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終章 

 気持ちは曇りなのに、空は嫌味なほど晴れていた。

住宅地とはおおよそ呼べない、典型的な村。まばらな人が、ソニヤを見ては驚いて声も出せないでいる。

懐かしむにはそれほどの月日は流れていないし、どちらかと言えば招かざる客。そんな空気にさえ感じていた。

幾分かは、ソニヤがたくましく見えているのかもしれないが、近寄り難い雰囲気もあるのだろう。何せ、ソニヤからは誰にも声をかけないのだから。

かって知ったる村の中を、身体に似つかわしくない剣を引っ提げ目指すのは、全て………そう、何もかもを知っているだろう村長の家。

今となっては、ジーナスが実の親だろうが関係ない。ただ、自分に愛情を注ぎ、生きていれば尚、愛されていただろうサムロとエレノアが事故ではなく、村の人間により殺されたとなれば、赦し難い。

とは言うものの、じゃあ復讐をするのかと言えば、そんな勇気はない。


「!!」


そんなことを思慮しながら歩いていると、目の前に、


「久しぶりじゃの」


村長がいた。


「村長」


周りには村人が集まっていたが、やはり確信する。自分は招かざる客なのだと。


「ふむ。ちょっと見ない間に幼さが薄れたようじゃのう」


「まあ………色々あったんで」


よそよそしく言った。

思えば、旅立ちを決めた日、みんな自分の為に宴を開いてくれた。無事な旅であるようにと。それがどうだろう?帰還を喜んでくれる者は誰もいない。


「どうした?何かあったか?」


「村長………」


「こんなところではなんだ、ま、ワシのとこで話を聞こう」


ソニヤの返事を待たず、村長は自分の家へ踵を返した。







ソニヤは躊躇することなく聞いた。ジーナスが見せたものがまやかし物であるなら、それはそれでいい。敵はジーナス一人になるのだから。そうあって欲しい。


「どうなんです?父さんと母さんは事故で死んだんじゃないんですか?」


イエスかノー。どちらかで充分。

重い空気は、呼吸器官を圧迫して気を抜けば意識が飛びそうだ。


「邪神に会ったのか………」


いつかこんな日が………村長はある種の覚悟を決めていたように見えた。


「村長!」


「すまぬ。誰も望んだことではなかったのじゃ」


「………そんな」


「間違いじゃった………過ちだと気付いた時には、後戻りは出来なかった。皆が後悔した。これで良かったなどとは、微塵も思わずな。だからこそ、お前は村で責任を持って育てようと決めたのじゃ」


怒りか、驚愕か、ソニヤの手は震えていた。

そして、村長はまだ何か話しているが、ソニヤには聞こえない。


(聞きたくない。もう何も)


そう思うと、ますます何も聞こえなくなる。村長の声だけでなく、音そのもの、世界が無音になったように。


(父さん………母さん………どんな気持ちだったんだ。信頼してただろう村の人達に殺されるって………悲しいよ、淋しいよ、悔しいよ)


胸が締め付けられる。雑巾を絞るような手荒いやり方で真実はソニヤの心を扱う。


(過ちだった?贖罪のつもりでボクを育てたのか?冗談じゃない。人の命を勝手な理由で奪ったくせに、過ちなんて言葉で片付けるのか?)


脳裏には、いつも優しい村長の顔と村人らの笑顔が浮かぶ。だが、偽善にしか今は思えない。

自分を育てることで贖罪を果たしたと言うのなら、それは間違いだ。


「あの日………ボクが旅立つ前の夜、盛大に宴をしたのは、厄介者が村から出て行くことへの嬉しさからだったんだ………」


「それは違うぞソニヤ。両親もなく育ったお前が、自分の進む道を見つけてくれたことの………」


「信じられないよ、村長。大体、両親もなく?その両親を殺したのは誰だ!」


殺されたから?裏切られたから?考える余裕はなく、純粋なまでの怒りを露にしたソニヤは、聖剣と称されたアスカロンを鞘から抜いた。







「あんたってどっから来たの?」


シズクの不躾な質問は、暇から来た退屈しのぎだった。

百も承知と言わんばかりに、サマエルは岩に寄りかかって腕を組み目を閉じて何も言わない。


「クダイにしても、羽竜にしても、あのヴァルゼ・アークってヤツにしても、あんたにしても、とんでもなく強いのにどうしてゴッドインメモリーズを欲しがるの?」


不思議だった。それぞれが敵対してるのに、まるで友達のような会話のやり取りをし、羽竜とサマエルに至っては一緒に旅をしていた。

彼らが互いに殺し合う必要は無いんじゃないかと思えてしまう。

例え違う目的を持っていたとしても、協力し合えば剣を握ることは無いんじゃないかと。


「因縁だからな」


サマエルは分かりやすく言ったつもりだが、それだけではシズクには理解出来ない。


「なにそれ?」


「永い時間を生きていると、自分の存在に疑問を持ってしまう。気を抜けば、時空の狭間に落ちるような錯覚にさえ陥る。だから、強く想っていなければならない。自分は何の為に生きているのか………自分という存在の糧が必要なんだ」


