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特章 邪神

 村は炎に包まれていた。

恐ろしいほどの業火の中、サマエルとシズクはソニヤを探していた。


「ソニヤーーッ!!」


胃袋が捻れるくらいシズクは声を振り絞る。


「何処なの!返事して!」


散策するにしても、この炎では歩く場所すら限られる。歩く場所があること自体が奇跡だ。


「サマエルもソニヤを呼んでよ!」


とにかく黙々と進むサマエルを急かした。

緊急を要するのは分かるだろうと言ってやりたい。

闇雲に歩いても無駄に体力を熱に奪われるだけだ。


「サマエルってば!」


「居たぞ」


「え!?」


立ち止まり、サマエルの見る方向へピントを合わせる。

しかし、そこには炎の壁が立ちはだかり、それ以上の進入を拒んでいるだけだった。


「何処よ!」


「よく見てみろ」


そう言われ、もう一度目を凝らす。

炎が威張り腐っているだけ。そう思っていると、まるで面会を許可したかの如く炎が勢いを緩める。

相変わらず熱中症になりそうな中、汗を拭い一瞬の流星も見逃すまいと見ていると、


「サマエル………シズク………」


ソニヤがアスカロンを握り立っていた。いや、たたずんでいたと言った方が正しいだろう。

おそらく、ソニヤはずっとそうしていたのだ。


「ソニヤ!一体何があったの!?」


シズクが叫んだ。


「………見たら分かるだろ。村を………灰にするんだ」


ソニヤは、虚ろな瞳でシズクを見た。


「どうして!?どうしてこんなこと………」


「言わなくても分かってるはずだ。コイツらは悪魔だ。なにもしてない父さんと母さんを殺したんだ!二人は、ただ………ただ静かに暮らしたかっただけなのに!」


目付きがソニヤのものとは違った。怒りと憎悪が彼を支配している。シズクは咄嗟に思った。


「気が済んだか?」


それでもサマエルは、至って冷静だった。

どうなろうと知ったことではないと思っていたが、何故か胸が痛んだ。理由はやっぱり分からないが。


「気が済んだなら帰るぞ」


「帰る?何処にさ?サマエル、悪いけど警護は要らないよ」


「どうするつもりだ?」


「ボクにはやらなきゃならないことがある」


「世界でも滅ぼすか?」


「あらゆる時間、あらゆる世界に存在する人間を消す」


とてもソニヤのものと思える言葉には聞こえなかった。

怨念のこもった失意の言葉。


「何を言ってるの、ソニヤ!バカなこと言わないで!ソニヤらしくないよ!」


「シズク………」


「お願いソニヤ!とりあえずここを出ましょ!」


燃やすものなどもう無いだろうに、それでも炎は勢いを無くさない。


「存在し得る全ての人間を消したとして、それでお前の何が変わる?憎しみで心が晴れることはない。出口の無い迷路に迷い込むようなものだ」


「だから止めろと言うのか?お前にボクの気持ちの何が分かるんだ!?」


説得か説教か。それはサマエルにも分からない。ただ言わずにはいられない。


「お前はジーナスの策略にハマったのだ」


「なんだって?」


「村を一瞬で焼き払うほどの力。ジーナスはお前がこの力を持っていることを知っていた。ヤツの目的は、お前が覚醒すること。そして、憎悪にまみれることだろう。お前はまんまとその思惑に乗っているのだぞ」


「………フン!だったらジーナスに感謝するよ。こんな凄い力を引き出させてくれたんだからね。ゴッドインメモリーズなんか必要なくなったんだ。シズクを残して置ける。ハッピーエンドじゃないか」


「戯言を………」


「ボクのことは放っといてくれ。二人を巻き込む気は無いんだ」


「力にものを言わせて気持ちの満足を求めるなど、クダイやヴァルゼ・アークとなんなら変わらん」


「それならサマエル、お前だって同じ穴のムジナだよ。誰より強くありたいんだろ?それに、オリシリアを殺したヴァルゼ・アークに、復讐したいと思ってるはずだ」


「オレがオリシリアの仇を討つと思ってるのか?馬鹿馬鹿しい。オリシリアとは何の関係もない。お前と一緒にするな」


「じゃあどうして手厚く埋葬なんかしたんだ。自分で気付いてないだけだ。本当はオリシリアに惹かれていたんだよ」


「………力の解放と共に、饒舌になったものだ」


「とにかく、警護なんていらない。クダイだろうとヴァルゼ・アークだろうと、返り討ちにするさ。サマエル、これで自由の身だ。何処にでも行けよ」


「シズクはどうする?好意を持っているんじゃなかったのか」


ソニヤはシズクを見つめた。


「……………。」


しかし、何も言わず背を翻し、炎の中へと消えて行った。


「ソニヤッ!!」


追いかけようと駆け出したシズクを、サマエルが腕を掴んで止めた。


「離して!!ソニヤが………!」


「もう遅い。ヤツは堕ちたんだ。深い闇に」


「嫌!嫌よ!そんなの………」


サマエルは、冷静さを失っているシズクを担ぎ上げ、来た道を走り出した。


「降ろして!バカサマエル!降ろしてってば!」


涙を流し訴えても、サマエルは聞く耳を持っていない。いつもと同じように。


「ソニヤ………ソニヤあぁぁぁぁぁぁッ!!」


どこで狂ったのか。誰が狂わせたのか。

また一人、望まぬ道を歩み出した。どこまでも自分でいようとするが為に。


長く応援していただいた方、ありがとうございました。この話はまだ続きますが、眼精疲労治療の為、少しお休みします。2週間ほどですが。つたない作品を最後までお付き合いしていただき本当に感謝しています。復帰次第、続きを書きますのでまた宜しくお願いします。

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