の服を着ていた。ちなみに僕は学校の制服。

「おまえさ、親父さんの後に風呂に入るわけ?今時の女子高生としては、かなり珍しいな」

「あっ……。う、うん。そうだよ」

 少しからかってみる。十分も遅れる方が悪いのだ。

「嘘付け。お前んちの前通ったとき、テレビの音が聞こえた。どうせゲームでもしてたんだろ」

「…………」

 凛は押し黙る。どうやら図星のようだ。

「そ、それは置いといて、早く行こう。時間も無いし。――今日は二丁目だよね」

「ああ。誰かさんが遅れたからね。ゲームをしていて」

「もう〜、まだ言う」


 こうして黒装束の僕と凛は、夜の街に溶け込んでいく。僕達はこれから――ゴミを漁るのだ。

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