「でもそれは、そうしてないと不安なだけっても聞こえるわ」


「クク………そう解釈しないと自分をダメにしそうだと聞こえるぞ」


「ヤなヤツ!イ〜〜〜っだ!」


ユーモアのつもりだとしたら、なんてセンスのない男だろうと思ってしまう。


「あんた、友達いないで………」


暇ついでに皮肉ってかまってやろうかと思った矢先だった。地響きと共に大きな爆発音が聞こえた。


「な、何!?今の!?」


驚いて、シズクは後ろに転げた。


「見ろ!」


そうサマエルが見てる先は、ソニヤの村。そして、その方向から真っ赤な火柱が立ち上がっている。


「ちょ………何よ、あれ」


嫌な予感がする。直感に優れていなくとも分かることだ。


「まさか!!クダイが来たんじゃ!?サマエル!!」


横を見ると、既にサマエルは火柱の方へ走り出していた。


「もう!なんなのよ!声くらいかけなさいって!」


後を追うシズクの胸には、これまでにない緊張が走っていた。







「なんだこのオーラ………」


目覚めた羽竜は、遥か先で空に昇った火柱を眺めて言った。

未来から来たと言う自分に助けられてから、すっかり眠っていた。お陰で、それまでの体調不良が嘘のように回復し、みなぎるパワーは制御に苦労するほどになっている。おまけに、その未来から来た自分と同じくらいの成長を遂げていた。17歳のままだった身体は、本人も推定するしかないが、おおよそ20代半ばだと思えた。


「デカイな………クダイ?いや、ヴァルゼ・アークか!」


これまで感じたことのない、世界を呑み込んでしまうほどのオーラ。


(………違う。クダイほど傲慢でもないし、ヴァルゼ・アークほど闇に染まってもない。………誰だ?まさか、サマエル?………にしては哀しみに満ちてる)


ヴェールを剥ぐように推測してみるが、


「行くしかないな」


炎の翼が六枚、羽竜の背から具現すると、


(胸騒ぎがする………)


勢いよく飛び立った。







 天を貫く火柱は、世界の誰もの瞳を奪った。

こと、この男にとっては祭りの始まりを告げる花火程度にしか思っていないようだ。


「素晴らしいオーラだ。こんな力を秘めていたのか」


クダイは感心していた。


「ソニヤ………やはり君は邪神の子だ。人を憎むことで力を解放したんだからね」


何があったかは知らないものの、そのオーラがソニヤのもので憎悪に満ちているのは存分に感じられる。


「もっと解放するんだ。自分が何者なのかよく知るといいさ。ゴッドインメモリーズも………君の力も、根こそぎ僕がもらう。誰にも邪魔をさせない為にね」


目的の為には、手段を選ばない。







「ゴッドインメモリーズとは別の力か………フン。ジーナスめ、最初から狙っていたのか」


ヴァルゼ・アークもまた、クダイと同じようにそのオーラの意味を悟っていた。

それは悲劇のオーラ。ソニヤが泣き叫んでいるようだった。


「哀れだな。これほどまでに哀しいオーラを他には知らない」


一瞬にして天を貫いた火柱が、ゆっくり姿を消して行く。

何かが終わり、何かが始まる。その前兆に過ぎない。


「ジーナス、ソニヤを覚醒させて何を企む?力が欲しいのなら、ゴッドインメモリーズたるシズクは、お前の手の届く場所にいるというのに」


利用されたことに腹は立たない。本音を言えば、ジーナスが何やら隠していることに感付いていた。

だから、冒涜の都からあっさり退却したのだ。


「まあ、何が起きようと障害にはならん。 全ては俺の手の中にあるのだからな」


パンドラの箱から放たれた、ゴッドインメモリーズとは別のもうひとつの力。それは、一体何を意味するのだろうか?

今は誰にも分からない。




  ゴッドインメモリーズ  

〜 完 〜


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